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決戦の悪ふざけ2
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もう人が――いや。彼らが傷付くのは嫌だ、と思った。
散々好き勝手されて大嫌いだった男たちを、喪おうとして恐れている。
『リア充……死ネ……バクハツ、シロ』
何故こんなことになってしまったのだろう、と心の中でつぶやく。
転生して、なんの拍子かチート能力を授かって。魔王を、この世界に悪を成す存在を倒すことになって。
多くを得て失って、ようやく手にした勝利もこんな形で覆された。
(僕はどこで間違えたんだ?)
嫌いだ、近寄るなと喚き散らしていた相手がいつしか大切な存在になっていたのは何故か。
彼らさえいなければ、このまま女を愛するだけの人生を過ごしていたはず。
貪欲に一方的に、重いほどの愛を注がれる人生なんて無縁だっただろう。
『アレン……アレン……ぼく、の、もの……』
この男もそうだ。
魔王でありながら。たった一人の男を愛し、手に入れたいと執着する。
そもそも魔王とはなにか。彼とて単なる孤独な者なのかもしれない。
(君は一体誰なんだ)
思い出してやれば、この暴走も静まるのだろうか。
しかし前世の記憶など、時を過ごすにつれて忘れていくのは仕方がなかった。今では、前世の両親の顔すら曖昧だ。
きっちりとすべて記憶しているほうが、不自然なのである。人は忘却する。だからこそ、生きていけるというもの。
しかし今、アレンは忘却に頭を悩ませている。
「ファシル! もうやめろ。これ以上、他人を傷付けるのは――」
『アレン。ぼくと、いっしょに、死んで……』
もうだめだ。
完全にメンヘラ化の泥沼化。瞳孔は開ききって、口元だけが薄く微笑む。
血まみれて横たわったシセロを、無感情な瞳で一瞥していた。
アレンの中に、ある『覚悟』が固まった瞬間だった。
「……アレックス。あとは、頼む」
「アレン、何をするつもりだ」
血の飛沫で汚れた彼の顔を、そっと袖口で拭う。
すぐにどうにかすれば、助かるかもしれない。
しかしアレンにアレックスにも、回復魔法は使えない。薬草だって持ってない始末だ。
(マリアは無事だろうか)
彼女さえいれば、適切な応急処置は任せられる。
姿は見えないが生きている、と思った。思わないと、やっていられなかった。
「一度しか言わないからな。アレックス」
小さく息を吐いてから、訝しげな表情を浮かべる男を見つめる。
「君のこと……僕は、その……ええっと、嫌いじゃあ、なかった」
「アレン?」
「バカみたいに真っ直ぐで、変態で。そのくせ童貞臭いところ、も」
「おい、それはどういう――」
「黙って聞け。バカ野郎」
思い切り苦々しいしかめっ面で、舌打ちをした。
これから口にするのは、愛の言葉にしては酷く色気のない言葉である。
実際、アレン自身も彼らを愛しているのか。むしろ、嫌いじゃないのかすら分からない。
変態だし鬱陶しいし、同性であるから恋愛対象外だしで。この感情に名前を付けるのは極めて難しい。
でも。そのあやふやなそれすら丸ごと伝えてやりたい、そんな衝動。
「お前は、すごく…………いい男、だと思う、ぞ」
「アレン」
「っ、か、勘違いすんなよ! 僕に対する執念というか、その心意気は、その、わ、悪くない、というか……あー……素直に、ええっと……う、う、うれしかっ、た……というか――あぁもう! 死ねっ、童貞野郎が!!!」
「最後、罵倒された気がするが。アレンの気持ち、伝わったぜ」
顔から火が出そうなほどに熱くして、下を向く。
