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29.異世界を股にかけて暴れてきます

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 小鳥たちのさえずりで目が覚めた。
 慣れたベッド……とは少し違う景色。

「ん……あ?」

 ここは、どこだ。僕の部屋じゃない。なんか違う。
 身体を起こす前、わずかに身動げば清潔なシーツにしわが寄る。その寄り方も、なんだか少し違う……なんだろ、隣に、なんか、いる?

「あ゙」

 デカい肩。しかも肌の色のそれは、服を着てない男のモノ。つまり裸の男が隣に寝ていて、いわゆる朝チュンしちまってる状況。

 ……あー。以前もこんな事あったな。
 確か両端に居てさ、男3人仲良くベッドイン。めちゃくちゃ気色悪かったなぁ。
 でも、これはまた違うヤツ。だって僕はこの経緯やら結果やら、しっかり身に覚えがあるから。

「エト……」

 あぁ、僕は、コイツに抱かれたんだ。抱かれた……セックスした……エッチ……僕の××××にアイツの×××を……!

「やっちまったぁぁぁ……」

 頭を抱えて呻いた。
 当たり前だろう。前世から女好きな僕が、処女を許しちまったんだから。昨晩の記憶が、もう今朝の僕を苛めにかかってる。
 ……あ、あんな声で、恥ずかしい事を散々を喚いて! 女みたいな事をっ! 羞恥で死ねるなら、200回くらい死んでる! つーか、殺してくれぇぇぇっ!

「ん」

 黒歴史に声なく悶えていると、薄ら目を開けたエトが。 
 今朝も、砂を吐きそうな程の甘ったるい顔しやがって。しかも寝起きの掠れ声が、妙に色っぽくてムカつく。
 てかコイツ、こんなにイイ男だったか!?

「おはよ、ルベル」
「お、おは、よ……ぉ」

 思わず顔を背けると、裸の腕が伸びてきた。

「身体、大丈夫?」

 ぽんぽん、と頭を優しく撫でられる。初めての女を気遣う、男のそれ。
 
「だからっ! 女扱いを……」
「?」
「いや……なんでも、ない」
 
『女扱いするな』って怒鳴り付けてやろうと思った。でもやめた。
 信じられない事に、全然嫌じゃなかったから。コイツになら、こんなのもアリかもなって。
 でもその代わり。その無駄にイケメン面、頬を思い切り抓りあげてやった。

「いででででッ!? な、なにすんだよ!」
「別に。夢じゃないかなって、思って」
「こういう時、自分を抓るんじゃねーの!?」
「だって痛いし」
「俺だって痛いわッ! ……まぁでも、痛くて良かった、かも」
「ハァ?」

 ……な、なんだコイツ。ついにMに目覚めちまったのか。気持ち悪ぃ。
 素直にそう口にすると『違ぇ!』と喚いた後、彼はちょっと笑った。

「だって夢じゃなかった」
「へ?」
「愛する人との一夜は、さ。俺、こんなに幸せな朝を迎えたのは、生まれて初めてだぜ」

 エメラルドグリーンの瞳を煌めかせて、形の良い唇は微笑む。
 ムカつくくらい、綺麗な顔だ。それが、僕の為だけに表情を変える……泣いたり笑ったり、怒ったり。
 不思議な優越感と幸福感が、胸を満たすのが分かった。

 ……なんだこれ。まさかまだ、あの変なクスリが効いてるとかじゃないだろうな!? 

 おかしいだろ。処女奪われて。散々恥ずかしくて痛くて、おかしくなるくらい気持ち良い事されて。
 それでこんな想い、抱くなんて。
 今もほら、従順な犬みたいに見つめてくる男に胸がドキドキとうるさい。
 
「そりゃあ……僕も、かも」

 ここまで、心掻き乱された事も無いし。そう呟いた瞬間。

「ルベルぅぅぅぅッ」
「わっ、だから飛びつくなってば!」

 ……ほんとにこの駄犬め。
 身体に乗り上げた大きな身体。裸のそれは、やっぱり逞しい。男としては、本当に羨ましいな。
 何食ったらこんな身体になるんだろう。遺伝か? やっぱりDNAか?

