12 / 29
12.誰のモノにもなるものか!
しおりを挟む
―――薄ら目を開ける。
唐突に入ってきた光に、顔を顰めた。
背中に感じる、弾力と感触。
……どうやら、ベッドに寝かされているらしい。
―――風呂場での、セクハラ行為。
あれから、ぷっつりと記憶が途切れている。
……情けない事に、失神したらしい。
生娘じゃあるまいし、内心項垂れる。
「ふふっ、起きたか」
そこで聞こえた、笑みを湛えた声。
聞き覚えがある。
今、二番目に聞きたくない奴のだ。
「ルベル。貴様、やるじゃあないか」
気怠い身体を叱咤して起こせば、とびきり悪い奴の顔。
……くそっ、他人事だと思ってニヤつきやがって。
こっちは散々な目に遭ったんだぞ!
ようやく慣れてきた目で、レミエルを睨みつける。
しかし彼はどこ吹く風だ。
「まぁ、最後の一線を超えなくて懸命だったな。貴様には、我が掛けてやった『呪い』があるからなぁ」
「はぁぁぁっ!?」
……またコイツ、妙な事しやがった!
僕はカッとなって声を荒らげる。
「今度はどんなイタズラしやがったッ、この性悪天使が!」
「随分な言葉じゃあないか。義母に対する態度じゃないぞ」
「だーれが義母だッ。言っとくがな! 僕は男だし、ホモじゃない! 男に股を開く予定も、意志もないからなっ」
唾を飛ばさん勢いで、捲し立てる。
それでもレミエルの表情は、余裕そのものだ。
「ふふん、威勢の良い嫁だ。これでなければな……まぁ我もそうだった」
「アンタ、も?」
「そうだ」
そこで。ふっ、と視線を窓の外に移す。
―――鳥が、囀る声が聞こえる。
これだけ聞けば、まるで人間界のようだ。
「この鳥は、天界にも居るのだよ……美しい声で鳴く。よく我も聞いていたものさ」
再び、彼はこちらに視線を戻す。
「我は……オレは天使だった。天使って言ってもそんなに人間や魔物達と変わらない。むしろ、一番面倒な種族かも知れない」
彼は、天界について語った。
―――聖書等で語られる程、そこは崇高な場所ではなかった。
彼らが仕えるのは、神々。
しかも我儘で気まぐれな神々の尻拭い的な役割を、負わされる事が多々ある彼ら。
……それが天使だ。
「中には、神より気ままで自由な天使もいたぞ……オレみたいな」
にんまり、笑った顔。
まるで若々しい青年のよう。
偉ぶった魔王の奥方から、軽薄な若者の顔になった。
「オレだって、男より女の子……特に人間の女の子が好きでな」
「両性具有なのにか?」
「ふん、鋭いな。確かに天使は両性具有だ。男の陰茎も女の膣もある……見るか?」
「い、要らん!」
「……だろうな。ふふっ、でも男女の容姿は一応別れてるんだぞ。オレは紛れもなく雄だったはずなんだ……魔王に捕まるまでは」
深い溜息。
それは己の運命を嘆いているというより、懐古の念だろう。
「出会った日を含めて6日。レクスは天界に足を運んだ」
……7日目に、拉致監禁か。
それを言うと。
「知ってたか。そうだ、完全に堕とされた。もう羽根も捥がれたし、天界には帰れない……なんてな」
「?」
レミエルは、くすりと笑う。
「自らここへ来たんだ。レクスを、唆した。奴が、そうするように仕向けた節もある……要するに、惚れちまったのさ」
「ふぅぅぅん?」
「……なんだその『ぜんっぜん興味ありません』っていう返事は」
苦笑いして、おもむろに彼は僕に手を伸ばした。
「年長者としてのアドバイスだ。魔王に見初められたら……逃れられないぞ?」
「僕はアンタとは違う」
どうせ、快楽堕ちって事だろ。
やめてくれよ、安易なAVや同人誌じゃないんだから。
ノンケとゲイの壁は、それくらい高いんだぞ。
口にはしなかったが、仏頂面で鼻を鳴らし視線を逸らす。
そんな僕の頭を、くしゃくしゃと撫でて。
「ま、エトとはまず友達にでもなってやってくれ。彼には、同年代の友達と呼べる存在が貴重なんだ」
「友達、ねぇ……」
馬鹿だし、ムカつくほどの甘ちゃんだし、変態だけど。
悪い奴ではなさそうだからなぁ。
「退屈は、しなさそうだな」
そう独りごちた僕に、レミエルは笑みを深めた。
■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□
「で、その『呪い』って?」
のんびりと尋ねたのが、ケルタだった。
与えられた部屋で、本を読んでいる僕の背後……影のように現れて、思わず悲鳴をあげた。
その後で、野郎にイタズラされて失神した僕を笑いに来たのか、と悪態つけば。
『違う違う。心配したんだよ? あのアホに、手篭めにされてやしないかって』
と唇を尖らせる。
……この褐色少年。
実は年上で、実年齢かなりのオッサンだって頭で分かってるけど。
でも何故か、この外見に弱いんだよなぁ。
僕って、自分でも知らなかったけど子供好きなのかもしれない。
あ、ロリコンやショタコンじゃないぞ。
でもケルタを見ると、妹を思い出す。
「僕が誰かを受け入れて、初めて解除される呪いらしい」