心の底から嬉しそうな顔をしているだろう男のことなんて。到底、見られない。
「アレン。愛してる」
「それは聞き飽きた。童貞め」
「もう童貞じゃないがな」
愛する人で童貞卒業だ、なんて嫌味なほどに良い声で囁かれた。
「!」
一瞬、息をのむ。
悔しくて恥ずかしくて。しかし、そんな感情すらこそばゆいだけで不快ではない。
「っ、調子にのるな。このド変態!」
思い切り腹を小突いた。
さすがに刺された場所で痛かったのか、くぐもった声でうめいて膝をつく。
「だ、大丈夫か、やり過ぎ――」
「捕まえたぞ」
「えっ」
慌てて手を差し伸べたら、あっという間に抱きしめられた。
文字通り、包み込むような抱擁。自身より幾分も高い体温に、まるで火傷しそうだと思う。
ほんの少し屈んだ男は、アレンの肩口にそっと口付ける。
「もう離したくない、このまま」
「アレックス……」
きっとこんな時だから、と誰に対してか分からぬ言い訳をする。
一体、誰に惹かれているのか。そもそも、この気持ちがなんなのか。やはり分からない。
しかし分からなくても良い、そんな気もしていた。
『――だ・か・ら……』
ピン、と張った空気。
彼らの目の前で、魔王が大きく息を吸った。
『ぼくをシカトしてッ、勝手にイチャイチャするなぁァァァッ!!!!』
「っ!?」
悲しみと怒りのシャウトと共に、繰り出されたのは【チェ・ニュラム】
名の通り、黒い影のような鋭い切っ先で切り裂かんとする攻撃魔法である。
『これだからリア充は嫌いなんだッ! しかもよりにもよって、人の初恋を易々と奪いやがって。これが陽キャか? あぁ゙ァァァッ、もう最っ悪! どうせぼくは陰キャだよ!! バレンタインもクリスマスもボッチで。それどころか365日恋人どころか、友達だっていやしない!!! 恋愛? ハァァァ? ソレナニ美味しいのぉぉぉ? 学校で一番の破滅の呪文は【2人1組なって】で、【グループ作って】だったなぁぁぁっ。何アレ、ボッチでごめんなさい、産まれてきてゴメンナサイって言えばいいの? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ふざけんのも大概にさらせボケェェェェッ!!!!』
「は、は? が、がっこ? ええっ? ちょ、ま――」
『好きな子が欲しくなって何が悪いッ、殺されないタメに騙して何が悪いって言うんだァァァッ!!!』
「あぶねぇっ、アレン!」
恨み辛みを叫びながら、繰り出される攻撃魔法。
それはまるで小さな蟲の羽ばたきのような音を立て、不規則な動きでこちらを襲ってくる。
地をえぐり、木々をなぎ倒し、暴走としか思えない動きで彼らは間一髪、避けるのが精一杯だった。
『アレンだって、なんで気付いてくれないんだ』
「ふぁ、ファシル……」
『好きだったのに。ずっと、ずっと』
我を忘れたように声を上げ、攻撃を繰り出していた男の目からポロリと大粒の雫。
「僕は――」
ブルブルと全身を震わせ、激情のすべてを宿らせた瞳を苦しげに細める。
だからアレンは、思わず一歩だけ歩み寄ってしまった。
まるで、癇癪を起こした子供みたいだったのだ。
『今度は、一緒に死んで、一緒に転生しようね♥』
血走った白目。
大きく裂けるように笑った口元から、大きな牙がのぞく。
ヤバイ、と彼の本能が告げた。
『【メメント・モリ】』
「……ッ!!!!」
それは呪文であったのか。それとも、単なる記憶の産物であったのか。
アレンがその意味を理解するより先に、目の前に迫る闇。
それはゾッとするほどの鋭利さで、自分を真正面からとらえた影。
(くそっ、よけきれ、な――)
「ゔぉ゙ぉ゙ぉ゙ぉぉぉッ!」
「あ゙がっ!?」
(なっ、なに!?)
