子連れ冒険者の受難クエスト

田中 乃那加

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探索1

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 鬱蒼としていたはずの森が――
 文字通り。吹っ飛んで倒壊している木々と、えぐれた地面。どれだけ巨大な魔獣どもが暴れ回ったのだろう。
 文字通りの状況に、彼らは呆然とたたずんだ。

「こ、これは」
「ひどいと聞いていましたが、これほどとは……」

 シモン達によると、この惨状は国の調査団によるものらしい。

「調査と討伐、って言っていたけどよ。それも、かなりキナ臭いんだよなァ」

 やぶにらみで、周囲を見渡していたトマスがつぶやく。
 というのは、あまりにも不自然な点が多すぎるからだ。

「これだけの事になってるのに、あちら調査団の方には死人おろか怪我人すらいないといわれてますわ」
「それどころか、町の連中が数人消えてるっていうんだからさ」
「ええ」

 イゼベルも、胸のロザリオを象ったペンダントを胸に抱いてうなずく。

「魔界からの襲撃の噂は、あながち夢物語じゃないってことですね」
「魔界……」

 魔界、とは読んで字のごとく。魔物達が多く生息する土地の総称そうしょうである。
 いにしえの昔、この地上の多くは魔物たちが暮らしていた。
 彼らには人間以上の力も寿命も、そして魔力があったからだ。
 人間は限られた土地で、細々と暮らす少数種族。それが世界の均衡きんこうであったのは、数百年前の話。
 
「ルイトさんもご存知でしょうが。私たち人間はその昔、魔王や多くの魔物たちとの戦いでこの地を得ました」
 
 それは聖戦の歴史として、語り継がれている。
 弱かった人間は、あるとき小さな魔力を手に入れた。しかしそれだけでなく豊かな知恵と努力によって、創造の文明をも発達させた。
 例えば武器。
 鉄を打って鋭く斬れる刃をつくり、それに魔力を込める。この技術は、人間が編み出したものである。
 腕力も強大な魔力も。長い寿命さえ持たない存在だからこそ、このような成長を遂げたといっても過言ではない。
 
「ああ。知っているさ」

 ルイトは深くうなずいた。

「魔王と人間との戦いだな」

 魔界の者たちは、このちっぽけな種族に脅威を感じた。
 度重なる急襲。人々の心は、怒りと反骨と正義感に染まる。
 そして一人の青年がたちあがった。
 のちに伝説となった男だ。

「そうです。魔王を打ち破り、種族を救った英雄。そして――」
「あれはさすがに、おとぎ話だろ」

 うっとりとしたイゼベルの言葉を、ルイトがさえぎる。

「勇者が、魔王の子を産むなんて」

 しかし、たしかにそう伝えられているのだ。
 魔族達を打ち倒した勇者は、その優しさで魔王の命を助けた。復讐と報復の連鎖を断ち切るためである。
 魔王と勇者は良き友として、この戦いを終結させた。
 そして物語は、トンデモナイ方向へ。
 
「でもロマンチックですわぁ。敵同士だった二人が、友となり。そしていつしか恋に落ちて……」
「だから絶対ないだろ」

 勇者は男だ。
 もしかしたら魔王が女だったのかもしれないが。言い伝えによると、たいそういかつい大男だったという。
 だとすれば、どうやって子を孕むのだろう。
 そう呆れ顔で言えば。

「それはもう……愛ですわ!」

 なんて目をハートマークにしている始末。

(やれやれ、夢見がちなお嬢さんだ)

 悪いがそんなの、憧れでもなんでもない。
 相手が女であれば別だが。男で、この前まで血みどろになって戦っていた相手にになるものか。
 熱い友情くらいなら芽生えてもいいが、それまでだ。
 そのあたり、どこまでいっても彼は異性愛者なのだろう。

「とにかく。どういう訳か、ふたたび歴史が繰り返されるんじゃないかって噂だな」

 トマスが、落ちていた木の枝を一本眺めながら言葉をはさむ。

「たしかにここの所、魔獣達の動きがおかしいとは言われていたな」

 本来なら大人しく、人を襲わない性質の魔獣が暴れだして近くの村を襲ったり。旅人達を食い殺したり。
 よって、討伐によるクエストが溢れていた。
 それにともなった、単なる噂話だと聞き流していたが。それもあながちいい加減な話でもないようで。

「もしかしたら、裏で大きな存在が動いているのかもしれませんよ」

 真面目な顔で話すシモンだが、相変わらずその手はしっかりとルイトの手をにぎっている。
 いつまでこうしているつもりだろう、町の中ではかなり目立ってしまった。いい加減やめてくれと言いたいが、あのションボリとした顔は見たくない。
 
