時の精霊に選ばれし者〜人狼リタは使命があります!

たからかた

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妖精界

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星屑の川のような道を、どのくらい歩いただろうか。

「妖精界についた。
しばらくここに滞在するぞ。」

と、アシェリエルは言った。

私は促されるままに、新たに開いた扉を抜ける。

そこには、大きな頭と、トンボのような羽根を持つ小人がいた。

「ようこそ、異界の客人。
私はこの神殿の司祭、トムジェルと言います。
ささ、早くこちらへ。」

抜けた先は、精霊の神殿と同じ造りの建物だったの。

これが妖精界の精霊の神殿なのかしら。

私はそこにあった椅子を勧められた。
大人しく座ると、貧血を起こしたかのように気が遠くなりかけたの。

「う・・・。」

すぐ、レティシアが来て、顔色を診てくれた。

「次元の高いところへ、いきなり慣れない肉体が行くと、魂が分離して肉体が崩壊しやすくなるの。大丈夫、このエネルギーの濃度に慣れればいいのよ。
ゆっくり慣れていくからね。」

と、彼女は言う。

「まったく手間だなー。
さっさと行きたいのに、ちまちまと!
ぱぱっと慣れろ!
美人だから、とりあえず我慢はしてやるが!!」

ガルンティスがイライラしながら、目の前を歩く。

「よせ、時の精霊の核を宿している以上、彼女が死ねばその核も消滅する恐れがある。
失うわけにはいかんのだ。」

と、アシェリエルが宥めている。

「聞き流してね、リタ。
自分たちが高次元慣れした恵まれた立場にいるから、言える言葉なんだから。」

と、レティシアは優しく小声で言って、額を拭ってくれた。

「オェー気持ち悪ーい!!」

「うう、初めて来たわ。
妖精界。
エネルギー濃度がやはり濃いわね・・・。」

ノアム元理事長とテルシャが、最後に出てきて、勧められた椅子でそれぞれ苦しんでいた。

私は呼吸を整えながら、胸に手をあてると、右手の内側に紙の感触がした。

「あ・・・短冊・・・。」

カミュンとの爪書簡。
一枚や二枚じゃない。
たくさんきてる・・・。

『体調はどうだ?
ついていけなくてすまない。
クロスノスも寂しそうにしてる。
プルッポムリンも肩を落としてる。』

『大丈夫か?
妖精界は人間界に比べて、エネルギー濃度が濃い。
慣れるまで動くなよ。』

『アシェリエルのいうことなんか、気にするな。
リタは道具でも武器でもない。
自分の気持ちを大切にしろよ。』

『妖精界の1日は人間界の1ヶ月分にあたる。
元気か?リタ。
分からないことがあったら、聞けよ。』

『クロスノスが、リタの血液サンプルを調べて何か騒いでる。
新しいことがわかったらまた教える。』

それ以外にも、近況や私を気遣う言葉が並ぶ。

心配してくれてるんだ。
家族と離れてから、こんなに誰かに気にしてもらえるのは初めて。

ぎゅっと握ると、彼の顔がもう思い出されて寂しくなってきた。

会いたいな・・・。
会えないな・・・。

私も右手の薬指で、文字を書く。

『妖精界に今着いたよ。
レティシアがとても親切にしてくれる。
色々気遣ってくれて、ありがとう。』

そのまま薬指を上に弾いて、彼らとまだ繋がっていることにほっとしていた。

胸を撫で下ろす私に、

「ふぅふぅ、リ、リター・・・。
靴磨けー・・・。」

ノアム元理事長が苦しそうに手招きしてくる。

「い、嫌です・・・。」

私は顔を背ける。
絶対嫌よ。
もう二度と・・・。

「生意気だな・・・お、お前・・・。
容姿も・・・こんなに美しかったなんてーな。
テルシャが普通に見えるーわ・・・。
しかし、お前が時の精霊の核を宿した黒竜なんて・・・。
か、解剖しなくて、よ、よかったーわ。」

