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ショタ受けする勇者様1
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その日連れてこられたのは、普通の部屋であった。
普通、というのはなんの卑猥さや不健全さのない――書斎のような。
重厚感のある机。
立ち塞がるような本棚に、ギッチリとはまっている書籍。
別の意味でため息が出るような、場所である。
「本気かよ、お前」
「まさか無理だと?」
「いや。そういうワケじゃないけどさァ」
花嫁修業、なんていうのは名ばかり。
単なるこの男の性奴隷化なんじゃないのかと疑いだした頃。
朝食後に足を踏み入れたのが、この部屋である。
「それにしても勉強って……」
アレンは別に頭が悪いわけじゃないが、この異世界において前世ほど教育が行き届いている訳ではない。
むしろ彼はいい方で、ロクに文字の読み書きも出来ない者もそう珍しくないのだ。
生まれた場所が貧しい村だったり、孤児だったり。とにかく生きるのに精一杯な劣悪で危険な環境の場合もある。
思えば、前世の生活環境はとても恵まれていた。
「そう言えば貴方、文字くらいは読めますか?」
「あのなァ。バカにすんなよ! この国の公用語くらいは、一通り使えるさ。あとは簡単なのなら、オーガ語とドラゴン口語。ウンディーネ達の言葉だって……」
「さすが女たらし。おおよそベッドの中で覚えてきた、ってとこですか」
「ふん、分かってるじゃないか」
物覚えの良さは自覚している。
そして自らの、女関係の派手さにも。そう自信満々に頷くと、シセロは苦い顔をした。
気をよくしたアレンは陰険ホモ野郎には分からないだろうがな、と辛辣な前置きをして言う。
「語学習得は、実地訓練が一番だぜ」
「ほぅ――その通りですな。花嫁修業もソレですからね。せいぜい、精進なさい」
「っ、あ、あれは単なるお前の趣味だろ。変態がッ!」
結局、昼夜問わず。特に夜は毎晩失神する手前まで、彼はシセロに抱き潰されていた。
最初は翌朝、昨晩はよくもやってくれたなと泣いてブチ切れていたが。それも今では慣れたもので『遅漏男は、嫌われるぜ』と嫌味を言うくらい。
元々が、身体と心は別の純愛とは遠い所の価値観だったからか。この生活を受け入れつつあるのだろう。
別に夢見がちな少女じゃあるまいし。セックスの相手にいちいち感情移入できるか、というわけ。
「それにしても、国の大臣様がおヒマで羨ましいな」
「どういう意味ですか」
目の前に積まれた本を一瞥しながら、アレンが鼻を鳴らす。
「そのまんまだよ。ていうか。その童貞ってのは、本当に居るのかよ」
「童貞じゃありません、童帝です――今は、大切な任務に当たられているのです」
「王が不在ってのも、おかしな話だぜ」
「幾分、まだお若いですからね。前国王の事もありますし」
「あー、なるほど」
この国の前国王は、非常に優れた人物であったと皆が口を揃えて言う。
散り散りだった地方自治をまとめ、攻め入ってきた魔族を蹴散らし。
時に対話によって共生をはかってきたのも、この王である。
争いばかりだったこの国は、平和になった――彼が亡くなるまでは。
前国王が没し、魔王はこのチャンスを逃さなかった。
そこで遣わされたのが、勇者である。
「でも魔王は僕たちが倒しただろう」
「ええ、そうです。しかし、まだまだ油断は出来ません。残党たちがまだ残っているでしょう。その為には、はやくビルガ様に王としての力を手に入れて頂きたい」
「でもまだ10歳、ガキだろ」
「もう10歳ですよ。それに、彼の仕事は国を治めるだけではないのです」
「どういう事だよ」
「……」
ふっ、と口元に謎めいた笑みを浮かべたシセロにアレンは眉をひそめる。
「無駄口はこれまでにして。勉強ですよ、アレン」
「チッ……勉強ってなァ。男に教わっても、やる気がしないっつーか」
「まったく貴方って人は――仕方ありませんね」
大袈裟にため息をついた時。
コンコン、とドアの方からノック音が聞こえてきた。
「!」
「どうぞ」
シセロが応えれば、遠慮することなくドアが大きく開く。
「どうも」
ニコニコと入ってきたのは、一人の少年であった。