唐突過ぎる浮遊感と衝撃に、脳が混乱をきたす。
隣から勢いよく走り込んできた男に、首根っこを掴まれ。そのまま、ブンッと宙に放り投げられたのだ。
「うぎぁぁぁぁっ!!!」
「……すまん、許せ」
落下する、という恐怖を覚えた瞬間。それなりの反動と共に、硬く大きな肉体に抱きとめられた。
全てがコンマ数秒のことで。しかし、彼には数十分のことのようで。
揺れる脳に吐き気を覚えつつ、金切り声を上げた。
「なにすんだっ、この野蛮人!」
「すまん。しかし、攻撃は避けたぜ」
「っ、だからといってなぁ」
魔法が直撃するのを回避するため、アレックスが彼を思い切り投げ飛ばしたのだ。
「怪我はねぇか」
「ああ。えっと……」
(これは礼を言った方がいいよ、な?)
たっぷり数十秒悩んで。
重くなりがちな口を開いて、蚊の鳴くような声で呟いたのは『ありがとう』だった。
「おう!」
「……」
(なんでコイツ、笑顔眩しいんだ)
アレックスがこんなに嬉しそうに笑う姿を、彼を知る者たちが知れば腰を抜かすだろう。
普段、眉ひとつ動かさない。唯一、 (筋肉の中で)表情筋だけが機能しない男と評判なのだ。
「さて、アレン」
きりり。と顔つきを引き締めて、彼は口を開いた。
「このピンチ、どう乗り切る?」
「えっ」
思いもよらない言葉に、アレンは顔を上げる。
「冒険者だろ、お前」
「だ、だけど」
今は、剣ひとつ持っていないのに。そんな自信のなさを指摘する訳でもなく、彼は頬に入った傷を歪めて笑う。
「こんな修羅場、超えてきたんだろ。アレン・カントールは、さ」
「君……」
彼がこの男に最初に惹かれた理由。
それは、自分を『冒険者』としても見てくれるからではないか。
もちろん愛しい者として大切にしたい。しかし、共に国を出ようと言い出した時。
『この国を出て、新しい人生ってやつだ。嫌でも一緒に戦ってもらう』
そう言ったのだ。
(ほんと。僕もたいがい、バカだな)
「分かった」
アレンの覚悟と意志は、再び別の方向に舵を切る。
「僕に、取っておきの切り札がある」
最終兵器を忍ばせたような笑みを浮かべ、彼に向けてウィンクした。
散々好き勝手されて大嫌いだった男たちを、喪おうとして恐れている。
『リア充……死ネ……バクハツ、シロ』
何故こんなことになってしまったのだろう、と心の中でつぶやく。
転生して、なんの拍子かチート能力を授かって。魔王を、この世界に悪を成す存在を倒すことになって。
多くを得て失って、ようやく手にした勝利もこんな形で覆された。
(僕はどこで間違えたんだ?)
嫌いだ、近寄るなと喚き散らしていた相手がいつしか大切な存在になっていたのは何故か。
彼らさえいなければ、このまま女を愛するだけの人生を過ごしていたはず。
貪欲に一方的に、重いほどの愛を注がれる人生なんて無縁だっただろう。
『アレン……アレン……ぼく、の、もの……』
この男もそうだ。
魔王でありながら。たった一人の男を愛し、手に入れたいと執着する。
そもそも魔王とはなにか。彼とて単なる孤独な者なのかもしれない。
(君は一体誰なんだ)
思い出してやれば、この暴走も静まるのだろうか。
しかし前世の記憶など、時を過ごすにつれて忘れていくのは仕方がなかった。今では、前世の両親の顔すら曖昧だ。
きっちりとすべて記憶しているほうが、不自然なのである。人は忘却する。だからこそ、生きていけるというもの。
しかし今、アレンは忘却に頭を悩ませている。
「ファシル! もうやめろ。これ以上、他人を傷付けるのは――」
『アレン。ぼくと、いっしょに、死んで……』
もうだめだ。
完全にメンヘラ化の泥沼化。瞳孔は開ききって、口元だけが薄く微笑む。
血まみれて横たわったシセロを、無感情な瞳で一瞥していた。
アレンの中に、ある『覚悟』が固まった瞬間だった。
