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それは紫陽花の花に似て-鍵を守護する者③-
星の砂のように
しおりを挟む(……どうしよう)
改札を出た瞬間、目に入ってきた光景に思わず身体を強張らせてしまった。電車を降りた直後スマートフォンを確認したところ、あやのから海岸に降りていると連絡が入っていたためそちらに向かおうと思っていた。それなのに。
「ねぇ写真撮ろうよ」
「どこの学校?」
如何にも良くあるナンパの常套句だ。この付近の高校はブレザーのようで制服が違う彼が珍しいのだろう。耳に届く甲高い女子高校生の声を聞きながら美都は顔を顰める。別にナンパの現場に居合わせたから気まずいのではない。声をかけられている人物が四季だからだ。
駅から海岸までは目と鼻の先だ。踏切を渡ればすぐに辿り着く。だがわざわざこの場にいるということは。
(待っててくれたんだよね……?)
ならば声を掛けるべきだ。それはわかっているのだが年上の少女たちを前に、四季の元へ向かうのがなんとなく憚られた。彼はスマートフォンを操作しながら適当にあしらっているように見えるが改めてその様を見るとやはりモテるのだなぁと思う。おろおろと立ち尽くしているとやがて彼が自分に気づき目が合った。周りにいる少女たちの中から抜け出してこちらに向かってくる様にぎょっとして身構える。
目の前に立った瞬間、表情を確認する間も無く彼がとった行動に更に驚いて息を呑んだ。
「……っ!? 」
「──……嫌?」
手首を掴まれたのだ。咄嗟のことで身体が硬直する。四季の瞳が真っ直ぐに自分のことを見ていたから。いつもより俄かに優しく、そう問いかける声が少しだけくすぐったい。それがなんだか恥かしくて顔が熱くなってくる。本当ならば昨日のように振り解きたい。そうでなければこの心音が伝わってしまいそうで。
だが踏み出すと決めたのだ。そう思いながらも視線を逸らさざるを得ないのは、彼の赤茶色の瞳に弱いからだ。
「い、……嫌じゃ、ない──……」
「……良かった」
そう言って安堵した表情を見せると、四季は手首を掴んだまま身体を捻り歩き始めた。当然美都も彼に引っ張られるような形で足を動かす。先程の少女たちを横目に踏み切りへ急いだ。半歩先を歩く彼を見上げる。怒っているわけではなさそうだ。普段から口数が多い方ではないが、唇を結んでいるとますます彼が考えていることが分からない。
「ごめん、結局迷惑かけちゃったね」
「気付かなかった俺たちも悪いだろ。あんまり気にすんな」
「う……うん」
遮断機が降りたため踏み切りの手前で立ち止まるが四季は一向に手を離そうとしない。振り解けない強さではない。加減をしてくれているのだろう。ただ伝わってくる熱がこそばゆく目線を下に向ける。直後にお礼を伝え忘れたなと思い出して少しだけ顔を上げた。
「あの……待っててくれてありがとう」
「……──あぁ」
四季は一度だけ美都を見た後、フイと視線を逸らし素っ気ない返事をした。やはり彼の考えていることは分からない。手を離さないのは何故なのだろうか。まるで迷子を連れるようにしっかりと握られている。
「ねぇ、もう大丈夫だよ?」
そう伝えるが彼は無言で目を逸らしたままだ。
踏み切りの音が耳に響く。それが警告音だからなのだろうか。心音も連動して少しだけ煩わしく感じる。
互いに無言の状態になることなどこれまでに幾度となくあった。それなのに今この瞬間がずっと続くのではないかと錯覚する。何か声を発さなければ雰囲気に呑まれてしまいそうだ。
美都は唇を噛み締めた。踏み込むと決めた。怖がらずに彼と向き合うと。ならば、昨夜春香が言っていたことを訊くのは今しかない。
「四季は……わたしに何か言いたいことがある?」
その問いにハッとして四季が自分を見つめる。やがて彼はゆっくりと握っていた手を離した。江ノ島電鉄の印象的な車体が音を立てながら横を通り過ぎていく。四季の言葉を待っていると無言で何かを考えていた彼がおもむろに口を開いた。
