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29.異世界を股にかけて暴れてきます
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小鳥たちの囀りで目が覚めた。
慣れたベッド……とは少し違う景色。
「ん……あ?」
ここは、どこだ。僕の部屋じゃない。なんか違う。
身体を起こす前、わずかに身動げば清潔なシーツに皺が寄る。その寄り方も、なんだか少し違う……なんだろ、隣に、なんか、いる?
「あ゙」
デカい肩。しかも肌の色のそれは、服を着てない男のモノ。つまり裸の男が隣に寝ていて、いわゆる朝チュンしちまってる状況。
……あー。以前もこんな事あったな。
確か両端に居てさ、男3人仲良くベッドイン。めちゃくちゃ気色悪かったなぁ。
でも、これはまた違うヤツ。だって僕はこの経緯やら結果やら、しっかり身に覚えがあるから。
「エト……」
あぁ、僕は、コイツに抱かれたんだ。抱かれた……セックスした……エッチ……僕の××××にアイツの×××を……!
「やっちまったぁぁぁ……」
頭を抱えて呻いた。
当たり前だろう。前世から女好きな僕が、処女を許しちまったんだから。昨晩の記憶が、もう今朝の僕を苛めにかかってる。
……あ、あんな声で、恥ずかしい事を散々を喚いて! 女みたいな事をっ! 羞恥で死ねるなら、200回くらい死んでる! つーか、殺してくれぇぇぇっ!
「ん」
黒歴史に声なく悶えていると、薄ら目を開けたエトが。
今朝も、砂を吐きそうな程の甘ったるい顔しやがって。しかも寝起きの掠れ声が、妙に色っぽくてムカつく。
てかコイツ、こんなにイイ男だったか!?
「おはよ、ルベル」
「お、おは、よ……ぉ」
思わず顔を背けると、裸の腕が伸びてきた。
「身体、大丈夫?」
ぽんぽん、と頭を優しく撫でられる。初めての女を気遣う、男のそれ。
「だからっ! 女扱いを……」
「?」
「いや……なんでも、ない」
『女扱いするな』って怒鳴り付けてやろうと思った。でもやめた。
信じられない事に、全然嫌じゃなかったから。コイツになら、こんなのもアリかもなって。
でもその代わり。その無駄にイケメン面、頬を思い切り抓りあげてやった。
「いででででッ!? な、なにすんだよ!」
「別に。夢じゃないかなって、思って」
「こういう時、自分を抓るんじゃねーの!?」
「だって痛いし」
「俺だって痛いわッ! ……まぁでも、痛くて良かった、かも」
「ハァ?」
……な、なんだコイツ。ついにMに目覚めちまったのか。気持ち悪ぃ。
素直にそう口にすると『違ぇ!』と喚いた後、彼はちょっと笑った。
「だって夢じゃなかった」
「へ?」
「愛する人との一夜は、さ。俺、こんなに幸せな朝を迎えたのは、生まれて初めてだぜ」
エメラルドグリーンの瞳を煌めかせて、形の良い唇は微笑む。
ムカつくくらい、綺麗な顔だ。それが、僕の為だけに表情を変える……泣いたり笑ったり、怒ったり。
不思議な優越感と幸福感が、胸を満たすのが分かった。
……なんだこれ。まさかまだ、あの変なクスリが効いてるとかじゃないだろうな!?
おかしいだろ。処女奪われて。散々恥ずかしくて痛くて、おかしくなるくらい気持ち良い事されて。
それでこんな想い、抱くなんて。
今もほら、従順な犬みたいに見つめてくる男に胸がドキドキとうるさい。
「そりゃあ……僕も、かも」
ここまで、心掻き乱された事も無いし。そう呟いた瞬間。
「ルベルぅぅぅぅッ」
「わっ、だから飛びつくなってば!」
……ほんとにこの駄犬め。
身体に乗り上げた大きな身体。裸のそれは、やっぱり逞しい。男としては、本当に羨ましいな。
何食ったらこんな身体になるんだろう。遺伝か? やっぱりDNAか?
