めぐる鍵、守護するきみ-鍵を守護する者-

空哉

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高い空へ唄う歌-鍵を守護する者⑤-

グラジオラスの花

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「あれ?」
教会を出た後、ふと喉の渇きを覚えて近くの自販機に寄った。財布を取り出そうと鞄の中を探ったところ、それが無いことに気づき首を傾げる。はて?  と記憶を辿る。
(そう言えば昨日、机に置いたかも……)
鞄の中を整理する際、取り出していたことをふと思い出した。今日は特段使用する機会がなかったので完全に失念していたがやはり無いと不便だなと感じる。運良く持ち歩いていた緊急用の小銭入れでなんとかその場を凌いだ。
(お財布無いとなるとスーパーには寄れないなぁ……)
うーんと唸りながら自販機で買った飲料水に口をあてがう。この心許ない小銭入れの中身では満足に買い物も出来ない。だがゆっくり帰ってこいと言われている手前、どこで時間を潰したものかと頭を悩ませてしまう。
喉の潤いを取り戻し、美都は菫と別れた時の会話を思い出した。ひと通り話が落ち着いた後、彼女は律儀にも教会の外まで見送ってくれたのだ。会釈をして歩き出そうとしたところ、ふと視界の端に鮮やかな花が映った。そうだ、と思い出して菫に問いかける。
「菫さん、あの花ってなんて言う名前ですか?」
教会に入る前に目にしていた花だ。鮮やかな色と鋭く硬そうな葉が印象的だった。菫は指差された方を確認すると一拍置いて美都の問いに応えた。
「……グラジオラス、ですね」
「グラジオラス?」
聞き馴染みのない名称に思わず復唱する。実際初めて耳にする名前だ。ひとまず名前を知ることが出来てほぅと感嘆しているとそのまま菫が言葉を続けた。
「和名では唐菖蒲と呼ばれるアヤメ科の一種です。そしてラテン語で『小さな剣』という意味を持っています」
剣、と言う単語を聞いて目を見開く。確かに言われてみれば葉の形が剣のようにも見える。
「さすがに目の付け所が違いますね」
と菫に言われ苦笑いを浮かべたことを思い出した。己の武器である剣を普段から意識しているわけではない。たまたま目に付いただけだ。
教会に入ってから触ることのなかったスマートフォンを取り出した。特に連絡は来ていない。ふぅと息を吐いてそのまま画面に触れる。検索画面を呼び出し『グラジオラス』と単語を入力した。
検索画面に出た内容に一通り目を通していく。菫に説明された通りの学名や栽培方法などが並んでいる。そこには和名の他に英名でも記されていた。英名、Sword lily──剣のユリ。やはりその形から名付けられているようだ。続けて検索欄にスペースを一つ空けて、ある単語を入れた。普段あまり気にしたことは無い。だが以前高階と話をしたことがきっかけでそういう見方もあるのかと目から鱗だったのだ。だから少しの興味だった。
美都は表示された検索結果に少しだけ息を呑んだ。
(花言葉──「用心」と「思い出」……)
まるで何かの暗示のようにも思える。その単語に心当たりがあるからだ。「用心」は紛れもなく鍵のことだ。先ほど菫と話をしたことである程度心は落ち着いた。だがまたいつ宿り魔が出現するとも限らない。もしかしたら次が所有者が現れる瞬間かもしれないと考えると気が気でなくなる。しかしこればっかりは急いてもしょうがないのだと自分に言い聞かせるしか無いのだ。問題はもう一つの単語だった。
