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破壊の右拳、矯めの左拳
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生まれながらにして不器用。
それでいて猪突猛進でマイペース、それがこの男である。
「見損なったヨ。アレックス」
ミナナの地を這うような声も、お構い無し。
ステラの出した交換条件をのんだ彼は処女である偽物のアレン (偽アレン)をたいそう気に入った様子。
「アレン」
「アレックス♥」
「うむ (良い)」
見つめ合う二人。
いつもみたく『脳ミソあるのかアホゴリラ』だの『クソッタレの変態ゴリラ』だの罵倒が飛んでない。
冷たい視線もツンデレというよりツンツンツンツン (ry…… あるかないかのデレでなく、100パーセント純正のデレ。つまりデレデレ状態なのだから、まったくのニセモノっぷりなのだが。
「愛してる」
「僕も♥」
「おぉ (感無量)」
この状態である。
「聞いてるのか!? このスットコドッコイ!」
「聞いてねぇ」
「くぁw背drftgyふじこlp;@:!!!」
「……うるせぇ」
奇声をあげてハンカチを噛む彼女を、鬱陶しそうに横目で一瞥した。
「見損なったヨ」
「それは何度も聞いたぜ」
「何度でも言ってやるネ。薄情者っ! 下半身男! 精子脳!!」
「やれやれ。言いたい放題だな」
しかしミナナの言うことも、もっともである。
あれだけ惚れて惚れて執着しまくっていた男が、『処女』というだけのニセモノに骨抜きにされているのだから。
「そこの変態男も何か言ってやれヨ!」
「…………え?」
突然話をふられたのは、ヘンリー・マクトウィプスことウサギ耳をつけたレオタード姿の変態男。
相変わらず、古ぼけた金の懐中時計を大切そうに胸に抱いている。
「初めましての挨拶。握手をして本棚を見せ合うのは、互いに裸を見せるのに似ているね」
「オーマイガッ、何言ってんのかわかんないヨ!」
頭のネジが外れ気味なのも、変わらないらしい。
アレックスと偽アレンが手を取り合っているのを、ニコニコと見ている。
「――話はついたみたいですね☆」
ニィ、と悪い笑みを浮かべて横から口を挟んだのは王城で仕えるメイド。ステラだ。
「コイツと引き換えに、本物のアレンには今後一切近付くなってことか」
「そーゆー事☆ 」
アレックスはそっと目の前の青年の頬に触れる。
くすぐったそうに、でも甘えるような仕草で擦り寄ってくるのを見て一言。
「……可愛い」
「だーかーらーっ、ソレは偽物ヨ!?」
「キャハハハッ。それの何が悪いんですか☆」
叫ぶミナナに、皮肉げに口角をあげる。
「ニセモノニセモノ言いますけどぉ、アナタ達はアレン様のなにを知ってるんですかぁ☆」
「は、ハァ?」
「アレン様にとっての幸せってのを、考えてあげたらどーなのかなって☆」
「なにを言って……」
「アナタ達みたいな一般庶民、いいえ☆ 便利屋風情の底辺には分かんないかもですけどぉ」
ステラはそう言いながら、指を鳴らした。
「っ、あ゙ぐッ!!!」
不意打ちでミナナの後ろにそびえ立ったアンデッドが、彼女を切りつけ羽交い締めにしたのだ。
「ミナナ!」
「おっとぉ、油断大敵ですね☆ もー少し危機感持たないと。ここは、アタシのホームグラウンドですよぉ?」
赤い瞳が、煌々と不気味な光を宿す。
ここは地獄。死体ならいくらでもある。死霊魔術師であり、自らもアンデッドの彼女にとってこれほどの有利はないのだ。
「勘違いしないで下さいね☆ アタシはあくまで、善意でこの条件を持ってきたの。この子を連れて、さっさとこの国から出ていってくれたら許してあげる。そーじゃないなら」
「あ゙ぁ゙ァァァッ!!!」
