4 / 6
悔い改めろマッチ売りの少女♂
しおりを挟む
「――ずいぶん遅かったようですが、ご主人」
薄暗い路地裏に立つ女。
まず目についたのが切れ長の目の背の高い美女だったということ。
東洋人だろうか、珍しく黒髪で肌はここからでもわかるくらい白かった。
メイド服をひるがえし、なぜかモップ (掃除道具)を肩にかついでいる。
「すまない、少し手間取ってね。しかしそっちはかなり順調だったようだね」
ご主人と呼ばれた男は相変わらずオレの右手をつかんでこたえた。
しかし美女、もといメイドは頭一つさげず無表情で。
「ワタシを見くびらないでいただきたい。このようなガキども、チンピラにも劣ります」
そこではじめてオレは気づく。
「お、お前ら!?」
仲間たちが全員、縄で全身ぐるぐる巻きのイモムシみたいな格好でそこら辺に転がってうめいていることに。
「ふむ亀甲縛りか。やるね」
異様なはずの光景に平然としている男にオレは目を剥く。
しかし向こうも普通に。
「菱縄縛りです、ご主人」
「まあ、激しくどっちでもいいが」
「……ふん」
男の苦笑いにメイド女は鼻白んだように肩をすくめる。そして。
「そんなことより、ちゃんと契約の説明は」
「いやまだだ」
契約? なんのことだ。いやそんなことより。
「おいっ、仲間になにしやがった! この女!!」
オレの頭にはカッと血が上った。
だってそうだろう。ここでこいつらがいたら、一瞬でこのオッサンをボコボコにできたんだ。
なのにこんな。まさか一人の女が……。
「私の秘書兼メイドは非常に優秀でね。一通りの武術剣術、もちろん銃火器の扱いはお手の物だ。少し、君の仲間が賑やかだったみたいだな。彼女はこの通り有能だが、少々気難しい部類なのだよ」
そう言って、絶望しきったオレの頬を撫でた。
「……さて契約の説明にうつろうか」
「離せッ、この変態野郎!」
もうパニックだった。
絶体絶命、こんなのありえない。オレはこれからどうなるんだ。
まさかこのオッサンに殺される? 最悪バラされてどこかに売り飛ばされるとか?
イヤだ。絶対にイヤ、まだ死にたくない!
「おいっ、お前ら!! なにしてんだよッ、おいってば!」
助けてくれと必死に仲間に向かって叫ぶ。
でもみんなあらぬ方向を見てハァハァと息を荒らげているだけだ。中にはヨダレをたらしているやつもいる。
「なんなんだ……これ……」
「私は喧しいのは好みませんので、少しばかり薬を投与させていただきました」
メイドはニコリともせずに言う。
「ご主人の代わりに、僭越ながら私が御説明しましょう。まずこれをご覧下さい」
鼻先に突きつけられたのは一枚の紙。しかも見た事のない色の分厚く長い紙だ。中にはズラズラと細かく何か書いてある。
「貧民街育ちの貴方は文字が読めないと思いますので、私が内容をかいつまんで解説いたしますと――」
そのあとの言葉には、オレは言葉を失った。
「か、母さんが……?」
なんとあのクソババァ、オレをこの男に売り飛ばしやがったというのだ。
「ええ。貴女の母親、アンネ・モーラーのサインが契約書に」
「えっ」
書類と言ってら見せられたこれが、母さんがしたサインなのか。
オレはまったく字が読めないしかけない。だってそんなこと、この街では必要なかったから。
むしろ、そんなことより生きるためにしなきゃならない事なんて腐るほどあった。
勉強で腹なんてふくれないだろ。
「信じるか信じないかは貴方次第です。しかしこれは正式な契約。貴方は本日付けで我が主人、アドラー・ヴォルフ様の所有となりました」
なんなんだよそれ。つまりこの男、アドラーとかいうやつのモノになっちまったのか?
「い、いい加減なことをいうな! オレは認めてねえからなっ、仲間だって!!」
「いったでしょう。契約書は取り交わし済みです。そして貴方のお仲間とやらには権限もないのをご存知ですか」
「っ、でもそんなこと……」
完全にイっちまったような目のあいつらを見て、オレは改めて自分の状況を思い知られた。
やられた。あの女、息子を簡単に売りやがったんだ。くそっ、最悪だ。
「理解していただけますね。でしたらこのまま、すみやかに屋敷へお連れします」
「なにを勝手なことを、オレはまだ――っ!?」
その瞬間、顔になにか吹き付けられた。甘ったるい匂いが一気に鼻の中に充満する。
「おいおい。不意打ちは勘弁してくれないか。私まで巻き添えくらうだろう」
さっきまで黙っていた男のとぼけた声とともに、オレの意識は急激に遠ざかっていく。
「あ……ぁ……な、な、に……っ」
ダメだこれは。眠っちゃダメなやつ。気を確かに持て、やめろ、起きろ、ダメ、ねたらダメ。
……必死にこじ開けようとする目も閉じていき、オレの視界はそのまま真っ暗な中に――おちた。