「で? どーなるのさ」
「……」
「ルベル?」
僕は言い淀む。
というか、言い辛い。
―――男とも女とも、セックス出来ない呪い。なんて。
しかも、だ。
僕からの愛の告白とキスが、呪い解除の方法だとか。
「あぁ。なるほど」
その様子を見て、何かを察したらしい。
肩をぽん、と叩いて言った。
「ま、とりあえず……今度はオレとデートしよ?」
甘えた声と顔で、腕に抱きつかれる。
「唐突だな。っていうか、デートってなぁ」
僕は忘れてない。
こんな無邪気な顔してる、従者だけど。
この前、とんでもない事しでかした奴なんだ。
「ルベルが嫌がる事、もうしないよ!」
「……」
「本当だってば。ね? お願い!」
「し、仕方ないな」
ほら、この顔に弱い。
無邪気で天真爛漫。オマケに、少しばかり顔立ちも妹に似てるんだ。
……兄を、奴隷商人に売った妹なのに。
僕ってもしかして、シスコンの気もあるのだろうか。
なんか。ますます自分のメンタルが、心配になってきたなぁ。
―――内心ぼやきながらも、小さな彼の手に引かれるまま。
城を出た。
唐突に入ってきた光に、顔を顰めた。
背中に感じる、弾力と感触。
……どうやら、ベッドに寝かされているらしい。
―――風呂場での、セクハラ行為。
あれから、ぷっつりと記憶が途切れている。
……情けない事に、失神したらしい。
生娘じゃあるまいし、内心項垂れる。
「ふふっ、起きたか」
そこで聞こえた、笑みを湛えた声。
聞き覚えがある。
今、二番目に聞きたくない奴のだ。
「ルベル。貴様、やるじゃあないか」
気怠い身体を叱咤して起こせば、とびきり悪い奴の顔。
……くそっ、他人事だと思ってニヤつきやがって。
こっちは散々な目に遭ったんだぞ!
ようやく慣れてきた目で、レミエルを睨みつける。
しかし彼はどこ吹く風だ。
「まぁ、最後の一線を超えなくて懸命だったな。貴様には、我が掛けてやった『呪い』があるからなぁ」
「はぁぁぁっ!?」
……またコイツ、妙な事しやがった!
僕はカッとなって声を荒らげる。
「今度はどんなイタズラしやがったッ、この性悪天使が!」
「随分な言葉じゃあないか。義母に対する態度じゃないぞ」
「だーれが義母だッ。言っとくがな! 僕は男だし、ホモじゃない! 男に股を開く予定も、意志もないからなっ」
唾を飛ばさん勢いで、捲し立てる。
それでもレミエルの表情は、余裕そのものだ。
「ふふん、威勢の良い嫁だ。これでなければな……まぁ我もそうだった」
「アンタ、も?」
「そうだ」
そこで。ふっ、と視線を窓の外に移す。
―――鳥が、囀る声が聞こえる。
これだけ聞けば、まるで人間界のようだ。
「この鳥は、天界にも居るのだよ……美しい声で鳴く。よく我も聞いていたものさ」
再び、彼はこちらに視線を戻す。
「我は……オレは天使だった。天使って言ってもそんなに人間や魔物達と変わらない。むしろ、一番面倒な種族かも知れない」
彼は、天界について語った。
―――聖書等で語られる程、そこは崇高な場所ではなかった。
彼らが仕えるのは、神々。
しかも我儘で気まぐれな神々の尻拭い的な役割を、負わされる事が多々ある彼ら。
……それが天使だ。
「中には、神より気ままで自由な天使もいたぞ……オレみたいな」
にんまり、笑った顔。
まるで若々しい青年のよう。
偉ぶった魔王の奥方から、軽薄な若者の顔になった。
「オレだって、男より女の子……特に人間の女の子が好きでな」
「両性具有なのにか?」
「ふん、鋭いな。確かに天使は両性具有だ。男の陰茎も女の膣もある……見るか?」
「い、要らん!」
「……だろうな。ふふっ、でも男女の容姿は一応別れてるんだぞ。オレは紛れもなく雄だったはずなんだ……魔王に捕まるまでは」
深い溜息。
それは己の運命を嘆いているというより、懐古の念だろう。
「出会った日を含めて6日。レクスは天界に足を運んだ」
……7日目に、拉致監禁か。
それを言うと。
「知ってたか。そうだ、完全に堕とされた。もう羽根も捥がれたし、天界には帰れない……なんてな」
「?」
レミエルは、くすりと笑う。
「自らここへ来たんだ。レクスを、唆した。奴が、そうするように仕向けた節もある……要するに、惚れちまったのさ」
「ふぅぅぅん?」
「……なんだその『ぜんっぜん興味ありません』っていう返事は」
苦笑いして、おもむろに彼は僕に手を伸ばした。
「年長者としてのアドバイスだ。魔王に見初められたら……逃れられないぞ?」
「僕はアンタとは違う」
どうせ、快楽堕ちって事だろ。
やめてくれよ、安易なAVや同人誌じゃないんだから。
ノンケとゲイの壁は、それくらい高いんだぞ。
口にはしなかったが、仏頂面で鼻を鳴らし視線を逸らす。
そんな僕の頭を、くしゃくしゃと撫でて。
「ま、エトとはまず友達にでもなってやってくれ。彼には、同年代の友達と呼べる存在が貴重なんだ」
「友達、ねぇ……」
馬鹿だし、ムカつくほどの甘ちゃんだし、変態だけど。
