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変態達のバトルロワイヤル?

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 それから先は、もはや地獄であった。
 少なくても彼ら半魚人にとっては。

「え、えげつない」

 アレンのつぶやきも、もっともである。
 なにせ数十、いや数百もの半魚人達を相手に四人が大暴れ。完全に無双状態で、蹴散らしてしまった。
 そのまま城を飛びだす。
 そして何故かしつこく追ってくる兵士たちを撃退しつつ。辿りついた先は、国の外れ。まさに、西の森の入口だった。

「それにしても、しつこかったな」

 最後の方は鬼気迫る目付きで襲いかかってくる彼らに、シセロ達といえど少々手を焼いた。

「アレンは、どこでもモテモテですわね」
「ぜんっぜん嬉しくない。むしろ不本意だ」

 シスター・マリアの言葉に、ジト目でつぶやく。
 男に執着されても、本当に嬉しいことはひとつもない。
 愛という言葉を呪文のように唱え、なのに衝動的に屈服を強いてくるのだから。先程の青年もそう。
 王に命じられるまま。あんなに激しく貪るように抱いておきながら、離れ際に愛の言葉を囁いた。
 だが、アレンは気がついていない。
 彼が男たちを引き寄せていることに。かつて、チート能力『能力の高い女に愛される』で無双していたが、それより強い能力が彼に備わっていた。
 それが、『強いを引き寄せ、溺愛される。ハーレム系総受けチート能力 』である。
 はるか昔のことにさかのぼるが、アレン・カントールがまだ泰村 明帆やすむら あきほであった頃。
 死にたてホヤホヤで、女神からチート能力ガチャを引いた。
 そこで偶然にも、別の能力も引き当ててしまったのだ。
 もちろん引けるのは一つだけ。
 だが。そのひとつを引く時に、中の別の物が弾けてしまった。完全なる事故であったが、本人おろか女神さえも気が付かなかったらしい。
 遅効性であったのか、はたまた二つの能力の融合のバランスか。
 魔王討伐勇者とはべつに、アレンには異世界の強い男たちに溺愛される受難の人生が用意されてしまった。
 そんな事などつゆ知らず、彼はそろそろ盛られた薬が切れる頃だと安堵のため息をつく。

(それにしても。散々な目にしか遭わないな)

「アレン。身体、大丈夫?」
「あ、あぁ」

 なんと今、マリアにお姫様抱っこされている。
 自分の力では歩くおろか。立ち上がることさえ出来なかった彼を、誰が運ぶかという事でまず一悶着あったのは言うまでもない。
 だが結局。
 聖女のキツい一喝で、彼女が成人男性を抱き上げるという形になってしまったのだ。

「おい。そろそろ、下ろしてくれ」
「ふふふ、遠慮なさらないで下さいまし」
「どうやったら、女性の君がこんなこと出来るのか不思議で仕方ない……」

 ようやく地面に足を付けながら、肩をおとした。
 男としての、なけなしのプライドも木っ端微塵に粉砕されそう。
 しかも女ならいくらでも抱いてきたこの男が、である。まさか同性に抱かれ、遂には女にも抱かれる (この場合は別の『抱く』であるが)とは。

「それにしても。半魚人達を皆殺しにしなかった俺たちって、めっちゃ優しいよね!」
「ああ、そのとおりだ」

 シセロに抱えられた生首――いや。少年ニアの言葉に、深くうなずくアレックス。

「まぁ私の立場もありますし。下賎な種族といえど、おいそれと殲滅する訳にはいきませんが」
「コラコラ、そういうの良くないですわよ。聖女キック!」

 バカにしたように言ったシセロの尻を、彼女のすらりとした足が蹴りあげた。

「っ、さっきから何するんですか。この暴力女」
「ふふ、昔みたく『姉ちゃま』って呼んでくれていいのですよ?」
「一体何百年前の話ですか……」

 実は姉弟のこの二人、なんだかんだと小競り合いしている。

(なんだコイツら。いつの間にか、仲良くなりやがったな)

 自分が捕まっていた間に、何があったのだろう。
 そう思うと、アレンはなんだか複雑な心境だった。
 
(そ、疎外感とか寂しいとか、そういうんじゃないけどさ)

 実際は、そういうことである。
 特にアレックスは、先程から自分のほうを熱い視線で見つめてくるものの。シセロやニアのように、こちらに触れてこようともしない。

「……」
「どうしたのです?」
「別に」

 突然、むっつりと黙り込んだアレンの顔をマリアが覗き込む。
 
「なんでもないから、早く下ろせよな」
「うふふ。分かりましたわ」

 何かを心得た、とばかりに浮かべる笑みも気恥しい。
 なんだか長いこと女扱いされてきて、少しずつ女々しくなってきたんじゃないかと心配になってくる。

(僕はノンケの男だ。誰とも、どうこうなる事はない。心まで、変なことになるつもりも――)

 本当にそうだろうか。
 アレンは自問自答する。
 彼らに愛され、執着されることに悦びを見出してしまってはいないだろうか、と。

(そうなったら、おしまいだ)