(思い出、なんて……)
自販機の横に佇みながら目を伏せる。容赦無く横を過ぎる生温い風が、どうしても肌に障る。湿気の多い空気に眉間にしわを寄せた。
──あの日もそうだった。あの日も、とても暑くて。
額に汗が浮かぶ。思い出したく無い記憶なのに、否が応でも脳裏を過ぎるのは恐らく潜在的に自分が固執しているからだ。否、毎年必ず巡ってくる日のせいかもしれない。
(……やめよ)
溜め息を吐いて強引に足を進めた。このままここで立ち止まっているわけにもいかない。せっかくここまで来たのだからと、美都はある所に向かった。だがこの顔のまま会いに行っていいものかと迷ってしまう気持ちもある。これこそ甘えなのではないかと。それでも考えている間にその目的地が見えた。常盤の家だ。
緊張したまま門を開き、インターフォンを押す。ドキドキしながら応答を待った。しかし一向に人が出てくる気配はない。
(いない、か……まぁ急だったし)
残念なような少しだけ安心したような、複雑な気持ちだ。菫に抱きしめられて、円佳の温もりが恋しくなった。自分勝手だなとは思うが、ふと顔を見たくなったのだ。諦めて帰ろうと踵を返したとき、隣の家の扉が不意に開いた。顔を向けると見慣れた人物と目が合う。
「ぉわ⁉︎  なに、里帰り?  四季とケンカでもしたか?」
「してないよ!  ちょっと近くに来たから寄っただけ。いなかったけど」
幼馴染みである和真がそう驚きながら口にしたことを否定する。彼は美都と四季が同居していることを知っている数少ない人物だ。茶化すような言い方をするのも彼らしい。今日は学校で会っていないため自主休講というものだろう。美都が常盤家に訪れた理由を話すとなるほどと納得した後、何か思い出したような表情を浮かべた。
「あ、待て待て。手ぶらで帰んな」
「?  なに?」
常盤家の門を閉じた後、和真が手招きをするので首を傾げて彼のいる方へ向かう。そう言う和真は再び玄関の戸を開き、中にいる人物になにやら呼びかけていた。すると直ぐに彼の母である多加江が姿を現し玄関から飛び出してきた。
「美都ちゃん!」
瞬間、ひしっと抱きしめられる。この温もりも懐かしい。緩やかに巻かれた髪のこの少女のような女性はいつでも華やかな香りがする。円佳とはまた違う、女性らしく安心する香りだ。
そして和真の思惑が読めた。多加江は男所帯で暮らしているせいか、より少女思考が強い。つまり自分は彼女にとっての女子成分摂取のための養分だ。自分としても悪い気はしないが。
「じゃ、後は頼んだ」
「って今からどこ行くの?」
「秀多んとこー。また明日なー」
多加江に抱きしめられながら顔を傾け訊ねると、和真は自分を残し颯爽と門から出て行った。彼には彼の領域があるので特に引き留めることもしないが自分はこのまま放置か、と突っ込みたくはなる。多加江は「暗くなる前に帰ってくるのよー」と実に母親らしいことを彼に向けて言っていた。
「そう言えば!  聞いたわよー、和真から」
「え……な、なにを……?」
多加江は思い出したようにバッと身体を引き剥がすと、その手を肩に置いたまま自分を見つめた。ギクリと苦い顔を浮かべる。和真は何をどこまで言ったのかと。
「男の子と暮らしてるんですって?  で、その子と付き合ってるんですって⁉︎」
(和真めぇ……!)