「……アレックス。あとは、頼む」
「アレン、何をするつもりだ」
血の飛沫で汚れた彼の顔を、そっと袖口で拭う。
すぐにどうにかすれば、助かるかもしれない。
しかしアレンにアレックスにも、回復魔法は使えない。薬草だって持ってない始末だ。
(マリアは無事だろうか)
彼女さえいれば、適切な応急処置は任せられる。
姿は見えないが生きている、と思った。思わないと、やっていられなかった。
「一度しか言わないからな。アレックス」
小さく息を吐いてから、訝しげな表情を浮かべる男を見つめる。
「君のこと……僕は、その……ええっと、嫌いじゃあ、なかった」
「アレン?」
「バカみたいに真っ直ぐで、変態で。そのくせ童貞臭いところ、も」
「おい、それはどういう――」
「黙って聞け。バカ野郎」
思い切り苦々しいしかめっ面で、舌打ちをした。
これから口にするのは、愛の言葉にしては酷く色気のない言葉である。
実際、アレン自身も彼らを愛しているのか。むしろ、嫌いじゃないのかすら分からない。
変態だし鬱陶しいし、同性であるから恋愛対象外だしで。この感情に名前を付けるのは極めて難しい。
でも。そのあやふやなそれすら丸ごと伝えてやりたい、そんな衝動。
「お前は、すごく…………いい男、だと思う、ぞ」
「アレン」
「っ、か、勘違いすんなよ! 僕に対する執念というか、その心意気は、その、わ、悪くない、というか……あー……素直に、ええっと……う、う、うれしかっ、た……というか――あぁもう! 死ねっ、童貞野郎が!!!」
「最後、罵倒された気がするが。アレンの気持ち、伝わったぜ」
顔から火が出そうなほどに熱くして、下を向く。
心の底から嬉しそうな顔をしているだろう男のことなんて。到底、見られない。
「アレン。愛してる」
「それは聞き飽きた。童貞め」
「もう童貞じゃないがな」
愛する人で童貞卒業だ、なんて嫌味なほどに良い声で囁かれた。
「!」
一瞬、息をのむ。
悔しくて恥ずかしくて。しかし、そんな感情すらこそばゆいだけで不快ではない。
「っ、調子にのるな。このド変態!」
思い切り腹を小突いた。
さすがに刺された場所で痛かったのか、くぐもった声でうめいて膝をつく。
「だ、大丈夫か、やり過ぎ――」
「捕まえたぞ」
「えっ」
慌てて手を差し伸べたら、あっという間に抱きしめられた。
文字通り、包み込むような抱擁。自身より幾分も高い体温に、まるで火傷しそうだと思う。
ほんの少し屈んだ男は、アレンの肩口にそっと口付ける。
「もう離したくない、このまま」
「アレックス……」
きっとこんな時だから、と誰に対してか分からぬ言い訳をする。
一体、誰に惹かれているのか。そもそも、この気持ちがなんなのか。やはり分からない。
しかし分からなくても良い、そんな気もしていた。
『――だ・か・ら……』
ピン、と張った空気。
彼らの目の前で、魔王が大きく息を吸った。
『ぼくをシカトしてッ、勝手にイチャイチャするなぁァァァッ!!!!』
「っ!?」
悲しみと怒りのシャウトと共に、繰り出されたのは【チェ・ニュラム】
名の通り、黒い影のような鋭い切っ先で切り裂かんとする攻撃魔法である。
『これだからリア充は嫌いなんだッ! しかもよりにもよって、人の初恋を易々と奪いやがって。これが陽キャか? あぁ゙ァァァッ、もう最っ悪! どうせぼくは陰キャだよ!! バレンタインもクリスマスもボッチで。それどころか365日恋人どころか、友達だっていやしない!!! 恋愛? ハァァァ? ソレナニ美味しいのぉぉぉ? 学校で一番の破滅の呪文は【2人1組なって】で、【グループ作って】だったなぁぁぁっ。何アレ、ボッチでごめんなさい、産まれてきてゴメンナサイって言えばいいの? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ふざけんのも大概にさらせボケェェェェッ!!!!』