「あーもうッ、なんでそんな煽るんだよ!」
「あ、あ、煽ってる!?」
「可愛すぎるッ!」
「め、目曇ってんじゃないの……」
「この小悪魔っ!」
「魔王の息子が言うなって……」
「好き好き好き好きーッ! 愛してる! 俺もう死んでもいいくらい、幸せ」
「あ゙?」
僕は思い切り眉間に皺を刻んで、睨み付けた。
「『死んでもいい』だって? 。……そういう事、言うな。昨晩、言ったハズだよな」
『君は僕から逃げられない』って。
終身刑の判決を言い渡す、そんな口ぶりで囁いてやる。
「……」
すると。みるみるうちに、エメラルドグリーンの瞳に涙の膜が張る。そして。
「っ、ゔぅぅぅ」
―――ぽたり、と温かい雫が僕の胸元を濡らす。コイツ、また泣きやがった。
泣き虫エト。可愛い、僕の彼氏。
なんだかすごく愛しくなって、頬に触れた。
「バカ、泣くなよ」
ずっと傍に居てやるから。
死ぬまで……って、確か不老不死なんだっけ。じゃあ本当にずっとだな。
「俺、嬉しい。出会った時から、好き、だったから」
「おいおい、君は好きな奴の胸揉んだんだぜ?」
「……あー、うん。だって、すげぇ可愛い子だっし。なんかその、初めて見て、舞い上がっちまった」
ほんとバカだな。バカでアホ。でも、そこが好きかもしれない。
うん、好きだ。悔しいしムカつくけど。僕が、男を好きになっちまうなんて。有り得ないのに、悪くない。
あー……バカなのは僕もだな。
「あの、ルベル」
「ん?」
眉を下げて、何やらオネダリ顔だ。
なんだよ聞いてやる、って応えてやった。だってこれ、まるで大型犬の飼い主みたいな気分になるから。可愛い駄犬の言うことは、叶えてやりたいだろ。
「……もう一回、ヤろ」
「は?」
聞き間違いかな? そう思って耳をすませた。
すると、声だけ恥じらって可愛い彼氏のそれ。でも内容が可愛くなかった。
「もっと抱きたい」
「待て待て待て、ちょーっと待て。今、なんつった!?」
このアホ。昨晩散々、人を抱き潰しておいて『もっと』? 『まだ』?
嫌な予感がして、やんわり押し返してみる。
……ビクともしない。むしろ、身体を押し付けられている気がした。
「いやいやいやいやいや、無理。絶対無理!」
「出来る。元気があれば、なんでも出来る」
猪木か、君はッ! 僕にはその『元気』がないっつーのっ!!
レスラーみたいな身体で、迫ってくる男は僕の耳朶にキスを落とす。
「っんぁ……」
「エロい声」
「うるさいっ、耳弱いんだよ!」
「知ってる。昨晩知ったもん」
「き、君なぁッ!」
コイツこそ、やたらエロい声と顔している。
しかも。
「あ、あ、当たって、る……っ」
硬くて熱いアレ。
昨晩、嫌ってほど味わわされた凶器っていうか、ビッグサーベル。畑のお化けきゅうりっていうか。
大袈裟でなく、ガチガチと歯が鳴った。
「当ててんの……ね、良いだろ?」
熱いのはその吐息もだ。
そして、目元を赤く染めてお強請りされたら。
「や……や、や、優しく、しろ、よ」
震える声で、やっと命じる。すると。
「うん!」
元気な返事と共に、首筋にがぶりと噛みつかれ、僕は大きな悲鳴を上げた―――。
■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫
「ルベル、大丈夫?」
「……」
返事しないんじゃない。出来ないんだ。
「おーい」
「ゔ……ぁ゙」
「ご、ごめん」
「ゔ、る゙ざ、い゙ぃ」
声は掠れるわ、身体は痛い。それなのに、隣で寝っ転がるコイツはツヤツヤしてがる。
……不公平で理不尽で、不条理だ!
「優しくしろ、って、言った、のにぃぃ」
「したじゃねぇか」
「あれの、どこがッ!?」
やたらめったら、噛んだり吸ったり舐めたり。イイトコロばっかり狙って、突きまくってくるし。
連続でイかされて、こっちは失神しまくったんだからな!!
「何回も、許してって言ったのに……」
「あれは却って、ムラッと来た」
「この絶倫性欲オバケめ」
昨日まで童貞だったクセに。コレと、これから付き合って行かなきゃいけないのか……今度は『絶倫の夫にヤリ殺される』なんて死因は嫌だぞ!?