悪い奴ではなさそうだからなぁ。
「退屈は、しなさそうだな」
そう独りごちた僕に、レミエルは笑みを深めた。
■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□
「で、その『呪い』って?」
のんびりと尋ねたのが、ケルタだった。
与えられた部屋で、本を読んでいる僕の背後……影のように現れて、思わず悲鳴をあげた。
その後で、野郎にイタズラされて失神した僕を笑いに来たのか、と悪態つけば。
『違う違う。心配したんだよ? あのアホに、手篭めにされてやしないかって』
と唇を尖らせる。
……この褐色少年。
実は年上で、実年齢かなりのオッサンだって頭で分かってるけど。
でも何故か、この外見に弱いんだよなぁ。
僕って、自分でも知らなかったけど子供好きなのかもしれない。
あ、ロリコンやショタコンじゃないぞ。
でもケルタを見ると、妹を思い出す。
「僕が誰かを受け入れて、初めて解除される呪いらしい」
「で? どーなるのさ」
「……」
「ルベル?」
僕は言い淀む。
というか、言い辛い。
―――男とも女とも、セックス出来ない呪い。なんて。
しかも、だ。
僕からの愛の告白とキスが、呪い解除の方法だとか。
「あぁ。なるほど」
その様子を見て、何かを察したらしい。
肩をぽん、と叩いて言った。
「ま、とりあえず……今度はオレとデートしよ?」
甘えた声と顔で、腕に抱きつかれる。
「唐突だな。っていうか、デートってなぁ」
僕は忘れてない。
こんな無邪気な顔してる、従者だけど。
この前、とんでもない事しでかした奴なんだ。
「ルベルが嫌がる事、もうしないよ!」
「……」
「本当だってば。ね? お願い!」
「し、仕方ないな」
ほら、この顔に弱い。
無邪気で天真爛漫。オマケに、少しばかり顔立ちも妹に似てるんだ。
……兄を、奴隷商人に売った妹なのに。
僕ってもしかして、シスコンの気もあるのだろうか。
なんか。ますます自分のメンタルが、心配になってきたなぁ。
―――内心ぼやきながらも、小さな彼の手に引かれるまま。
城を出た。
0
お気に入りに追加
242
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】試練の塔最上階で待ち構えるの飽きたので下階に降りたら騎士見習いに惚れちゃいました
むらびっと
BL
塔のラスボスであるイミルは毎日自堕落な生活を送ることに飽き飽きしていた。暇つぶしに下階に降りてみるとそこには騎士見習いがいた。騎士見習いのナーシンに取り入るために奮闘するバトルコメディ。
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;
【完結】魔王様、溺愛しすぎです!
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「パパと結婚する!」
8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!
拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
挿絵★あり
【完結】2021/12/02
※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過
※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過
※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位
※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品
※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24)
※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品
※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品
※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。
捨て猫はエリート騎士に溺愛される
135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。
目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。
お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。
京也は総受け。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる