時の精霊に選ばれし者〜人狼リタは使命があります!

たからかた

文字の大きさ
上 下
27 / 74

戦闘妖精クオ・リンゴブ

しおりを挟む
翌日、私たちは再び精霊の神殿へと向かった。
体も慣れてきたのか、昨日ほど苦しくない。

祭壇の前に立ち、アシェリエルが次元の階段へと続く扉を開けようとした時、外から大きな足音が聞こえて来た。

「クオ・リンゴブだー!!!
助けて!!」

妖精たちの騒ぐ声が聞こえる。

「こんな明るいうちに、来たことはなかったのに!」

トムジェルは、慌てて神殿の外へと向かった。

私は心配になってくる。

「大丈夫でしょうか。
様子を・・・、。」

私が行こうとすると、ガルンティスが肩を掴んでくる。

「馬鹿を言うな!
モタモタしている暇はないんだよ!
さっさと上がって・・・。」

「ぎゃー!!!」

ガルンティスがいい終わらないうちに、トムジェルの叫び声が、響いた。
大変!!

私はトムジェルを心配して、ガルンティスを振り払うと、声のする方へと向かった。

神殿の入り口が薄暗くなってる。
何か大きなものが、入り口の光を遮ってるんだ!

身を屈めながら、神殿の入り口にある柱の陰から覗くと、大きな生き物の姿が見えた。

蛇のような胴体に、タコの吸盤のような足が百足のように生えていて、一つ一つが車輪のように回転しながら動いているのが見えた。
背中は鋭い棘で覆われていて、顔は人面で大きな目が一つ。
頭には角が一本のものと、二本のものがいた。

顔の鼻から下は長い髭で覆われているけど、その下から顔の大きさの2倍はある大きな口が開いている。

これがクオ・リンゴブ。

怖い・・・。
それに、大きい!!
まるで山が動いてるみたい。

「聞けー!!」

5体いるクオ・リンゴブのうちの一匹が、トムジェルを捕まえたまま、大きな声で吠えた。

「妖精花の蜜が足りないぞぉぉぉ!!
姫が怪我をしていると、言っただろうがぁぁぁ!」

と、言っている。

昨日からよく聞くけど、姫とは誰のことだろう。
こんな怖い人たちのお姫様、て想像しただけでも、怖いな・・・。
それより、トムジェルが!!

「おい、リタ!
勝手に行くな!
怪我でもされたら、困るのだ!」

と、後ろからやってきたアシェリエルに私は、怒られたの。

「すみません。
でも、トムジェルが捕まってます。
助けないと!!」

私がそう言った時だ。

「なんだー?
お前らよそ者かぁぁぁぁ!?」

クオ・リンゴブの一匹が、その巨体で神殿の入り口に顔を突っ込むようにして覗き込んできた。

見つかった!!

私たちは思わず後ろに下がる。
こんな大きな一つ目に睨まれるの、初めて!

「なんだ、人狼か・・・。
ん?
お前、変わった奴だなぁぁぁぁ。」

と、そのクオ・リンゴブが、顔の横から大きな腕を生やして私をつまみ上げた。

「わわ!」

「リター!!」

レティシアが、思わず叫ぶ。
あ、足がつかない!!
高い!!

それを見たトムジェルが、すぐに自分を捕まえるクオ・リンゴブの腕を叩いて、

「待て待て!
この人たちは異界の客人なのだ!
乱暴な真似はしないでください!」

と、言っている。

「うるさいぃ!
これは漆黒の狼ではないかぁぁ!!
素晴らしいぃぃ!
姫の怪我を治す、妙薬になるかもしれぇぇぇん。」

クオ・リンゴブはそう言うと、トムジェルを放り投げた。

「ひゃあ!」

「トムジェルさん!」

思わず私も叫んだけど、トムジェルは下で待機していたレティシアが受け止める。

「その人狼は、大切な至宝だ!!
奪わせるわけにはいかん!!」

「そうだ!返してもらおう!」

ガルンティスとアシェリエルが、武器を取り出して、素早く私をつまみ上げるその大きな腕を斬りつけた。

「ぎゃぁぁぁぁぁー!」

悲鳴が響き渡り、手が離れて私は下に落下する。
でも、素早くくるりと回って着地した。
・・・ほ。
身が軽くてよかった・・・。

目の前で痛みに苦しむクオ・リンゴブの血が、ポタポタと滴り落ちていく。

・・・!!

