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暗闇に届く一閃の -鍵を守護する者⑦-
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しおりを挟むこれはまずい、と美都を下にして四季は思った。ソファーに仰向けに寝転がる、彼女の身体の上に覆い被さるような形で。当の美都はこの状況に目を瞬かせている。
事の発端はほんの数分前。夕食を終え互いに他愛ない会話をしていた。もちろん美都が口を滑らせたあの夢の話についても追求した。
一通り話をし終えた際にふと美都が花の配置を気にし始めたのだ。
「うーん……やっぱりリビングのテーブルの方がいいかなぁ」
菫から分けてもらった花は、大きめのグラスに入れてカウンターに飾った。彼女はその位置がどうにもしっくり来ていないようだ。
「どこがいいと思う?」
「別に……俺はこだわりないから好きなところにおけば」
ソファーで食後に一服していたところだった。素っ気ない返事を聞いて「もう」と不服そうに頬を膨らまし美都が立ち上がる。四季の前を通過してキッチンのカウンターへ歩いた。
「せっかくこんなに綺麗なんだし。もうちょっと目立つところに置いてあげたいな」
自身の瞳と同じ色をしたリンドウの花を見つめながら彼女が花瓶代わりのグラスを手にする。再び唸ると見定めるようにして飾る場所に相応しい位置を探り始めた。そして先程口にした通り、やはりリビングのテーブルが良いと判断したようだ。
「邪魔じゃない?」
「平気。いいんじゃないか」
視界を遮ることを気にして美都が四季に位置を確認する。普段テレビは情報を得るためにしか利用していない。その情報もスマートフォン上で確認が出来るものがほとんどなので最近はBGM代わりにしていると言っても過言ではない。なので彼女の疑問に答えるべく四季はちらりと視線を向けただけだった。
「もう四季! ちゃんと見た?」
一服したら勉強するために、と参考書を捲っていたところを諫められる。対応が気になったようで座っている四季の前に美都が仁王立ちになった。そんな彼女を見上げながら彼はある既視感を覚える。
「……なんか段々と那茅に似てきたな」
否、この既視感は当初から感じていたものだ。不思議なことに美都は10歳下の那茅とも、その母親である弥生とも似た雰囲気を持っている。ここで弥生の名を出さなかったのは、その大きな瞳でむすっと見つめてきたからだ。実に子どもらしい表情で。
「どのへんが?」
急にそう評されたことに美都は怪訝そうに眉を顰めている。そのまま言うと角が立つか、と思い一旦口籠もった。しかし適当な表現が見当たらない。彼女から目を逸らしたまま考えていると追及するように名が呼ばれた。
「ちょっと四季?」
「……無邪気なところ」
なんとか他の言葉に言い換えてみたがその返答に美都は納得していないようだった。疑わしい眼でジトッとしばらく四季を見た後、尚も頬を膨らましたまま元々いたソファーの位置へ腰を下ろした。
「なんか不満?」
「だって絶対違うこと考えてた顔してるもん」
普段は鈍感でもさすがにあの対応ではわかるか、と四季が謎の感心をする。むすっとした表情で横にいながらも若干背を向けている。その姿がいじらしいな、と感じてしまった。計らずにそういう仕種をするのはなんともずるい。
「美都」
触れたくなってしまうではないか。振り向いて欲しくて名前を呼ぶが意固地になっているのかツーンとそっぽを向いたままだ。この様もなかなかに珍しい。これはこれで、と思いながら四季が手を伸ばして彼女の後頭部に触れる。すると一瞬ピクリと肩を竦ませたもののすぐに元に戻った。
「そういうところ」
「ちゃんと言ってもらわないとわからないですー」
手にしていた参考書を彼女と反対側に置いて距離を詰める。拗ねて背中を丸める様がまるで幼くふっと笑みを零した。
「言ったら怒りそうだし」
「怒られるようなこと考えてたの⁉︎」
「いや、俺的には褒め言葉だけど」