12歳くらいだろうか。クセのある黒髪に、優しそうな緑の瞳が特徴的な美少年。
「やぁ! 君がアレンだね」
「おいおい、なんだこのガキ。やけに馴れ馴れしいな」
ズケズケとした挨拶にたじろぎ、悪態をつくのは単純に子ども(特に男児)が苦手なのだ。
しかも眩しいほどに、キラキラとした瞳で彼をじっと覗き込んでくる。
その眼差しに多少のデジャブを感じて思わず頭をひねるも、恐らく初対面だろう。
しかし目の前の少年はそんなことお構い無しだ。
「あ、ごめんね? 俺はニア。今日から君の家庭教師だよ!」
「は……ハァ? ど、どーゆー事だよ。シセロ」
自分より明らかに年下の子どもが、家庭教師を自称する事に戸惑いが隠せないのは仕方がない。
顔を覗き込むだけでは飽き足らず満面の笑みで手まで握ってくる彼に手をやいて、アレンはシセロの方を振り返った。
「その方の言う通りです。彼は貴方の家庭教師。ちゃんと言うことを聞くのですよ」
「ちょっ、イキナリそんなこと言われても……っ」
「いいですか。なんでも、ですよ」
妙に含みのある言い方をして、彼はサッサと部屋を出ていってしまう。
素っ気なくドアが閉まる。
後を追うどころか、声をかけるヒマもなかった。
取り残されたアレンは『なんだそれ』とつぶやくも応える者は――。
「アレン、よろしくね!」
目の前には元気いっぱいな、少年ニア。
しかも気がつけば、力いっぱい抱きしめられている。
「おい。離せよな」
子どもの、それも男に抱きつかれる趣味はないと突き放す。
するとあっさり身体を離したニアは、困ったように笑う。
「あはは、ごめん。つい……嬉しくて」
「嬉しい? なにが」
「だって君、伝説の勇者でしょ」
「!!」
アレンは衝撃を受けた。
そう、魔王を倒したのは彼だ。
忘れられがちだが、彼はただのエロい目にあってる可哀想な青年じゃない。
この国を救った、英雄である。
「今日は自己紹介がてら、教えて欲しいな――冒険の事、とか」
羨望の眼差し。
ここへ来て初めて向けられたそれに、アレンの頬はサッと赤らんだ。
別に変な意味ではない。
純粋な尊敬の念を抱かれれば、誰だって照れるだろう。しかもあの気に食わない大臣ときたら、国を救った彼に対して『よくやった』の一言もないのだ。
むしろ女のように抱いて『こんな細腰で、よく魔王倒せましたね。実は色仕掛けでもしてたんじゃないですか』なんてバカにするものだから。
アレンは久しぶりに受ける尊敬に、心を熱くした。
「しっ、仕方ないなァ! 本来、男に話してやる事なんてないんだけど。でも特別に話して聞かせてやるよ。感謝するんだな」
「うんっ、ありがとう。アレン」
弾けるように笑み。
苦手だったハズの子どもに、ここまで可愛らしい態度をされれば表情もユルむというものだ。
いつの間にか用意されてた椅子に向かい合って座る。
「まずアレンのこと、知りたいな」
「僕のこと?」
「うん。国の救世主でしょ。色々と知りたいんだ。……んで、生まれた村は? そこでどんな暮らししてたの? 好きな子とかいた? 好きなタイプとかいる? 好きな食べ物とかでもイイヨ。あっ、趣味は? スポーツとかする? 俺はあまりスポーツは得意じゃないんだけどね――」
「オイオイオイッ、待てよ。質問が多すぎる!」
矢継ぎ早のマシンガントークに、声を上げた。
しかも圧がすごい。
目をキラキラさせて、いまだ手をにぎってくるし。物理的距離もどんどんつめてくる。
「あっ、ごめん」
「なんだこれ。尋問かよ」
「つい、君のこと知りたくて……ごめんね?」
今度はショボンとして、まるで捨てられた子犬みたいな目をする。
その目まぐるしい変化にアレンは軽くめまいを感じた。
「もういい。質問はひとつずつだ。分かったか?」
「うんっ!」
またパァァァッと笑顔が戻る。
愛くるしいといえばそうだろう。だから無下にしきれない。
彼としても、子ども嫌いではあるが鬼ではないのだ。
「じゃあね。ええっとぉ」
「なんだよ」
ニアはどこからか、紙とペンを持ち出して言った。
「――俺とデートするなら、どこがいい?」
「……」
(この世界は、どーなっとんじゃ)
気がつけば憧れ一色だったハズの少年の目には、♡マークが。それくらい、あからさまだった。
「アレン。俺、君に一目惚れしたみたい」
「……」
