時の精霊に選ばれし者〜人狼リタは使命があります!

たからかた

文字の大きさ
上 下
13 / 74

私は何者?

しおりを挟む
「黄泉の一族の女性に、『神を喰らう者を作り出す秘儀』を教えろとノアム理事長は言ってました。
逆らえば呪符のインクにすると、脅してたんです。」

と、私が言うと、カミュンもクロスノスも腰を浮かせる。

「なんだと!?」

「最大の禁忌ではないですか!!」

二人に同時に大声を出されて、私は思わず身をすくめる。

プルッポムリンが、二人の前に飛んでいって、

「落ち着きなさい!!
彼女に怒鳴ってどうするの!!」

と、言った。

「あ、あぁ、すみません、リタ。
それでその黄泉の一族の女性は、ノアム理事長に喋ったのですか?」

クロスノスが、カミュンの肩を軽く叩いて、椅子に座り直す。

「いいえ。
彼女は拒んだんです。
そのままだと殺されると思いました。
それで・・・私、ノアム理事長がいない間に彼女を逃がそうとして・・・。」

私は、持っていたクロスノスの腕輪を強く握る。

「彼女を拘束している、魔法の腕輪に触れたんです。
鍵がなかったから、錆びて壊れればいいのにと思って。
そうしたら、腕輪が本当に錆びて彼女の腕から外れました。
それで、彼女は建物を壊しながら、自分の力で逃げたんです。」

私の言葉を聞いて、クロスノスが腕を組む。

「ふむ、それであなたはどさくさに紛れて逃げ出したのですね?」

「はい。
ノアム理事長が、彼女が逃げたのは私のせいだと言って怒りました。
そして、私をゴルボスのところへ戻してやると脅してきたので、怖くなりました。
肩を掴まれて・・・、気がついたらノアム理事長が止まっていて、その隙に逃げたんです。」

と、私が言うと、今度はカミュンが目を細めて尋ねる。

「リタ、お前は昨日崖から落ちる時に、時を緩めていたな。
浮遊の術かと思ったが、あれは時を操っていたんだな。
お前は、時の精霊の力が使えるのか?」

「まさか。
人狼は魔法を使う種族ではないし、習ったこともありません。」

私は首を振って否定したけど、

「リタ。
話を聞いていると、全て時を操る力に結びつくのです。」

と、クロスノスが言った。

「時を操る力は、天族、魔族、黄泉の一族の王しか持たない力だ。
それだけ高次元の力なんだ。
そして王の力は、その王が死ぬまで継承されることはない。
今、3つの種族の王は健在で代替わりの時期でもない。
他種族が継承することもないんだ。
つまり、お前の力の出どころは全く不明なんだよ。」

とカミュンが言うと、人差し指を一本立てて

「それにもう一つ・・・、俺の馬を加速させるための筋力増強の魔法をかけた時のあの効果倍増の力・・・。
どうやら、別の力も持ってるみたいだな。
正直に答えてくれないか。」

と、付け加えたの。

どういうことなんだろ。
わ、私は何者なんだろ。

不安になって腕輪を強く擦った。
その時だ。

パリン!!

クロスノスの腕輪が砕けて、中から時の砂と思われる小さな砂が飛び出してきた。
続けて、カミュンの腕輪も同様に砕けて、中の砂が飛び出してくると、私の周りを守るように回り始める。

「これは・・・!」

プルッポムリンも、怯えてクロスノスの後ろに隠れる。

「リタ、落ち着いてください。
私たちはあなたを傷つけようと思わない。」

クロスノスが低い声で、話す。

私は突然のことに驚き、砂を止めようと焦った。
でも、私の焦りを感じたように、砂の回転は早くなっていく。

こんなこと、初めて。
止めなきゃ・・・止めなきゃ!

「わ、私は、どうしたら・・・。」

私は助けを求めようと顔を上げる。
この人たちなら・・・!!
・・・え?

カミュンもクロスノスも、腰を浮かして少し恐れたように私を見たまま、何も言わない。

さっきまであんなに親しくしてくれたのに・・・。

まるで私を、異物を見るような目で見ている。
二人にこんな顔されるのは、初めて。

「あの・・・?」

「・・・。」

みんな無言だ。
沈黙が痛い。
居場所がなくなっていくその感覚に、寂しさと悲しさが降り積もる。

ここにいてはいけない・・・。

「お世話になりました。」

と、声を振り絞って私は立ち上がると、彼らの家を飛び出した。

入ってきた時と同じように、透明の膜を抜け出し、そのまま走り続ける。

昨日よりも体が軽く感じられて、高いところも余裕で飛び越えることができた。

時の砂はまだついてくる。

途中で躓いてこけそうになると、時の砂がさっと支えて倒れ込まずに済んだ。

私が体勢を整えると、時の砂は、また周りを回り始める。
言うこと・・・聞いてよ!

「止まって、止まりなさい!!」

私は思わず叫んだ。
時の砂はピタリと止まり、その場で固まった。
止まっ・・・た?
今なら!
私は腰につけていた革袋を広げて、その中に入るように念じると、砂は大人しくその中に入っていった。

袋の口をしっかり縛り、私は自分の手をまじまじと見つめる。

「私・・・なんなの?」

怖くてたまらない。
そして・・・、みんなの怯えた顔が胸に刺さっていた。

優しくしてくれる人に、やっと仲良くしてくれる人に出会えたと思ったのに・・・。

「また、一人になっちゃった・・・。」

そう呟くと唇が震えてくる。
綺麗になっておしゃれもして。
それを褒めてもらえて。
さっきまであんなに幸せだったのに・・・。

幸せを感じた後の孤独は、それを忘れていた頃よりも深く胸を抉ってくる。

知らない場所で、たった一人で悲しみに耐えていた。
すると、後ろから人の気配がする。
誰・・・?

「おやおや、こんなところにいたか。」

聞き慣れたその声に、足元から悪寒が這い上がってくる。

「見つけたぞ、俺様の漆黒の狼。
なあ、リタ。」

それは、闇の商人ゴルボスの声だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...