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漆黒の髪
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ラ・テルス魔法研究所の搬入口は、建物の裏にある。
私は一旦自分の部屋に戻ると、破れた服の上から羽織を羽織って、裂けた服を誤魔化した。
この一枚を洗濯しながら、使ってるの。
ムチで打たれた傷も、手当てしてる暇はないわ。
急いで靴磨きの道具箱を持ち上げると、搬入口へ向かった。
道すがら研究所のあちこちで、様々な魔法が開発されている様子が見える。
昔、人間は魔法を使うことはできなかったんだって。
でも、恐ろしい怪物との戦いがあって、人間も参戦しなくてはいけなくなったから、他の世界の種族から教えてもらったらしいの。
それ以来研究されて、魔導士がいなくても、魔法陣を特殊なインクで書き込んだ専用の呪符があれば、誰でも魔法を使えるようになったんだと聞いてる。
・・・呪符を買えばね。
つまり、お金はかかるの。
ノアム理事長は、いくらでも魔法は作り出せると豪語してる。
恐ろしい魔法も沢山実験するから、近くの土地は荒れ果てて生き物が住めなくなってるわ。
それでも、研究を立ち止まらせるのは愚の骨頂で、荒れた土地は知ったことかと言うのがノアム理事長の口癖。
本当にそうなの・・・?
考えながら廊下を走る私に、研究所員は冷たい眼差しを向ける。
「あれが人狼の奴隷なの?」
「近寄るな、いつ噛みつかれるかわからない。」
「そういえば、聞いたか?
あいつの髪の毛を、悪戯で少し切った奴がいたそうだが、あっという間に髪が元の長さまで伸びたそうだ。」
「あぁ、たしかそいつ、その毛を持ったまま呪符を使ったら、ただの微風の魔法が突風になったそうだ。
毛は消えてなくなったから、また欲しいとさ。
人狼の体にそんな効果あったか?
解剖すべきかもな。」
「ふざけて呪符を間違えたんじゃない?
それに、あの人狼は理事長の靴磨き専門よ。
理事長は靴に関して異常な潔癖症なんだから。
下手に実験や解剖に使ったら、追い出されるわよ。」
なんて、勝手なこと言ってる。
ちゃんと薬飲んでるし、ここに来てから満月の夜にだって変身したことないのに。
それに、人を噛んだことなんかない。
髪の毛だって、偶然のはずよ。
私は目を合わせないようにして、裏の搬入口へ向かった。
搬入口につくと、移動の魔法で先に着いていたノアム理事長から、
「遅い!
このグーズ!」
と、叱られた。
「すみません。」
と、私が頭を下げていると、搬入口がゆっくりと開いていく。
外が見えて、雨が降り出しているのがわかった。
その雨の中を、幌を被った大きな荷物が、ガラガラと荷運び用の台車の車輪を回しながら入ってきた。
荷物を押してきたのは、黒いフードを被った男。
「よく来ーた。
闇の商人ゴルボス。
これは頼んでいた例のものーか?」
と、ノアム理事長は嬉しそうに男に話しかけた。
ゴルボス!!
その名前に背筋が凍ってくる。
男はフードをとると、頷いてお愛想を言ってから私の方を見た。
「ふふふ、リタ。
久しぶりだ。
お前も、もう18歳になるな。
ノアム理事長様に、可愛がってもらっているか?」
そう言って近づいてくる。
私は思わず後ろに下がった。
壁に背が当たってそれ以上、下がれなくなる。
この人は、10年前に私を捕まえて、ここに売り飛ばした張本人。
「人狼の18歳は、もう月の力を借りなくても任意に変身ができる。
お前の毛皮はさぞかし高く売れるだろうな。」
「ひっ・・・!!」
背を縮める私に、ゴルボスは無遠慮に手を伸ばしてきて、髪の毛に触れる。
「素晴らしい。
汚れているが、この毛色は漆黒と見た。
ノアム理事長、こいつを手放す時はまた連絡をください。」
と、ゴルボスが言った。
やだ、やだやだ!!
気持ち悪い!!
必死に頭を振っていると、
「リタ、遊んでいないで、これを運ーべ。
ゴルボス、リタは薬で変身を抑えていーる。
換毛期に毛を落とされては困るかーら。」
と、ノアム理事長が言って、ゴルボスにお金の入った袋を渡そうと目の前に持ち上げた。
ゴルボスは私の髪から手を離して、袋を受け取る。
その隙に私は素早くその場を離れ、台車を押し始めた。
ムチで打たれた傷が疼くが、気にしていられない。
あれ?重いと思っていたこの荷物は意外と軽い。
中身は、なんだろう。
そ、それより、早く行こう!!
じっと見るゴルボスの視線から逃れたくて、急いで運搬用の昇降機へと向かった。
ゴルボスに触られたところが、気持ち悪くてたまらない。
泣くとぶたれるから、悲しい時は下唇を口の中に巻き込んで、上の歯で噛んで耐えるようにしている。
ボタンを押して開くのを待つ。
早く・・・早く!
背中にゴルボスの視線が刺さるの!
怖いの!
ようやく扉を開いた地下へ降りる運搬用の昇降機に、荷物を台車ごと押し込んで乗り込むと、下へ降りるボタンを押した。
扉が閉まると、ホッとした。
瞬きした途端に大きな涙の雫が、目から溢れて落ちていく。
思わず嗚咽まで漏れた。
いけない・・・すぐに止めないと!
そう思っていた時だ。
「悲しいのね。」
突然、幌のかかった荷物の中から声がした。
私は一旦自分の部屋に戻ると、破れた服の上から羽織を羽織って、裂けた服を誤魔化した。
この一枚を洗濯しながら、使ってるの。
ムチで打たれた傷も、手当てしてる暇はないわ。
急いで靴磨きの道具箱を持ち上げると、搬入口へ向かった。
道すがら研究所のあちこちで、様々な魔法が開発されている様子が見える。
昔、人間は魔法を使うことはできなかったんだって。
でも、恐ろしい怪物との戦いがあって、人間も参戦しなくてはいけなくなったから、他の世界の種族から教えてもらったらしいの。
それ以来研究されて、魔導士がいなくても、魔法陣を特殊なインクで書き込んだ専用の呪符があれば、誰でも魔法を使えるようになったんだと聞いてる。
・・・呪符を買えばね。
つまり、お金はかかるの。
ノアム理事長は、いくらでも魔法は作り出せると豪語してる。
恐ろしい魔法も沢山実験するから、近くの土地は荒れ果てて生き物が住めなくなってるわ。
それでも、研究を立ち止まらせるのは愚の骨頂で、荒れた土地は知ったことかと言うのがノアム理事長の口癖。
本当にそうなの・・・?
考えながら廊下を走る私に、研究所員は冷たい眼差しを向ける。
「あれが人狼の奴隷なの?」
「近寄るな、いつ噛みつかれるかわからない。」
「そういえば、聞いたか?
あいつの髪の毛を、悪戯で少し切った奴がいたそうだが、あっという間に髪が元の長さまで伸びたそうだ。」
「あぁ、たしかそいつ、その毛を持ったまま呪符を使ったら、ただの微風の魔法が突風になったそうだ。
毛は消えてなくなったから、また欲しいとさ。
人狼の体にそんな効果あったか?
解剖すべきかもな。」
「ふざけて呪符を間違えたんじゃない?
それに、あの人狼は理事長の靴磨き専門よ。
理事長は靴に関して異常な潔癖症なんだから。
下手に実験や解剖に使ったら、追い出されるわよ。」
なんて、勝手なこと言ってる。
ちゃんと薬飲んでるし、ここに来てから満月の夜にだって変身したことないのに。
それに、人を噛んだことなんかない。
髪の毛だって、偶然のはずよ。
私は目を合わせないようにして、裏の搬入口へ向かった。
搬入口につくと、移動の魔法で先に着いていたノアム理事長から、
「遅い!
このグーズ!」
と、叱られた。
「すみません。」
と、私が頭を下げていると、搬入口がゆっくりと開いていく。
外が見えて、雨が降り出しているのがわかった。
その雨の中を、幌を被った大きな荷物が、ガラガラと荷運び用の台車の車輪を回しながら入ってきた。
荷物を押してきたのは、黒いフードを被った男。
「よく来ーた。
闇の商人ゴルボス。
これは頼んでいた例のものーか?」
と、ノアム理事長は嬉しそうに男に話しかけた。
ゴルボス!!
その名前に背筋が凍ってくる。
男はフードをとると、頷いてお愛想を言ってから私の方を見た。
「ふふふ、リタ。
久しぶりだ。
お前も、もう18歳になるな。
ノアム理事長様に、可愛がってもらっているか?」
そう言って近づいてくる。
私は思わず後ろに下がった。
壁に背が当たってそれ以上、下がれなくなる。
この人は、10年前に私を捕まえて、ここに売り飛ばした張本人。
「人狼の18歳は、もう月の力を借りなくても任意に変身ができる。
お前の毛皮はさぞかし高く売れるだろうな。」
「ひっ・・・!!」
背を縮める私に、ゴルボスは無遠慮に手を伸ばしてきて、髪の毛に触れる。
「素晴らしい。
汚れているが、この毛色は漆黒と見た。
ノアム理事長、こいつを手放す時はまた連絡をください。」
と、ゴルボスが言った。
やだ、やだやだ!!
気持ち悪い!!
必死に頭を振っていると、
「リタ、遊んでいないで、これを運ーべ。
ゴルボス、リタは薬で変身を抑えていーる。
換毛期に毛を落とされては困るかーら。」
と、ノアム理事長が言って、ゴルボスにお金の入った袋を渡そうと目の前に持ち上げた。
ゴルボスは私の髪から手を離して、袋を受け取る。
その隙に私は素早くその場を離れ、台車を押し始めた。
ムチで打たれた傷が疼くが、気にしていられない。
あれ?重いと思っていたこの荷物は意外と軽い。
中身は、なんだろう。
そ、それより、早く行こう!!
じっと見るゴルボスの視線から逃れたくて、急いで運搬用の昇降機へと向かった。
ゴルボスに触られたところが、気持ち悪くてたまらない。
泣くとぶたれるから、悲しい時は下唇を口の中に巻き込んで、上の歯で噛んで耐えるようにしている。
ボタンを押して開くのを待つ。
早く・・・早く!
背中にゴルボスの視線が刺さるの!
怖いの!
ようやく扉を開いた地下へ降りる運搬用の昇降機に、荷物を台車ごと押し込んで乗り込むと、下へ降りるボタンを押した。
扉が閉まると、ホッとした。
瞬きした途端に大きな涙の雫が、目から溢れて落ちていく。
思わず嗚咽まで漏れた。
いけない・・・すぐに止めないと!
そう思っていた時だ。
「悲しいのね。」
突然、幌のかかった荷物の中から声がした。
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