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蛇足的な何か
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ようやく手に入れた。
――なんて思うほど、俺は浅はかではない。
「この変態!」
燃えるような目をした彼が、こちらを睨みつけてくる。
馬鹿だな、俺をあおるだけなのに。
「さっさと離せっ、このホモ野郎」
「縄は解いたが?」
そう。腕を締め上げていた縄も手錠も、すべて外してやった。
可哀想に、手首に傷跡が残ったな。でも、彼も悪いんだぞ。俺から逃げようなんて思うから。
「そういうことじゃない!」
掠れた声で懸命に怒鳴りつける姿が、なんとも愛しい。
それと彼の首に付けた首輪。白い肌に良く似合う、真っ赤な飾り。ちゃんと吟味して用意したんだぜ。
材質や幅、つけ心地にいたるまで。すべてを完璧にしてやりたかったから。
「お前は俺の、女だろうが」
所有の証ってやつだ。
そうでもしないと、この哀れで可愛いこいつはすぐに他のメス犬の所へ行ってしまう。
そんなこと、俺が許すはずがない。
「調子にのんなよッ、オレはお前のモノじゃない。今すぐ、警察に突き出してやるっ!!」
「男にレイプされてイかされました、ってか? そのケツでも振って、泣きつくんだろうな」
「なっ!?」
そこで俺は、部屋のすみに視線を走らせた。
妙に聡いあいつは、それで意味が分かったらしい。
「まさか……お前……」
「ちゃんと記録しておいたぜ。なんせ、二人の初めてだ」
ここへ運んでから今まで。この会話すら、ちゃんも録画してある。後で何度も見返せるように。
俺も彼も。初心忘るべからず、ってな。
「そ、そんな……ひどい……」
真っ青になって、ガタガタ震える彼も愛しい。もっと怯えてくれ。だが最後には、俺を愛してくれたらな。
「オレがお前に何したって言うんだよ!?」
「なにを? そうだな――」
俺はふと、これまでの事を回想し始めた。
※※※
恋に落ちるってのはよく出来た表現で、まさに俺がそうだ。
今まで何気なく吸っていた空気も、網膜に映してきた景色も。全てが一変する、衝撃。
高いビルから飛び降りたって、これほどのショックは受けないだろう。
それくらい、新島 晶との出会いは俺にとっての運命だった。
上京して間もなく始めたバイト。そこで同じ日に入った奴が、すごく美人で。
それが同じ大学の同年齢ってだけで、俺は運命を感じた。
言っておくが、俺は別に男が好きってわけじゃない。かと言って、女が好きと言うわけでもない。
恋愛感情そのものが希薄だったんだろう。
友情はわかるが、愛情はよく分からない。家族愛や友愛と同じだった。
奇特なことに、こんな俺にも熱烈なアプローチをかけてくれる女性もいたな。
でもやっぱりよく分からなかった。
結局、当時していた部活や趣味の筋トレの方を優先してすぐにフられる始末。
しかし、これは全面的に俺が悪い。
……そんな中で、運命の出会いをしてしまった。
なにがどうなったのか、今でも分からない。だが、ただ彼が欲しくなった。
まずは友達になりたい。
これはそんなに難しくなかった。同性の友達は多かったから、付き合い方はわかっている。
可愛いあいつは、すぐに懐いてきてくれた。
女にはモテるくせに、友達関係はやたら広くて薄い。それは本人も自覚していたのか、少しずつ心を開いていく過程がたまらなく嬉しかったのを覚えている。
こちとら惚れているから飯だって奢るし、愚痴だって何時間も付き合う。
まぁ俺はその分、彼と時間を共有できるから幸せだったがな。
でも知れば知るほど、気落ちもした。
『女好きでクズ野郎』
一夜限りなんて、両手両足を使っても数え切れないじゃないか。
同時進行も当たり前で、いつしかそんな価値観の女しか寄ってこなくなった。
そうしたら飽きたのか、今度は他人の女を寝取ることまで始めるまでに。
無理矢理とはいわないが。晶のような男が微笑めば、大抵の女は顔を赤くするだろう。
