地雷系男子は恋をしない

田中 乃那加

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地雷男子はピンクにつき

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 はした金で尊厳とプライドを売る――そう思っていた時期が叶芽にもあった。

「はぁっ、あ、あんっ、ああ」

 突かれるたびに息を乱し舌をほんの少し出して喘ぐ。
 胎内をローションと体液の入り交じったペニスが擦り上げるたび、ぬちゃぬちゃと水音が耳を塞ぎたくなるくらい不快であった。

「ああ、っ、あっあっ、き、きもち、いぃ、ぁん」

 男を抱いているはすなのに女のような嬌声を求める客をどこか冷静に見上げながら、叶芽は揺さぶられ続ける。

「っ……すごく可愛いよ」

 客である中年男が鼻息荒く見下ろす。ぬらぬらと汗で濡れた腹はでっぷりと突き出ていて、薄暗い部屋では何か前衛的なオブジェのようだと叶芽はぼんやり考えていた。

「あっ、あぁ……!?」

 気持ちよくないわけではない。度重なるアナルセックスで快感を拾わずにはいられないのだが、それでも夢中になるほどでは無いだけ。

 ただ少し。男のアレが弱い所を掠めた瞬間、大きく開いた脚先に力が入る。それを目ざとく見つけられたらしい。

「ここ、だよねっ……アヤメちゃんの、
「ひっ!? あぅっ、や、やめっ……ひぁっ、あ゙ァッ、ちょ、やめ、やだ!」

 ――このクソ変態野郎。

 下手であった方がまだ楽。さっきまでの余裕はどこへやら、大きく仰け反って逃げを打とうする身体は押さえつけられ快感を叩きつけられる。

「今日はオジサンね、頑張っちゃうから」
「な……なに……んぁっ!? あ゙ぅ、うっ、あ」

 ――やだやだやだやだ!

 身体をひっくり返され後ろから押し入ってくる。
 的確な前立腺刺激に、目の前がチカチカとして思わず首を激しく横にふる。

「も、もう……ん゙あっ、ああ、あ!」

 ――ダメ、もう。

 上り詰めていく感覚にキツく目をつぶった。

「ああっ、ひ、ぃ、い、いぐっ、イくからぁっ!」

 白いシーツに縋り付きか細い悲鳴を上げながらの絶頂。腰をガクガクと震わせ、ようやく終わったと脱力しかけた時だった。

「っ、な、なんで!? や゙だっ、あ゙っ、イった! イったのに!! あ゙ぁぁっ、あ゙あっ、ああ……!」
 
 いつもならここで相手も射精して終わるのだが、今日はそうもいかないらしい。
 やめてもらうどころか、いっそうねちっこく続く快楽責めに泣きながら喘ぐ。

「ははっ、言ったでしょ。オジサンも頑張ちゃうって」
「そんなぁ! せ、せめて、休ませてっ、あっ、あうっ、あ゙ぁ、やだ、とめろよぉぉっ!!」
「ダメダメもっと頑張って。ちゃんとお金払ったんだから」

 容赦なく突いてくる男と泣きわめく叶芽。
 安っぽいラブホテルの薄暗い部屋に悲鳴じみた嬌声が響いた。



 ※※※

「ごめんねぇ、なんか」

 謝るならするな、と内心呟きながらも黙ってうなずく。
 
「アヤメちゃんがあんまりにも可愛かったからさぁ」
「……どうも」

 しつこく弄られた乳首も舐められた時の唾液で中耳炎にでもなりそうな耳の穴も。もちろん何度も中に出されたアナルも亀頭責めで痛みすら覚えているペニスも。
 すべてが惨めで涙すら出なかった

「本当に可愛いね、アヤメちゃん」

 髪を撫でられ背中があわだつ。

 ――気持ち悪い。

 しかし叶芽自身がもっとも嫌悪するのは、そんな男相手に金で股を開く己の方。

「アヤメちゃんは学生って言ってたけど、忙しくないの」
「いやまぁ、それなりに」

 嘘だ。
 この世界もまた若い方が、そして学生である方が需要がある。だからマッチングアプリのプロフィールですでに嘘をつく。

 十九歳大学生。少し無理があると叶芽 
思ったが、元カレに言われてそう設定した。
 
 十代、だが大学生であればハードルは下がる。
 名前だって偽名だ。

「うちの娘も大学生だけどね。やれ合コンだの彼氏とデートだのって。まったく勉強はどうしてんのかってね」
「へぇ」

 なんとこの男、既婚で娘がいるのにも関わらず同じ年齢 (虚偽ではあるが)の少年を買っているのだ。

「後々の就活だって――そういえばうちの会社の新人のが同じ名前だったなぁ。もちろん君の方が可愛いけど」

 アヤメも女性名だったらそう珍しくないだろう。
 そもそもこの偽名は身内からとったものだ。

「ねえアヤメちゃん」

 ベッドが軋む。

「また会ってくれるよね?」

 たしかに金払いは良かった。セックスはハードで痛めつけられはしたが、今まで受けた仕打ちに比べればマシだと言えよう。
 だが。

「僕、少し金が必要で。だから今日だけでいいです」

 どうせ家賃を支払ったら死ぬのだ。出来もしない約束はしたくない。

 こう見えて叶芽には真面目な一面があった。だからこそ彼自身の生い立ちを含め、自身をここまで追い詰め堕としてしまったのだろう。

「しかし――」

 男は何か言いたげだったが。

「じゃあ先に出ますね、ありがとうございました」

 叶芽はフラつく足を踏みしめながら服を着て立ち上がり軽く頭をさげて、部屋を出ていった。

 

 ※※※

「っ、うぇ゙……っ」

 駅のトイレでうずくまる。

 ――汚い、汚い汚い汚い汚い。

 汚物を身にまとっているような嫌悪感。
 事後にシャワーを浴びないのは、その間に荷物を漁られて身分証や金を取られたりを防ぐため。
 
 いつもならコンドーム無しの胎内の後処理も含めてホテルで客と一緒に入浴するのだが、それも億劫で逃げ出してきた。

 ――風呂場で第二ラウンド、なんてことになったら割に合わない。

 あといわゆるお手当ては最初にもらうのが約束だが、それだってゴネる客も多い。
 風俗店に属せず、自分で客を見つけるのなら仕方のないことだった。

「うげぇ」

 匂いも何もかもついている気がする。早く帰りたかったが、どうも我慢出来なかったのだ。

「っはぁ、消えたい……」

 この薄汚れた身体ごとなにも残さず消滅してしまえば良いのに。
 そう夢想しながら、目尻に浮かんだ涙を手の甲で拭った。

 ――新卒、かぁ。

 同じ歳の女性がどこかで社会人として、まともな人生を送っている。
 叶芽のような底辺とは雲泥の差だ。

彩芽あやめ……」

 劣等感コンプレックスのもととなる女性の名を口にする。
 一筋の涙が頬を伝った。




 





 
 
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