目配せひとつ。
肩を深々と抉られたミナナが悲鳴をあげた。
血が滴り、アンデッド共がこぞってその香りに集まってくる。
「おい、なにしやがる」
「だ・か・ら、早く決断してくださいよぉ☆ この娘、死んじゃいますよ? この死体共、少し改良されてて人間の血肉が大好物なんですから☆」
「くっ」
アレックスが血の匂いで寄ってきたアンデッドの一体の、頭をぶん殴る。
やはり熟れすぎたトマトのような感触を持って、爆ぜた。
しかしどこからか、また次々と集まってくる。
「くそ、キリがねぇな」
「言ったでしょ☆ ここはアタシのホームグラウンドだって」
血の華が咲く路地裏。
返り血と、いつの間にか切った傷口からものでシャツが濡れた。
「万が一……ううん。億が一、ここで逃げ切っても同じだから」
「オレたちを殺すのか」
「すべてを始末しちゃうよ☆ アレン様に関わった人たちぜーんぶ! それが命令だから」
彼女が左手をかかげる。
すると空中から、巨大な大鎌があらわれた。
死神の鎌、といえばイメージしやすいだろうか。
漆黒の柄にぬらりと光る銀色。鋭くも禍々しいそれは、明らかに黒魔法の力が宿っていいるのが分かる。
「アレックス、選んでね☆ 取引に応じるか否か。もし後者だったら――」
「ヒッ……」
ゆっくりと、鎌の切っ先がミナナの喉元へ。
「これ、かなり特別性なの☆ これで殺めた者の魂は、刈り取られる」
文字通り、死神の鎌である。
いっかいのアンデッドである彼女が、なぜこの闇の武器を持っているのか。
これは、魔族のなかでも限られた者の所有すべきものだからだ。
盗んだのか拾ったのか。はたまた、誰かに与えられたのか。
(これは厄介だな)
アレックスは無表情を崩すことなく、それでいてジッと観察し続けた。
(この国は、こんな物騒なモノを隠し持っていやがったのか)
シセロ、とかいう大臣であり魔法使いでもある男が与えたと考えるべきだろう。
(しかし)
どうもアレックスには、腑に落ちない箇所がいくつもあった。
「ほらほらぁ☆ 早くしないと、この娘が食べられちゃうよ?」
「っ、あ゙、アレックスぅ゙ぅぅ゙っ」
アンデッドの一体が、彼女の足を甘噛みする。
チラチラとステラの方を見ているのは、きっと飼い犬で言うところの『待て』状態なのだろう。
「あ、アレックス……ワタシは、いい、から……早くっ……そのニセモノ野郎、ぶん殴るネ……」
「ミナナ、お前」
先程の怪我もあって、弱々しいながらも彼女は言葉をつむぐ。
「変態……の、クセに。嫁のコト忘れてんじゃあないヨ」
鋭い眼差し。アレックスと、偽アレンに注がれている。
「これで、あのビッチを諦めたら……今度はアンタを殺してやる」
「あらあらぁ☆」
ステラが口元だけ笑い、突きつけた大鎌を離した。
「気が変わっちゃったぁ☆ ――悪い方に」
「ギャァ゙ァァァ゙ァァァ!!!」
彼女の合図と共に、ミナナの左肩にアンデッドの鋭い牙がくい込む。
「すこーしずつ、この子達に食べられちゃえ☆」
「ミナナ! っくそ、この野郎」
「おっと。最後のチャンス☆」
駆け寄ろうとしたアレックスの眼前には、死神の鎌の切っ先。
「これはいくら貴方と言えど、壊すことできないよ☆」
鋼鉄をも砕く拳だが、魔法耐性はゼロに近い。
そして当たり前のことに、死神の鎌は魔法道具の部類にあたる。
「まぁそうだな」
素直に認めれば、恍惚の表情を浮かべるステラ。
「その魂を刈り取ってあの方に献上したいけど、そういうワケにはいかないのよねぇ☆ あぁでも――」
ぺろり、と唇を舐める赤い舌。
「その身体……欲しい」
死体にして我がモノにしたいらしい。
舐めるように見つめる視線。アレックスは、その不快さに顔をしかめる。
「気色悪い」