「は、は? が、がっこ? ええっ? ちょ、ま――」
『好きな子が欲しくなって何が悪いッ、殺されないタメに騙して何が悪いって言うんだァァァッ!!!』
「あぶねぇっ、アレン!」
恨み辛みを叫びながら、繰り出される攻撃魔法。
それはまるで小さな蟲の羽ばたきのような音を立て、不規則な動きでこちらを襲ってくる。
地をえぐり、木々をなぎ倒し、暴走としか思えない動きで彼らは間一髪、避けるのが精一杯だった。
『アレンだって、なんで気付いてくれないんだ』
「ふぁ、ファシル……」
『好きだったのに。ずっと、ずっと』
我を忘れたように声を上げ、攻撃を繰り出していた男の目からポロリと大粒の雫。
「僕は――」
ブルブルと全身を震わせ、激情のすべてを宿らせた瞳を苦しげに細める。
だからアレンは、思わず一歩だけ歩み寄ってしまった。
まるで、癇癪を起こした子供みたいだったのだ。
『今度は、一緒に死んで、一緒に転生しようね♥』
血走った白目。
大きく裂けるように笑った口元から、大きな牙がのぞく。
ヤバイ、と彼の本能が告げた。
『【メメント・モリ】』
「……ッ!!!!」
それは呪文であったのか。それとも、単なる記憶の産物であったのか。
アレンがその意味を理解するより先に、目の前に迫る闇。
それはゾッとするほどの鋭利さで、自分を真正面からとらえた影。
(くそっ、よけきれ、な――)
「ゔぉ゙ぉ゙ぉ゙ぉぉぉッ!」
「あ゙がっ!?」
(なっ、なに!?)
唐突過ぎる浮遊感と衝撃に、脳が混乱をきたす。
隣から勢いよく走り込んできた男に、首根っこを掴まれ。そのまま、ブンッと宙に放り投げられたのだ。
「うぎぁぁぁぁっ!!!」
「……すまん、許せ」
落下する、という恐怖を覚えた瞬間。それなりの反動と共に、硬く大きな肉体に抱きとめられた。
全てがコンマ数秒のことで。しかし、彼には数十分のことのようで。
揺れる脳に吐き気を覚えつつ、金切り声を上げた。
「なにすんだっ、この野蛮人!」
「すまん。しかし、攻撃は避けたぜ」
「っ、だからといってなぁ」
魔法が直撃するのを回避するため、アレックスが彼を思い切り投げ飛ばしたのだ。
「怪我はねぇか」
「ああ。えっと……」
(これは礼を言った方がいいよ、な?)
たっぷり数十秒悩んで。
重くなりがちな口を開いて、蚊の鳴くような声で呟いたのは『ありがとう』だった。
「おう!」
「……」
(なんでコイツ、笑顔眩しいんだ)
アレックスがこんなに嬉しそうに笑う姿を、彼を知る者たちが知れば腰を抜かすだろう。
普段、眉ひとつ動かさない。唯一、 (筋肉の中で)表情筋だけが機能しない男と評判なのだ。
「さて、アレン」
きりり。と顔つきを引き締めて、彼は口を開いた。
「このピンチ、どう乗り切る?」
「えっ」
思いもよらない言葉に、アレンは顔を上げる。
「冒険者だろ、お前」
「だ、だけど」
今は、剣ひとつ持っていないのに。そんな自信のなさを指摘する訳でもなく、彼は頬に入った傷を歪めて笑う。
「こんな修羅場、超えてきたんだろ。アレン・カントールは、さ」
「君……」
彼がこの男に最初に惹かれた理由。
それは、自分を『冒険者』としても見てくれるからではないか。
もちろん愛しい者として大切にしたい。しかし、共に国を出ようと言い出した時。
『この国を出て、新しい人生ってやつだ。嫌でも一緒に戦ってもらう』
そう言ったのだ。
(ほんと。僕もたいがい、バカだな)
「分かった」
アレンの覚悟と意志は、再び別の方向に舵を切る。
「僕に、取っておきの切り札がある」
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