世界を救った勇者ですが童帝(童貞)の嫁になるようです

田中 乃那加

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不遇な身の上と不遜な目の下

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「ふぅ~っ、直った直った」
「ちゃんとくっついて良かったですね」

 首と首の継ぎ目を指でなぞりながら、満足そうに鏡にむかってうなずく少年。
 傍らで、紅茶入りのカップを傾けながら聖女が微笑む。

「ほらっ、見て見て!」
「……うるさい。耳元で大声出すな」

 眉間にしわをよせて不機嫌極まりないアレンは、抱きついてくるニアを押し返す。

「アレンってば。俺が死んじゃった~、って泣いてたよね。ふふふ、すっごく嬉しかったなぁ」
「は、ハァァァッ!? 泣いてないっ、泣くワケないだろ! 勝手に捏造ねつぞうすんな」

 どさくさに紛れて上半身をまさぐってくる腕から逃げながら、首だけ後ろ向けて怒鳴りつけた。

「へへっ、スキあり」
「ぅん!? んん……っ、ぅ」

 唐突に、唇をふさがれる。
 見開いた瞳を、ルール違反だとばかりに手のひらで覆われて舌を入れられた。

「っ、むぅっ……ぅ、ん……っ」

 押し返そうとすればなおも抱きしめられ、その間にも口内を味わうように探られる。
 自らの鼻にかかったうめき声が、羞恥を煽っていることに気が付かないのだろう。息苦しくて、なのに込み上げてくる感覚に溺れそうになる。

「っは……ぁ、っ……ぁ」

 顔が離れた。
 ツー、っと二人を繋ぐような唾液が生々しい。
 キスだけで腰砕けになるなんて、悔しいやら恥ずかしやら。
 まだ瞼に当てられていた手の下でキツく睨みつける。

「カワイイが過ぎるよ。ホントに心配だなぁ」
「死ねっ、このマセガキ!」

 振り払ってそっぽ向く。
 こんな子どもに心をかき乱されるのが、腹立たしい。
 嫌いだと突っぱねてしまえばいいのに。

(あんな話を聞いたら、そんなこと言えないだろ)

『一緒に生きて』

 なんて、真摯な瞳で見つめられたら。

「照れてるのも、カワイイよ」
「うっせぇ。バカの一つ覚えかよ」

 癪に障って、少年特有の曲線をえがく額に軽くデコピンする。
 痛い、と文句言いながらも笑顔は穏やかだ。

「……俺ね。長いこと一人だったんだ」

 両親が死んでから何十年も、ひとりぼっちで生きてきたと彼は言った。

「歳も取らないから、色んな土地を巡って歩いてたよ」

 見た目は人間。でも時が止まったかのような姿は、間違いなく異形であろう。
 人間以外、多くの種族が存在する世界においても彼はマイノリティ少数派であり、イレギュラー異常なのだ。
 
「最初のうちは、しくじって処刑されたっけなぁ」

 人間の村。
 当時はそれぞれの種族が多様化をタブー視した、旧態依然の土地がいくつもあった。
 そこでは、よそ者というだけで警戒される。

「悪魔だの魔女だの、呪われてるだのって。やたら火あぶりにするのが流行しててね。あれは参ったなぁ」

 人恋しさに始めた村の生活だが、彼はあまりにも無防備過ぎた。
 あっという間に様々な嫌疑をかけられ、村人たちに教会へ引きずり出された。
 罵倒と侮蔑、怒号の飛び交う中で散々殴られ水責めや鞭打ちの刑に処される。
 そして最終的には、神の名を叫ぶ人々によって残虐な殺戮の宴が行われるのだ。
 なんたる矛盾と蛮行。
 
「一緒に拷問された人もいたんだけどね。彼らは死んじゃっただろうな」
 
 結局ただの人間だし、と何気ない様子で口にする彼の瞳は表情の伺えぬ色をしている。
 
「まぁ、俺は死なないけど。でも、まったく苦しくないってワケじゃないからね。特にあの――」
「……もういい」
「アレン?」
「もういい。言うな、言わなくていい」
「えっ」