「ほんとゴメンってば」
「くそぉぉ……後で、パシリに使ってやるからな!」
「うん。いつでもパシられてやるよ」
「ったく。頼むぜ、ダーリン」
「……ゔっ。なんでこう、ルベルは俺を試すわけ!?」
「試すって……君が、堪え性無いんだろ」
すると、これから慣れていくよ。と素直に返されて、柄にも無く照れた。
「そう言えば。あの赤毛の変態……アルゲオはどうしたんだ。君たちのことだ軽々と倒しちまったのか?」
それぞれでなんとも、目覚めの悪い話とも言えなくはない。
すると、彼は軽く宙を睨み付けた後で。
「あぁ、あの後な。あのクソ野郎は逃げ出しやがった。逃げ足が早い奴でよぉ……てかアイツ、またルベルを狙ってくるかもしれねぇから気を付けろよ。当分、城の外に出るな。本当言うと、部屋から出て欲しくもないけど……」
「ハハッ、監禁する気かよ」
「それも辞さない構えだな」
「や、やめてくれ」
あの魔王の息子が言うと、冗談に見えないぞ。そう言えば、あの変態夫婦はまた部屋に篭って……って今の僕達も同じか。
なんだか若干、微妙な感じになってきた。だから、さりげなく話題を変えた。
「き、君のお兄さんは、どうなったんだ? ええっと、マデウスさん」
ずっと意識を飛ばしていた僕は、重ねて言うが顛末を知らない。
人質に取られていた彼と僕の兄、そして父さんがどうなったのか。今更ながら気になってきたのだ。
「大丈夫だ。今はちゃんとここで手当受けてる。後で会いに行こうぜ」
「う、うーん」
なんだか正直気まずいというか、色々複雑だな。
だって、僕は父さんと母さんの実子じゃなかった。さらに言うなら、人間ですらなかったんだもんな。
なんで隠してたんだ。なんて怒る程、思春期のガキじゃないけどさ。それでも気まずいだろ、お互い。
それにオリエス兄さんに至っては、マデウスとその……恋人同士らしい。なにこれ、カントール家の男は2人ともゲイって事でいいのか。
そんな訳で、全方向で会いたいような会いたくないような。
「……俺も、お義父さんと義兄さんに挨拶しねぇと」
「へ?」
エトの言葉に、思考から顔をもたげる。
クソ真面目で緊張しきった、チワワのような彼がいた。
「『お義父さん、息子さんをください』って言えばいいのか?『君にお義父さんって言われる筋合いはない!』って殴られるんだろうか……いや、俺は殴られても良いけど。殴ったお義父さん、怪我しねぇかな?」
「君なぁ……」
なんて顔してんだ。やっぱりすごく、可愛い男かもしれない。コイツは。
「じゃ、僕は君のご両親に挨拶しないとな」
そういって至近距離にある顔の、額に軽くキスを落とす。
すると茹でダコみたいに真っ赤になって、口を尖らせた彼が叫んだ。
「っちょ、不意打ちズルい!」
「何を今更」
思わず吹き出してしまう。ここまでして、まだ初心な事を言い出すなんて。大人なんだか子供なんだか、分かんないだろ。
その態度も彼は気に食わなかったのか、僕の顔を軽く睨んで一言。
「一生、離さないからな!」
……一生、か。
今世はとんだ結末になっちまったなぁ。ま、こんな異世界も悪くない。
「望むところだよ。ダーリン」
そう答えて、今度はその厚めの唇に触れた。
■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪
「ったくどうなってんだぁぁぁッ!」
僕は吼えた。
もう散々な気分。いや、気分だけじゃない。状況も酷い、最低だ。
「あっれぇ。おかしいなー」
「呑気な声出してんじゃないっ、他人事だと思って!」
首を傾げるエトを怒鳴りつけたのは、八つ当たり。それは100も承知だ。
「どうしたの。マリッジブルー? 生理前? やっぱりエト様やめといて、オレと結婚する?」
そこへヒョイ、と部屋に顔を覗かせたのは彼の従者であるケルタだった。
褐色で見た目は10歳くらいの少年。でもその実、僕らよりふた周り以上のオッサン……失礼。年配者だってことは分かっている。
ドワーフってすごいよな。でも、今でもやっぱりこの見た目には負けちまう。
僕は女の子に加えて、子供にも弱い所あるし。
「おいケルタ、何言ってやがる! 俺とルベルは昨晩も、熱くて濃密な時間をなぁ……」
「余計な事を言うなッ、このスカタン!」
「イデッ!? 」
とりあえず、ドヤ顔して親指立ててるバカをぶん殴っておく。
でもあんまりダメージ与えられなかったのは、僕の腰やら尻やらに負ったダメージが相当だったからだ。
ったく……初心者に無茶しやがって。あ、アイツも初心者か。
―――抱かれては軽い食事と休養、を繰り返して数度。
気がつけば3日ほど経っていた時は驚いた。
『エト様、付きっきりで看護ですか』なんて部屋を訪れた執事が、半笑いで言ってきた時。
顔から火が出るかと思ったものだ。
言い返す言葉すらなく、目を逸らした僕にダークエルフの彼は『レミエル様と同じ運命辿ってるね』と肩を叩いて部屋を出ていった。
……ゆくゆくは洗脳されちゃったりするんだろうか、僕は。
そんなこんなで日々を過ごしてさらに3日。
勿論、兄や父にも会ったさ。
思ったほどの気まずさはなくて、今まで隠していた事への謝罪をされた。
でもそれは、僕を守ろうと奔走してくれていた家族の愛なんだろう。
妹に売り飛ばされたのも、奴隷商人の体を装った協力者の元に匿うつもりだったらしい。
それが手違いが生じて、本当の奴隷商人の手に渡った……というワケ。
当の本人、妹は女冒険者として、世界中の魔獣やモンスターの討伐に飛び出し行っちまった。
あの時居た、仲間たちと共に。……いや、1人だけ置いて。
あのドジっ子魔道士ちゃんだ。そして未だ城にいる。
それは、レガリアが彼に惚れたから。そう。それをルパから聞いた時、目ん玉飛び出そうになった。
まず、あのドジっ子ちゃんが男だったという事。
妹の趣味で無理やり女装させられていたのを、後から聞いた。もちろん、全力で謝り倒したさ。カントール家の男衆3人で。
しかも一目惚れしたレガリアが、妹達と交渉して彼を城に留まらせたと言うんだから驚きだ。
そしてあの寡黙な美丈夫がまさか、恋するなんて!