キラキラとした表情を見せる多加江に対して、美都は恥ずかしさに耐えきれず両手で顔を覆った。何も間違ってはいない。いないからこそはぐらかすことも出来ない。改めて言われると恥ずかしくて顔が赤くなる。付き合っている、と言う言葉はいつだってこそばゆい。
「そんな素敵な話どうして早く言ってくれなかったの!  あ、円佳ちゃんにはもう話した?」
「いえ……気恥ずかしくて言えないです……」
「あらまぁ。でも確かに、円佳ちゃん心配しちゃうかもしれないわね」
あらあら、と言った表情で多加江は己の頬に手を当てた。とは言え円佳は恐らく守護者のことを知っている。だからどういう相手と同居しているかは把握しているはずだ。まさか付き合うまでに発展するとは思ってはいないだろうが。
「あ、さっき円佳ちゃんお買い物に出かけちゃったところだったのよ」
「そうだったんですね。タイミング悪かったなぁ……」
「せっかくだしウチで待つ?   さっき作ったお菓子もあるし!」
手の甲で顔面の下半分を隠しながら呼吸を整えていると多加江が円佳の動向について口にした。唐突な思い付きで訪れたため会えなかったのは仕方がない。直後の多加江の提案に甘えようかとも思ったが、なんだかんだと気持ちも落ち着いてきたので美都は一拍置いた後控え目に首を横に振った。
「いえ、大丈夫です。円佳さんには連絡しておくので」
「そう?  じゃあお菓子だけでも持って帰って!  今包んでくるから」
そう言って多加江は「暑いからせめて玄関の中にいてね」と言って美都を家へ招き入れた。その足でパタパタとキッチンの方へ向かっていく様を見つめながら再びスマートフォンを取り出す。
【今から帰ろうと思うんだけど、まだ早い?】
と四季に伺いを立てるメッセージを送信した。菫との話は意外と長かったしこうして多加江とも交流をしてだいぶ時間は使ったはずだ。そもそも「帰る前に連絡して」とはどういうことなのかと首を傾げてしまう。ご丁寧に「絶対」と強調されていたのは何なのだろう。
(あと寄れる所……図書館、はもう閉まっちゃうしなぁ……)
この季節は日暮れまでが長い。時刻的には夕方なのだがまだ空は明るかった。だがそれとは関係なしに図書館は間も無く閉館となる時間だ。そうやって頭を悩ませていたところ、紙袋を携えた多加江が忙しなく廊下を歩いてきた。
「はい、これ!  彼氏くんは甘いの好きかしら?」
「!  どうなんだろう……でも好き嫌いはないと思います」
多加江の質問に、そう言えば四季の食の好みを訊いたことがなかったことを思い出し目を丸くした。だがこれまで出した夕食は全て完食していたはずだ。特に偏食はないのだろうとは思うが彼の好きなものまでは知らないなと思い至る。
「もしダメだったら美都ちゃんが食べてね。あと美味しそうなお茶っぱ見つけたから入れておいたわ」
「わぁ……!  ありがとうございます!」
中原家で多加江の手作り菓子を頂くときは決まって彼女が選んできた紅茶が振る舞われる。美都は毎度それも楽しみだった。作り手なだけあって選ぶ紅茶と菓子の組み合わせのハズレは今までにない。家で淹れるのが楽しみだ。
「今度来るときは早めに教えてね?  女子会しましょ!」
嬉々として話す多加江は少女そのものだ。彼女の和やかな雰囲気に当てられて美都の表情も柔らかくなる。菓子と茶葉が入った紙袋を受け取り、多加江に礼を伝え美都は中原家を後にした。
門から出てスマートフォンを確認する。まだ四季からの返事は無い。いつもよりゆっくり歩きながら美都は空を仰いだ。
よく考えれば、自分は彼のことを深く知らないのだなと思う。何が好きで、何が嫌いで。音楽の趣味、食の嗜好、癖や仕種。まだまだ知らないことが多い。しかしもちろん知っていることもある。料理が上手い、頭が良い、気遣いができる、意外と子どもっぽい。
(…………なんか欲張りになっちゃったなぁ、わたし)
最近毎日一緒にいるからか、今日のように半日以上離れている時間は珍しい。だから一層そう思うのかもしれない。たった半日だけなのに。想いが募る。そもそもが贅沢なのだ。好きな人と同じ家で暮らしているという事実が。
「……っ──」
急にその事実にハッとして美都は一人、顔を紅潮させる。周りに人がいなくて良かった。自分は意外と──という言い方もどうかと思うが──彼のことが好きなんだなと思い知る。ふと手にしていたスマートフォンが震えたので画面を覗き見た。
【ごめん、全然まだ。ほんとごめん】
四季からのメッセージには謝罪の言葉が綴られている。理由が不明なだけに唸ることしか出来ない。既に駅前の商店街に近い場所にいたのできょろきょろと辺りを見渡す。ファストフード店なら手持ちの現金でなんとか凌げそうだなと思い足を向けようとした。
「っ!」
急に吹いた突風に強く目を瞑った。気付けば先程よりも空気がジトッとし始め、空にも雲が広がっているようだった。一雨来るのかなと思いながら目を開いたとき、視線の先にとある物体を捉えた。それはたった今吹いた風によって煽られたのか宙に浮かんでいる。
(帽子?)