 思わず抱きしめていた。
 生首だけ胸に抱いたときより、高い位置にある頭を撫でる。
 確かに体温があって。魔術で動いている、ゴーレムだとは思えない。

「大丈夫だ」
「……」
「一緒にいてやる、から」

 アレンは魔王討伐の旅の中、色んな土地を常を見てきたのだ。
 孤児や虐待、大人たちから寄ってたかって搾取されているのも多く見てきた。
 すべてを救うことなんて出来ない。それは手に余るというより、してはいけないこと。
 中途半端に手を差し伸べることの罪も、彼は多く学んだ。悲しいことではあるが。

「アレン?」
「言っとくが、別に同情したワケじゃないぞ」

 少年特有の、太陽の匂いがする。
 柔らかい髪を少し雑に撫で回しながら、つぶやくように口にした。

「お前みたいな、ろくでもないガキは僕が教育し直してやる」
「えぇ? 俺の方が年上――」
「歳食ってても、ガキはガキだ」
「ガキじゃないってば」
「家族としてなら……一緒にいてやってもいい」

 精一杯の譲歩だ。
 男として抱かれるのは真っ平御免だが、孤独な少年の家族としてなら自分にもなれると思ったから。
 
「ちぇっ、プロポーズ失敗じゃん」
「文句言うな、アホガキ」
「やれやれ。ほんと子ども扱いするなぁ」

 ぶつくさ言っているが、その声は楽しげに弾んでいる。

「ねぇ、アレン」

 顔をあげて、腕の中から見上げてくる。
 
「家族ってのには『夫婦』も含まれるのかな?」
「っ、まだそんなコト」
「身体は小さいけどさ。俺もちゃんと、アレンに認められるくらいの男になれると思うんだよね。内面的に」
「なにバカなことを言って……」
「俺、諦めないから」
「!」

 頬に口付けられた。
 軽いリップ音に、心臓が跳ね上がる。

「一生かけて証明してみせるよ」
「僕の一生を、かよ」
「うん。まだまだ時間はタップリあるでしょ」
「ふん……勝手にしろ」

 小さくため息をつく。
 すでに自分はほだされたのだと気が付く。
 やはり子ども (外見は、だが)には弱いらしい。
 ぬるくなったであろう紅茶のティーカップを横目に、嬉しそうにくっついてくるニアを手で押し返す。

「距離が近い」
「いーじゃん。なんだし♡」
「おいおい、もっと健全な関係をだな……」
「固いこと言わないの。僕とアレンの仲でしょ」
「言うなれば悪縁――って、変なトコ触るなよ」
「ヘンなとこじゃないよ? イイトコロ、でしょ」

 下半身を、さわさわ撫で回してくる不埒な手から逃げを打とうとした。
 しかし小さいくせにやたら強い腕力に阻まられては、どうしようもない。

「やめっ、や、ぁん……ぅ」

 思わず、甘い声をあげてしまう唇を噛みしめる。
 その舌の根が乾かぬうちに、いつもの状態になってしまう。
 拒否したいのに。教えこまれた性感で、またたく間に脳の芯を蕩けはじめていた。
 
「お兄さん、とでも呼ぼうか? お父さん、はあまりにも若すぎるもんねぇ」
「ば、バカ……」
「イメージプレイってやつ、やってみようよ」
「ふざけん、な……ぁい゙ぃっ!?」

 あまりにも趣味の悪い申し出に、思い切り苦い顔で睨みつけるが効果はないらしい。
 抵抗をさえぎり、やわやわと握り込むように股間に触れてくる。
 痛みを感じるか感じないかの、ギリギリのライン。一種の脅しだろうか。でもそれがアレンを興奮させているから、本当にどうしようもない。
 