だから助けに来てくれた時仕切りと『帰る』発言してたのか……。
『兄貴ってば、超浮かれててウケるぅ』なんて手をバンバン叩きながら笑い転げてたのは、ルパだ。そりゃウケるだろう。日々花を持って片想い相手の部屋へ日参する大男は、見ていてさぞ面白いと思う。
「で、何騒いでたのさ」
ケルタの言葉に、僕は無言で自らの首輪を指さしてみせる。
「あ、そう言えばソレまだ取ってないの?」
「取れねーんだってさ」
のんびりと答えるエトを、引っ叩きたくなる。実際は、殺す勢いで睨み付けただけだ。
「レミエル様の設けた条件はクリアしたでしょ?」
「そのハズなんだけどなぁ」
最初に掛けられた『息子の嫁になったら、この首輪を取ってやる』っていう約束の事だ。
これは(部屋に軟禁状態のレミエルに変わって)魔王レクスに話をすると。
『おめでとう、今から君はうちの嫁だね』
と、微笑まれた。
これでこの忌々しい首輪から、解放されるハズだったのに。
「どういう事だよぉぉぉッ!」
「俺にもサッパリだなぁ。これ、無理矢理切っちまったら駄目なのか?」
「それが出来たら、ここまで悩まない」
さっきから誰にみせても、首を傾げる。どんな刃物を使っても切れないのだ。
「んー、ちょっと見せて」
ケルタが僕の首元を覗き込む。
息が少しかかって、こそばゆい……ってか、触り方が気になるような。
「っん……ま、まだか?」
「もうちょっとかな。あ、こんな所にホクロあるんだぁ。可愛いね」
「ちょ、何見て……ぅあっ、い、息かけるなぁッ……」
「よく見せてよ。色っぽい声出しちゃってさぁ。あははっ、ここ。弱い?」
「う、んぁ……よ、弱い、から、ぁっ」
「へぇ? じゃあここは」
完全に力抜けちまって。その幾分も小さな手に、翻弄されるように―――。
「おいおいおいおーいッ!? 人の嫁に何セクハラかましてんだっ、この間男野郎!!」
「チッ……」
「あーっ。舌打ちしやがったな! 前から思ってけど、お前態度酷くない!?」
「……気のせいじゃないですかぁ。童貞卒業したからって、調子こいてんですかねぇ」
「今っ、すげぇ喧嘩売ってんじゃねーかよ!!」
「興奮しすぎ。ハゲますよ? つーかハゲろ」
「ハゲねーもん! フッサフサだかんね!?」
ギャーギャー喧嘩するのは、この2人としては相変わらずらしい。
なんかむしろホッとする光景……じゃなくて!
「これ。どうすりゃいいんだよ」
「あ、それね」
独りごちた僕に、ケルタが応える。
「最初にこれ付けた奴が、妙なプロテクトかけてるよ。少し特殊な設定だから、付けた奴にしか解除できないねぇ」
「な、なんだと」
最初に付けた奴……それって即ち。
「奴隷商人共かぁぁぁッ!!!」
忘れもしない、スキンヘッドの汚物消毒君とチビデブのおっさんじゃないか!
「くそっ、最後の最後でアイツらを思い出すとは……」
正直忘れかけてたぞ。
僕は、奥歯をギリギリ噛み締めて怒りを露にするのは数秒。
サッサと立ち上がった。
「僕は、行ってくる!」
「い、行ってくるって……どこへ!?」
追いすがるようなエトを一瞥する。ケルタは、面白そうに笑いながらも頷く。
「分かり切った事を聞くなよ。……人間界だ」
「人間界ぃぃ!? それは危険過ぎるッ」
当然反対するだろう。だって、僕は半神だ。この先も本能的に僕を襲う魔獣や、再び悪い奴らに売り飛ばされるかもしれない。
アルゲオの事もある。
「危険は承知さ。それでもいつまでもこれじゃ嫌だ」
だって『次期魔王の嫁』が性奴隷って……カッコつかないだろう。
そう暗に仄めかしてやると。途端、彼の目が涙目になる。
「おいおいおい。君は、ほんとに泣き虫だなァ」
こんなんで魔王やれんのかよ……なんて言わない。だって、それだけ優しい奴なんだから。
その涙を拭うのは、妻である僕の仕事だろ?