そうして思わせぶりな言動でたぶらかして、一度だけ抱く。
――それをやらかしたのは、今回もだ。
『い、一ノ瀬君……』
女達と楽しげにしゃべる彼を、苦々しく見ていた俺に声をかけた奴ら。
『君、彼の友達だろ?』
なんというか、ひどく特徴的な野郎どもだった。
伏し目がちで、筋肉の乏しい猫背。ボソボソと、でも妙に早口で話すこいつら。いわゆるオタク、の中の陰キャという分類だろう。
なんだ、とこたえれば。
『友達ならっ、アイツをどうにかっ、してくれよ!!!!』
お前らが晶のことをアイツ呼ばわりするな、とか。いきなりなに偉そうに、とか。
色々と言いたいことはあったが、とりあえず話を聞くことにしたのが運命の分かれ道だな。
『新島のやつ……うちの姫を、おれ達から奪ったんだ!』
どういう事だとうながせば。つまりこういうことらしい。
こいつらが所属するサークルには、いわゆる『オタサーの姫』というべき女がいると。
決して抜けがけせず、皆で大切にしてきた姫を横からあっさりモノにした男がいたと。
それが晶だ。
しかも一夜でヤリ捨てで、そこからその姫は変わってしまったらしい。
『ビッチに成り下がったんです!』
正しく言うと。すっかり男には目覚めてスッピンだった顔をメイクで塗りたくり、彼らの愛した姫の面影は無くなったと。
そんなの知るか、と突き放そうかと思った瞬間。
俺は閃いた。これは機会であり、転機だと。
そして使命なのだとも。
※※※
「なぁ、晶」
猫なで声の俺の言葉に、警戒する可愛い男。
「俺はな、お前を育て直したい」
そう、その歪んだ恋愛観を正してやりたい。
一生を尽くして、運命の相手を愛していく一途さを彼に教えたいのだ。
「そのためには、お前は俺を愛さなければならない」
女として、俺を愛するのは当然のことだろう?
以前、俺は清楚系が好きだ。と言ったが。まさに彼はそうだな。
誰も突き立てたことのない蕾に、指やペニスを挿れられて泣いていた。
あの録画は、後で何度も再生しよう。
「一緒に、幸せになろうな」
抵抗も忘れ、色を失う彼の頬に指を這わせた。
――なんて思うほど、俺は浅はかではない。
「この変態!」
燃えるような目をした彼が、こちらを睨みつけてくる。
馬鹿だな、俺をあおるだけなのに。
「さっさと離せっ、このホモ野郎」
「縄は解いたが?」
そう。腕を締め上げていた縄も手錠も、すべて外してやった。
可哀想に、手首に傷跡が残ったな。でも、彼も悪いんだぞ。俺から逃げようなんて思うから。
「そういうことじゃない!」
掠れた声で懸命に怒鳴りつける姿が、なんとも愛しい。
それと彼の首に付けた首輪。白い肌に良く似合う、真っ赤な飾り。ちゃんと吟味して用意したんだぜ。
材質や幅、つけ心地にいたるまで。すべてを完璧にしてやりたかったから。
「お前は俺の、女だろうが」
所有の証ってやつだ。
そうでもしないと、この哀れで可愛いこいつはすぐに他のメス犬の所へ行ってしまう。
そんなこと、俺が許すはずがない。
「調子にのんなよッ、オレはお前のモノじゃない。今すぐ、警察に突き出してやるっ!!」
「男にレイプされてイかされました、ってか? そのケツでも振って、泣きつくんだろうな」
「なっ!?」
そこで俺は、部屋のすみに視線を走らせた。
妙に聡いあいつは、それで意味が分かったらしい。
「まさか……お前……」
「ちゃんと記録しておいたぜ。なんせ、二人の初めてだ」
ここへ運んでから今まで。この会話すら、ちゃんも録画してある。後で何度も見返せるように。
俺も彼も。初心忘るべからず、ってな。
「そ、そんな……ひどい……」
真っ青になって、ガタガタ震える彼も愛しい。もっと怯えてくれ。だが最後には、俺を愛してくれたらな。
「オレがお前に何したって言うんだよ!?」
「なにを? そうだな――」
俺はふと、これまでの事を回想し始めた。
※※※
恋に落ちるってのはよく出来た表現で、まさに俺がそうだ。
今まで何気なく吸っていた空気も、網膜に映してきた景色も。全てが一変する、衝撃。