怒る、という単語に反応してくるりと美都が振り向いた。ようやく顔が見られた好機を逃すまいとして四季がその頬に手を当てる。しかしその行動を理解したのかすぐに彼女の両手が顔の前で交差された。
「ダメです」
「なんで?」
「ちゃんと答えてもらってないもん」
「ふーん」
短く受け答えを行いながら触れている頬の指を動かす。すると美都はくすぐったそうに目を細めた。そのあどけない表情に気持ちが掻き立てられる。もっと触れたいと。しかし彼女はしっかりと己をガードしている。となると、と四季はもう一方の手で彼女の腕を掴んで引き寄せた。
「わっ!」
ポスン、と胸元に収まる彼女をすかさず抱きしめた。ついで頭に手を乗せて優しく二度反復させる。
「──子どもっぽくて可愛いなって思って」
「!」
腕の中で小柄な美都が小さく反応するのが分かった。これが彼女が待ち望んでいた回答のはずだ。怒られても良いように──怒っても怖くはないのだが──自分の方へ引き寄せたが裏目に出たな、と感じる。これでは彼女がどういう表情をしているかわからないからだ。そしてポツリと声が下から響いてきた。
「……やっぱり」
「ん?」
「子どもっぽい?」
どうやら先程呟いた回答の後半ではなく前半に意識が持って行かれてしまったようだ。
「なんかダメ?」
「うーん……四季は大人っぽいからさ。なんというか……」
いつもより歯切れ悪く口籠もりながら、美都が下を向いた。心なしか覇気がなさそうにも見える。どうしたのかと四季が首を傾げると一拍置いて彼女が理由を話し始めた。
「釣り合わないんじゃないかなって……」
一瞬上目遣いで彼を見た後居心地悪そうにすぐに目を逸らした。四季はその言葉に目を瞬かせる。なるほど学校で考えていたことはそれか、と納得した。何をそんなに考えているのかと思えば、と呆れて溜め息を吐く。
「他人からどう見られてるのか気になる?」
「気になるよ。だって四季は──……か、──格好いい、から」
照れながらそう呟く姿がなんともいじらしい。不意に届いた賞賛の言葉に喜ぶことよりも意外と他人の眼を気にしているのだなと率直に感じた。先程自分が伝えた「可愛い」という単語はまるで無視されている。彼女の自己評価の低さにも困ったものだ。
「誰かに何か言われたわけじゃないんだろ?」
「そうだけど……どうやったら大人っぽくなれるのかなぁ」
後半は独り言のように己の思考に入ろうとしていた。うーん、と唸る美都を見ているとやはり少女らしさが滲み出ている。これは自分の中での予想だが、彼女はきっと歳を重ねてもこんな感じなのだろうなと思ってしまう。そんなこと絶対に彼女には言えないが。とは言え見映えで悩まれても自分からは「気にするな」としか言うことがない。現にこちらは全く気にしたことがないのだ。無駄な悩みだなとさえ感じてしまうほどに。仕方なく彼女の考えに沿うような回答を口に出した。
「前髪を分けてみるとか」
そう言って試すように彼女の前髪に触ろうとしたところ、俊敏な動きで美都が己の額に両手を翳した。
「何?」
「お……おでこ広いから嫌」
「──へぇ」
その仕種にニヤリと笑みを零す。そう言われてしまったら余計に確かめたくなるのが人間の性というものだろう。美都はしまった、とハッとした表情を浮かべたが額はしっかりと守ったままだ。
「だ! ダメだって!」
「別に減るもんじゃないだろ」
「減る! わたしの中の矜持が!」
「難しい言葉知ってんじゃん」
「こら四季!」
意地でも額から手をどかそうとしない美都との攻防戦だ。頑なになるところが子どもらしいのだと気付かないものだろうか。しかしこうなってくるとこちらも譲れない。それにこうして手が掲げられていると邪魔でしょうがないのだ。ひとまず片方の手だけでも、と思い軽々と手首を掴み額から退けた。
「! ちょ……!」
掴んだ手を下ろし、空いた首筋に顔を埋める。正攻法では通用しないと判断したため美都の気を逸らす作戦へと移行した。ともあれようやく触れられるのだ。そう考えながら無防備な首筋に口付ける。瞬間、ピクリと美都が肩を竦めた。