「……俺も行く。ダメって言ってもついてくからな!」
そう言って立ち上がる彼に、僕は笑った。
「当然、君も一緒に行くんだよ……僕の夫、だろ?」
―――さて。今世はコイツと暴れてこようか。異世界を股にかけて、さ。
慣れたベッド……とは少し違う景色。
「ん……あ?」
ここは、どこだ。僕の部屋じゃない。なんか違う。
身体を起こす前、わずかに身動げば清潔なシーツに皺が寄る。その寄り方も、なんだか少し違う……なんだろ、隣に、なんか、いる?
「あ゙」
デカい肩。しかも肌の色のそれは、服を着てない男のモノ。つまり裸の男が隣に寝ていて、いわゆる朝チュンしちまってる状況。
……あー。以前もこんな事あったな。
確か両端に居てさ、男3人仲良くベッドイン。めちゃくちゃ気色悪かったなぁ。
でも、これはまた違うヤツ。だって僕はこの経緯やら結果やら、しっかり身に覚えがあるから。
「エト……」
あぁ、僕は、コイツに抱かれたんだ。抱かれた……セックスした……エッチ……僕の××××にアイツの×××を……!
「やっちまったぁぁぁ……」
頭を抱えて呻いた。
当たり前だろう。前世から女好きな僕が、処女を許しちまったんだから。昨晩の記憶が、もう今朝の僕を苛めにかかってる。
……あ、あんな声で、恥ずかしい事を散々を喚いて! 女みたいな事をっ! 羞恥で死ねるなら、200回くらい死んでる! つーか、殺してくれぇぇぇっ!
「ん」
黒歴史に声なく悶えていると、薄ら目を開けたエトが。
今朝も、砂を吐きそうな程の甘ったるい顔しやがって。しかも寝起きの掠れ声が、妙に色っぽくてムカつく。
てかコイツ、こんなにイイ男だったか!?
「おはよ、ルベル」
「お、おは、よ……ぉ」
思わず顔を背けると、裸の腕が伸びてきた。
「身体、大丈夫?」
ぽんぽん、と頭を優しく撫でられる。初めての女を気遣う、男のそれ。
「だからっ! 女扱いを……」
「?」
「いや……なんでも、ない」
『女扱いするな』って怒鳴り付けてやろうと思った。でもやめた。
信じられない事に、全然嫌じゃなかったから。コイツになら、こんなのもアリかもなって。
でもその代わり。その無駄にイケメン面、頬を思い切り抓りあげてやった。
「いででででッ!? な、なにすんだよ!」
「別に。夢じゃないかなって、思って」
「こういう時、自分を抓るんじゃねーの!?」
「だって痛いし」
「俺だって痛いわッ! ……まぁでも、痛くて良かった、かも」
「ハァ?」
……な、なんだコイツ。ついにMに目覚めちまったのか。気持ち悪ぃ。
素直にそう口にすると『違ぇ!』と喚いた後、彼はちょっと笑った。
「だって夢じゃなかった」
「へ?」
「愛する人との一夜は、さ。俺、こんなに幸せな朝を迎えたのは、生まれて初めてだぜ」
エメラルドグリーンの瞳を煌めかせて、形の良い唇は微笑む。
ムカつくくらい、綺麗な顔だ。それが、僕の為だけに表情を変える……泣いたり笑ったり、怒ったり。
不思議な優越感と幸福感が、胸を満たすのが分かった。
……なんだこれ。まさかまだ、あの変なクスリが効いてるとかじゃないだろうな!?
おかしいだろ。処女奪われて。散々恥ずかしくて痛くて、おかしくなるくらい気持ち良い事されて。
それでこんな想い、抱くなんて。
今もほら、従順な犬みたいに見つめてくる男に胸がドキドキとうるさい。
「そりゃあ……僕も、かも」
ここまで、心掻き乱された事も無いし。そう呟いた瞬間。
「ルベルぅぅぅぅッ」
「わっ、だから飛びつくなってば!」
……ほんとにこの駄犬め。
身体に乗り上げた大きな身体。裸のそれは、やっぱり逞しい。男としては、本当に羨ましいな。
何食ったらこんな身体になるんだろう。遺伝か? やっぱりDNAか?