「……あるよ。でもそれは今じゃない」
「……? 今じゃダメなの?」
「あぁ。……まだ分からないから」
言いたいことがあるという割に、彼はその内容を口にしようとしない。彼が口を噤む理由は何なのだろうと首を傾げる。自分に関することならば知っておきたい。しかし考えた上で口にしないのならば今言及してはいけないのだろうと思う。
「じゃあ……いつ?」
その問いに四季は眉を顰め口元に手を当てた。子どもじみた質問だなと自分でも思う。困らせてしまっているだろうか。まだというからには事態が動くときが来るのだろうと予想できる。なるべくなら知っておきたい。そうでなければまた靄が広がってしまいそうで。
「……はっきりとは言えないけど、近いうちに」
「絶対?」
「──……善処する」
「もう!」
半ば強引に問い質すと四季は若干口籠った。前向きな回答ではあるが俄かに信憑性に欠ける。だが彼がそう決めたのならばこれ以上口出しは出来ない。少しだけ不服に思ったため抗議はしたが。彼は自分のその反応を見てふっと笑みを零した。
間も無く遮断機が上がる。心地よい風が横を通り抜けた。
「美都」
四季が自分の名を呼んだ。もう何度も呼ばれている名前なのに、何故だろう。心音が一つ大きく鳴るのは。
目を見開いた先に映る、微笑む彼の姿に思わず息を呑む。彼はこんなに柔らかい表情をする少年だっただろうか。それとも自分が今まで知らなかっただけなのだろうか。
「────行くぞ」
そう言うと四季は海岸に向かって歩き出した。少し遅れて彼の後へ続く。今は隣を歩くよりも半歩後ろ、顔の見られない位置にいたい。そうでないと遅れてやってきた顔の熱さに気付かれてしまいそうだから。
「俺からも訊きたいことがあるんだけど」
「? ……なに?」
横断歩道を渡り海岸へと降りる階段へ向かっていると前を歩いている四季がおもむろに呟いた。美都は彼の後を追いながらその言葉に小首を傾げた。
「昨日はなんで……なにがダメだったんだ?」
美都はその問いに目を瞬かせる。昨日、と言われ記憶を遡った。もちろん思い当たるのはあの時のことだ。四季がそう問うということは彼も同じことを思っているに違いない。思い返すとまた顔が紅潮してくる。
「あ、あれは……! その……突然、だったから」
「突然じゃなければいいのか?」
「…………良くはない」
「は?」
自分の回答に四季が眉間にしわを寄せる。確かについ先程手首を掴まれたばかりだがそれは少なからず掴まれることに対しての確認があった。だからまだ良かった。だが今後のことは別だ。今は触れられることに抵抗はなくとも今後は分からない。それにいちいち心音が鳴って煩くてかなわないのだ。
加えて愛理のこともある。彼が他の子にも同じようにしているのであればそれを正さなければならない。
「四季は……もう少し女の子に対する態度を考えた方がいいよ」
「……────は?」
モテるはずなのに彼女がいないのはきっとそういうところなんだろうなと思う。優しいから仕方ないとは思うが四季の行動は誤解を招くことが大いにあり得る。
四季は目を丸くして呆然と立ち尽くしている。そんな彼を横切り階段を降りようとした時、目線の先に春香たちが見えた。彼女らもこちらに気付いて手を振ってくれている。随分と待たせてしまった。ちゃんと謝らねば、と駆け出そうとした瞬間だった。
「ちょっと待て!」
「⁉︎ ちょ……! 今言ったばっかじゃん!」
「あれで納得できるか!」
駆け下りようとする階段の途中で四季に再び腕を掴まれた。その行為に驚いて抗議の声を上げる。突然だと尚心臓に悪い。その癖を直して欲しいから助言したはずなのに全く理解してもらえていない。
「だからっ! っ⁉︎ ……──!」
「美都!! 」