「ふへへ☆ やっぱり殺しちゃおうかなぁ。欲しいなぁ。欲しいなぁ。欲しいなぁ欲しいなぁ。欲しいなぁ。欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい」
繰り言とともに、彼女の焦点がぶれて定まらなくなるのが分かった。
右の口端からヨダレをたらし、それを拭こうとしながらも左端を拭う。
突然、酩酊状態のような様子で左右に大きく揺れ始める。
「……」
「欲しい欲しい欲しいほしいほしいほしいほしい、ふへへへ、へへへ、ほしぃぃ」
見れば、手にしている大鎌が大きく脈打っていた。
太い血管のようなものが柄に浮き、持ち主の何かを吸い取って刃に送っているような動きだ。
「ほじぃぃ、ほじ、ぃ、ぃあ゙ぎぎぎぅ、うぅ」
「……」
アレックスは黙って見ていた。
彼女の艶やかな肌が、色あせて土気色になっていく様を。
「ゔぁ゙、ぎぃ゙ぃっ、ごぉ゙ぉぉ゙ぉぐぎぎぎ」
「分不相応だったな」
顔が大きく崩れ、落ちくぼんだ眼窩。
まるで腐肉が盛り上がるように、巨体化した身体にメイド服が弾け飛ぶ。
身体に似合わぬ武器を抱えた、華奢で可憐な乙女は巨大化した醜い化け物へと変化してしまったのだ。
「おおよそ、お前では扱えねぇシロモノだったんだろう。とんでもない姿になっちまったもんだ」
「あ、アレックス……これは……」
変化と共にミナナを取り押さえ喰らおうとしていたアンデッド達は、砂のように崩れ消えた。
「こいつはスゴいな。触れなくても、アンデッド共を吸収しやがった」
「なに関心してるネ! ヤバいヨ」
赤い瞳が爛々と輝く、見上げるほどの怪物。
空はいつの間にか黒く渦をまく雲に覆われ、不穏な風が辺りに吹き荒れる。
「アレ゙ックズ」
化け物が、笑った。
世界一醜くおぞましい、アンデッドが。
「だべだぃ゙ぃぃぃぃ!!!」
「やれやれ」
渇望の雄叫びをあげる彼女に、肩をすくめた。
「コイツは直せるか自信ねぇな」
――少なくても、時計のようにはいかないようだ。
アレックスは右の拳を構え、真っ直ぐ見すえた。
それでいて猪突猛進でマイペース、それがこの男である。
「見損なったヨ。アレックス」
ミナナの地を這うような声も、お構い無し。
ステラの出した交換条件をのんだ彼は処女である偽物のアレン (偽アレン)をたいそう気に入った様子。
「アレン」
「アレックス♥」
「うむ (良い)」
見つめ合う二人。
いつもみたく『脳ミソあるのかアホゴリラ』だの『クソッタレの変態ゴリラ』だの罵倒が飛んでない。
冷たい視線もツンデレというよりツンツンツンツン (ry…… あるかないかのデレでなく、100パーセント純正のデレ。つまりデレデレ状態なのだから、まったくのニセモノっぷりなのだが。
「愛してる」
「僕も♥」
「おぉ (感無量)」
この状態である。
「聞いてるのか!? このスットコドッコイ!」
「聞いてねぇ」
「くぁw背drftgyふじこlp;@:!!!」
「……うるせぇ」
奇声をあげてハンカチを噛む彼女を、鬱陶しそうに横目で一瞥した。
「見損なったヨ」
「それは何度も聞いたぜ」
「何度でも言ってやるネ。薄情者っ! 下半身男! 精子脳!!」
「やれやれ。言いたい放題だな」
しかしミナナの言うことも、もっともである。
あれだけ惚れて惚れて執着しまくっていた男が、『処女』というだけのニセモノに骨抜きにされているのだから。
「そこの変態男も何か言ってやれヨ!」
「…………え?」
突然話をふられたのは、ヘンリー・マクトウィプスことウサギ耳をつけたレオタード姿の変態男。
相変わらず、古ぼけた金の懐中時計を大切そうに胸に抱いている。
「初めましての挨拶。握手をして本棚を見せ合うのは、互いに裸を見せるのに似ているね」
「オーマイガッ、何言ってんのかわかんないヨ!」
頭のネジが外れ気味なのも、変わらないらしい。