「あーもうッ、なんでそんな煽るんだよ!」
「あ、あ、煽ってる!?」
「可愛すぎるッ!」
「め、目曇ってんじゃないの……」
「この小悪魔っ!」
「魔王の息子が言うなって……」
「好き好き好き好きーッ! 愛してる! 俺もう死んでもいいくらい、幸せ」
「あ゙?」
僕は思い切り眉間に皺を刻んで、睨み付けた。
「『死んでもいい』だって? 。……そういう事、言うな。昨晩、言ったハズだよな」
『君は僕から逃げられない』って。
終身刑の判決を言い渡す、そんな口ぶりで囁いてやる。
「……」
すると。みるみるうちに、エメラルドグリーンの瞳に涙の膜が張る。そして。
「っ、ゔぅぅぅ」
―――ぽたり、と温かい雫が僕の胸元を濡らす。コイツ、また泣きやがった。
泣き虫エト。可愛い、僕の彼氏。
なんだかすごく愛しくなって、頬に触れた。
「バカ、泣くなよ」
ずっと傍に居てやるから。
死ぬまで……って、確か不老不死なんだっけ。じゃあ本当にずっとだな。
「俺、嬉しい。出会った時から、好き、だったから」
「おいおい、君は好きな奴の胸揉んだんだぜ?」
「……あー、うん。だって、すげぇ可愛い子だっし。なんかその、初めて見て、舞い上がっちまった」
ほんとバカだな。バカでアホ。でも、そこが好きかもしれない。
うん、好きだ。悔しいしムカつくけど。僕が、男を好きになっちまうなんて。有り得ないのに、悪くない。
あー……バカなのは僕もだな。
「あの、ルベル」
「ん?」
眉を下げて、何やらオネダリ顔だ。
なんだよ聞いてやる、って応えてやった。だってこれ、まるで大型犬の飼い主みたいな気分になるから。可愛い駄犬の言うことは、叶えてやりたいだろ。
「……もう一回、ヤろ」
「は?」
聞き間違いかな? そう思って耳をすませた。
すると、声だけ恥じらって可愛い彼氏のそれ。でも内容が可愛くなかった。
「もっと抱きたい」
「待て待て待て、ちょーっと待て。今、なんつった!?」
このアホ。昨晩散々、人を抱き潰しておいて『もっと』? 『まだ』?
嫌な予感がして、やんわり押し返してみる。
……ビクともしない。むしろ、身体を押し付けられている気がした。
「いやいやいやいやいや、無理。絶対無理!」
「出来る。元気があれば、なんでも出来る」
猪木か、君はッ! 僕にはその『元気』がないっつーのっ!!
レスラーみたいな身体で、迫ってくる男は僕の耳朶にキスを落とす。
「っんぁ……」
「エロい声」
「うるさいっ、耳弱いんだよ!」
「知ってる。昨晩知ったもん」
「き、君なぁッ!」
コイツこそ、やたらエロい声と顔している。
しかも。
「あ、あ、当たって、る……っ」
硬くて熱いアレ。
昨晩、嫌ってほど味わわされた凶器っていうか、ビッグサーベル。畑のお化けきゅうりっていうか。
大袈裟でなく、ガチガチと歯が鳴った。
「当ててんの……ね、良いだろ?」
熱いのはその吐息もだ。
そして、目元を赤く染めてお強請りされたら。
「や……や、や、優しく、しろ、よ」
震える声で、やっと命じる。すると。
「うん!」
元気な返事と共に、首筋にがぶりと噛みつかれ、僕は大きな悲鳴を上げた―――。
■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫
「ルベル、大丈夫?」
「……」
返事しないんじゃない。出来ないんだ。
「おーい」
「ゔ……ぁ゙」
「ご、ごめん」
「ゔ、る゙ざ、い゙ぃ」
声は掠れるわ、身体は痛い。それなのに、隣で寝っ転がるコイツはツヤツヤしてがる。
……不公平で理不尽で、不条理だ!
「優しくしろ、って、言った、のにぃぃ」
「したじゃねぇか」
「あれの、どこがッ!?」
やたらめったら、噛んだり吸ったり舐めたり。イイトコロばっかり狙って、突きまくってくるし。
連続でイかされて、こっちは失神しまくったんだからな!!
「何回も、許してって言ったのに……」
「あれは却って、ムラッと来た」
「この絶倫性欲オバケめ」
昨日まで童貞だったクセに。コレと、これから付き合って行かなきゃいけないのか……今度は『絶倫の夫にヤリ殺される』なんて死因は嫌だぞ!?