「あーもうッ、なんでそんな煽るんだよ!」
「あ、あ、煽ってる!?」
「可愛すぎるッ!」
「め、目曇ってんじゃないの……」
「この小悪魔っ!」
「魔王の息子が言うなって……」
「好き好き好き好きーッ! 愛してる! 俺もう死んでもいいくらい、幸せ」
「あ゙?」

 僕は思い切り眉間に皺を刻んで、睨み付けた。

「『死んでもいい』だって? 。……そういう事、言うな。昨晩、言ったハズだよな」

『君は僕から逃げられない』って。
 終身刑の判決を言い渡す、そんな口ぶりで囁いてやる。
 
「……」

 すると。みるみるうちに、エメラルドグリーンの瞳に涙の膜が張る。そして。

「っ、ゔぅぅぅ」

 ―――ぽたり、と温かい雫が僕の胸元を濡らす。コイツ、また泣きやがった。
 泣き虫エト。可愛い、僕の彼氏。
 なんだかすごく愛しくなって、頬に触れた。

「バカ、泣くなよ」
 
 ずっと傍に居てやるから。 
 死ぬまで……って、確か不老不死なんだっけ。じゃあ本当にずっとだな。 

「俺、嬉しい。出会った時から、好き、だったから」
「おいおい、君は好きな奴の胸揉んだんだぜ?」
「……あー、うん。だって、すげぇ可愛い子だっし。なんかその、初めて見て、舞い上がっちまった」

 ほんとバカだな。バカでアホ。でも、そこが好きかもしれない。
 うん、好きだ。悔しいしムカつくけど。僕が、男を好きになっちまうなんて。有り得ないのに、悪くない。
 あー……バカなのは僕もだな。

「あの、ルベル」
「ん?」

 眉を下げて、何やらオネダリ顔だ。
 なんだよ聞いてやる、って応えてやった。だってこれ、まるで大型犬の飼い主みたいな気分になるから。可愛い駄犬の言うことは、叶えてやりたいだろ。

「……もう一回、ヤろ」
「は?」

 聞き間違いかな? そう思って耳をすませた。
 すると、声だけ恥じらって可愛い彼氏のそれ。でも内容が可愛くなかった。

「もっと抱きたい」
「待て待て待て、ちょーっと待て。今、なんつった!?」

 このアホ。昨晩散々、人を抱き潰しておいて『もっと』? 『まだ』? 
 嫌な予感がして、やんわり押し返してみる。
 ……ビクともしない。むしろ、身体を押し付けられている気がした。

「いやいやいやいやいや、無理。絶対無理!」
「出来る。元気があれば、なんでも出来る」

 猪木か、君はッ! 僕にはその『元気』がないっつーのっ!!
 レスラーみたいな身体で、迫ってくる男は僕の耳朶にキスを落とす。

「っんぁ……」
「エロい声」
「うるさいっ、耳弱いんだよ!」
「知ってる。昨晩知ったもん」
「き、君なぁッ!」

 コイツこそ、やたらエロい声と顔している。
 しかも。

「あ、あ、当たって、る……っ」

 硬くて熱いアレ。
 昨晩、嫌ってほど味わわされた凶器っていうか、ビッグサーベル。畑のお化けきゅうりっていうか。
 大袈裟でなく、ガチガチと歯が鳴った。

「当ててんの……ね、良いだろ?」

 熱いのはその吐息もだ。
 そして、目元を赤く染めてお強請りされたら。

「や……や、や、優しく、しろ、よ」

 震える声で、やっと命じる。すると。

「うん!」

 元気な返事と共に、首筋にがぶりと噛みつかれ、僕は大きな悲鳴を上げた―――。



■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫

「ルベル、大丈夫?」
「……」

 返事しないんじゃない。出来ないんだ。

「おーい」
「ゔ……ぁ゙」
「ご、ごめん」
「ゔ、る゙ざ、い゙ぃ」

 声は掠れるわ、身体は痛い。それなのに、隣で寝っ転がるコイツはツヤツヤしてがる。
 ……不公平で理不尽で、不条理だ!

「優しくしろ、って、言った、のにぃぃ」
「したじゃねぇか」
「あれの、どこがッ!?」

 やたらめったら、噛んだり吸ったり舐めたり。イイトコロばっかり狙って、突きまくってくるし。
 連続でイかされて、こっちは失神しまくったんだからな!!

「何回も、許してって言ったのに……」
「あれは却って、ムラッと来た」
「この絶倫性欲オバケめ」

 昨日まで童貞だったクセに。コレと、これから付き合って行かなきゃいけないのか……今度は『絶倫の夫にヤリ殺される』なんて死因は嫌だぞ!?