振り向いた瞬間、砂に足を滑らせた。体勢を崩し階段を踏み外す。落ちる、と瞬時に思った。四季の声が耳に届いた時には反射的に強く目を瞑っていた。幸い砂場まで残り数段も無い。不恰好に転げ落ちるだけだ。だから強く引かれた腕のことなど気にも留めていなかった。
重力に逆らう事なく身体が前のめりに倒れた。だが砂場に着いたと思った身体はそれの感覚では無い。不思議に思って恐る恐る目を開ける。ぼんやりと映るのは白いシャツのように見えた。
「……平気か?」
頭上で声がした。一瞬遅れて知覚する。自分がいるのは砂の上では無いことに。首を傾けて下敷きにしている四季を確認した。
「ご、ごめん!」
「いや……今のは完全に俺が悪かった」
ハァと息を吐きながら仰向けのまま四季は頭を抱える。どうやら彼は落ちる寸前に己の身体をクッション代わりにしてくれたようだ。しっかりと自分の身体を抱えてくれている。ひとまず彼の身体から降りなければとガバッと身を起こした。
四季はそれを確認すると自身も上半身を起こす。さすがに鍛えているだけあって身体に異常は無さそうだ。ほっと胸をなでおろしたところ、彼の背面が砂まみれになっていることに気付いた。
「じっとしてて」
そう言って立ち膝のまま彼の背に手を伸ばす。シャツについた砂を払い終えた後、彼の髪にもキラキラと砂が光っている様が見えた。星の砂のようだなと思いながらその髪に触れる。
(……意外とさらさらなんだ)
手櫛を通しても絡まらない髪だ。その綺麗な黒髪には砂が反射して良く映える。もちろんそうも言っていられないため払い落とすしか無いのだが。
一通り目に見えるところは落とせたようだ。ふっと息を吐いて今度は自分の体勢を整える。立ち上がって膝に付いた砂を落とした後、彼の前に手を差し出した。
「はい。立てる?」
なんだかいつもと立場が逆だなと思った。そもそも彼が座り込んでいることの方が珍しい。四季は無言のまま差し伸べた手を見つめた。不思議に思って小首を傾げると彼は手を無視して先程と同じく手首を掴んだ。
「ぃっ⁉︎」
「──さっきの質問の答えは?」
美都はぎょっと目を見開く。見上げる瞳が自分を真っ直ぐに捉えて離そうとしない。普段は大人びて見えるのにこういう所は子どもっぽいなと感じる。無自覚なのだろうがいつもと違う態度が余計心臓に悪いのだ。
「……そういう所だと思うよ」
敢えて詳細を伝えないのは単にどう言葉にしていいかわからなかったからだ。
彼の瞳に耐えられなくなり目を逸らす。砂が反射する熱も加わって顔が紅潮してきた。いい加減離してくれないかなと思いチラリと掴まれた手首を見た瞬間、背後から春香の声がする。途端にパッと手が外れた。
「ちょっとー、大丈夫?」
「うん、平気……!」
手が離れたのを見計らって、声を掛けてくれた春香の元へ駆け寄る。抱きつく勢いで表情を悟られないよう、顔を下に向けて。
一方彼女と同じタイミングで歩いてきた和真は四季の方へゆっくり歩き上から彼を見つめた。
「お前、それで怪我したらさすがに怒るからな」
「受け身ぐらい取れる」
「ったく、試合近いんだから勘弁しろよ」
四季は自力で起き上がりながら、窘める和真の言葉に反論した。サッカー部の副主将である和真は選手として四季を評価している。戦力に何かあっては一大事なのだろう。また迷惑を掛けてしまった。危なっかしいから注意しろと言われていたのに。
春香の肩に半分顔を預けていると彼女が耳元で愉しそうに呟いた。
「いい感じじゃない」
「どこが⁉︎ 何が⁉︎ 」
「おぉ、いい反応」
完全に自分が翻弄されている姿を楽しんでいる。悔しいがその通りなので唇を噛み締めるしかできない。
やがて波打ち際ではしゃいでいた秀多とあやのが合流した。待っていてくれたメンバーに頭を下げ、班員揃ったところで目的地へ向かう。なんだかんだと自分の手助けがなくとも秀多はちゃっかりあやのとの距離を縮めているようだ。彼女もそれに気付いているのか流れに身を任せているように見える。自然と交わされる会話が聞いていて心地良い。同時に羨ましくもある。
(──……うん?)
なぜ羨ましいと思うのだろう。自分だって普段は自然と会話できているはずだ。変に意識するから言葉がまごつくだけだ。と言うよりもなぜ今特定の人物のことを思い浮かべたのか。その事実に混乱する。
「なになに?」
「な! なんでもない……!」
すかさず春香から茶化しが入り彼女の言葉に慌てて返す。顔が火照り始める。熱を冷ますように手の甲をあてた。歩きながら横を過ぎる潮風が心地よく感じる。
6月の日差しが、こんなに熱いだなんて思わなかった。
◇
江の島って想像以上に広いんだなと実感したのはようやく江ノ島神社の奥津宮まで到着した時だった。さすがに班員全員が運動部なだけありしっかり江の島岩屋まで見学した後、順路を戻りながらサムエル・コッキング苑で一時休憩ということになった。苑内には様々な花が咲いている。目の前に広がる色とりどりの花を眺めながら、通り過ぎてきた紫陽花を脳内に浮かべる。やはり季節だからか目に留まりやすかったのだ。
ベンチに腰掛けながらあやのがこの後の予定を口にしていく。どうやら今日の目的は大方済んだらしい。残すは仲見世で各々土産を探す、というような流れのようだ。
(お土産……何にしようかな)
結局昨日は弥生たちのお土産まで買えなかった。明日の旅程にある水族館で何かを探しても良いがなるべくなら今日決めておきたい。そんなことを思いながらぼんやりしていた時、視界の端で何か動く物体を捉えた。
「あ、猫!」
「ほんとだー」
黒猫だ。言いながら春香とともに猫のいる元へ駆け寄る。人馴れしているのか逃げようとはしない。しゃがんでそっと猫に触れる。
喉元を撫でてやるとゴロゴロと鳴いた。江の島には猫が多い。行き来する間にも何匹か見かけたなと思い出す。
「可愛いー……」
愛くるしい姿に癒される。時々鳴きながら身体をゴロゴロとさせている。その光景に思わず口元が緩んだ。全身が黒い毛に覆われているからかビー玉のような目が印象的な猫だ。
そうだ、と思い至ってスマートフォンを取り出す。カメラを翳すとレンズ越しにその真ん丸な目がこちらを見上げていた。春香に「後で撮ったの送ってー!」と言われたため半ば夢中になりながら猫の姿を写真に収める。
「……よし」
一通り撮り終えて満足した。スマートフォンを仕舞っていると、側にいた足元がいつの間にか春香のものでないことに気付く。見覚えのある靴だから恐らく四季だろう。春香は昨日言っていた「なるべく二人で行動すること」を実行させようとしているらしい。彼女の気遣いも細かいなと思う。
「この猫、四季みたい」
「俺?」
隣にしゃがみながら四季が猫に触れる。黒猫だからという理由もあるがそもそも彼を動物に例えるなら猫だろう。毛並みといい気まぐれなところといいそっくりだと思う。
「うん。なんか雰囲気が似てる」
「ふーん」
「四季は血統書付いてそうだけど」
猫と四季を交互に見比べる。黒猫はすっかり四季の指に戯れている。先程仕舞ったばかりのスマートフォンを取り出しカメラを向けた。
「撮るのかよ……」
「いいじゃん。記念記念」
撮られることに慣れていないのか彼は少しだけ恥ずかしそうにしながら顔を顰めた。こういうところが猫っぽいんだよなぁとカメラを向けながら思っていると背後から別の猫の鳴き声が聞こえた。いつの間にか茶トラの猫が自分の側まで来ており、身体をすり寄らせた。
「ほら」
「え⁉︎ い、いいよ……!」
「記念なんだろ」
いつの間にか四季が手にスマートフォンを持っており、今度は逆に自分にカメラが向けられる。いざ自分が撮られる側となるとどういう表情をしていいかわからない。なるべくレンズの方を見ないようにしようと思い茶トラの猫と戯れ合う。