「ほんとゴメンってば」
「くそぉぉ……後で、パシリに使ってやるからな!」
「うん。いつでもパシられてやるよ」
「ったく。頼むぜ、ダーリン」
「……ゔっ。なんでこう、ルベルは俺を試すわけ!?」
「試すって……君が、堪え性無いんだろ」
すると、これから慣れていくよ。と素直に返されて、柄にも無く照れた。
「そう言えば。あの赤毛の変態……アルゲオはどうしたんだ。君たちのことだ軽々と倒しちまったのか?」
それぞれでなんとも、目覚めの悪い話とも言えなくはない。
すると、彼は軽く宙を睨み付けた後で。
「あぁ、あの後な。あのクソ野郎は逃げ出しやがった。逃げ足が早い奴でよぉ……てかアイツ、またルベルを狙ってくるかもしれねぇから気を付けろよ。当分、城の外に出るな。本当言うと、部屋から出て欲しくもないけど……」
「ハハッ、監禁する気かよ」
「それも辞さない構えだな」
「や、やめてくれ」
あの魔王の息子が言うと、冗談に見えないぞ。そう言えば、あの変態夫婦はまた部屋に篭って……って今の僕達も同じか。
なんだか若干、微妙な感じになってきた。だから、さりげなく話題を変えた。
「き、君のお兄さんは、どうなったんだ? ええっと、マデウスさん」
ずっと意識を飛ばしていた僕は、重ねて言うが顛末を知らない。
人質に取られていた彼と僕の兄、そして父さんがどうなったのか。今更ながら気になってきたのだ。
「大丈夫だ。今はちゃんとここで手当受けてる。後で会いに行こうぜ」
「う、うーん」
なんだか正直気まずいというか、色々複雑だな。
だって、僕は父さんと母さんの実子じゃなかった。さらに言うなら、人間ですらなかったんだもんな。
なんで隠してたんだ。なんて怒る程、思春期のガキじゃないけどさ。それでも気まずいだろ、お互い。
それにオリエス兄さんに至っては、マデウスとその……恋人同士らしい。なにこれ、カントール家の男は2人ともゲイって事でいいのか。
そんな訳で、全方向で会いたいような会いたくないような。
「……俺も、お義父さんと義兄さんに挨拶しねぇと」
「へ?」
エトの言葉に、思考から顔をもたげる。
クソ真面目で緊張しきった、チワワのような彼がいた。
「『お義父さん、息子さんをください』って言えばいいのか?『君にお義父さんって言われる筋合いはない!』って殴られるんだろうか……いや、俺は殴られても良いけど。殴ったお義父さん、怪我しねぇかな?」
「君なぁ……」
なんて顔してんだ。やっぱりすごく、可愛い男かもしれない。コイツは。
「じゃ、僕は君のご両親に挨拶しないとな」
そういって至近距離にある顔の、額に軽くキスを落とす。
すると茹でダコみたいに真っ赤になって、口を尖らせた彼が叫んだ。
「っちょ、不意打ちズルい!」
「何を今更」
思わず吹き出してしまう。ここまでして、まだ初心な事を言い出すなんて。大人なんだか子供なんだか、分かんないだろ。
その態度も彼は気に食わなかったのか、僕の顔を軽く睨んで一言。
「一生、離さないからな!」
……一生、か。
今世はとんだ結末になっちまったなぁ。ま、こんな異世界も悪くない。
「望むところだよ。ダーリン」
そう答えて、今度はその厚めの唇に触れた。
■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪
「ったくどうなってんだぁぁぁッ!」
僕は吼えた。
もう散々な気分。いや、気分だけじゃない。状況も酷い、最低だ。
「あっれぇ。おかしいなー」
「呑気な声出してんじゃないっ、他人事だと思って!」
首を傾げるエトを怒鳴りつけたのは、八つ当たり。それは100も承知だ。
「どうしたの。マリッジブルー? 生理前? やっぱりエト様やめといて、オレと結婚する?」
そこへヒョイ、と部屋に顔を覗かせたのは彼の従者であるケルタだった。
褐色で見た目は10歳くらいの少年。でもその実、僕らよりふた周り以上のオッサン……失礼。年配者だってことは分かっている。
ドワーフってすごいよな。でも、今でもやっぱりこの見た目には負けちまう。
僕は女の子に加えて、子供にも弱い所あるし。
「おいケルタ、何言ってやがる! 俺とルベルは昨晩も、熱くて濃密な時間をなぁ……」
「余計な事を言うなッ、このスカタン!」
「イデッ!? 」
とりあえず、ドヤ顔して親指立ててるバカをぶん殴っておく。
でもあんまりダメージ与えられなかったのは、僕の腰やら尻やらに負ったダメージが相当だったからだ。
ったく……初心者に無茶しやがって。あ、アイツも初心者か。
―――抱かれては軽い食事と休養、を繰り返して数度。
気がつけば3日ほど経っていた時は驚いた。
『エト様、付きっきりで看護ですか』なんて部屋を訪れた執事が、半笑いで言ってきた時。
顔から火が出るかと思ったものだ。
言い返す言葉すらなく、目を逸らした僕にダークエルフの彼は『レミエル様と同じ運命辿ってるね』と肩を叩いて部屋を出ていった。
……ゆくゆくは洗脳されちゃったりするんだろうか、僕は。
そんなこんなで日々を過ごしてさらに3日。
勿論、兄や父にも会ったさ。
思ったほどの気まずさはなくて、今まで隠していた事への謝罪をされた。
でもそれは、僕を守ろうと奔走してくれていた家族の愛なんだろう。
妹に売り飛ばされたのも、奴隷商人の体を装った協力者の元に匿うつもりだったらしい。
それが手違いが生じて、本当の奴隷商人の手に渡った……というワケ。
当の本人、妹は女冒険者として、世界中の魔獣やモンスターの討伐に飛び出し行っちまった。
あの時居た、仲間たちと共に。……いや、1人だけ置いて。
あのドジっ子魔道士ちゃんだ。そして未だ城にいる。
それは、レガリアが彼に惚れたから。そう。それをルパから聞いた時、目ん玉飛び出そうになった。
まず、あのドジっ子ちゃんが男だったという事。
妹の趣味で無理やり女装させられていたのを、後から聞いた。もちろん、全力で謝り倒したさ。カントール家の男衆3人で。
しかも一目惚れしたレガリアが、妹達と交渉して彼を城に留まらせたと言うんだから驚きだ。
そしてあの寡黙な美丈夫がまさか、恋するなんて!