「ほんとゴメンってば」
「くそぉぉ……後で、パシリに使ってやるからな!」
「うん。いつでもパシられてやるよ」
「ったく。頼むぜ、ダーリン」
「……ゔっ。なんでこう、ルベルは俺を試すわけ!?」
「試すって……君が、堪え性無いんだろ」

 すると、これから慣れていくよ。と素直に返されて、柄にも無く照れた。
 
「そう言えば。あの赤毛の変態……アルゲオはどうしたんだ。君たちのことだ軽々と倒しちまったのか?」

 それぞれでなんとも、目覚めの悪い話とも言えなくはない。
 すると、彼は軽く宙を睨み付けた後で。

「あぁ、あの後な。あのクソ野郎は逃げ出しやがった。逃げ足が早い奴でよぉ……てかアイツ、またルベルを狙ってくるかもしれねぇから気を付けろよ。当分、城の外に出るな。本当言うと、部屋から出て欲しくもないけど……」
「ハハッ、監禁する気かよ」
「それも辞さない構えだな」
「や、やめてくれ」

 あの魔王の息子が言うと、冗談に見えないぞ。そう言えば、あの変態夫婦はまた部屋に篭って……って今の僕達も同じか。

 なんだか若干、微妙な感じになってきた。だから、さりげなく話題を変えた。

「き、君のお兄さんは、どうなったんだ? ええっと、マデウスさん」

 ずっと意識を飛ばしていた僕は、重ねて言うが顛末を知らない。
 人質に取られていた彼と僕の兄、そして父さんがどうなったのか。今更ながら気になってきたのだ。

「大丈夫だ。今はちゃんとここで手当受けてる。後で会いに行こうぜ」
「う、うーん」

 なんだか正直気まずいというか、色々複雑だな。
 だって、僕は父さんと母さんの実子じゃなかった。さらに言うなら、人間ですらなかったんだもんな。
 なんで隠してたんだ。なんて怒る程、思春期のガキじゃないけどさ。それでも気まずいだろ、お互い。

 それにオリエス兄さんに至っては、マデウスとその……恋人同士らしい。なにこれ、カントール家の男は2人ともゲイって事でいいのか。
 そんな訳で、全方向で会いたいような会いたくないような。

「……俺も、お義父さんと義兄さんに挨拶しねぇと」
「へ?」

 エトの言葉に、思考から顔をもたげる。
 クソ真面目で緊張しきった、チワワのような彼がいた。

「『お義父さん、息子さんをください』って言えばいいのか?『君にお義父さんって言われる筋合いはない!』って殴られるんだろうか……いや、俺は殴られても良いけど。殴ったお義父さん、怪我しねぇかな?」
「君なぁ……」
 
 なんて顔してんだ。やっぱりすごく、可愛い男かもしれない。コイツは。

「じゃ、僕は君のご両親に挨拶しないとな」

 そういって至近距離にある顔の、額に軽くキスを落とす。
 すると茹でダコみたいに真っ赤になって、口を尖らせた彼が叫んだ。
 
「っちょ、不意打ちズルい!」
「何を今更」

 思わず吹き出してしまう。ここまでして、まだ初心な事を言い出すなんて。大人なんだか子供なんだか、分かんないだろ。
 その態度も彼は気に食わなかったのか、僕の顔を軽く睨んで一言。

「一生、離さないからな!」

 ……一生、か。
 今世はとんだ結末になっちまったなぁ。ま、こんな異世界人生も悪くない。

「望むところだよ。ダーリン」

 そう答えて、今度はその厚めの唇に触れた。


■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪

「ったくどうなってんだぁぁぁッ!」

 僕は吼えた。
 もう散々な気分。いや、気分だけじゃない。状況も酷い、最低だ。

「あっれぇ。おかしいなー」
「呑気な声出してんじゃないっ、他人事だと思って!」

 首を傾げるエトを怒鳴りつけたのは、八つ当たり。それは100も承知だ。

「どうしたの。マリッジブルー? 生理前? やっぱりエト様やめといて、オレと結婚する?」
 
そこへヒョイ、と部屋に顔を覗かせたのは彼の従者であるケルタだった。

 褐色で見た目は10歳くらいの少年。でもその実、僕らよりふた周り以上のオッサン……失礼。年配者だってことは分かっている。
 ドワーフってすごいよな。でも、今でもやっぱりこの見た目には負けちまう。
 僕は女の子に加えて、子供にも弱い所あるし。