「くすぐったい……!」
顔を赤くしながら尚も片手は額から外そうとしない。なるほど、と横目で彼女の様子を確認する。少しだけ試してみたくなってきた。どこまでなら許されるかを。顔を上げることなく、そのまま唇を今度は鎖骨辺りにスライドさせる。
「っ⁉︎」
さすがに驚いたのか顔を見ずとも息を呑んだのが分かった。耳を当てると彼女の心音が聞こえてきそうだ。すると挙動に耐えられなくなったのか額に当てていた手をようやく動かしこちらに触れてくる。ぎこちなくその手が髪を梳いた。
「……さらさら」
「どうも」
気が逸れたと見て、直ぐに自分の髪に当てている手を掴んだ。先に下ろした方の手を離し、再び頬に寄せようとした時美都がその場で後ずさる。こちらとしてはもう額のことなどどうでも良い。ただ触れられさえすれば。しかし彼女はやはり気になるようでその場から逃げようとしてたじろぐ。その瞬間、重心が背後に掛かり彼女の身体がそのまま倒れそうになった。
「あっ……!」
「──!」
背から倒れていく美都の身体を咄嗟に支えようとして、前のめりに動く。しかしこれが寸分遅かった。ドサッ、と彼女の身体がソファーの上に沿うのとほぼ同時。こちらの手をソファーに付けなければ体勢が保てなかった。だから覆い被さる形になったのだ。
(……まずい)
自分の下でキョトンと目を瞬かせている彼女はいつも以上にあどけなく見える。この体勢はまずい。己の自制心に訴えかけてみたがここで止まれる方がどうかしている。
「あー……」
一旦目を逸らしたのは脳裏に弥生の言葉がチラついたからだ。実は以前「卒業までは手出し厳禁」と諭されている。だからほんの数秒迷いが生じた。しかし──。
(……どこまで、とは言われてないからな)
と再び美都に瞳を戻し、その柔らかい髪に触れる。それにもう今更か。つい先程まで肌に唇を沿わせていたのだから。そんな事弥生に知られたらどやされるだろうが。
グッと彼女の手首を掴んだままソファーに押し付けていた手に力が入る。そのせいで彼女は更に身動きが取れず身体を硬直させた。
「あ、の……」
「なんだ。別に言うほど広くないじゃん」
「あっ、こら!」
そのまま軽く前髪をかき分けて額を確認してみたが彼女が必死に隠すほどでもないな、と感じ率直な感想を口にした。こういう何気ないやり取りが愛おしく感じる。美都はその評価に複雑そうに唇を結んでいた。その表情がまたなんとも愛らしくて謝罪の意味を込めて優しく頭を撫でる。
「可愛いな」
「っ……!」
感じたことを口に出すと、不意に言われたことに対してすぐに顔を紅潮させる。こういうところが初々しくて可愛いのだと。美都のこの反応はいつまで経っても嬉しいものだ。こんな無防備な状態でそんな表情を見せるのは反則だと思う。はぁ、と小さく息を吐いた。
「……あんまり煽んなよな」
やはりしっかりと線は決めておかなければ、と考えていたところだったのに。ただでさえ彼女はそういうことに対して疎いのだから。
そう言うと案の定怪訝そうに眉を潜めてこちらを見ていた。
「? 何のこと……?」
「こっちの話。──ちょっとじっとして」
「──!」
言いながらゆっくりと首を落とし彼女の口を塞ぐ。不意に迫る影に反射的にぎゅっと目を瞑っていた。緊張して身体を強張らせている。やはり慣れないのか、と少しだけ可笑しくなった。
「ふ……っ!」
いつもより俄かに長い口付けに、美都が空いている方の手で何かを訴えるように自分の肩を二度叩いた。それに応じるように一旦唇を離す。
「くるし……っ!」
今まで息を止めていたのが分かるように頬を赤くして浅い呼吸を繰り返している。何となくそう言われるだろうと察知していた。否、そうなるだろうと考えて試してみたのだ。だから次に言う事は既に決まっている。
「鼻で、息するんだ」
「鼻……?」
「そう。で、もうちょっと力抜いて」
「え? あ……──っ!」
