見合いの後に

だいたい石田

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見合いの後に

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「今日、する。」
カラカラに乾いた喉から聞こえる声は自分のもののはずなのに、どこか遠く聞こえた。
何を、という目的語はいっていない。けれど、賢い執事にはそれだけでよかった。
「かしこまりました。」
健斗はうなずいた。

その夜のこと。
カイの部屋のドアはノックされた。
「お伺いいたしました。」
健斗は律儀にスーツ姿で現れた。今日もまた汚れるかもしれない。何度も汚したことはあるというのに、健斗はいつもスーツで訪れる。
「入れ。」
ドアに近づくことなく命ずるとドアがゆっくり開かれた。
「いつも通りでよろしいですか?」
「ああ。」
それが合図だった。

ベッドに腰掛けている海の前に健斗がうやうやしくひざまずくと、慣れた手つきで寝まきのズボンと下着を脱がせた。
刺激を待ちわびて硬くなりそそり立つ雄を、健斗の細く長いゆびがゆっくりとからめとった。
「あっ、あああっ……」
「どれくらい我慢していたんですか?坊ちゃま。」
この時だけは、なぜか昔の呼び名に戻る。
とがめればいつものように”海様”と呼ぶはずだけれど、変えさせる気は起こらなかった。
「そんなにっ、我慢してなっ……」
「指でなぞっているだけなのに、興奮していらっしゃいますよ。」
指で雄をすっとなであげると、快楽に震える健斗に口づけ、そのままベッドに押し倒した。

薄く開いた唇の隙間から舌が入り込んでくる。あっという間に海の舌は健斗のそれにからめとられ、くちゅくちゅと唾液がまざりあう。
「んっ……ふぅんっ……」
いつもよりもキスが激しい気がして健斗の身体をどかそうと押すもびくともしない。
それどころか、海の抵抗が気に食わないとでもいうように、キスはさらに深められた。いつの間にか頭の後ろに手がまわり離さないとでもいうように捕らえられた。
「んっ……んんっ……」
健斗とのキスはこれが初めてではない。何度か、寝台の上で睦みあったことはある。ただ、こんなに余裕のない交わりは初めてだった。

「私を召さない日はどうしていたんです?ご自分でなぐさめていたんですか?……それとも?」
質問をしているようにみせながら、答えることは許さないとでもいうように、再び口を塞がれる。
健斗のつけている香水がふわりと香った。普段は香水が分かるほどに近くには寄らない。一ミリの隙間も許さないほどの距離にぞくぞくとした感覚が背筋をかけぬけた。

「んっ! んんーっ、はあっ、んっ」
口腔内を縦横無尽に健斗の舌が嬲っていく。
「坊ちゃま。ああ、坊ちゃま。」
海を押し倒したまま、何かに取り憑かれたかのように唇を貪り続ける健斗。
「……僕は、結婚などしない。」

海が見合いをした後の健斗はいつもこうなる。
内心は海を取られる不安で恐れ慄いているというのに、表情にはおくびにも出さないし、仕事も普段通り完璧にこなす。
ただ、キスが、いや、そのあとの情交がやけにねちっこく濃厚なものになってしまう。
今回の見合いはやけに相手が乗り気だったせいか、余計に焦っているようだった。

「何をおっしゃいます。最上もがみ家の跡取りはどうなるのです。」
「親せき筋の子で優秀な者に継がせればいいだろう。」
「っ、それでは、坊ちゃまの子にはお目にかかれないではないですか。」
「僕の隣にお前以外の者がいることに、耐えきれるのか。」
健斗は答えず、海の耳朶に口づけを落とした。
服の裾をまくりあげ、胸の突起に指を這わせた。
「あっ、けんっ、そこっ」
「女性のように乳首で感じる坊ちゃまが、女性と結婚などできるはずがありませんね。」
健斗は普段の調子を取り戻した。
恍惚とした表情で、海の胸の尖りをなめすする健斗を、引きはがそうとするが、できるわけもなかった。
「やめっ、そこっ、ふぁぁつっ、んっ、あっんっ」
健斗にねぶられて、すっかり勃ちあがった乳首を嬉しそうに眺めながら、健斗は、もう一度、海に口づけた。
乳首をなぶられて、興奮しきった海は、口腔内に侵入してくる健斗の舌に自らのそれを積極的にからめあわせた。
くちゅ、くちゅと、水音があたりを支配する。
身体をわずかな隙間もなく重ね合い、お互いのものだと主張するかのように、舌を、唾液をすする。
じわじわと熱が高まっていくのを感じながら、いつまでもこうして1つになっていたいと海は願った。