だから助けに来てくれた時仕切りと『帰る』発言してたのか……。
『兄貴ってば、超浮かれててウケるぅ』なんて手をバンバン叩きながら笑い転げてたのは、ルパだ。そりゃウケるだろう。日々花を持って片想い相手の部屋へ日参する大男は、見ていてさぞ面白いと思う。
「で、何騒いでたのさ」
ケルタの言葉に、僕は無言で自らの首輪を指さしてみせる。
「あ、そう言えばソレまだ取ってないの?」
「取れねーんだってさ」
のんびりと答えるエトを、引っ叩きたくなる。実際は、殺す勢いで睨み付けただけだ。
「レミエル様の設けた条件はクリアしたでしょ?」
「そのハズなんだけどなぁ」
最初に掛けられた『息子の嫁になったら、この首輪を取ってやる』っていう約束の事だ。
これは(部屋に軟禁状態のレミエルに変わって)魔王レクスに話をすると。
『おめでとう、今から君はうちの嫁だね』
と、微笑まれた。
これでこの忌々しい首輪から、解放されるハズだったのに。
「どういう事だよぉぉぉッ!」
「俺にもサッパリだなぁ。これ、無理矢理切っちまったら駄目なのか?」
「それが出来たら、ここまで悩まない」
さっきから誰にみせても、首を傾げる。どんな刃物を使っても切れないのだ。
「んー、ちょっと見せて」
ケルタが僕の首元を覗き込む。
息が少しかかって、こそばゆい……ってか、触り方が気になるような。
「っん……ま、まだか?」
「もうちょっとかな。あ、こんな所にホクロあるんだぁ。可愛いね」
「ちょ、何見て……ぅあっ、い、息かけるなぁッ……」
「よく見せてよ。色っぽい声出しちゃってさぁ。あははっ、ここ。弱い?」
「う、んぁ……よ、弱い、から、ぁっ」
「へぇ? じゃあここは」
完全に力抜けちまって。その幾分も小さな手に、翻弄されるように―――。
「おいおいおいおーいッ!? 人の嫁に何セクハラかましてんだっ、この間男野郎!!」
「チッ……」
「あーっ。舌打ちしやがったな! 前から思ってけど、お前態度酷くない!?」
「……気のせいじゃないですかぁ。童貞卒業したからって、調子こいてんですかねぇ」
「今っ、すげぇ喧嘩売ってんじゃねーかよ!!」
「興奮しすぎ。ハゲますよ? つーかハゲろ」
「ハゲねーもん! フッサフサだかんね!?」
ギャーギャー喧嘩するのは、この2人としては相変わらずらしい。
なんかむしろホッとする光景……じゃなくて!
「これ。どうすりゃいいんだよ」
「あ、それね」
独りごちた僕に、ケルタが応える。
「最初にこれ付けた奴が、妙なプロテクトかけてるよ。少し特殊な設定だから、付けた奴にしか解除できないねぇ」
「な、なんだと」
最初に付けた奴……それって即ち。
「奴隷商人共かぁぁぁッ!!!」
忘れもしない、スキンヘッドの汚物消毒君とチビデブのおっさんじゃないか!
「くそっ、最後の最後でアイツらを思い出すとは……」
正直忘れかけてたぞ。
僕は、奥歯をギリギリ噛み締めて怒りを露にするのは数秒。
サッサと立ち上がった。
「僕は、行ってくる!」
「い、行ってくるって……どこへ!?」
追いすがるようなエトを一瞥する。ケルタは、面白そうに笑いながらも頷く。
「分かり切った事を聞くなよ。……人間界だ」
「人間界ぃぃ!? それは危険過ぎるッ」
当然反対するだろう。だって、僕は半神だ。この先も本能的に僕を襲う魔獣や、再び悪い奴らに売り飛ばされるかもしれない。
アルゲオの事もある。
「危険は承知さ。それでもいつまでもこれじゃ嫌だ」
だって『次期魔王の嫁』が性奴隷って……カッコつかないだろう。
そう暗に仄めかしてやると。途端、彼の目が涙目になる。
「おいおいおい。君は、ほんとに泣き虫だなァ」
こんなんで魔王やれんのかよ……なんて言わない。だって、それだけ優しい奴なんだから。
その涙を拭うのは、妻である僕の仕事だろ?
「……俺も行く。ダメって言ってもついてくからな!」
そう言って立ち上がる彼に、僕は笑った。
「当然、君も一緒に行くんだよ……僕の夫、だろ?」
―――さて。今世はコイツと暴れてこようか。異世界を股にかけて、さ。
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