囚われた歌巫女

3話（母親視点）

あの子を止めることはできなかった。

あの子がレイカ思いなのは知っていた。
あの子の病をレイカが癒してくれたから、というよりも、初めてみたときから魅入られていたかのようだった。
なぜかはわからない。
ただ、なぜかそんな気がした。レオはレイカに、実の妹に魅入られていると。

レイカが歌巫女でなかったら、普通に育てるつもりだった。
学校にも行かせて、そのうちどこかの家に嫁ぐだろう。
けれど、レイカは普通の子ではなかった。

だから、泣く泣く家で閉じ込めるようにして育てることにした。
私の「歌うな」という理不尽な命令にもレイカは黙って従ってくれた。
私が怒るというよりも泣くのが悲しかったのだろう。ほんとうにレイカは親思いのいい子だ。
しかし、あの子はそれを逆手にとった。

あの子は、自分にレイカを依存させた。
あの子が家にいるときはほとんどずっと一緒だった。
レイカはあの子の部屋に入り浸り、たまに、あの子の部屋で寝ていることすらあった。
あの子は私が気付かないと思っているようだが気付いていた。
けれど、とがめるつもりはなかった。
――妹思いのいい兄だと思ったから。

麗しい兄妹愛などではないと気付いたのは、レイカに、あの子の部屋に遊びにいくなといったとき。
あの子は反発した。
反抗期になってもそれらしいところを見せたことのなかったあの子の反抗。
胸にじわりと嫌な予感がはしったが無視をした。
あの子は、都に進学すると決まっていたからだ。

けれど、あの子は……
レイカを王宮に連れ去ってしまった。

親である私ですらも、ほかの人々同様に、午後3時の癒しの時間にしかあの子を目にすることはできない。
面会など許されなかったからだ。

どうしてこうなってしまったのだろう。
いくら考えてもわからない。

ただ、あの子の手のひらで踊らされていたのだとわかる。
レイカとあの子が幸せならばいいのだが。