薄暗い路地裏に立つ女。
まず目についたのが切れ長の目の背の高い美女だったということ。
東洋人だろうか、珍しく黒髪で肌はここからでもわかるくらい白かった。
メイド服をひるがえし、なぜかモップ (掃除道具)を肩にかついでいる。
「すまない、少し手間取ってね。しかしそっちはかなり順調だったようだね」
ご主人と呼ばれた男は相変わらずオレの右手をつかんでこたえた。
しかし美女、もといメイドは頭一つさげず無表情で。
「ワタシを見くびらないでいただきたい。このようなガキども、チンピラにも劣ります」
そこではじめてオレは気づく。
「お、お前ら!?」
仲間たちが全員、縄で全身ぐるぐる巻きのイモムシみたいな格好でそこら辺に転がってうめいていることに。
「ふむ亀甲縛りか。やるね」
異様なはずの光景に平然としている男にオレは目を剥く。
しかし向こうも普通に。
「菱縄縛りです、ご主人」
「まあ、激しくどっちでもいいが」
「……ふん」
男の苦笑いにメイド女は鼻白んだように肩をすくめる。そして。
「そんなことより、ちゃんと契約の説明は」
「いやまだだ」
契約? なんのことだ。いやそんなことより。
「おいっ、仲間になにしやがった! この女!!」
オレの頭にはカッと血が上った。
だってそうだろう。ここでこいつらがいたら、一瞬でこのオッサンをボコボコにできたんだ。
なのにこんな。まさか一人の女が……。
「私の秘書兼メイドは非常に優秀でね。一通りの武術剣術、もちろん銃火器の扱いはお手の物だ。少し、君の仲間が賑やかだったみたいだな。彼女はこの通り有能だが、少々気難しい部類なのだよ」
そう言って、絶望しきったオレの頬を撫でた。
「……さて契約の説明にうつろうか」
「離せッ、この変態野郎!」
もうパニックだった。
絶体絶命、こんなのありえない。オレはこれからどうなるんだ。
まさかこのオッサンに殺される? 最悪バラされてどこかに売り飛ばされるとか?
イヤだ。絶対にイヤ、まだ死にたくない!
「おいっ、お前ら!! なにしてんだよッ、おいってば!」
助けてくれと必死に仲間に向かって叫ぶ。
でもみんなあらぬ方向を見てハァハァと息を荒らげているだけだ。中にはヨダレをたらしているやつもいる。
「なんなんだ……これ……」
「私は喧しいのは好みませんので、少しばかり薬を投与させていただきました」
メイドはニコリともせずに言う。
「ご主人の代わりに、僭越ながら私が御説明しましょう。まずこれをご覧下さい」
鼻先に突きつけられたのは一枚の紙。しかも見た事のない色の分厚く長い紙だ。中にはズラズラと細かく何か書いてある。
「貧民街育ちの貴方は文字が読めないと思いますので、私が内容をかいつまんで解説いたしますと――」
そのあとの言葉には、オレは言葉を失った。
「か、母さんが……?」
なんとあのクソババァ、オレをこの男に売り飛ばしやがったというのだ。
「ええ。貴女の母親、アンネ・モーラーのサインが契約書に」
「えっ」
書類と言ってら見せられたこれが、母さんがしたサインなのか。
オレはまったく字が読めないしかけない。だってそんなこと、この街では必要なかったから。
むしろ、そんなことより生きるためにしなきゃならない事なんて腐るほどあった。
勉強で腹なんてふくれないだろ。
「信じるか信じないかは貴方次第です。しかしこれは正式な契約。貴方は本日付けで我が主人、アドラー・ヴォルフ様の所有となりました」
なんなんだよそれ。つまりこの男、アドラーとかいうやつのモノになっちまったのか?
「い、いい加減なことをいうな! オレは認めてねえからなっ、仲間だって!!」
「いったでしょう。契約書は取り交わし済みです。そして貴方のお仲間とやらには権限もないのをご存知ですか」
「っ、でもそんなこと……」
完全にイっちまったような目のあいつらを見て、オレは改めて自分の状況を思い知られた。
やられた。あの女、息子を簡単に売りやがったんだ。くそっ、最悪だ。
「理解していただけますね。でしたらこのまま、すみやかに屋敷へお連れします」
「なにを勝手なことを、オレはまだ――っ!?」
その瞬間、顔になにか吹き付けられた。甘ったるい匂いが一気に鼻の中に充満する。
「おいおい。不意打ちは勘弁してくれないか。私まで巻き添えくらうだろう」
さっきまで黙っていた男のとぼけた声とともに、オレの意識は急激に遠ざかっていく。
「あ……ぁ……な、な、に……っ」
ダメだこれは。眠っちゃダメなやつ。気を確かに持て、やめろ、起きろ、ダメ、ねたらダメ。
……必死にこじ開けようとする目も閉じていき、オレの視界はそのまま真っ暗な中に――おちた。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説