「おいケルタ、何言ってやがる! 俺とルベルは昨晩も、熱くて濃密な時間をなぁ……」
「余計な事を言うなッ、このスカタン!」
「イデッ!? 」

 とりあえず、ドヤ顔して親指立ててるバカをぶん殴っておく。
 でもあんまりダメージ与えられなかったのは、僕の腰やら尻やらに負ったダメージが相当だったからだ。
 ったく……初心者に無茶しやがって。あ、アイツも初心者か。



 ―――抱かれては軽い食事と休養、を繰り返して数度。
 気がつけば3日ほど経っていた時は驚いた。
 
『エト様、付きっきりで看護ですか』なんて部屋を訪れた執事が、半笑いで言ってきた時。
 顔から火が出るかと思ったものだ。
 言い返す言葉すらなく、目を逸らした僕にダークエルフの彼は『レミエル様奥方と同じ運命辿ってるね』と肩を叩いて部屋を出ていった。

 ……ゆくゆくは洗脳されちゃったりするんだろうか、僕は。
 
 そんなこんなで日々を過ごしてさらに3日。
 勿論、兄や父にも会ったさ。

 思ったほどの気まずさはなくて、今まで隠していた事への謝罪をされた。
 でもそれは、僕を守ろうと奔走してくれていた家族の愛なんだろう。
 妹に売り飛ばされたのも、奴隷商人の体を装った協力者の元に匿うつもりだったらしい。
 それが手違いが生じて、本当の奴隷商人の手に渡った……というワケ。

 当の本人、妹は女冒険者として、世界中の魔獣やモンスターの討伐に飛び出し行っちまった。
 あの時居た、仲間たちと共に。……いや、1人だけ置いて。
 あのドジっ子魔道士ちゃんだ。そして未だ城にいる。
 それは、レガリアが。そう。それをルパから聞いた時、目ん玉飛び出そうになった。

 まず、あのドジっ子ちゃんが男だったという事。
 妹の趣味で無理やり女装させられていたのを、後から聞いた。もちろん、全力で謝り倒したさ。カントール家の男衆3人で。

 しかも一目惚れしたレガリアが、妹達と交渉して彼を城に留まらせたと言うんだから驚きだ。
 そしてあの寡黙な美丈夫がまさか、恋するなんて! 
 だから助けに来てくれた時仕切りと『帰る』発言してたのか……。

『兄貴ってば、超浮かれててウケるぅ』なんて手をバンバン叩きながら笑い転げてたのは、ルパだ。そりゃウケるだろう。日々花を持って片想い相手の部屋へ日参する大男は、見ていてさぞ面白いと思う。

 

「で、何騒いでたのさ」

 ケルタの言葉に、僕は無言で自らのを指さしてみせる。

「あ、そう言えばソレまだ取ってないの?」
「取れねーんだってさ」

 のんびりと答えるエトを、引っ叩きたくなる。実際は、殺す勢いで睨み付けただけだ。

「レミエル様の設けた条件はクリアしたでしょ?」
「そのハズなんだけどなぁ」

 最初に掛けられた『息子の嫁になったら、この首輪を取ってやる』っていう約束の事だ。
 これは(部屋に軟禁状態のレミエルに変わって)魔王レクスに話をすると。

 『おめでとう、今から君はうちの嫁だね』
 と、微笑まれた。
 これでこの忌々しい首輪から、解放されるハズだったのに。

「どういう事だよぉぉぉッ!」
「俺にもサッパリだなぁ。これ、無理矢理切っちまったら駄目なのか?」
「それが出来たら、ここまで悩まない」

 さっきから誰にみせても、首を傾げる。どんな刃物を使っても切れないのだ。

「んー、ちょっと見せて」

 ケルタが僕の首元を覗き込む。
 息が少しかかって、こそばゆい……ってか、触り方が気になるような。

「っん……ま、まだか?」
「もうちょっとかな。あ、こんな所にホクロあるんだぁ。可愛いね」
「ちょ、何見て……ぅあっ、い、息かけるなぁッ……」
「よく見せてよ。色っぽい声出しちゃってさぁ。あははっ、ここ。弱い?」
「う、んぁ……よ、弱い、から、ぁっ」
「へぇ? じゃあここは」