「アレン?」
「ぼ、僕のそばに近寄るなァァァッ!!!」
結局のところ、事態はあまり変わっていなかった――。
普通、というのはなんの卑猥さや不健全さのない――書斎のような。
重厚感のある机。
立ち塞がるような本棚に、ギッチリとはまっている書籍。
別の意味でため息が出るような、場所である。
「本気かよ、お前」
「まさか無理だと?」
「いや。そういうワケじゃないけどさァ」
花嫁修業、なんていうのは名ばかり。
単なるこの男の性奴隷化なんじゃないのかと疑いだした頃。
朝食後に足を踏み入れたのが、この部屋である。
「それにしても勉強って……」
アレンは別に頭が悪いわけじゃないが、この異世界において前世ほど教育が行き届いている訳ではない。
むしろ彼はいい方で、ロクに文字の読み書きも出来ない者もそう珍しくないのだ。
生まれた場所が貧しい村だったり、孤児だったり。とにかく生きるのに精一杯な劣悪で危険な環境の場合もある。
思えば、前世の生活環境はとても恵まれていた。
「そう言えば貴方、文字くらいは読めますか?」
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「さすが女たらし。おおよそベッドの中で覚えてきた、ってとこですか」
「ふん、分かってるじゃないか」
物覚えの良さは自覚している。
そして自らの、女関係の派手さにも。そう自信満々に頷くと、シセロは苦い顔をした。
気をよくしたアレンは陰険ホモ野郎には分からないだろうがな、と辛辣な前置きをして言う。
「語学習得は、実地訓練が一番だぜ」
「ほぅ――その通りですな。花嫁修業もソレですからね。せいぜい、精進なさい」
「っ、あ、あれは単なるお前の趣味だろ。変態がッ!」
結局、昼夜問わず。特に夜は毎晩失神する手前まで、彼はシセロに抱き潰されていた。
最初は翌朝、昨晩はよくもやってくれたなと泣いてブチ切れていたが。それも今では慣れたもので『遅漏男は、嫌われるぜ』と嫌味を言うくらい。
元々が、身体と心は別の純愛とは遠い所の価値観だったからか。この生活を受け入れつつあるのだろう。
別に夢見がちな少女じゃあるまいし。セックスの相手にいちいち感情移入できるか、というわけ。
「それにしても、国の大臣様がおヒマで羨ましいな」
「どういう意味ですか」
目の前に積まれた本を一瞥しながら、アレンが鼻を鳴らす。
「そのまんまだよ。ていうか。その童貞ってのは、本当に居るのかよ」
「童貞じゃありません、童帝です――今は、大切な任務に当たられているのです」
「王が不在ってのも、おかしな話だぜ」
「幾分、まだお若いですからね。前国王の事もありますし」
「あー、なるほど」
この国の前国王は、非常に優れた人物であったと皆が口を揃えて言う。
散り散りだった地方自治をまとめ、攻め入ってきた魔族を蹴散らし。
時に対話によって共生をはかってきたのも、この王である。
争いばかりだったこの国は、平和になった――彼が亡くなるまでは。
前国王が没し、魔王はこのチャンスを逃さなかった。
そこで遣わされたのが、勇者である。
「でも魔王は僕たちが倒しただろう」
「ええ、そうです。しかし、まだまだ油断は出来ません。残党たちがまだ残っているでしょう。その為には、はやくビルガ様に王としての力を手に入れて頂きたい」
「でもまだ10歳、ガキだろ」
「もう10歳ですよ。それに、彼の仕事は国を治めるだけではないのです」
「どういう事だよ」
「……」
ふっ、と口元に謎めいた笑みを浮かべたシセロにアレンは眉をひそめる。
「無駄口はこれまでにして。勉強ですよ、アレン」
「チッ……勉強ってなァ。男に教わっても、やる気がしないっつーか」
「まったく貴方って人は――仕方ありませんね」
大袈裟にため息をついた時。
コンコン、とドアの方からノック音が聞こえてきた。
「!」
「どうぞ」
シセロが応えれば、遠慮することなくドアが大きく開く。
「どうも」
ニコニコと入ってきたのは、一人の少年であった。
12歳くらいだろうか。クセのある黒髪に、優しそうな緑の瞳が特徴的な美少年。
「やぁ! 君がアレンだね」
「おいおい、なんだこのガキ。やけに馴れ馴れしいな」
ズケズケとした挨拶にたじろぎ、悪態をつくのは単純に子ども(特に男児)が苦手なのだ。
