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5話(古事記の真実)
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――どうして、弟と愛しあってはいけないのですの。
王女は寝台の上でつぶやいた。
隣で安らかに眠る男は、王女の最愛の恋人であり、王女の弟でもある。
近親相姦は無論、タブーとされていた。
何より、王女には他国へと嫁ぎ国交を強固にすること、弟である王子は他国の姫を正妃に迎え国を統治することが求められていた。
許されざる恋。周囲に露呈してしまうのも時間の問題だ。
けれど、神は2人に味方をした。
突然、王女の歌に、病をいやす力が備わったのである。王女は歌巫女と呼ばれるようになった。
これが国に広まれば、少なくとも王女は他国へ嫁ぐ必要がなくなる。自国の病人やけが人をいやすためだ。他国などへはやれない。
王子は、喜んだ。
――これで姉と結婚ができる…と。
しばらくして、王女の訃報が国民へと伝えられた。
死因は、階段からの転落死。
王女の死に、国中がその死を悼んだ。
それから数年後。
死んだ王女のことなどだれもが忘れてかけたその日。
歌巫女はあらわれた。
なんでも、王が狩りに森にでかけたときに、泉で歌う女を見初めたという。
しかも、その女はただの女ではない。歌で病やけがをいやすことのできる歌巫女だという。
すぐさま、王と歌巫女との結婚が行われ国中は歓喜に包まれた。
王と正妃である歌巫女の間には、王子が一人姫が一人生まれてさらに喜びは倍以上のものとなった。
そして平穏な日々は続いていくはずだった。
ある夜のことである。歌巫女は真夜中に胸騒ぎがして、自室のベッドから静かに下りた。
横で寝ている夫を起こさぬようにそろりと、ドアを開ける。
姫の部屋へと向かう。
姫の部屋のドアには見張りなどおいていない。
いつもは、コンコンとノックをしてあけるドアの前。
歌巫女はしばし立ち止まって考えていた。何か声が聞こえるような気がする。
まさか、まさかこんなことがあるわけがない。考えすぎだ…と。
鍵穴からそろりと室内をのぞく。
本来ならば、姫が寝息をたてて寝ているはずの寝台の上、睦み合う2つの肉体があった。
「やっ…いやああっ…だめっ…もっ…あああっっ」
「嫌なの?こんなに蜜をたらして悦んでるのに?嫌ならやめるよ。」
「いやああっっ…やぁっ…やめちゃやだあっ…」
「本当にわがままだね。僕のかわいい妹。…いってごらん。君のほしいものはなに?」
「お兄様がほしい…」
「ふふっ…よく言えたね。ほしいもの、あげるよ。うけとってごらん。」
肉体と肉体のぶつかる音。
卑猥な水音。
そして、繰り返す過ち。
自分自身が犯した罪を目の前でまざまざと見せつけられた。
歌巫女は、あまりの衝撃に、湖に身を投げた。
王は、最愛の王妃の突然の死に取り乱した。
けれど、残された書きおきからすべてをさとった。
子供たちのことも、それから自分たちの過ちも。
王妃の死は隠しきれない。
そのため、嘘の噂を流した。
王はほかの女を見初め、子をなし、側妃をして迎えたと。
それにより、王妃の死の原因は追求されることはなかった。側妃の出現の衝撃のあまりに命をたったのだとだれもが納得した。
そして、王は、それからすぐに息子である王子に王位を譲った。
その前に、王女を隣国へと嫁においやった。
『嫁にだした』のではない、『おいやった』のだ。
国内の貴族と結婚させたのでは、息子との縁はきれない。そのため隣国へとおいやった。その手段は結婚。
王女の結婚をしかと見届けてから、王子に位を譲ったのだ。
けれど、王は知らなかった。なぜならば、王女を嫁においやった直後に毒を盛られて他界してしまったから。
―――王女は嫁ぎ先ですぐになくなったということを。
なくなったということにされたことを。
その直後、王子は妃を迎えることになる。妃の出自は不明とされていたが、気品あふれるしぐさと人を遣うことに慣れている態度から相応の生まれだと予想された。
2人の間には子は生まれなかった。後継ぎは親戚の子の中で優秀なものをとった。