ノアム元理事長は、ヘラヘラ笑ってる。

私は無視した。
もうこの人の奴隷なんか嫌。

「お前は、10万オーグォで私に買われた所有物ーだ・・・。 
言うことを聞け、リタ。」

ノアム元理事長は、そう言うとまた笑い出した。

「リタ、この長い髪の毛、ここだけ少し切るよ。
いい?」

その様子を見ていたレティシアに言われて、私は頷く。
どうするんだろ。

「トムジェル、漆黒の人狼の髪の毛よ。
妖精界だとかなりの高値になるんじゃない?」

と、言ってレティシアは、トムジェルに私の髪の毛を切ったものを見せる。

「い、いいんですか!?
こ、これはまさに、千年に一度しか生まれない漆黒の人狼の毛!!!
これだけでも、1,000万オーグォになります。」

「換金していただける?
そしてそのうちの10万を、こちらの人間に渡して。
残りを彼女に渡してね。
手形でいいから。」

「ええ、喜んで。」

トムジェルが指を鳴らすと、私とノアム元理事長の腕に手形の印が現れる。

それを見て、レティシアが私に向かって微笑んだ。

「それは、いつでも換金できるわよ。
これで、あなたはあなた自身のものよ。
この人との縁は金銭面でも切れたからね。」

と、言う彼女の言葉に、私は嬉しくなって頭を下げた。

「ありがとうございます。」

喜ぶ私の隣で、ノアム元理事長は地団駄を踏み続けた。

「くっそおぉぉ!!これだから女は嫌いーだー!!!
ちっとも思う通りにならーん・・・!!!
お前なんか、やっぱり醜い雌狼だー!!!
うぅ、カミュン。
私を慰めに来てくーれ・・・。」

と、言っている。
え?
カミュン?
なぜ?

「私の心は囚われたままーだ、カミュン・・・。
お前も私が好きなはずーだ・・・。」

と言ってニヤニヤしてる!!
え、何この人。
カミュンが好きなの?

目を細めて彼を見る私の肩を、レティシアが軽く触れてきた。

「ねえ、リタ。
この爪書簡・・・知る人も少ないとても古い魔法。
それに薬指が塗ってあるね。」

と、言うので、私も指を眺めながら、頷いた。

「クロスノスがかけたんです。
私とカミュンで、手紙がやり取りできるように。」

「へぇ、素敵ね。
この魔法は、結ぶ相手との親密さで塗られる場所も色も違うから。
どの指が何色に塗られるかは、かけてみないとわからない面白い魔法なのよ?」

え?
じゃ、この指と色はどう言う意味が・・・?と、そう思った時だ。 

トムジェルが、私たちのところへ飛んできて、

「今日はこの神殿の近くにある宿屋で、お休みください。
それと、夜は絶対に外出してはいけません。」

と、言う。

私は少し気分が良くなったので、立ち上がってお辞儀をした。

トムジェルが神殿の外に、馬車を待たせていてくれたので、私達はその馬車に乗り込んだ。

外はもう、うっすらと夕闇だ。
馬車といっても、雲のような白いホワホワな乗り物があり、座ると自然と座りやすい高さと、幅に変形していく。

「お揃いですかー?」

御者の妖精が、愛想の良い顔でこちらを見て微笑む。

「あぁ、頼む。」

と、アシェリエルが言うと、御者の妖精が鞭をピシリと打った。

手綱の先には、氷の馬が二頭繋がれていて、軽やかな足取りで引いていく。
私はふと、あの二人が乗っていないことに気づいた。

「え、私たちだけ?
ノアム元理事長たちは?」

と、私が尋ねると、

「彼らはまだ体が馴染んでいない。
神殿の中の方が安全だ。」

と、アシェリエルに言われた。
・・・二人が一緒なら、大丈夫、かな。


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