上 下
26 / 26

玉の輿になるまで待ってろ

しおりを挟む
「今、蹴ったよな?」

 大真面目にオレの腹に耳を当ててた遼太郎が言った。

「だな」

 いつもはグネグネ動く感じなんだけど珍しいよな、と付け加えて答えると。

「やっぱりこの子は天才かもしれん」

 とまた神妙な顔。

「親バカめ」

 愛しくなって、可愛いバカの頭を撫でるオレもたいがいだな。

「……腹が大きくなってきた」

 ぽつりと遼太郎が言った。

「さめたか?」
「いや、むしろ」

 立ち上がるとオレの肩を抱く。

「俺の子を育ててくれてるんだって自覚できて、嬉しくなった」
「そうか」
「ありがとう」

 礼を言われるなんて。オレの方こそ、幸せすぎて怖くなるくらいなんだけどな。
 でも。

たせて言うことじゃないな」
「……むぅ」

 ちょうど当たったところを触ってやると、気まずそうなのがまだガキって感じ。

「妊婦に興奮するとか」
「さめたか」
「いや、全然」

 少し背伸びして彼の頬にキスをする。

「可愛いとは思ってるよ」
「瑠衣」
「でも臨月だし――って、んぅッ!?」

 抱え込むように口付けられた。

「んんっ、ふ、ぁ……んぅ」

 こいつキス上手くなったなぁ、なんてぼんやりと考える。
 
 ――あれから驚くほどあっという間に日々が過ぎた。

 オレの悪阻がおさまって体調がよくなった頃に退院。家に帰ると、泣き顔の美紅と優しい笑顔の母さんに迎え入れられた。

『お兄ちゃんのバカバカバカバカァァッ!!!』

 そう叫ばれ、思い切り腹パン食らったのは何故か遼太郎だったな。

 やはりオレは妊娠を苦に家出って事になってたらしい。錯乱状態なのと悪阻による衰弱で一時保護入院と聞いてたと。

 その件に関して何度も謝った。
 母さんの病院もあったのに、美紅には全部押し付けた形になったし心配もかけた。でも二人は。

『おかえり。そしておめでとう』

 って言って抱きしめてくれた。もうめちゃくちゃ泣いたもんで、今でも美紅にあの時の事をからかわれるんだけどな。

 きっと色々と言いたいことあったと思う。
 なのに何一つ責めることなく、受け入れてくれた家族にこれから先も頭が上がらないんだろうな。

 それから遼太郎の両親にも挨拶に行ったり、遼太郎がうちに挨拶に来たり (その時には美紅が彼に肩パンしてた)色々とあったな。

 バイトは両方とも最初の入院の時に辞めてしまったけど、カフェの店長からは。

『出産して落ち着いたら赤ちゃんに会わせてね。それと、また働けそうな状況になったら連絡ちょうだい。こき使ってあげるわね』

 なんて言ってもらえた。まあバイト先の人達にも迷惑かけたから、実際甘えるわけにはいかないだろうけどな。

 ……あとは奏斗さんのこと。

 あの人のことは後から聞いた。施設育ちっていうのまでは知ってたけど、そこで一緒に育った年上の男性Ωと関係を持ったらしい。

 というのも最初は奏斗さんの片想いで。その人が施設を出て一年後、外で再会しての事だったとか。

『でもあれ、絶対に合意じゃなかったと思うんスよね』

 そう話したのは雅健だ。

 なんとあいつがいた施設も同じ所で、二人のことは人づてでも聞いたことがあったとか。

『Ωを犯して妊娠させたαがいた。でもαであるという事実と、彼を施設から引き取った人間が大企業を複数経営する実業家だったから、全てもみ消された』

 そんな闇深い噂。

 確かに今でもありがちなんだよな。
 彼はそのΩのことをずっと好きで、でも先に施設から出てしまった彼を想い続けていた。

 一年して、彼と再会して無理矢理関係を迫ったってことか。
 
 しかしそのΩは数年後に死んでしまったらしい。
 死因は明らかにされていないけど、多分……。
 
『そこから壊れたってワケ』

 顔を歪めながら雅健は吐き捨てた。

『同じαとして、僕は奴を軽蔑する』

 その気持ちも何となく分かる。オレだって、あんなひどいことされて。お腹の子がいなかったらどうなっていたか。

 そもそも周囲の人達に助けられた部分も大きいからな。

『でももう、奏斗は西森さんに近付かないっスよ』

 だから安心して欲しい、と言った理由は明かさなかった。
 きっと色々と事情があるんだろう。でも最後の。

『こうするしかなかったから』

 っていう呟きの意味が今でも分からない。

「やばいな」

 遼太郎がしかめっ面していた。

「なにが」
「……」
「おい黙るな」
「……」
「おい!」

 またその無口キャラでいくわけじゃないよな?
 やめてくれよ。オレはに惚れたわけじゃない。
 遼太郎そのものに惚れたんだ。

 昔の泣き虫で可愛かった時から、今のデカくて賢いだろうに少しアホなガキのこいつの事が。

「遼太郎」
「……………しい」
「え?」
「約束、して、欲しい」

 約束ってなんだ。いつになく情けない顔をするヤツの目を覗き込む。

「なにを約束すればいい?」
「呆れない、軽蔑しないって約束してくれ」
「へ?」

 そりゃ今更だな。する訳ないだろ、と笑うとようやく安心したようにうなずいた。

「臨月だし、その……我慢しようと思ったから、せめてキスだけでもって思った」
「うん?」
「そしたら余計に…………おさまらなくなった」
「ぶはっ!!!」

 思わず吹き出しちまったじゃないか。

「おまっ、それでそんな深刻そうな……ぶふっ!」
「笑うことねぇだろ」

 あんまりにもあんまりな話と、遼太郎の様子にひとしきり笑いまくった。だってそれこそ今更すぎるだろ。
 でも思えば、こいつもまだ十代。そりゃあ、な。
 
「なあ、遼太郎」

 オレはそっと彼のを服の上から撫でた。

「愛しの旦那様のケアは、オレの役目だと思う」
「る、瑠衣!?」

 ああ気分がいい。
 クール系なんてとんでもない、すっかり真っ赤になったこの男の頬にもう一度キスをしてから。

「まかせてくれる、よな?」
 
 と囁いた。

 ――オレはやっぱり、年下との青田買い婚の方が向いていたらしい。








 
 


 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

理香は俺のカノジョじゃねえ

中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。

こじらせΩのふつうの婚活

深山恐竜
BL
宮間裕貴はΩとして生まれたが、Ωとしての生き方を受け入れられずにいた。 彼はヒートがないのをいいことに、ふつうのβと同じように大学へ行き、就職もした。 しかし、ある日ヒートがやってきてしまい、ふつうの生活がままならなくなってしまう。 裕貴は平穏な生活を取り戻すために婚活を始めるのだが、こじらせてる彼はなかなかうまくいかなくて…。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

処理中です...