「君は凛みたいだねぇ」
彼女もやはり動物に例えるとしたら猫だろう。四季と同じく血統書付きの。そう言えば凛とは旅行が始まってからほとんど会えていない。チャンスとしては明日の団体行動かとも思うが何せ2クラス離れているためなかなか接点が持てない。会えなかった時のために何か彼女の分も買っておいた方がいいかなと考えていると、少し離れたところから「そろそろいくよー」とあやのから声が掛かった。
名残惜しいが立ち上がって彼女たちがいる方へ向かう。
「ねぇ、結局弥生ちゃんたちのお土産どうしよう?」
「仲見世で探すか。何かいい案あるか?」
「うーん……なっちゃんもいるし食べ物の方がいいかなぁ」
隣で歩く四季に櫻家の土産について相談を持ちかける。4歳の子どもにも喜んでもらえるものとなるとやはり甘い食べ物だろうか。見目も可愛ければなお良い。そう考えたときそう言えばと思い出したものがあった。
「なっちゃんには金平糖買っていってあげようかな」
「あぁ、いいな。そしたら大人二人は別でもいいし」
「そうだね。ちょうどわたしも買おうと思ってたし後で寄ってみよう」
「自分用か?」
その質問にはたと目を丸くした。そう言えば自分に土産を買うという概念を持っていなかった。幸い常盤家への土産は昨日買ってある。弥生たちの土産もこのままなら今日中には決まるだろう。確かにせっかく旅行に来たのだから何か自分への土産を考えても良いのかもしれないと思いながら、彼の質問に答える。
「ううん。高階先生に」
「は? なんで?」
「CD借りてるしお礼も兼ねて。紫陽花みたいな金平糖があってね、先生っぽいなーって思って」
紫陽花には様々な色がある。その中でも取り分け紫や水色といった寒色系が静かな高階を彷彿とさせる。旅行に出る前に雨の話をしたせいもあるだろう。旅行中に雨は降っていないが時節的に紫陽花は雨に映える印象がある。今度土産を渡すついでにおすすめしてもらった『雨の歌』の感想も伝えよう。彼のいう通り自分の気に入る曲だったなと思い出して顔が綻ぶ。隣を歩く四季が苦い顔をしているとも知れず。
「自分用の土産はいいのか?」
「四季に言われるまで考えてなかったんだよね。なんにしようかな……」
うーんと唸りながら顎に手を当てる。いざ自分用にと思うと考えが及ばない。そんなに値が張るものでなくて良い。そもそも明日水族館で買っても良いのだ。
最終的には金平糖かなと考えていると横から手が伸びてきた。彼の手が自分の髪に触れる。それに応じるように目線を彼に向けた。
「──かんざし、とか」
瞬間、目を見開いた。しかし直ぐに動揺を気取られないよう彼から視線を逸らす。
「あー……でもわたし、ある程度まで伸びたら切っちゃうんだ。だったらまだヘアゴムの方が良いかも」
手首にも付けられるし、と理由を付け加えて自分の襟足を触る。そう言えばもうそんなに伸びたのかと実感する。と言うことはまたあの日が来るのだ。
「それに和小物だったら昨日の鎌倉で見た方が良かったしね」
自らの思考に浸りそうになるのを振り払うように彼に笑みを向ける。彼の表情は確かに、と納得したようだった。他にも彼が提案してくれている横で、美都は適当な相槌を打つ。
大丈夫だ。まだ期間はある。それに今年はいつもと違うのだから。
美都はそう思いながら、誰にも悟られないよう通り過ぎる紫陽花にぼんやりと目を向けた。
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