ヤバい薬、飲んじゃいました。
はちのす
BL
変な薬を飲んだら、皆が俺に惚れてしまった?!迫る無数の手を回避しながら元に戻るまで奮闘する話********イケメン(複数)×平凡※性描写は予告なく入ります。
作者の頭がおかしい短編です。IQを2にしてお読み下さい。
※色々すっ飛ばしてイチャイチャさせたかったが為の産物です。

愛人は嫌だったので別れることにしました。
伊吹咲夜
BL
会社の先輩である健二と達哉は、先輩・後輩の間柄であり、身体の関係も持っていた。そんな健二のことを達哉は自分を愛してくれている恋人だとずっと思っていた。
しかし健二との関係は身体だけで、それ以上のことはない。疑問に思っていた日、健二が結婚したと朝礼で報告が。健二は達哉のことを愛してはいなかったのか?
【完結】催眠なんてかかるはずないと思っていた時が俺にもありました!
隅枝 輝羽
BL
大学の同期生が催眠音声とやらを作っているのを知った。なにそれって思うじゃん。でも、試し聞きしてもこんなもんかーって感じ。催眠なんてそう簡単にかかるわけないよな。って、なんだよこれー!!
ムーンさんでも投稿してます。

花嫁さんは男前
丸井まー(旧:まー)
BL
村で10年に1度行われる神事で、幸福の運命の番に選ばれ、結婚することになってしまったデビィとルーカスのお話。
男前×平凡。
※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。
(リクエストをくださった、はかてなほ様に捧げます。リクエスト【流され受け】楽しいリクエストをありがとうございました!)

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

どうしてもお金が必要で高額バイトに飛びついたらとんでもないことになった話
ぽいぽい
BL
配信者×お金のない大学生。授業料を支払うために飛びついた高額バイトは配信のアシスタント。なんでそんなに高いのか違和感を感じつつも、稼げる配信者なんだろうと足を運んだ先で待っていたのは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる