時の精霊に選ばれし者〜人狼リタは使命があります!

たからかた

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ティルリッチとレティシア

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私たちは、ホシイロワシの背に乗って、エメドラド湖を目指す。

「うわ、速ーい!」

私はホシイロワシの乗り心地の良さと、その速さに感動していた。
一頭のホシイロワシには、二人ずつ乗れる。

私とクロスノス、カミュンとティルリッチ、レティシアとアシェリエルそして・・・。

「なーんで、俺だけ一人なんだよ!!」

ガルンティスが寂しそうに叫ぶ。

「まあまあ。
ガルンティスは巨漢だから、ホシイロワシの負担を考えて一人なのだ。」

アシェリエルが、慰めている。

「ちーぃ!
みんな綺麗どころと一緒に乗りやがって!
おい、クロスノス!
お前、リタを守れるんだろうな!?」

と、ガルンティスはクロスノスに絡んできた。

「もちろんです。
脳筋の誰かさんにリタを任せるより、自分で守った方が早いので。」

クロスノスは、涼しい顔で前に乗る私に笑いかける。

「クロスノスは、妖精界に何度も来てるの?」

私がそう聞くと、

「ええ。
武者修行の時も来ましたし、さまざまな材料を揃えるために、来たこともあります。
エメドラド湖には、行ったことはありませんけど。」

と、答えてくれる。
だから、クオ・リンゴブへの対処法も知っていたんだわ。
強い魔法でなければ、追い払えないと思い込んでいたな。

私は感心しながら、クロスノスを笑顔で見つめる。

「修行かぁ。だから強いのね。」

「えぇ、カミュンも一緒に・・・。」

クロスノスがチラリとカミュンを見るので、私はすぐに前を向くと見えてきた光景を指さした。

「あ、クロスノス、あれがエメドラド湖?」

遥か前方に、美しい湖が見えてきたわ。

「あ、確かにそのようですね。」

クロスノスも、目を細める。

綺麗な湖。
集中して、なるべく横を見ないようにしよう。
でないと・・・。

「カミュン、寒い!」

ティルリッチの声が聞こえてくる。

「これをどうぞ。」

カミュンが、ティルリッチに自分の羽織を着せている。

「ありがとう。
温かいわ。
カミュンに抱かれてるみたい。」

「!!
そ、そんな言い方は、お、おやめください!」

「えー、どうして?
ほら、しっかり支えてよ。
落ちちゃう。」

・・・なんなの。
何で隣を飛ぶのよ。

視界に入らないように、カミュンたちの方は極力見ないようにしてる。

「レティシア、双子の巨人をどうやって退ければいいんでしょうか?」

私は反対側を飛ぶレティシアに、話しかける。

「そうね・・・。
武器でどうこうというより、魔法で石にするとか。
巨人は体が大きいから、魔法も大きなものをかけないとうまくいかないと思うわ。」

と、レティシアは答える。

「ねぇ、リタさん。」

考え込む私に、ティルリッチが話しかける。

「はい?」

私がそちらを向くと、カミュンの手に自分の手を重ねたティルリッチが、

「リタさんは、時の精霊の核を持ってるんでしょ?
なら、巨人の時間を止めたらいいわ。」

と、言った。

「リタは、まだ時の精霊の力の使い方を、習ってないのですよ。」

クロスノスが代わりに答える。

「えー、なにそれ。
じゃ、何ができるの?
ただみんなに、守られてるだけ?」

ティルリッチは、小馬鹿にするように、横髪を人差し指に巻き付けながら私を見た。

「ティル様!」

カミュンがティルリッチを叱る。

「何よ!
私は間違ったこと言ってないわ!
リタさんが、恥ずかしい人なのよ!」

ティルリッチは、私を睨みつけている。

「彼女は、本来魔力を持たない種族なの。
それに最近までは奴隷で、自由がなくてね。
でも、彼女は自分の使命だからと来てくれたのよ。」

レティシアが助け舟を出す。

「あ、なるほど。
カミュンが気にするわけね。
『可哀想な人』なのね。」

私は思わず、ティルリッチを凝視した。

「可哀想?」

「そうよ。
カミュンはね、すぐ可哀想な人に同情する性格なの。
誰にでもそうなんだから。」

ティルリッチは、カミュンを見る。

「いい加減にしてください!!」

カミュンがティルリッチを怒るけど、私は妙に納得していた。

確かに・・・私は助けてもらってばかり。
泥人形の時も、ゴルボスの時も、化け花に襲われた時も怪我の治療も・・・。

私一人では何も出来なくて。

カミュンやクロスノスがしてくれたこと。
レティシアの親切も。

みんな私が『可哀想』だから?

私は・・・毎日必死だった。
自分を守れるのは自分しかいなかったのに。
私は下を向いて、しばらく考え込んでしまった。

「私はリタを尊敬してるわよ。」

レティシアが、ティルリッチの方を見て、にっこり笑う。

「その時、その瞬間を生きるだけで精一杯の苦痛の日々の中で、優しさを失わなかったもの。
命がけで、囚われた私を逃がしてくれた。
そのことに比べたら、今戦う力がないことくらい気にすることじゃないわ。」

ティルリッチは、その言葉に顔を顰める。

「何それ。
彼女が相応の実力をつけてないのに、庇うの?」

レティシアは、ジロリとティルリッチを睨みつけた。

「私たちは、学んで身につける機会があった。
彼女には、それがなかった。
恵まれた立場の上から目線で、実力のなんのと言っても他人は納得なんかしないわよ。」

「・・・!!」

「それに、忘れたの?
彼女が覚醒したら、私たちを遥かに凌駕するのよ。
そうなっても今と同じ言葉を、彼女に言えるの?」

周りはシーンとしてしまった。
レティシア・・・凄い迫力。
男性陣も何も言えない。

覚醒したら、か。
なんだか、自分でも自分が恐ろしくなる。

カミュンは、ティルリッチの肩に手を置いて、

「ティル様、謝罪してください。
それに、俺はリタに同情なんてしてません。」

と、言っている。

「もう、いいわ。
ごめんなさい、これでいいでしょ。」

「・・・はい。」

悔しそうに俯くティルリッチの謝罪を受けて、その場は落ち着いた。

レティシアが怒ってくれたから、何も言うことなくなったな。
でも・・・。

守られてるだけはいけない。
ティルリッチの言い分も、全部否定はできない。

魔法は使えないけど、せめて狼の姿で、動きだけでも足手纏いにならないようにしよう!

今までも、時を操れたことはある。
出来ることをやろう。

もう、可哀想とは言わせない!
・・・そんな言葉は嫌。

カミュン・・・違うとは言ってたけど、そんな気持ちで気にかけてくれていたのだったら・・・。

私は・・・。

「エメドラド湖だ!!」

アシェリエルが叫ぶ。
眼下に美しい宝石のような輝く湖が広がる。

その真ん中に、『ペルシオネの断崖』が見えてきた。
断崖の奥に城らしきものも見える。

「巨人なんて見えないぞ?」

ガルンティスが断崖を見回す。

確かに、いない。
でも・・・何かいる。
この臭い。

近い・・・何か近づいてくる!!

私はハッとなって下を見た。

水面に、何か大きなものが浮かび上がってくる。

「みんな!
下から何か来る!!」

その声に全員が下を見る。

直後大きな水柱が立ち上り、大きな手が伸びてきた。

バッシャァァァァァーン!!!

虫を薙ぎ払うかのように、大きな手が振り回される。

飛び続けるホシイロワシのすぐ真下を、大きな手がかすめていく。

油断すれば、すぐにやられてしまう。
それだけは、わかった。















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