オタサーの姫を奪ったゲス野郎に制裁がくだる理由

田中 乃那加

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罪1

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「あーあ、こんなもんなんだよなァ」

 タバコに火をつけて鼻で笑うオレも、隣でブッサイクな寝顔さらしてるこの女も。
 仲良く生まれたまんまの姿、つまり素っ裸って状態でさ。
 
 つか、こいつよく見たらめちゃくちゃバケモンじゃねぇかよ。眉毛太くて、つながってるのはなんでだ。
 あと腫れぼった一重なんだな、とか。化粧落もろくにしない肌が、ドン引きするほど汚いとか。
 ここがクソみてぇな安っぽいラブホでも、よくよく分かるブス具合がたまらない。

 ――オレ、新島 晶にいじま あきらは世間一般でいうところのイケメンだ。
 いや。別にふざけてるとか、自惚れてるとかじゃないよ? こんなの他称だし、オレは別に持って生まれた顔がたまたまこうだっただけ。
 むしろ、人の目鼻立ちでとやかく言われるのはそこまで嬉しくない。

 ただ持ってるものは、最大限に使えってね。
 ほら、生まれつき足が早いやつは陸上なりなんなりで成績のこすだろ? スタイルの良い奴はモデルにでもなるのかもしれない。
 それと同じ。
 オレは、この顔で女を口説いてるだけ。
 
「んぅ……新島……くん?」

 あ、起きた。いやぁ、見れば見るほど無惨な寝起き顔だな。
 なんつーか。きらびやかなネオン街も、一夜明ければ酔っ払い共のゲロやゴミにまみれた汚い路地裏って感じ。
 その落差に、萎えることの無いが羨ましい。

「サヤカちゃん、おはよー」
「ふえぇ♡……新島くんってば、サヤカの寝顔みてたのぉ?」

 ああ、見てたよ。そのクソ汚い面をな。ヨダレたれてたぜ。オマケに歯ぎしり? アレで起こされたオレの身にもなって欲しい。
 そして今すぐその荒野のような顔面を何とか整地して、立ち去ってくれないか。
 
 ……なぁんて、口にするワケにもいかず。

「サヤカちゃん。時間大丈夫?」

 なんて曖昧に微笑んで聞いてやる。
 するとジャガイモみたいな肌を薄ら染めた女が、くねくねと都市伝説になりそうな照れ方をした。

「んにゃっ♡ いっけなーい。サヤカ、今日午朝から授業だったぁ♡」
「じゃあ急がなきゃね?」
「うんっ♡」

 ハートマーク飛ばしてんじゃねぇよ。
 うわ、よくよくみたら足もガサガサじゃん。
 そろそろ顔が引き攣るのを感じながらも、オレはある種のに浸っていた。

「新島くんは、いいの?」
「ああ。少し後から出るから」
「えぇ~っ! 一緒に行こうよぉ」

 バタバタと慌ただしく顔面工事に勤しむ女。
 オレは口元だけ笑みをつくって、タバコの火を消した。

「サヤカちゃん」
「!」

 その痩せぎすな肩に、後ろから腕をまわす。

「君のが、怒ると思うけどな」
「新島くんっ……!」

 耳まで真っ赤にして。気持ち悪いなぁ。
 お前みたいな女とホテルから出てきたとこ見られたら、それこそ大事故だっつーの。
 化粧してるくせに鏡ちゃんと見ろ。いや、現実見ろ。
 
「また後で、ね?」
「ひゃんっ♡」

 首元にそっと、唇を寄せる。
 我ながら、これみよがしのキスマークが付いたことを確認してから。ようやく解放してやった。

「新島きゅぅぅんっ♡♡」
「あ。オレ、電話」

 飛びかかってくる猛獣……じゃなかった。女をさらりとかわして、オレはスマホ片手にその場を離れる。

「おう、伊織いおり。なんだよ、朝から。え、またかよ。しかたねぇな……またシフト変われよ」

 同じバイト先で、色々とつるむことの多い奴からだった。

「ごめん、やっぱりオレが先出るわ」

 モタモタと準備だけはかかるノロマな女を置いて、立ち上がる。
 
「じゃーね」

 その時、このクソビッチに向けた笑顔は最高に優しいものだったと思う。


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