手短かにそう伝えて再び唇を重ねる。二度目のキスに驚いて一瞬だけ垣間見えた瞳が戸惑っているように見えた。しかし美都はしばらくして教えられたことを不器用に実行し始める。だんだんとソファーに身を預けるように余計な力が分散されていく。手首に置いていた手をそっと彼女の指に絡ませた。
「ん──……」
たどたどしく握り返される指は熱を帯びていた。そしてゆっくりとまた彼女の唇から離れる。紫紺の瞳を揺らしながら美都はこちらを見ていた。
「上手」
ふっとそう呟くと更に顔を赤くさせた。恥ずかしそうにしながら唇を手の甲で隠している。その様がただひたすらに可愛くて。もう少し、と求めてしまいそうになる。だが恐らく彼女にはこれが限界だろう。むしろここまで出来たことを褒めるべきか。しかし一応、と思いながらおもむろに伺いを立てる。
「もう無理?」
「──むり、です……」
先程の反動なのか、逆に彼女の身体からは力が抜けきっている。ポツリと呟く声にも限界の色が見て取れた。耳まで赤くさせている様子を見ると良く保った方だな、と感心する。美都の火照った顔を冷ますように手の甲を寄せた。
「熱……」
「だって──」
「慣れないな、全然」
「……っ! な、慣れるわけないよ……!」
頼むからこのまま慣れないで欲しい、と考えながら体勢を整える。絡めていた指を解こうとしたとき、ふと思うことがありそこに視線を移した。
「お前……ほっそいなー」
「えぇ? 人並みだと思うけど……部活だってちゃんとやってたし」
「ちょっと力入れてみて」
美都の細い手首を押さえながらそう指示する。すると彼女は言われた通りすぐに力を込めて反発しようと腕を動かそうとした。
「──全力?」
「……っ、い、一応」
(弱っ……)
ググッと跳ね除けようと抵抗する意思は感じるが反発する力はほぼ無いに等しい。なけなしの美都の矜持を傷つけたらいけないと考え口には出さなかったが、想像以上の力のなさに苦い顔を浮かべてしまった。彼女の非力さを目の当たりにして一気に不安が増す。こうして押さえつけられてしまえば抵抗は意味をなさないからだ。その相手がまだ宿り魔ならば剣を振るえるだろう。しかし、と脳裏にとある人物を思い浮かべる。
「あのさ──」
「何?」
ここまで口にして再びどう言おうか言葉を詰まらせてしまった。美都は何の疑いもなく彼──水唯を心配している。彼女の優しさを否定する事は出来ない。しかし危機管理能力には訴えておきたい。
「俺と別行動する時はどこに行くか絶対に報告してくれ」
「? それって学校内でも?」
「当たり前だ。同級生に敵がいるんだから」
むしろ学校内の方が接触する確率が高い。あまり美都の行動を縛ることはしたく無いがこのお転婆娘は何をしでかすかわかったものでは無い。多少過保護でも制限をかけておかねば。
「じゃなきゃ何かあった時すぐに駆けつけられないだろ」
「──ん。確かにそうだね。わかった」
その申し出に初めは怪訝そうな顔をしていた美都も理由を聞いて納得したらしい。素直な返答を褒めるように頭を撫でた後ようやく体勢を整え上半身を起こす。次いで彼女にも手を差し出し起き上がらせた。
「ありがと」
そしてここでもやはり手の小ささに驚く。美都が特に小さいのか、それとも女子とはこれくらいなのか判断がつかない。ちゃんと食べさせているはずなのに、と自分の料理の腕すら疑いたくなってしまう。
「どうしたの?」
「なぁ食事量足りてる?」
「は?」
突然何を言い出すのかと思ったのだろう。美都は素っ頓狂な声を上げて首を傾げている。
「十分足りてるし何ならちょっと痩せなきゃって思ってるくらいだよ」
「いや痩せる必要ないだろ。何で?」
「だって体育大会あるんだもん……」
それに部活を引退してから動く機会が減ったので体重が気になっている、と付け加える。体育大会という単語を聞いて納得する。そう言えば今日のHRで出場競技を決めたのだったと。
「最近は宿り魔も出ないから運動不足で」
と美都がぼやく。あれに関しては出ない方が良い。それにあの場を運動と捉えるのはどうかと思うが、と苦い顔を浮かべた。とは言え身体を動かすという自体は合っているためやれやれと肩を落とした。