目を瞬かせながらふわりと舞っているそれを追いかける。運良く自分の頭上付近に降下してきたので手を伸ばし縁を掴んだ。胸の前まで引き寄せてひとまず息を吐く。帽子が一人でに飛ぶわけはないので持ち主がどこかにいるはずだと思い辺りを見ると、一人の女性がこちらに向かってくる様子が確認出来た。
「ごめんなさーい!」
甲高い声を響かせ、慌ててこちらに駆けてくる30代半ばくらいの女性だ。雰囲気的には先程会った多加江に似ているように感じた。
「いえ。地面に落ちなくて良かったです」
どうぞ、と言って掴んだ帽子を手渡した。女性は安堵した表情で帽子を受け取ると、ふわりとした笑顔を見せた。
「ありがとう。あら、第一中の子?」
「はい。三年生です」
「三年生!  お名前を訊いてもいいかしら?」
女性は嬉しそうに一度手を叩いて美都に質問を重ねた。もしかして同級生に知り合いでもいるのだろうか。制服を見て第一中だと分かるくらいだからその可能性は高いなと思って彼女の問いに答えた。
「月代と言います」
「……つき、しろ──?」
苗字を伝えた瞬間、女性は驚いたように目を瞬かせ言葉を復唱した。その反応に美都は首を傾げる。月代という漢字の変換がうまくいかなかったのかもしれないと思い解説しようと再び口を開こうとしたとき、美都より先に目の前の女性が言葉を続けた。
「────つきしろ、みとちゃん?」
「え?  あ、はいそうです」
名乗ってもいないフルネームを呼ばれ、今度は美都が目を丸くした。この既視感は初めて菫と会ったときに似ている。あの時も確か彼女が自分のことを知っていた。だとしたらこの女性ももしかして会ったことがあるのだろうか、とやはり同じように記憶を辿ってみたが思い当たることはない。ひょっとすると同級生の家族で何かで名簿を見て名前を覚えていたのかも、と様々な考えを巡らせていた時、スカートのポケットに入れておいたスマートフォンが勢いよく地面に滑り落ちた。
「!  ぅわ⁉︎」
ゴトッという鈍い音に驚いて肩を竦めた。青ざめながら慌てて前屈みでスマートフォンを拾い上げる。真っ先に精密機器の無事を確認すると美都はひとまず安堵の息を漏らした。
(あ……)
「──!」
上半身を傾けた拍子に、首に掛けていた守護者の指輪と弥生からもらったお守りが服の中から飛び出した。体勢を戻しながらそれらに触れる。
(そう言えばこれ──結局何なんだろう)
守護者の説明を受けた日に弥生にもらったものだ。匂い袋のような形のそれは、結局のところ何なのかわかっていない。弥生の言いつけで持ち歩いてはいるが、お守りとはいえ特に効果を発揮したことがないように思える。とは言え弥生は「みたいなもの」と言っていたためあくまで気休めなのかもしれないが。そう思いながら再び制服の中に仕舞った。
美都は自分の思考に耽っていたせいで、目の前の女性の反応には気づいていなかったのだ。目を見張って美都を見つめる様に。
「────ねぇ、今お時間ある?」
「え?」
女性は俄かに柔らかい声でそう言うと、ニコリと微笑んだ。





「──……来ねぇ……」
かれこれ三時間以上こうして待たされている。電話があってからすぐに部屋の掃除をし、客人──一方的にくるのだから客人と言うのかどうか──を迎え入れる準備だけは済ませた。だがしかし、来るはずの客人が一向に来ない。そもそも先方が提示した時間に幅がありすぎるのだ。こんなことなら補講へ行けば良かったと若干の後悔さえ感じる。
四季は自ら淹れたコーヒーを飲みながらリビングのソファーでやきもきしていた。美都にゆっくり帰ってきて欲しいと願い出ているため申し訳ない気持ちでいっぱいだ。先程彼女から連絡が来ていた。逆に来訪予定の相手からはどれだけせっついても連絡が無い。
(マイペースすぎるだろ……)
はぁーと思い切り溜め息を吐いた。何であんなにマイペースなんだ。こっちの都合も考えて欲しいものだと頭を抱える。
「…………」
座っているのも落ち着かず意味もなく窓際に立って空を仰いだ。室内にいると空調が効いているため外の空気がわからないが、何となく雲行きが怪しいような気がする。予報では晴れのはずだが夕立が降りそうな程、厚い雲が立ち込めている。そう言えば美都は傘を持っていないのでは無いかと急に心配になった。
(傘持ってくか……?  いや過保護すぎるか──?)