 自分が自分でなくなる気がする。
 そんな事をつらつら考えていると、シセロに髪の毛を掴んでぶら下げられてるニアが。

「ねぇねぇ! アレン。俺たち、
「………………は?」

 思いもかけない言葉に、目が点になる。
 こんなに和やかな空気で、決闘? なんで今? 
 なにかの、聞き間違いだろうか。
 疑問を口にするより先に、今度はアレックスが口を開く。

「オレは諦めていないからな。今からでも、町の教会にお前を担ぎ込みたいと思うぜ。もちろん、純白のウェディングドレスを用意してな」
「ふっ、まるで分かってない。彼のような色の白い肌には、むしろカラードレスの方が似合いますよ。ったく、これだから美的センスのない野蛮人は」
「あ゙? ウェディングドレスって言ったら白一択だろうが。余裕ぶっこいてんじゃねぇぞ」
「そっちこそ、何寝ぼけたコト抜かしてるんですか。氷漬けにして、私と彼の新居に飾ってやりましょうか」
「ンだとコラ。やんのか」
「望むところです。雄ゴリラ」

 一瞬で、一触即発の空気。
 シセロとアレックスは、どうもこういう感じらしい。
 お互い噛みつかんばかりに睨み合い、今にもをおっぱじめそうだ。

「待ってってば! なんでこうも、すぐに二人で進めちゃうのさ。俺の頭と身体がくっついてからって言ったじゃん……って痛ッ!」

 不服そうに口を尖らせる彼の頬を、不機嫌につまみあげるシセロ。

「ちょ、痛いよ! 」
「戦力外の生首は、黙ってなさい」
「誰のせいだと思ってんの!? シセロが投げつけたんでしょ」
「手頃なボールが無かったもので」
「ボール扱いしないでってば……」

 ガックリとうなだれる生首。
 なんだかまた、カオスな状況になりそうだ。

「おい。このスカした野郎が」

 アレックスが右手の拳を握り、威嚇する。

「とりあえず、一発殴らせろや。お前の顔面、殴ってから面白くやるぜ」
「ふん。ここでまず貴方を、ステーキにしてあげましょう。もちろんこんがりウェルダンにね」

 こちらは左手に杖を持ち、冷笑を口の端に浮かべた。
 途端に満ちた殺意。激しい風が吹き、木々がざわつく。

「お、おいマリア! これ、どうすんだよ」
「どうするって。ま、仕方ないんじゃないですわ」
「仕方ないって……」

 このままじゃ、ガチの殺し合いが始まってしまう。
 しかもよりにもよって、この場所で。

「君は聖職者だろう!?」

 そうだ。彼女は曲りなりにも、聖女という立場。しかもシセロの姉だ。
 こんなところで、彼らが傷付けあうのを黙って見ているハズがない。
 アレンはそう思った、が。

「それとこれとは、話が別ですわ」

 マリアは静かに首を横にふる。

「『なんじ、殺すなかれ』という言葉が、わたくしの聖書には確かにありますわ。でも、同じページに『愛のために、殺せ』とも」
「む、矛盾してる……」
「そうですわね」

 優しい笑みでうなずいた。

「そう。矛盾しているのです。わたくしを世話してくださった、今は亡き牧師様も言っておられましたわ。神の考えることなど、我々には分からない……と」
「そんなの、詭弁だろ」

 白を黒と言ったり、黒を白と言ったり。宗教とはほとほと、矛盾と不合理に満ちたものである。
 アレンに信心はない。むしろ、こんな剣と魔法の異世界に宗教なんてモノが存在することすら、最初は信じられなかった。
 魔物や魔法使い、聖女すらいるのに。神や天使はまるで手の届かない、信仰の生き物なのだから。

「神はいるのです。でも、きっとわたくし達が思ってるような存在じゃないのかもですね」
「ぜんっぜん意味、分かんないが……」
「ふふ、わたくしもまだまだ未熟者ですから」
 
 それ以上語らず、マリアは軽くウィンクをした。とにかく、この争いを止めるつもりはないらしい。
 アレンは声を張り上げた。

「おい君達っ、無駄なケンカはやめろッ!!!」

 自分は誰のモノにもならない。彼らのうちから、一人を選ぶなんて有り得ないのだ。
 そう叫ぼうとした、時。

「!」

 空に暗雲が立ち込めた。
 またたく間に、風が止み。不気味なほどの静寂が、辺りを包む。
 
「な、なんだ」
「――っ!」

 マリアが突然、なにごとか早口で言う。それが呪文であると、思い至ったのは数秒後。
 強い衝撃を身体全体に感じてからだった。

「ぐっ!?」

 物凄い力で吹き飛ばされたような。
 そこそこの痛みを感じて、草の伸びた大地に転がる。

「ま、マリア…………あっ!」

 視線を彷徨わせると、そこには先程まで凛と立っていた聖女が力なく倒れ込んでいた。
 



 
 
 

 

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