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白馬の王子様達が変態ぞろいでした

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 ――さて。
 こちらは極限、かつ絶対的ピンチである。

「っんぁ……ぁ、んん、ぅ」

 ガタガタ震えながら、身体は熱く火照っている。
 薄く視界に膜が張るのは、恐怖と怒りに涙が溢れそうだから。

「っ、う、んっ、ふ……ぁ」

(くそ、死ね! そんな物騒なモノ、腐り落ちちまえ!)

 そう唾を飛ばして怒鳴りつけでやりたい。だが、肝心かんじんの口はふさがれている。
 自分を犯していた青年から、今度は情熱的な口付けを受けているのだ。
 先程までの強引なセックスには似つかわしくない、紳士的かつ優しげなキス。
 蕩けるような舌技に、ものの十数秒で腰砕けになっていた。

(こ、コイツ……なんか、めちゃくちゃキス上手い……っ、む、ムカつくけど……っ)


「ふぉっふぉっふぉっ。ほれ、リラックスリラックス~」
「ん……んぁ……っ!?」

 濡れぼそった雄膣の入口を、凶器のようなペニスでさする。ドリル状のソレに、アレンは顔を引きつらせて恐怖するしかない。

(やめろ! そんなモノられたら、死んじまう)

 冗談や比喩とか抜きに、受け入れたら裂けてしまいそうな巨根。しかも歪な形のドリル付き。
 半魚人とは、こんな恐ろしいブツを所持しているのか。甘いキスで溶かされつつある思考も、一瞬で冷めてしまいそうだ。

「もう良い。お前は離れよ」
「っ……し、しかし」
「良いと言っておるじゃろう。しつこいぞ」

 アレンと青年の接吻に気を悪くしたのか、王はムッとした表情で言い捨てる。
 彼は、名残惜しそうにアレンの頬を撫でた。
 そして囁く。

愛する人よヴィ・アモー

 すぐに離れた彼の瞳に宿る想いを推し量る暇もなく、そしてそのいにしえの愛の言葉の意味を知ることも無く。
 つぅ、と唾液の糸を繋いで二人は離れた。

「どうやらもう、若い男をタラシ込みよったな」

 苦々しげな王はアレンの唇を、乱暴に芋虫のような指で拭う。

「この男狂いの淫婦め」
「っ、う、るさい。僕は、男、だ」

 噛み付いてやろうと牙を剥くが、老人はせせら笑った。

「男なものか。そなたはメスじゃ。で、男に媚びるメス。しかし心配じゃなあ。ワシの目をかいくぐって、男を食い放題されても困るのぅ。現に、あの青年はそなたに惹かれてしもうた。貞操帯でも、付けておくか。簡単に不貞など働けぬように」
「くっ……黙って聞いてりゃあ、好き勝手言いやがって。ふざけんなッ、誰がアンタのような――」
「……ほぅ、薬が足りぬようだ」
「!?」

 王が目配せすると、二人の若者がまた怪しげな壺を持ってくる。
 
「優れた効能だが、いかんせん。持続力がイマイチなものでなあ。ほれ、足してやろう」
「っ、やめろ! やだ、ぁ、あ、あぁっ、ぅあああぁぁ!!!」

 たっぷり尻の窄まりに塗りこんだそれで、またジクジクと熱を孕み始める。
 同時に、ねっとりとした腰使いでドリル状の男根をねじ込もうとしてくるものだから。

(も、もうダメ)

 絶望に打ちひしがれた、刹那。

「…………あ゙ぐっ」

 マヌケなほどの呻き声をあげて、王が白目を剥いた。
 そして。

「ぐわ゙!?」

 突然、こちらに倒れ込んできたのだ。
 老人と言えど、恰幅かっぷくの良い男が覆いかぶさってきたら。その重さと衝撃に、アレンは潰れたカエルのような声をあげた。

「王がッ!」
「どうされました!?」
「曲者だっ……捕まえろ!」
「なにか飛んでき――ヒィィィッ!!!」

 どよめきと悲鳴。
 その場は、またたく間に阿鼻叫喚の修羅場となる。
 
「な、なんだ……?」

 必死で自分の上で失神する老人を押しのけ、アレンは上がる息を殺して辺りを見渡した。
 叫び声と共に、右往左往する半魚人の男たち。
 そのにはとんでもない光景が広がっていた。

「えっ、うぇぇぇぇっ!?!?!?」

 白目こそ剥かなかったが、驚きのあまり口をポカンとあけて目が点になる。

(そんなことって)