こうして罪は隠された。
それから幾星霜。歴史はまた繰り返す。
王女は寝台の上でつぶやいた。
隣で安らかに眠る男は、王女の最愛の恋人であり、王女の弟でもある。
近親相姦は無論、タブーとされていた。
何より、王女には他国へと嫁ぎ国交を強固にすること、弟である王子は他国の姫を正妃に迎え国を統治することが求められていた。
許されざる恋。周囲に露呈してしまうのも時間の問題だ。
けれど、神は2人に味方をした。
突然、王女の歌に、病をいやす力が備わったのである。王女は歌巫女と呼ばれるようになった。
これが国に広まれば、少なくとも王女は他国へ嫁ぐ必要がなくなる。自国の病人やけが人をいやすためだ。他国などへはやれない。
王子は、喜んだ。
――これで姉と結婚ができる…と。
しばらくして、王女の訃報が国民へと伝えられた。
死因は、階段からの転落死。
王女の死に、国中がその死を悼んだ。
それから数年後。
死んだ王女のことなどだれもが忘れてかけたその日。
歌巫女はあらわれた。
なんでも、王が狩りに森にでかけたときに、泉で歌う女を見初めたという。
しかも、その女はただの女ではない。歌で病やけがをいやすことのできる歌巫女だという。
すぐさま、王と歌巫女との結婚が行われ国中は歓喜に包まれた。
王と正妃である歌巫女の間には、王子が一人姫が一人生まれてさらに喜びは倍以上のものとなった。
そして平穏な日々は続いていくはずだった。
ある夜のことである。歌巫女は真夜中に胸騒ぎがして、自室のベッドから静かに下りた。
横で寝ている夫を起こさぬようにそろりと、ドアを開ける。
姫の部屋へと向かう。
姫の部屋のドアには見張りなどおいていない。
いつもは、コンコンとノックをしてあけるドアの前。
歌巫女はしばし立ち止まって考えていた。何か声が聞こえるような気がする。
まさか、まさかこんなことがあるわけがない。考えすぎだ…と。
鍵穴からそろりと室内をのぞく。
本来ならば、姫が寝息をたてて寝ているはずの寝台の上、睦み合う2つの肉体があった。
「やっ…いやああっ…だめっ…もっ…あああっっ」
「嫌なの?こんなに蜜をたらして悦んでるのに?嫌ならやめるよ。」
「いやああっっ…やぁっ…やめちゃやだあっ…」
「本当にわがままだね。僕のかわいい妹。…いってごらん。君のほしいものはなに?」
「お兄様がほしい…」
「ふふっ…よく言えたね。ほしいもの、あげるよ。うけとってごらん。」
肉体と肉体のぶつかる音。
卑猥な水音。
そして、繰り返す過ち。
自分自身が犯した罪を目の前でまざまざと見せつけられた。
歌巫女は、あまりの衝撃に、湖に身を投げた。
王は、最愛の王妃の突然の死に取り乱した。
けれど、残された書きおきからすべてをさとった。
子供たちのことも、それから自分たちの過ちも。
王妃の死は隠しきれない。
そのため、嘘の噂を流した。
王はほかの女を見初め、子をなし、側妃をして迎えたと。
それにより、王妃の死の原因は追求されることはなかった。側妃の出現の衝撃のあまりに命をたったのだとだれもが納得した。
そして、王は、それからすぐに息子である王子に王位を譲った。
その前に、王女を隣国へと嫁においやった。
『嫁にだした』のではない、『おいやった』のだ。
国内の貴族と結婚させたのでは、息子との縁はきれない。そのため隣国へとおいやった。その手段は結婚。
王女の結婚をしかと見届けてから、王子に位を譲ったのだ。
けれど、王は知らなかった。なぜならば、王女を嫁においやった直後に毒を盛られて他界してしまったから。
―――王女は嫁ぎ先ですぐになくなったということを。
なくなったということにされたことを。
その直後、王子は妃を迎えることになる。妃の出自は不明とされていたが、気品あふれるしぐさと人を遣うことに慣れている態度から相応の生まれだと予想された。
2人の間には子は生まれなかった。後継ぎは親戚の子の中で優秀なものをとった。
こうして罪は隠された。
それから幾星霜。歴史はまた繰り返す。
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