アレックスと偽アレンが手を取り合っているのを、ニコニコと見ている。
「――話はついたみたいですね☆」
ニィ、と悪い笑みを浮かべて横から口を挟んだのは王城で仕えるメイド。ステラだ。
「コイツと引き換えに、本物のアレンには今後一切近付くなってことか」
「そーゆー事☆ 」
アレックスはそっと目の前の青年の頬に触れる。
くすぐったそうに、でも甘えるような仕草で擦り寄ってくるのを見て一言。
「……可愛い」
「だーかーらーっ、ソレは偽物ヨ!?」
「キャハハハッ。それの何が悪いんですか☆」
叫ぶミナナに、皮肉げに口角をあげる。
「ニセモノニセモノ言いますけどぉ、アナタ達はアレン様のなにを知ってるんですかぁ☆」
「は、ハァ?」
「アレン様にとっての幸せってのを、考えてあげたらどーなのかなって☆」
「なにを言って……」
「アナタ達みたいな一般庶民、いいえ☆ 便利屋風情の底辺には分かんないかもですけどぉ」
ステラはそう言いながら、指を鳴らした。
「っ、あ゙ぐッ!!!」
不意打ちでミナナの後ろにそびえ立ったアンデッドが、彼女を切りつけ羽交い締めにしたのだ。
「ミナナ!」
「おっとぉ、油断大敵ですね☆ もー少し危機感持たないと。ここは、アタシのホームグラウンドですよぉ?」
赤い瞳が、煌々と不気味な光を宿す。
ここは地獄。死体ならいくらでもある。死霊魔術師であり、自らもアンデッドの彼女にとってこれほどの有利はないのだ。
「勘違いしないで下さいね☆ アタシはあくまで、善意でこの条件を持ってきたの。この子を連れて、さっさとこの国から出ていってくれたら許してあげる。そーじゃないなら」
「あ゙ぁ゙ァァァッ!!!」
目配せひとつ。
肩を深々と抉られたミナナが悲鳴をあげた。
血が滴り、アンデッド共がこぞってその香りに集まってくる。
「おい、なにしやがる」
「だ・か・ら、早く決断してくださいよぉ☆ この娘、死んじゃいますよ? この死体共、少し改良されてて人間の血肉が大好物なんですから☆」
「くっ」
アレックスが血の匂いで寄ってきたアンデッドの一体の、頭をぶん殴る。
やはり熟れすぎたトマトのような感触を持って、爆ぜた。
しかしどこからか、また次々と集まってくる。
「くそ、キリがねぇな」
「言ったでしょ☆ ここはアタシのホームグラウンドだって」
血の華が咲く路地裏。
返り血と、いつの間にか切った傷口からものでシャツが濡れた。
「万が一……ううん。億が一、ここで逃げ切っても同じだから」
「オレたちを殺すのか」
「すべてを始末しちゃうよ☆ アレン様に関わった人たちぜーんぶ! それが命令だから」
彼女が左手をかかげる。
すると空中から、巨大な大鎌があらわれた。
死神の鎌、といえばイメージしやすいだろうか。
漆黒の柄にぬらりと光る銀色。鋭くも禍々しいそれは、明らかに黒魔法の力が宿っていいるのが分かる。
「アレックス、選んでね☆ 取引に応じるか否か。もし後者だったら――」
「ヒッ……」
ゆっくりと、鎌の切っ先がミナナの喉元へ。
「これ、かなり特別性なの☆ これで殺めた者の魂は、刈り取られる」
文字通り、死神の鎌である。
いっかいのアンデッドである彼女が、なぜこの闇の武器を持っているのか。
これは、魔族のなかでも限られた者の所有すべきものだからだ。
盗んだのか拾ったのか。はたまた、誰かに与えられたのか。
(これは厄介だな)
アレックスは無表情を崩すことなく、それでいてジッと観察し続けた。
(この国は、こんな物騒なモノを隠し持っていやがったのか)
シセロ、とかいう大臣であり魔法使いでもある男が与えたと考えるべきだろう。
(しかし)
どうもアレックスには、腑に落ちない箇所がいくつもあった。
「ほらほらぁ☆ 早くしないと、この娘が食べられちゃうよ?」
「っ、あ゙、アレックスぅ゙ぅぅ゙っ」