「坊ちゃま、私としたことが。こちらをおろそかにしていましたね。」
長く続いた口づけは唐突に終わった。
2人の間を、銀の橋がかかりそれはすぐさまぷつりと途絶えた。
健斗は海のペニスに手を這わせ、ゆっくりと顔を近づけた。 
「お待たせしていてすみません。」
赤い舌を、固くそそり立つ雄へと這わせた。
「ひゃっ、あっっ、」
「気持ちいいですか?坊ちゃま。」
「きもちいっ、気持ちいいから、はやくっ……」
「ならば、坊ちゃま、ご命令ください。どうされたいのですか?」
「あっ、ふぁっっ、早く、早く、イかせて。」
健斗は耳元でくすくすと笑うと、人差し指で、鈴口に円を描き、先走りの滴を塗り広げた。
あと少しの刺激で達することができるのに、それをなかなかしてはもらえない。
もどかしさの頂点に達した海は、我慢できずに、自らの手で、ペニスを触ろうとした。が、それを健斗は許してはくれなかった。

「な、なんでっ……」
「焦らされるのがお好きでしょう?」
健斗は海の首筋にそっと舌を這わせた。
「私と一緒にイきましょうか。」
耳元でささやかれた言葉に、下半身にずくりと血液が集中した。
「は、はやくっ、おねがいっ、我慢、できなっ……」
「焦ってしまうと、うまくできないかもしれません。……何事にも準備は必要だとお教えしたはずですよ。」
「あんっ、早くっ、お願い、俺っ……イきたっ……」
行き場のない快楽が身体中を駆け巡っている。
快楽と苦痛は紙一重だというけれど、快楽の一歩手前で押しとどめられているこの状況は苦しさしか生み出さない。
海の涙目の懇願に、健斗は、妖艶にうなずいた。
「わかりました。しようのない坊ちゃんですね。」

海の尻の狭間に、たらたらと粘土のある液体がこぼされた。
肉壁を健斗の指でかき回されて、海はこらえきれなくなった。
「あっ、ああっ、もっ、我慢できなっ……いくっ、ああああああああああっ」
びくびくと白い液体を吐きだした後、はあはあと荒い息で、健斗の腕の中で息をついた。

「ちょっとの我慢もできないとは。……育てるのに失敗したようですね。」
海の前髪をかきわけて、額に軽くキスをすると、健斗は、自身のネクタイに手をかけた。ほどいたネクタイを手に、海に向けて意味ありげに微笑んでみせた。
「けん、と……?」
「私がいいというまで、おしおきです。」
ネクタイで、根元をかるく縛った。
「私がとるまで取ってはいけません。いいですね?」
「やだっ、こんなんじゃ……」
「一緒にイくという約束を守ってくださらなかった罰です。」

再び、尻へと手を伸ばした。
「ああっ……けんとっ、けん……ひゃぁっ……あぁっ、ぁっやっ、そこ、だめっ」
何度も身体を重ねたことがあるので、弱いところは熟知されている。
それなのに、健斗は、イイところをかすめるだけで決定的な刺激はくれない。
中途半端な刺激だというのに、ネクタイに縛られた雄はすっかり勃ちあがり、先走りの蜜をたらたらとこぼした。

「ふふ、お元気ですね。」
人差し指と中指、2本の指で、ペニスを柔らかくさすりあげた。
「ああっ……けんと、イかせてっ」
「仕方のないお坊ちゃまだ。」
健斗は、ズボンの前をくつろげると、赤黒い肉棒を外に出した。
海の痴態で興奮しきったそれは硬くなり、ナカへ挿入されることを心待ちにしていた。

「いいですね?では挿れますよ。」
海の返事も聞かずに、とろとろに解された菊門へ、切っ先をあてた。

「ひゃっ、ああっ、っ、ああっ、もっ、イかせてっ、けん、とぉ、イかせてえええ。」
まだすべてがナカに入っていないというのに、刺激だけで我慢できなくなったのか、海が叫んだ。
「あと少し、我慢してくださいね。」
言うが早いが、健斗はぐっと腰をすすめてナカへ猛々しいモノを推し進めた。
ようやく全部はいりきったとき、健斗はようやく、ネクタイへと手をのばした。
しゅるり、とそれをほどくが早いが、我慢できないというように、激しく律動を始めた。

「あっ、あああっ、けん、ああっはあっ、だめ、やっ、ああっ、もっと、もっとお、」
ナカを激しく突かれて、楽園がすぐそこまできているのを感じた海は、健斗の背中に手を伸ばした。

「あっ、けん、とぉ、あああああああああっ」
「あっ、坊ちゃまっ」
2人ほぼ同時に達した。海は、身体の奥に飛沫を感じながらも意識を手放した。




翌朝。
ぎしぎしと痛む身体をなんとかベッドの上に起き上がらせると、昨日の余韻などまったく感じさせないほどいつも通りの健斗がうやうやしく水の入ったコップを差し出した。
「おはようございます。海様。今日の予定は午後からとなっております。」
「っ、おはよう。」
コップをひったくるようにして受け取ると、ごくごくと飲みほした。
自分で感じていたよりもはるかに喉が渇いていたことを、水を飲んではじめて知った。
いまさらながら、自分の身体のことを自分自身よりも把握している健斗に腹がたった。
「僕はまだ寝るからな。お前は部屋からでていろ。」
「いえ、そういうわけにはまいりません。……いまのお身体のままですと、トイレに立つのも苦しいでしょう。私がおそばに控えておりますのでなんなりとお申し付けください。」
海は手にした空のコップを投げつけたくなる衝動を必死でこらえた。
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