信じられない。
地面に落ちたその血の雫から、新たなクオ・リンゴブが生まれて、たちまち巨大化していく。

「血を流させてはいけません!!」

と、トムジェルが叫んだ。

「彼らは、魔法だろうが、斬撃だろうが、その血が落ちたところから、仲間を増やします!
これ以上数が増えたら・・・!!」

そのトムジェルの言葉に、クオ・リンゴブは笑い始めた。

「ははは!
何も知らんよそ者がぁぁぁー!」

そう言いながら、また私を捕まえようと手を伸ばしてくる。

レティシアが素早く私の手を引いて後ろに庇うと、

「金の精霊よ!
その強き鋼の力で我が盾となり給え!
タフメル・シールド!!」

と唱えた。
地面がカッと光って、目の前に大きくて堅固な鋼の盾が現れると、クオ・リンゴブの手を阻んだ。
レティシアも、すごい!
こんな、あっという間に。

流石のクオ・リンゴブも手を弾かれて、悔しそうにレティシアを見る。

それを見ていたガルンティスは武器をしまうと、

「生意気な戦闘妖精どもぉ!
煉獄の炎で焼き尽くしてくれる!
火の精霊よ、我の呼び声に応え煉獄の炎で我が敵を焼き尽くせ!
ファイ・ヘル・ゲルド!」

と、叫んで口から大きな炎を吐き出した。

次々とクオ・リンゴブは燃え上がるけど、燃え尽きる前に、その体の中から、新たなクオ・リンゴブが生まれてきて、巨大化する。

「無駄無駄。
血だけではないぃ!
体液が落ちたところから、分身が生まれるからなぁぁぁ。」

そう言って、先程より数が増えた仲間を振り返り、

「さあ、打つ手なしだろぅぅ?
高慢な高次元の純血どもぉぉ。
その黒い狼をよこせぇぇぇ!」

と、吠える。
私たちは、どうしたものかと顔を見合わせた時だった。

「だから、あなたは脳筋だというんですよ、ガルンティス。」

と、聞きなれた声がして、何かコロコロと丸いものがクオ・リンゴブの足元に転がってきた。

「なんだぁ?」

と、ガルンティスが覗き込んだ途端、中からものすごい勢いで煙が湧き出した。

「ぎゃぁぁぁぁぁー!!
ブロブロ草の臭いーーー!!!」

クオ・リンゴブたちが一斉に苦しみ出して、巨体を揺らしながら、その場を駆け去って行く。

私もこの臭いは苦手。
鼻の奥まで刺激して、涙まで出てくるわ。

思わずよろめいて、レティシアの後ろから転がり出てしまった。

そんな私を見つけたのか、逃げ去るクオ・リンゴブたちの一番後ろを走る個体が、すれ違いざま、私を捕まえようと大きな手を開いてきたんだけど、

「触るな。」

と、声がした。

人影が躍り出て、その巨大な手を蹴り上げる。

思わず手を引いた最後尾のクオ・リンゴブも、悪態をつきながら、腕を顔の側面に引っ込めて仲間の後を追って、去っていった。

神殿の前が静かになり、やがて煙の中に、見慣れた人影が見え始める。

「騒がしいと思ったら、なーにしてんだか。」

「クオ・リンゴブ相手に無策のまま、真正面から斬り結ぼうだなんて、呆れて物が言えません。」

と、話すのはカミュンとクロスノスだった。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...