高いビルから飛び降りたって、これほどのショックは受けないだろう。
それくらい、新島 晶との出会いは俺にとっての運命だった。
上京して間もなく始めたバイト。そこで同じ日に入った奴が、すごく美人で。
それが同じ大学の同年齢ってだけで、俺は運命を感じた。
言っておくが、俺は別に男が好きってわけじゃない。かと言って、女が好きと言うわけでもない。
恋愛感情そのものが希薄だったんだろう。
友情はわかるが、愛情はよく分からない。家族愛や友愛と同じだった。
奇特なことに、こんな俺にも熱烈なアプローチをかけてくれる女性もいたな。
でもやっぱりよく分からなかった。
結局、当時していた部活や趣味の筋トレの方を優先してすぐにフられる始末。
しかし、これは全面的に俺が悪い。
……そんな中で、運命の出会いをしてしまった。
なにがどうなったのか、今でも分からない。だが、ただ彼が欲しくなった。
まずは友達になりたい。
これはそんなに難しくなかった。同性の友達は多かったから、付き合い方はわかっている。
可愛いあいつは、すぐに懐いてきてくれた。
女にはモテるくせに、友達関係はやたら広くて薄い。それは本人も自覚していたのか、少しずつ心を開いていく過程がたまらなく嬉しかったのを覚えている。
こちとら惚れているから飯だって奢るし、愚痴だって何時間も付き合う。
まぁ俺はその分、彼と時間を共有できるから幸せだったがな。
でも知れば知るほど、気落ちもした。
『女好きでクズ野郎』
一夜限りなんて、両手両足を使っても数え切れないじゃないか。
同時進行も当たり前で、いつしかそんな価値観の女しか寄ってこなくなった。
そうしたら飽きたのか、今度は他人の女を寝取ることまで始めるまでに。
無理矢理とはいわないが。晶のような男が微笑めば、大抵の女は顔を赤くするだろう。
そうして思わせぶりな言動でたぶらかして、一度だけ抱く。
――それをやらかしたのは、今回もだ。
『い、一ノ瀬君……』
女達と楽しげにしゃべる彼を、苦々しく見ていた俺に声をかけた奴ら。
『君、彼の友達だろ?』
なんというか、ひどく特徴的な野郎どもだった。
伏し目がちで、筋肉の乏しい猫背。ボソボソと、でも妙に早口で話すこいつら。いわゆるオタク、の中の陰キャという分類だろう。
なんだ、とこたえれば。
『友達ならっ、アイツをどうにかっ、してくれよ!!!!』
お前らが晶のことをアイツ呼ばわりするな、とか。いきなりなに偉そうに、とか。
色々と言いたいことはあったが、とりあえず話を聞くことにしたのが運命の分かれ道だな。
『新島のやつ……うちの姫を、おれ達から奪ったんだ!』
どういう事だとうながせば。つまりこういうことらしい。
こいつらが所属するサークルには、いわゆる『オタサーの姫』というべき女がいると。
決して抜けがけせず、皆で大切にしてきた姫を横からあっさりモノにした男がいたと。
それが晶だ。
しかも一夜でヤリ捨てで、そこからその姫は変わってしまったらしい。
『ビッチに成り下がったんです!』
正しく言うと。すっかり男には目覚めてスッピンだった顔をメイクで塗りたくり、彼らの愛した姫の面影は無くなったと。
そんなの知るか、と突き放そうかと思った瞬間。
俺は閃いた。これは機会であり、転機だと。
そして使命なのだとも。
※※※
「なぁ、晶」
猫なで声の俺の言葉に、警戒する可愛い男。
「俺はな、お前を育て直したい」
そう、その歪んだ恋愛観を正してやりたい。
一生を尽くして、運命の相手を愛していく一途さを彼に教えたいのだ。
「そのためには、お前は俺を愛さなければならない」
女として、俺を愛するのは当然のことだろう?
以前、俺は清楚系が好きだ。と言ったが。まさに彼はそうだな。
誰も突き立てたことのない蕾に、指やペニスを挿れられて泣いていた。
あの録画は、後で何度も再生しよう。
「一緒に、幸せになろうな」
抵抗も忘れ、色を失う彼の頬に指を這わせた。
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