 完全に力抜けちまって。その幾分も小さな手に、翻弄されるように―――。

「おいおいおいおーいッ!? 人の嫁に何セクハラかましてんだっ、この間男野郎!!」
「チッ……」
「あーっ。舌打ちしやがったな! 前から思ってけど、お前態度酷くない!?」
「……気のせいじゃないですかぁ。童貞卒業したからって、調子こいてんですかねぇ」
「今っ、すげぇ喧嘩売ってんじゃねーかよ!!」
「興奮しすぎ。ハゲますよ? つーかハゲろ」
「ハゲねーもん! フッサフサだかんね!?」

 ギャーギャー喧嘩するのは、この2人としては相変わらずらしい。
 なんかむしろホッとする光景……じゃなくて!

「これ。どうすりゃいいんだよ」
「あ、それね」

 独りごちた僕に、ケルタが応える。

「最初にこれ付けた奴が、妙なプロテクトかけてるよ。少し特殊な設定だから、付けた奴にしか解除できないねぇ」
「な、なんだと」

 ……それってすなわち。

「奴隷商人共かぁぁぁッ!!!」

 忘れもしない、スキンヘッドの汚物消毒君とチビデブのおっさんじゃないか!
 
「くそっ、最後の最後でアイツらを思い出すとは……」

 正直忘れかけてたぞ。
 僕は、奥歯をギリギリ噛み締めて怒りを露にするのは数秒。
 サッサと立ち上がった。

「僕は、行ってくる!」
「い、行ってくるって……どこへ!?」

 追いすがるようなエトを一瞥する。ケルタは、面白そうに笑いながらも頷く。

「分かり切った事を聞くなよ。……人間界だ」
「人間界ぃぃ!? それは危険過ぎるッ」

 当然反対するだろう。だって、僕は半神だ。この先も本能的に僕を襲う魔獣や、再び悪い奴らに売り飛ばされるかもしれない。
 アルゲオの事もある。

「危険は承知さ。それでもいつまでも

 だって『次期魔王の嫁』が性奴隷って……カッコつかないだろう。
 そう暗に仄めかしてやると。途端、彼の目が涙目になる。

「おいおいおい。君は、ほんとに泣き虫だなァ」

 こんなんで魔王やれんのかよ……なんて言わない。だって、それだけ優しい奴なんだから。
 その涙を拭うのは、妻である僕の仕事だろ?

「……俺も行く。ダメって言ってもついてくからな!」

 そう言って立ち上がる彼に、僕は笑った。

「当然、君も一緒に行くんだよ……僕の夫、だろ?」

 ―――さて。今世はコイツと暴れてこようか。異世界を股にかけて、さ。
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みんなの感想(2件)

狸田 真 (たぬきだ まこと)

異世界ファンタジー&ラブコメディ大好きです!
22話の2人の距離感や丁寧な描写にどきどきしました。主人公の戸惑いながらヒーロー?に惹かれていく感じが好みです。続きも楽しみにしております!

田中 乃那加
2020.04.26 田中 乃那加

描写を褒めて下さって、嬉しいです。
ありがとうございました!

解除
時生
2020.04.25 時生

ひたすらにエトがかわいいです!わんこ攻めが大好物なので、ショックを受けやすくぽろんと涙を落としてしまうところも含めて、とってもかわいいな~と思いながら読んでいました。
最初は、ルベルの嗜好的にもどうなるんだろうと思っていましたが、エトの一途さに気づいたらふにゃふにゃに絆されている様子に「しめしめ」とほくそ笑んでおりました。
全体的にサクサクと話が進むので、大変読みやすかったです。テンポが良いので、話に入り込みやすいなと感じました。
レガリア、エト、ルパの兄妹がみな魅力的で、28話は内心「やったあ!」と喜びながら見ていました。レガリアはどういう基準で言葉を発しているのか、気になります。
まだ連載中ですので、この後エトとルベルがいちゃいちゃするのが楽しみです。
魅力的なお話を読ませて頂き、ありがとうございました!

田中 乃那加
2020.04.25 田中 乃那加

キャラクター沢山褒めて頂いて、嬉しくて嬉しくて……ワンコ攻めは初めて書いたもので、上手くかけているか少し不安もあったのですが。
嬉しい感想、ありがとうございました!

解除

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