時の精霊に選ばれし者〜人狼リタは使命があります!

たからかた

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黄泉の一族

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驚いて荷物を見つめるけど、何も見えない。

「私もこうなって悲しいもの。
・・・でも、泣けないよね。
泣いたら、私をこうした奴が喜ぶだけだから。」

再び声がして、私は恐る恐る幌をめくる。

そこには小さな牢屋の中で、こちらに背を向けてしゃがみ込んだ、栗色の髪をした1人の女性がいた。
その手には、重そうな鎖が繋がれた、魔法の腕輪がはめられている。

「人・・・?」

私がそう尋ねると、その女性は首を振る。

「いいえ。
私は黄泉の一族。」

その女性は答えて、こちらを振り向いた。
その目は瞳が白く、その周りが真っ黒になっている。

人の目の造りが反転したかのような、感じだ。

「黄泉の一族・・・?」

私は思わず聞き返した。
私は、小さい頃からここにいて、外の世界をほとんど知らない。

「冥界であらゆる死者の魂を迎え入れ、生前の記憶を消して神の元へ送り出すことを生業にしている一族。
光と闇の精霊たちの力を、使いこなせる一族なの。
知らない?」

その女性に聞かれて、私は頷く。

「知りません。
わ、私長くここから出てないので。」

と、私がいうと、その女性は目を細めた。

「そう・・・。」

それっきり、またこちらに背を向けてしまった。

は、初めて見た。
人狼と人間以外の種族なんて。

とても綺麗な人だな。
目は怖いけど。
この人をどうするんだろう。

私はすっかり涙が止まり、背を向けたままの女性に目が釘付けになった。

やがて昇降機は地下にたどり着き、扉が開く。

私は慌ててめくっていた幌を戻すと、台車を後ろ向きに引いて、昇降機を降りた。

そこには、魔法で先回りしたノアム理事長が待っている。

「中は見てないだろうーな?」

低い声で彼が聞くので、私が怯えて頷くと、

「その部屋の中へ入れーろ。
それから幌を取って、食べ物と水を持ってこーい。」

と、言われた。

言われた通り、見知らぬ部屋に入れて幌を取る。

初めて入るその部屋はとても異様で、見たことのない機械が沢山あった。

私は、さっきの女性の方をチラリと見て、言われた通り、食べ物と水を取りに部屋を出ていく。

そんな私の後ろで、ノアム理事長は牢の中の女性を覗き込んで、

「さぁ、教えてもらおーか。
神を喰らう者を作り出す秘儀ーを。」

と、言っていた。

私はなんのことかわからずに、その場を後にした。

私は水と食べ物をトレーに乗せて、地下にある部屋に戻ってきた。

「強情な黄泉の一族ーだ!!」

と、怒鳴るノアム理事長の声がする。

何・・・?
どうしたんだろ。

恐る恐る中を覗くと、牢屋の中の女性が、ぐったりと横たわってる!
大丈夫かな?

ノアム理事長はイライラしながら、彼女が入った牢屋の周りを行ったり来たりしている。

「黄泉の一族は遥か昔、『神喰いの乱』を起こし、怪物を使役して神の力を喰らおうと精霊たちを襲ったではないーか!
我々は異種族の胚を組み合わせた、いわゆるキメラは作れても、魂を融合させることができーぬ!
その技は、精霊界に次ぐ高次元に住む天族、魔族、黄泉の一族しか持たーぬ!
教えーろ!!
さもなくば、呪符を書くインクの材料にするーぞ!」

と、ノアム理事長が叫んだ。

え・・・呪符のインク?
どういうこと?

ぐったりと横たわっていた黄泉の一族の女性が、顔だけをノアム理事長に向けて、

「・・・この研究所が、次々と高次元の種族を捕らえては、呪符の材料にしているという噂は本当のようね・・・。
そりゃ、私たちの体を使えば、上級精霊の力を使いやすくなるものね・・・。」

と、言った。

「うるさーい!
これだけ薬物を打ち込んでも屈しないなんーて!
教える気はあるのか、ないのーか!?」

「ないわ。」

「くっそー!
もっと強力な薬を打ってやーる!」

ノアム理事長が、ものすごい剣幕で部屋から出てきた。
私に気づいて睨みつけると、

「水を飲ませてやーれ!
食い物はやるーな!!」

と、言い放って姿を消した。

「だ、大丈夫ですか・・・!?」

と、言って私は牢屋に近づくと、中で横たわる女性の顔を覗き込む。

苦しそう・・・。

すぐに、牢屋の柵の隙間から、水の入ったコップを渡そうとしたの。

でも、彼女は体を起こせない。
ストローをさして、口元に近づけると、少し飲んでくれた。

「ありがとう・・・。」

と、彼女は言った。
ぐったりした姿を見ていると、何とか逃してあげたくなる。

多分、そんなことをしたら、私は命をなくすかも。

それでも・・・彼女をこのままにしておけない。

私は震える手を握り締めながら、あたりを見回した。

悔しい。鍵も何もない。

この牢を壊すこともできない。

私は牢の柵を掴んで、彼女に謝ったの。

「ごめん・・・なさい。
逃してあげたいけど、鍵が見当たらないの。」

と、言うと、中の女性は首を振った。

「いいの・・・。
そんなことしたら、あなたが酷い目に遭うわ。
せめてこの腕輪が外れたら・・・。
自分の力で脱出できるのに。」

そう言われて、私は彼女の腕につけられた腕輪を見つめると、手を牢屋の柵の隙間から差し入れてそっと撫でた。
彼女は一瞬驚いたけど、振り払う力もないようね。

「錆びて壊れちゃえばいいのに・・・。」


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