しかも眩しいほどに、キラキラとした瞳で彼をじっと覗き込んでくる。
その眼差しに多少のデジャブを感じて思わず頭をひねるも、恐らく初対面だろう。
しかし目の前の少年はそんなことお構い無しだ。
「あ、ごめんね? 俺はニア。今日から君の家庭教師だよ!」
「は……ハァ? ど、どーゆー事だよ。シセロ」
自分より明らかに年下の子どもが、家庭教師を自称する事に戸惑いが隠せないのは仕方がない。
顔を覗き込むだけでは飽き足らず満面の笑みで手まで握ってくる彼に手をやいて、アレンはシセロの方を振り返った。
「その方の言う通りです。彼は貴方の家庭教師。ちゃんと言うことを聞くのですよ」
「ちょっ、イキナリそんなこと言われても……っ」
「いいですか。なんでも、ですよ」
妙に含みのある言い方をして、彼はサッサと部屋を出ていってしまう。
素っ気なくドアが閉まる。
後を追うどころか、声をかけるヒマもなかった。
取り残されたアレンは『なんだそれ』とつぶやくも応える者は――。
「アレン、よろしくね!」
目の前には元気いっぱいな、少年ニア。
しかも気がつけば、力いっぱい抱きしめられている。
「おい。離せよな」
子どもの、それも男に抱きつかれる趣味はないと突き放す。
するとあっさり身体を離したニアは、困ったように笑う。
「あはは、ごめん。つい……嬉しくて」
「嬉しい? なにが」
「だって君、伝説の勇者でしょ」
「!!」
アレンは衝撃を受けた。
そう、魔王を倒したのは彼だ。
忘れられがちだが、彼はただのエロい目にあってる可哀想な青年じゃない。
この国を救った、英雄である。
「今日は自己紹介がてら、教えて欲しいな――冒険の事、とか」
羨望の眼差し。
ここへ来て初めて向けられたそれに、アレンの頬はサッと赤らんだ。
別に変な意味ではない。
純粋な尊敬の念を抱かれれば、誰だって照れるだろう。しかもあの気に食わない大臣ときたら、国を救った彼に対して『よくやった』の一言もないのだ。
むしろ女のように抱いて『こんな細腰で、よく魔王倒せましたね。実は色仕掛けでもしてたんじゃないですか』なんてバカにするものだから。
アレンは久しぶりに受ける尊敬に、心を熱くした。
「しっ、仕方ないなァ! 本来、男に話してやる事なんてないんだけど。でも特別に話して聞かせてやるよ。感謝するんだな」
「うんっ、ありがとう。アレン」
弾けるように笑み。
苦手だったハズの子どもに、ここまで可愛らしい態度をされれば表情もユルむというものだ。
いつの間にか用意されてた椅子に向かい合って座る。
「まずアレンのこと、知りたいな」
「僕のこと?」
「うん。国の救世主でしょ。色々と知りたいんだ。……んで、生まれた村は? そこでどんな暮らししてたの? 好きな子とかいた? 好きなタイプとかいる? 好きな食べ物とかでもイイヨ。あっ、趣味は? スポーツとかする? 俺はあまりスポーツは得意じゃないんだけどね――」
「オイオイオイッ、待てよ。質問が多すぎる!」
矢継ぎ早のマシンガントークに、声を上げた。
しかも圧がすごい。
目をキラキラさせて、いまだ手をにぎってくるし。物理的距離もどんどんつめてくる。
「あっ、ごめん」
「なんだこれ。尋問かよ」
「つい、君のこと知りたくて……ごめんね?」
今度はショボンとして、まるで捨てられた子犬みたいな目をする。
その目まぐるしい変化にアレンは軽くめまいを感じた。
「もういい。質問はひとつずつだ。分かったか?」
「うんっ!」
またパァァァッと笑顔が戻る。
愛くるしいといえばそうだろう。だから無下にしきれない。
彼としても、子ども嫌いではあるが鬼ではないのだ。
「じゃあね。ええっとぉ」
「なんだよ」
ニアはどこからか、紙とペンを持ち出して言った。
「――俺とデートするなら、どこがいい?」
「……」
(この世界は、どーなっとんじゃ)
気がつけば憧れ一色だったハズの少年の目には、♡マークが。それくらい、あからさまだった。
「アレン。俺、君に一目惚れしたみたい」
「……」
「アレン?」
「ぼ、僕のそばに近寄るなァァァッ!!!」
結局のところ、事態はあまり変わっていなかった――。
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