「あ!アレン~♡ 元気だったぁ?」
「……ひぃぃっ、この生首しゃべったぁぁぁ!!!」
「痛ッ、なにすんのさ。ちょ、投げないでってば~。一応痛いんだからね!」

 兵士達にポンポンと投げられ (というか彼らがビビってたらい回しにパスし合っているのだが)たニアが、ニコニコと笑っていた。

「ニアが、なんでこんなとこに――」
「ゥギャァァァッ! コイツ人間のくせに、めちゃくちゃつえぇよぉぉぉっ」
「フン゙!!! ……俺も、いるぜ」

 黙々と拳をふるって、半魚人達を蹴散らしているのはアレックス。相変わらずのピチピチTシャツに、ピッタピタの短パン姿。自慢の筋肉を存分に見せつけつつ、アレンに手を振ってみせた。

「き、君たちが、なぜ――」
「あぎゃぁぁぁッ、火がっ、火がぁぁぁっ」
「やれやれ。さっさと焼かれてしまいなさい……というか、こんがりと焼き魚にしてやる。クソ野郎共が」

 不思議な火炎が舞う。
 まるでシャボン玉のような透明な玉の中に、真っ赤に燃える炎がある。それがポンポンと無数に飛んで、彼らを追いかけ回しているのだから恐怖だろう。
 中にはパチンッと弾けて、魚の尾の端が少し焦げてしまった者もいた。
 そんな様子をジッと見つめる、杖と魔法陣をたずさえた男。無表情の中でも、こめかみに青筋を立てている。

「ふん、いい格好じゃないですか。メス犬にはふさわしい」
「シセロ……」

 毒舌も、Sっ気たっぷりの物言いも相変わらずだ。
 
「しかし、飼い主を間違えてますな。アレン、こっちへ来なさい」
「えっ!」

 そう言いながらも、足早に歩み寄ってくる長身の美青年に不本意ながら心臓が跳ね上がる。
 
(なんでそんな顔するんだ)

 切なげに目を細める様は、逆に飼い主の胸に飛び込んでくる子犬のようですらあった。
 
「アレン……この駄犬が」
「そういうとこ、君は変わらないな」

 すがりつきながらも、吐き出される毒舌に苦笑いしつつ。それも懐かしいと思えるのだから、もはや末期なのかもしれない。

「なんで貴方はいつも、私の心を乱すのですか」
「勝手に乱れとけ。ドS野郎」

 互いに憎まれ口を叩きながらも、薬を盛られ壊れかけた心が癒されるのだから不思議なものだ。

(すっかりほだされちまったんだな)

 今なら、嫌いで仕方なかった彼のことを可愛く思えるかもしれない。
 
「アレン。怪我はありませんか」
「あ、ああ」

 怪我は無いが、精神的には大ダメージだが。しかも。

「ゔっ……ど、ドコ触って――」
「ああ。腹立たしい」
「!?」

 ベッドの上で失神している老人を蹴落とし、その勢いで押し倒してきた。
 弾み軋んだスプリングの衝撃より、見つめられた瞳の蒼さに目がいく。

「こんな薬まで盛られて」
「おいっ、ふざけんな! こんなとこで、発情してんじゃないっ」
「発情してるのは貴方でしょう、アレン」

 ニコリ、と綺麗に微笑まれた。整った容姿のそれは、彼だからこそ分かる。ロクなこと考えて無いということに。

「あっ、や、やめっ……触んっ、な……」
「ほら。いやらしく濡らして。行儀の悪い犬ですね」
「だからそれっ、薬を――」
も、勃ってますよ」
「ひうっ、あ、ぁ……っ、さき、っぽ、だめ、だ……」

 くちゅくちゅと、先走りの垂れる性器を執拗にいじってくる。
 全身に耐えがたい快感が走り、身体をビクつかせれば。

「それともメスである貴方は、これですかね」
「っあ、ひぃ、んん、ぅ」

 片方の胸の飾りをつまみ上げられ、もう片方を舌でなぶられる。
 散々に鍛え上げられた性感帯は、アレンを簡単に蕩けさせ喘がせる。嫌だ嫌だと喚く声に嬌声が混じるのも、仕方のない事だった。

「やらっ、あぁ、い゙っ、やめ」
「まずはここで達してしまいなさい」

(この変態が)

 彼の意地の悪い声も表情も、抗う理由付けにはなり得ない。
 だがこんな状況で。さっきまで他の男に抱かれた身体で、また快楽に堕ちてしまうなんて――。

「いいかげんになさい、聖女アターック」
「ぐっ!」

 スパンッと音がし、シセロの頭がガクンとツンのめった。

「やーれやれ、やれやれですわね。ほんと歳食ってから童貞卒業した男は、どいつもこいつも病むのかしらぁ?」
「き、君は……」

 仁王立ちするのは、ハリセン片手に弟と同じ腹黒い笑みを浮かべた女性。

「ちゃあんと、助けに参りましたわ」

 シスター・マリア、その人であった。



 
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