「とりあえず、手がかりを探してみましょう!」
「あ、あぁ……だが、これは……」

 邪魔じゃないか? と言って手を離したい。
 しかしそう言葉をつぐ前に。

「おい。この木の枝見てみろ」
「え?」

 トマスが差し出してきたのは、さきほどから彼がずっと眺めていた一本の木の枝。
 一見すれば何の変哲もないものだが。

「切り口だ。ここ、あまりにも綺麗すぎる」
「たしかに……」

 スッパリ切り落とされたそこは、たしかに妙に滑らかだった。しかしそれだけでなく。

「これはまさか、魔法の痕跡こんせきか?」
「お、よくわかったな」

 ルイトの指摘に、トマスがうなずく。
 わずかだが、ぼんやり青白く光っているのはその切り口。この光が見えるのは、ある程度魔力を持つ者。つまり、魔法使いである彼である。

「もしやアンタも魔法を使うのか。さすが凄腕の冒険者さまだなぁ。剣も魔法もいけるなんて」
「もうっ、トマス!」

 彼がグッとこちらに顔を寄せて、肩に腕を回した時だった。
 眉間に深いシワをきざんだシモンが、二人に割って入る。

「顔っ、近すぎだよ! ルイトさんに近づいていいのは、ボクだけだからっ!!」
「ハァ? なんでだよ。てか、シモンはいつまで手ぇつないでんだ。気色悪ぃな」
「気色悪くないっ! ルイトさんが転んでケガでもしたらどうすんのさ」
「そんなわけないだろ……」

 ガキか、とすっかり呆れ顔のトマス。対して、ふくれっ面の少年はなおさら強くにぎった手の力を強めた。

「トマスにはあげないからねっ!」
「い、いらねぇよ。つーか、お前のモノなのかよ」
「うん!」
「イザベラ、なんとかしてくれ。コイツ」

 そう話をふられた彼女は『あらあら~』と、眉を下げて苦笑いするだけ。しかし困ってるのはルイトも同じだ。

「とにかく、探索を始めましょう。二手に別れた方がいいかもしれませんわね」
「うん、イザベラの言う通りだ。じゃあ僕は、彼女と……」
「ルイトさぁぁんっ!」
「ぐえっ!?」

 さりげなく手を振りほどこうとしたら、今度は強く抱きすくめられた。
 それが案外、馬鹿力なもので。

「君は僕を潰すつもりか!?」
「ああっ、すいません。つい……」

 つい、でケガさせられてはたまらない。慌てて逃げ出し、ついでにイザベラの後ろに隠れる。

「おいおい。ガキみたいなじゃれ合いしてんじゃねぇよ。仕方ねぇなぁ。イザベラ、シモンを頼む」
「ふふっ、了解」
「そんなぁぁぁっ、ルイトさぁぁぁん!!!!」

 泣きっ面のシモンを放って、トマスが今度はルイトを連れていくらしい。
 なんだこの状況は、とため息しか出ないが仕方ない。
 
「うるせぇなぁ。ほら、行こうぜ」
「あ、ああ」

 さすがに情緒不安定すぎないか、とか。こいつらの関係がイマイチわからないとか。
 色々とツッコミ所が多いが、仕方ない。
 まるで、飼い主に引き離されて鳴き声をあげる忠犬のようなシモンを残して歩き出す。

「あの……いつもこうなのか?」
「いや。でも、アイツはアンタのファンで初恋だからな」
「えっ!?」

 ファンなのはわかる。しょっぱなからのピンチを助けたヒーローとも言うべきか。
 しかし、初恋とは。
 思い切り嫌そうな顔をするルイトに、トマスは大笑いする。

「あはははっ。ま、不器用なやつだからさ。嫌わないでやってくれよ」
「嫌ってるワケじゃないが……」

 今度はこっちが助けられた。しかも、自分がしたこととは比にならないレベルでの恩人だ。
 だとしても、ここまで好意全開にされると戸惑うというか。

()

「あれ?」

 なにかふとした引っかかりを感じた。
 大きな事を忘れているような。忘れちゃいけないことが、記憶の奥に閉じ込められているような。
 
「おい、どうした」
「……ん。いや」

 軽く肩を叩かれて、我に返ったルイトは首を横に振る。
 
「シモンのことなら気にすんなよ。アイツには失恋くらいさせとけ」

 そういって豪快に笑う少年を横目に。

(ま、いいか)

 と苦笑いした。
 今は何より、大切なことがある。
 娘をはやくこの手に取り戻さなければならない。
 ――その瞬間である。鋭いいななきを聞いたのは。

 
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