干渉しすぎてもいけないと思いながらも、どうにも彼女を見ていると世話を焼きたくなってしまう。庇護欲を掻き立てられるのだ。危なっかしくて向こう見ずだから自分が見ていてやらないと、と思う。付き合い始めてからは一層その思いが強くなった。だが縛り付けるのも良くないとこれでも我慢しているのだ。
そうこう考えている間に、予想通り雨が降り始めた。どこかへ避難してくれていれば良いのだが、と結局気を揉むとになってしまう。
(今日、大丈夫だったんかな)
こうして半日行動を別にするのは最近では珍しい。夏休み中ではあるものの美都が毎日学校へ行くので彼女へ合わせて自分も登校していた。美都にとってはその方が勉強も捗るようだったし自分としても特にこだわりがないのでそうしていたのだ。だからこうして各々の予定で動くのは少し久しぶりだ。落ち着かないのはそのせいか。
(あーっ…………)
悶々とした気持ちが溜まる。今朝は自分のせいで彼女との会話をほとんどしていない。会話というよりも寝ぼけ眼で、その姿をちゃんと見られていない。自業自得なのはわかっているが睡眠欲求には逆らえなかった。
いつだって、触れたいと思っている。小さくて愛らしい彼女に。年齢的には一つ下だからか一層あどけなく見えるのかもしれない。抱きしめたい。誰よりも傍にいたい。
(……そういや、進路訊かねーと)
数日前に弥生にも言われていたことがあった。美都が進路について悩んでいるみたいだから相談に乗ってあげたら、と。確かに互いにその話をしたことが無い。そもそも自分は志望校にこだわりがないのだ。だから美都に合わせることも可能なのだが、それを彼女が良しとするだろうか。良しとしなくても押し切る気ではいるが。なぜなら考えられないからだ。別の学校に通うことが。
(いや、無理だろ)
たった半日共にいないだけなのにこれだ。心配で仕方ない。放っておけないと思わせるのも一種の才能だと思う。美都にはそう思わせるだけの要素があり過ぎる。それにこの生活がいつまで続くかもわからない。使命が終われば恐らく互いに元の住まいに戻ることとなるだろう。今が贅沢な身分なのは把握しているが、いざその時になった際自分が近くにいない環境だったらと思うと怖いのだ。逆に美都は意外とさっぱりとした性格なので大丈夫そうだなと互いの意識について苦笑いを浮かべた。
依存している、と思う。彼女の存在に。自分がここまでのめり込むとは思わなかった。その事実についても驚いている。美都が好きだ。余裕がなくなるくらいには。
「!」
考えを巡らせていると急にスマートフォンが振動した。現実に引き戻されポケットから電子機器を取り出す。やれやれようやく来るかと思ったのも束の間、差出人は美都からであった。
【今駅前にいるんだけど……】
という出だしで始まったメッセージに目を通していく。どうやら自分の指示で帰るに帰れないから駅前で時間を潰してくれているらしい。いや本当に申し訳ない。事が済んだらちゃんと説明して謝罪しよう。そう思いながら読み進めた文に、四季は眉間にしわを寄せることとなった。
「……────は?」
自分以外誰もいない部屋に、間抜けた声が響いた。


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