アンデッドの一体が、彼女の足を甘噛みする。
チラチラとステラの方を見ているのは、きっと飼い犬で言うところの『待て』状態なのだろう。
「あ、アレックス……ワタシは、いい、から……早くっ……そのニセモノ野郎、ぶん殴るネ……」
「ミナナ、お前」
先程の怪我もあって、弱々しいながらも彼女は言葉をつむぐ。
「変態……の、クセに。嫁のコト忘れてんじゃあないヨ」
鋭い眼差し。アレックスと、偽アレンに注がれている。
「これで、あのビッチを諦めたら……今度はアンタを殺してやる」
「あらあらぁ☆」
ステラが口元だけ笑い、突きつけた大鎌を離した。
「気が変わっちゃったぁ☆ ――悪い方に」
「ギャァ゙ァァァ゙ァァァ!!!」
彼女の合図と共に、ミナナの左肩にアンデッドの鋭い牙がくい込む。
「すこーしずつ、この子達に食べられちゃえ☆」
「ミナナ! っくそ、この野郎」
「おっと。最後のチャンス☆」
駆け寄ろうとしたアレックスの眼前には、死神の鎌の切っ先。
「これはいくら貴方と言えど、壊すことできないよ☆」
鋼鉄をも砕く拳だが、魔法耐性はゼロに近い。
そして当たり前のことに、死神の鎌は魔法道具の部類にあたる。
「まぁそうだな」
素直に認めれば、恍惚の表情を浮かべるステラ。
「その魂を刈り取ってあの方に献上したいけど、そういうワケにはいかないのよねぇ☆ あぁでも――」
ぺろり、と唇を舐める赤い舌。
「その身体……欲しい」
死体にして我がモノにしたいらしい。
舐めるように見つめる視線。アレックスは、その不快さに顔をしかめる。
「気色悪い」
「ふへへ☆ やっぱり殺しちゃおうかなぁ。欲しいなぁ。欲しいなぁ。欲しいなぁ欲しいなぁ。欲しいなぁ。欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい」
繰り言とともに、彼女の焦点がぶれて定まらなくなるのが分かった。
右の口端からヨダレをたらし、それを拭こうとしながらも左端を拭う。
突然、酩酊状態のような様子で左右に大きく揺れ始める。
「……」
「欲しい欲しい欲しいほしいほしいほしいほしい、ふへへへ、へへへ、ほしぃぃ」
見れば、手にしている大鎌が大きく脈打っていた。
太い血管のようなものが柄に浮き、持ち主の何かを吸い取って刃に送っているような動きだ。
「ほじぃぃ、ほじ、ぃ、ぃあ゙ぎぎぎぅ、うぅ」
「……」
アレックスは黙って見ていた。
彼女の艶やかな肌が、色あせて土気色になっていく様を。
「ゔぁ゙、ぎぃ゙ぃっ、ごぉ゙ぉぉ゙ぉぐぎぎぎ」
「分不相応だったな」
顔が大きく崩れ、落ちくぼんだ眼窩。
まるで腐肉が盛り上がるように、巨体化した身体にメイド服が弾け飛ぶ。
身体に似合わぬ武器を抱えた、華奢で可憐な乙女は巨大化した醜い化け物へと変化してしまったのだ。
「おおよそ、お前では扱えねぇシロモノだったんだろう。とんでもない姿になっちまったもんだ」
「あ、アレックス……これは……」
変化と共にミナナを取り押さえ喰らおうとしていたアンデッド達は、砂のように崩れ消えた。
「こいつはスゴいな。触れなくても、アンデッド共を吸収しやがった」
「なに関心してるネ! ヤバいヨ」
赤い瞳が爛々と輝く、見上げるほどの怪物。
空はいつの間にか黒く渦をまく雲に覆われ、不穏な風が辺りに吹き荒れる。
「アレ゙ックズ」
化け物が、笑った。
世界一醜くおぞましい、アンデッドが。
「だべだぃ゙ぃぃぃぃ!!!」
「やれやれ」
渇望の雄叫びをあげる彼女に、肩をすくめた。
「コイツは直せるか自信ねぇな」
――少なくても、時計のようにはいかないようだ。
アレックスは右の拳を構え、真っ直ぐ見すえた。
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