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3.黄金の右腕が唸ったりしますよ

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 連れてこられた場所は、見知らぬ風景の見知らぬ街。
 そして。

「こ、ここが……!?」

 デカすぎる。
 いや、この男の事じゃない。
 この男もデカいけど、 今はそっちじゃなくて。

「我が家にようこそ」
 
 満面の笑みで、レクスは僕を振り返る。
 
 ……我が家っつーか。ほとんど城だな。

 そう、城だ。
 どっちかと言うと魔城とか、そっち系だ。
 間違っても白亜の城じゃない。

「ただいまー」

 彼が、能天気に声を掛ける。
 するとそれに応えるように、重々しい門が自動ドアみたく開く。

「よし行こっか」
「えっ、あ、はい……」

 僕は一抹の不安というか、嫌な予感いっぱいで彼の後を追った。


■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪

 ―――中も、城だ。

「これ魔城ッ!?」
「あ、分かっちゃった。凄い凄い」

 思わずツッコミ入れたら、のんびりと肯定された。魔城、つまりここは。

「魔界だよ。そして私は魔王、改めてよろしくね!」
「は、ハァァァッ?」

 ま、魔王だと!?
 僕は魔界にお買い上げされてしまったのか!
 ……事態の大事さに、両足から力が抜けるのを感じた。

「おっと! 大丈夫かい?」
「っ、ぁ、すいません……」

 ヘナヘナとへたり込む僕を、サッと抱き起こしてくれる。
 まぁこいつが原因なんだが。

「少し疲れちゃったかなぁ。部屋で休もうか」
「や、休む?」

 なんだろう、すごく不穏な単語出てきた。
 つまりそれって。
 の意味なんじゃあ……。

「い、いやいやいやッ! あ、あのっ、ま、まだ気持ちの準備が……っ」
「準備?」

 ……そりゃあ確かに性奴隷の、心理状態なんかお構い無しかもしれないけどさ。
 
「僕っ、初めて……っ、だから……」

 やばい。涙出てきた。
 怖い、すげぇ怖い。

 19にもなって、大の男が泣くなんてカッコ悪いけどさ。
 これから男に、女みたいに抱かれるなんて。
 怖がるなって方が無理な話だ。

「えぇっ!? ちょ、待って、えぇぇッ?」

 突然泣き出した僕に慌てだしたのはレクスで、オロオロとなだめ始める。

「わ、私は何か酷いことをしちゃったのかな……ご、ごめんね? ええっと……あー、困ったなぁ」
 
 下がり眉が良く似合う。
 それでいて、男前なんだからやっぱりムカつく。同じ男として。

 わんわん泣きながら、頭のどこかでは冷静だった。
 だからこそ、自分の身の上がどうしても納得出来なかったのだ。

「あぁ、もうっ。どうしよ……」

 僕を抱きしめて、ほとほと困り果てたといった風情で彼が呟いた時―――。

「ハッ、奴隷に泣かれてビビるなんてなァ! 情けないんじゃあないか?」

 バカにしたような声と言葉。
 それが、城の玄関広間サルーンに響き渡った。

「れ、レミエル……帰ってたのかい!?」
「ふんっ、なんだその間抜け面は。妻が家にいて、何か問題でもあるのか?」

 更に焦った表情のレクス。
 それに被せるたのは、これまたえらく屈強な―――女?

 ……ちょっと待て、見た目は完全に男だ。
 レクスよりは華奢であるが、背の高い筋肉のついた身体。
 金髪は長く、気の強そうな猫目の美人。

「しょ、紹介するよ。この子、ルベル君。……あー、このこの人が僕の妻で」
「レミエルだ」
 
 レミエル、やっぱりなのか。
 すると女? だとしたら、僕はこんな筋骨隆々な女を見たことないな。
 大きく前の空いた服からは、おっぱいというより雄っぱいが見えている。

「ン? 何ジロジロ見てる。貴様、まだ奴隷としては半人前……いや、それ以下だな」
「あ、す、すいませ、ん」

 凄い威圧だ。
 レクスとは真反対。
 そして、彼はすっかり恐妻家よろしく、デカい身体を縮こませている。

「レクス、貴様もいい根性しているよなァ? 妻の前で堂々と浮気か。それとも、奴隷は浮気にならんとほざくか……っ、おい。こいつ性奴隷じゃあないかッ!! 見損なったぞ、離婚だ離婚! 実家に帰らせてもらうッ」
「ま、待ってよ! レミエル」
「えぇいっ、言い訳は聞かん! この変態魔王がッ」
 「変態も魔王も認めるけど、浮気じゃないってば……」

 僕の身体を離したレクスは、大汗かいて奥方に言い訳並べている。
 対してレミエルは猫目を更に吊り上げて、たいそうお怒りだ。
 まぁ当たり前だよな。 

 性奴隷ってのは、この首輪の色で分かる。
 もはや一般常識だ。
 夫が男娼買って、家に連れ込んでたらマトモな女(か、どうか分からんが)だったらキレるだろうよ。

「離せっ、このクズ野郎め!」
「違うってば、いい子だから話聞いて!? ね?」
「触るなァァァッ!」
「ひでぶっ……」

 大男が、一回りほど小さい奴に肘鉄食らって悶絶している。
 見た目は完全にゲイカップルの痴話喧嘩な彼らを、僕は呆気に取られて見ていた。

「ちょ、何してんの!?」

 そんな修羅場に慌てて飛び込んで来たのは、また男だ。
 しかも今度もマッチョときた。

 ……なんだ、ここは。ボディビル大会の会場かよ。
 内心ぼやきつつ、その男に目を向ける。

 ―――わんこ系イケメン、と言えばいいか。
 タレ目気味なのと、目じりの黒子が印象的だ。
 二人より若く、年頃は僕に近いだろう。

「二人とも、夫婦喧嘩は犬も食わねーよ」
「うるさいっ、エト。こんな男、魔犬ケロベロスにでも食われたら良いんだッ!」
 
 レミエルは、エトとかいう男に羽交い締めにされながら叫ぶ。
 
「ちょ、親父っ、何があったんだよ! 」
「いやぁ少し誤解がね」
「……誤解!? 何が誤解なものか! 夫が娼婦と浮気したんだぞッ、現行犯だ!」
「嘘だろ、親父ぃぃっ!」

 驚愕の息子と、怒り心頭の妻。
 その間で、呑気して苦笑いしている魔王。
 ……なんなんだ、ここは。
 唖然として、眺める。

「アンタが親父の浮気相手か!? お嬢さん!」

 エトとかいう男が、こっちを見た。
 その視線が、不躾であまりにも不快だったから怒鳴り返す。

「僕は男だッ、この馬鹿者め!」
「え゙、嘘ぉぉ!?」

 彼はそう声を上げる。
 そして羽交い締めの片方を解いて……事もあろうに僕の胸を鷲掴みにしやがった!

「あ。ホントだ」
「こ、この……この無礼者がァァァッ!」
「ぐはァッ!?」

 怒りのあまり繰り出した、右ストレートが奴の脇腹にクリティカルヒットした―――。
 
 
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