「糖質制限でもするか? 体育大会まで」
「うーん、それもいいかも」
「じゃ、デザートは無しだな」
「え⁉︎」
そう言うと悩んでいた様子からすぐさま反応し目を瞬かせてこちらを見た。
「……あるの?」
「食うかな、と思ってスーパーで買ったけど。糖質制限するんだろ?」
どう出るかな、と若干意地悪く訊いてみたところ案の定声を詰まらせている。悲壮感漂う表情を見せる彼女につい吹き出しそうになってしまい慌てて口元を押さえた。
「あ……明日からにする」
「それダイエット失敗する奴のセリフだぞ」
「だって! ずるいよ、後出しだもん!」
「はいはい」
まるで幼い子どものようだ。彼女が大人っぽくなるには相当時間がかかるだろう。
宥めながら立ち上がり、キッチンの方へ足を向ける。するとちょうどその時テレビからある曲が流れ始め動き出そうとしていた美都を足留めした。”きらきら星”だ。そしてわかりやすく肩を落とす。誰のことを考えているのか手に取るように把握できた。
「──あんま考えたってしょうがないと思うけど」
「……うん。そうだよね」
あくまでそう答えが返ってくるが、やはり美都は水唯のことが気になるようだ。彼のことが疑わしい以上、なるべく接触はさせたくない。これは我儘でも意地悪でもなく、守護者としての務めだ。災いから彼女を守るために。身近に敵が潜んでいるとなれば、警戒せざるを得ないのだ。もし水唯が敵でなかったとしても。
「お前さ、水唯が転校してきた理由とか訊いたことある?」
「え? ううん。ないけど……一人暮らしなんだしワケありなんじゃないかって話してたよね」
「そう、だったな……」
そうだ。水唯が隣に引っ越してきた当初、そんな話をしていたのだと思い出した。こちらも守護者の任があったため互いに遠慮してしまったのだ。彼に関して、やはり情報が少なすぎる。こうなる前にもう少し聞いておくべきだったと反省する。
「水唯が一人暮らしの理由──……」
同じように美都も何か考え始めたようだ。独り言のように呟いて再び黙った。その様子にしまった、と後悔する。距離を取らせなければならないのに結局関心を向けてしまった。こうなると彼女も気になってしまうはずだ。どう気を逸らそうかと思った時にくるりと身体を捻りこちらを向いた。
「わたし、羽鳥先生に聞いてみようかな。あんまり詮索するのも良くないけど、心配だし……」
美都のその提案は、あくまで彼女の優しさからだ。確かに彼女ならば聞き出せるかもしれない。個人情報ではあるが羽鳥も水唯を気にしている様子を見せているし、何より彼が休みがちだった際には美都に連絡事項の共有を依頼する程だ。その事があるためひた隠しには出来ないはずだ。
「それがいいかもな。色々わかってた方がお互い助けやすいだろうし」
「うん、そうだよね。明日にでも聞いてみるよ」
差し障りのないよう言葉を選びながら彼女の提案に同意した。こういうときの美都は行動に移すのが早い。危なっかしくはあるが今はその時間も惜しいのでこういう場面では助かるものだ。彼女は恐らく自分に関わる事だとは思っていないだろうが。
瑛久との会話をふと思い出す。彼も独自のルートで調べてくれているはずだ。それが上手く繋がれば良いのだが、と渋い顔を浮かべる。確固たる証拠が無い現状を見ると、やはり間違いなのでは──否、間違いであって欲しいとさえ願う自分も何処と無く存在する。あの無口な水唯が、敵だなんてことがあり得るのかと。果たして今後、美都に危害を加えることが出来得るのかと。その様を考えるのは難しい。
(──……甘いな、俺は)
美都を守ると決めた以上、こんな考えは不要なはずだ。それをまだ自分の中に落とし込めていない。自身の甘さに反吐が出そうだ。
何にせよ今は情報が欲しい。明日になれば美都が羽鳥に話を聞くだろう。幸い彼もまだ変な動きを見せていないし焦らずとも大丈夫なはずだ。そう考え頭を横に振ると再びキッチンで作業を始めた。
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