も、好きだもんね」

 胸の尖りも、服の上からきつく摘まれる。
 電気の走るような快感で、大きく身体をビクつかせ感じてしまう。
 気がつけば、ずいぶんと成長してしまったソコは、ぷっくり大きく色付いてイヤらしくなっている。
 服に擦れてしまう事もあって、そのたびに己の肉体すら変えられてしまったと忌々しく思うのだ。
 変化といえば。彼は知らないだろうが、慎ましやかであったアナルの入口も、ふっくらとして縦に割れてきている。
 もはやメスの穴。排泄器官というより、性器に近いのかもしれない。
 それが服の上からの愛撫にも、ヒクヒクと疼きだしてしまう。心はどうであれ、肉体は変化してきているのが分かった。

(なんで、こんなので……)

 淫乱だのメス犬だとシセロに罵られて憤っていたが、なんてことはない。
 
「アレン」
「さ、触るな、やめろ」
「もうガマンできない」
「ダメだっ……か、家族、なのに……」
「だから言ったじゃないか。夫婦、って選択肢もあるって」
「そ、それは」

 背徳感が湧き上がる。
 まるで本当に、弟と繋がってしまうような。自分で言い出しておきながら、早くも後悔し始めていた。

(やっぱり僕の周りの男って、ロクデナシばっかりじゃないか)

「――コホン」
「あ!」

 わざとらしい咳払いが聞こえた。
 すぐ向かいの長椅子で、呆れ返りながらカップを傾けている聖女が一人。
 
「ま、マリア……」
「さっきから。なんなら最初っからいましたよ。お二人の世界に、ずいぶん浸っていたようですけどねぇ」

 彼女の笑みと言葉に、アレンは真っ赤になったり真っ青になったり。
 確かに、すっかり眼中に無かった。

「アレンって、胸が感じやすいのですね」
「うわぁぁぁっ、言うなァァァッ!!!」

 半泣きで頭を抱えるしかない。
 対し、ニアはあっけらかんと言い放つ。
 
「あっ、そうだ。マリアさんも魔法使いなら、俺の身体をアップグレードできないかなぁ? もっと大きく……特にアソコとか、巨根にして、アレンをヒーヒー言わせたいなぁって」
「うふふ、あらあら」

 とんでもないことをのたまうニアに、アレンがすかさず肘鉄。しかし、それを難なくかわしてさらに言いつのった。

「もちろん。他の部分も、成長させてほしいけど。身長も、シセロよりほんの少し高くなりたいんだよね。アイツを見下ろしたいな」
「それはそれは」
「ねぇ、出来るかな?」
「うーん……わたくしも、ゴーレムの使役術は未経験なものですから」
「そこをなんとか! やってみてよ」
「おいおい。彼女にワガママ言ってんじゃないぞ」

 眉を下げて困る聖女をかばうように、彼の頭を軽く小突く。

「イタッ、ひどいなぁ。人の頭、カボチャみたくポンポン叩かないでよ」
「カボチャどころか、土で出来てんだろ」
「うっ。容赦ないなぁ」

『まぁそういう所も好きだけど』なんてサラリと口にして、愛しそうに破顔する。

「君のそういう所、僕は叩き直してやりたいと思ってるがな」
「アレンってば、ひっどーい」
「可愛こぶっても、可愛くない」

 まだ引っ付いてくる背中。下の方に、硬いモノがうかがえるが。

「ねぇねぇねぇ。まずはありのままの俺を受け入れて♡」
「うるさい、エロガキ」
「そのエロガキに、今から啼かされるんだよ?」
「だーかーらっ、触んな!」
「甘えてるんだってば♡」
「甘え方が間違ってる!!!」

 見ようによってはイチャイチャしている二人を、眺める聖女。

「あらあら」

 アレン達は気がついただろうか。
 微笑ましく見ていたはずの表情に、黒い笑みが浮かんでいることを。





 
 

 



 



 


 
 
 

 

 
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