時の精霊に選ばれし者〜人狼リタは使命があります!

たからかた

文字の大きさ
上 下
5 / 74

不可思議な力

しおりを挟む
この手の魔法道具は、恐ろしく長持ちだ。
そう簡単には錆びたりしない。
余程の時間が経たないと、劣化しないものね。

私がため息をついて、俯いた次の瞬間、
ガシャン!
という音がして、腕輪が外れた。

驚いて顔をあげると、腕輪が錆びて朽ち果てていくのが見える。

え?え?
何が起こったの?
驚いたのは私だけじゃない。

「嘘!?ありがとう!!」

中の女性は嬉しそうに、両手を体に当てて何事か唱えている。

それから、みるみる彼女の顔色が良くなって、自分が入っていた牢屋を見えない力で引きちぎった。

「こ、これはどういうことーだ!?」

後ろからノアム理事長の声がする。

私だって知りたい!
いきなりこんな・・・。

私は何が起きたのかも分からずに、ただ怯えるしかない。

「こんな研究所なくなればいい!
同胞たちの分までお返しするわ!!」

黄泉の一族の女性はそう叫ぶと、立ち上がって凄まじい風圧を全身から放った。

そのまま光に包まれて、あっという間に建物の上まで突き破ると、消えていった。

私もノアム理事長も吹き飛ばされて、慌てて起き上がる。
次の瞬間、建物のあちこちに亀裂が入り、崩れだした。
ノアム理事長は魔法で逃げ去り、埃が舞う中、私は急いで地下の階段を上って外に出た。

あちらこちらで、何かが燃えている臭いがする。

「早くこーい!」
「逃げろ!資料は諦めるんだ!!」

研究所員の叫び声がこだましていた。

「はぁ、はぁ・・・。」

私は息をあげながら、空を見た。
外は暗くて、雨が降り続けている。
他の研究員も、次々と外へ出てきた。

やがて全員が出たあたりで、建物が跡形もなく崩れ去っていく。

私はその様子を眺めていたのだけど、移動の魔法で先に逃げていたノアム理事長が、目の前に現れたので、悲鳴をあげて後ろに下がった。

彼は、すぐに手を伸ばして私の肩を掴むと、激しく揺さぶってくる。

「何をしたんーだ!?
鍵なんか渡していないのに、どうやってあの女の拘束具をはずしたんーだ!?」

「わ、わかりません!
私は、私は何も・・・!!」

「ええぃ!お前のせいーだ!
ゴルボスを呼ーべ!!
もう一度あいつを捕まえーる!
そしてお前をゴルボスに突き返してやーる!!」

私はノアム理事長にそう言われて、とても怖くなってきて必死に首を振った。

「い、嫌です!
私は・・・、私はあんな男のところへ戻りたくない!!
離してください!!」

肩を掴むノアム理事長の手を掴んで、振り解こうとした時、ノアム理事長が時を止めたように動かないことに気づいた。

「え!?」

私は驚きながら、ゆっくり後退する。
ノアム理事長はまだ動かない。

周りの研究員は気付いてないようだ。

秘書のテルシャだけが、遠くからこちらを凝視ししている。

私は彼女の視線も怖くなって、よろめきながら、その場を逃げ去った。

怖い!
私は何もしてない!!
ゴルボスのところにも帰りたくない!!
その一心で走り続ける。

降りしきる雨の中を、走って走って、知らないところへ来た。

「はぁ、はぁ・・・ここ・・・どこ?
寒いな。」

鼻を啜って、両手で腕をさすり、雨が降って視界の悪くなった辺りを見回す。
これからどうしよう・・・。
行くところなんかないのに・・・。

そう、思った時。

雨の雫が跳ねる地面の土が、不気味な動きを見せた。
まるで生きているかのように動き、人の形を形成すると、私の方へ向かってくるの。

「わわ!」

思わず後ろへ下がる。

「きゃ!!」

足を踏み外して、体が落ちかけていくのを、必死に目の前の岩場に掴まってなんとかしのぐ。
雨に濡れて、手が滑る!

崖なんだ・・・ここ!!

下を見下ろすと、道が見えるけど結構高い。
降りるしかない・・・上がれば、さっきの泥人形がいる。

怖い!
どうしたらいいの?

泣きそうになっていた時に、

「飛び降りろ!
受け止めてやる!!」

と、下から声がした。

見下ろすと、馬の手綱をひいた銀髪の青年の姿が見える。
こ、この高さでそれを言うの!?

「無理です、怖いので!!」

と、私が叫ぶと、

「つべこべ言ってる場合か!
上を見ろ!」

と、怒鳴られる。

私が上を見ると、泥人形が崖の縁から手を伸ばして私を掴もうとしていた!

やだ!怖い!!

思わず手を離してしまった!!

落下中、風の音が耳の中に響いてくる。

怖い!
痛いのは嫌!!

目を閉じて、身を縮め、衝撃に耐えようとしたその時だ。

「なんだ・・・これ!?」

先程の青年の声が近くで聞こえる。
目を開けると、私も驚いた。

「う、浮いてる?」













しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...