地雷系男子は恋をしない

田中 乃那加

文字の大きさ
上 下
2 / 11

地雷系男子は××できない2

しおりを挟む
「すんませんでしたぁぁぁっ!!!!」
「……うっさい」

 ドアのない部屋にて土下座を見るのはこれで何度目であろうか。

「くそ、僕まで怒られたじゃん」
「すまんっ!」
「だからうるさいっつーの」

 叶芽はうんざりしながら腕を組む。

「お前のせいで色々と台無しだ」

 目の前の土下座男こと御影 光雄みかげ みつおを睨みつけた。

「本当に申し訳ない」

 大きな身体をしょぼんと縮める青年は昨日、隣に引っ越してきたらしい。
 その挨拶に訪ねて来たところドアノブを破壊。テンパってインターホン連打からの大絶叫というむちゃくちゃなコンボをキメたと。

「ドアまで壊しやがって」
「いやだってお化けがって……」
「それはお前の事だバカ」

 怯えた叶芽の声を聞いてドアに強烈タックル食らわせた結果、ノブだけでなく本体も破壊。仲良く大家に正座で説教食らったと。

「で、お前は」
「俺の事は光雄と呼んでくれ、叶芽」
「いや距離感エグいな」

 出会って数十分でこれは無い。
 ただでさえ叶芽は人見知り。こんな男相手だとなおさらだ。

 ――なにこいつ、無駄にいい身体しやがって。

 白タンクトップから覗く腕も自分の何倍の太さだろう。
 鍛え上げられた身体は性的には魅力的だ。
 しかし黒の短髪は清潔感こそあるが童顔気味の顔は好みのタイプとはまるでかけ離れている。

「分かったからさっさと帰って」

 ドアは壊れたままだが仕方がない。
 叶芽は犬か猫でも追い払うような仕草で吐き捨てる。

「叶芽はどうするんだ」
「あ?」
「ドアが壊れているんだぞ」

 だが別に跡形もなく吹き飛んだとかではなく、鍵が機能しなくなっただけだ。
 そう答えるも。

「そんなの物騒だろ」

 と首を横に振る。

「いやお前のせいな。あと僕がいいって言ってんの」
「でも」
「だいたい他人の家のドアぶっ壊した物騒な奴はどこのどいつだ」
「それは……」
「分かったら帰れ。目障りだ」

 ピシャリと言い捨てて無理矢理追い出した。

「お、おい!」

 最後は足で蹴り出す。さすがにここまで拒絶されては何も言えなかったのか、すぐに足音が遠ざかって行く。

「……ふぅ」

 めんどくさい事になった。
 壊れたドアを背にして叶芽は大きくため息をつく。

 ――それにしてもあのドア破壊野郎、身体だけは良かったな。

 そんな場違いなことを考える。

「ああもう」

 男に捨てられて三日。廃人のようになって精も根も尽き果たと思っていたけれど、そうでもないらしい。

「クソが」

 毒づきながらも部屋に戻る。
 生活感も何も無い、ガランとした場所には申し訳程度の毛布が一枚。これにくるまって三日間泣いて泣いて暮らしていたのだ。

 空き巣だって強盗だって苦笑いして立ち去るレベルの空っぽ具合。
 強盗だったらいっその事。

「レイプでもして殺してくれないかなァ」

 無理矢理されるのも慣れているし、むしろそう躾られた身体は悦ぶだろう。
 それに死ねるなら首をくくる手間も省けるというものだ。

「あはは……はは……あー……」

 情けなくなって涙が滲む。どれだけ目を腫らして泣いても涙腺というのは枯れることを知らない。

「ちくしょう……」

 また死にたくなってくる。もう邪魔は入らないだろう、と自身の希死念慮が囁く。
 事故物件にしてしまう罪悪感がそれを止めるが、そんなもの些細な事だ知ったことかという思考。

「縄、しまわなきゃよかったな」

 隣人や大家に見られたくなくて慌てて隠したが、やるなら今しかない気がしてくる。
 
 手にした縄はずっしりと重い。
 文字通り命の重さのような気がしてくる。

「でもこれ」

 元カレ、とも呼びたくない男が持ち込んだものだ。
 
「これで散々嬲られたっけなぁ」

 亀甲縛りにM字開脚縛り、蟹縛りで露出放置プレイからの集団でやりたい放題された事もあった。
 
 思い出すのもはばかられるほどの変態行為と緊縛プレイこ数々が走馬灯のように――。

「いやいやいや。こんな走馬灯イヤすぎるだろ」

 途端に荒縄が気色悪く思えて放り出す。

「ああもう、やめた」

 明日新しい縄買ってこようか、それとも他の自殺方法を模索しにいくか。
 ごろんと床に寝そべり考えていると。

「……」

 身体の奥が疼いてきた。
 特殊プレイの思い出がまた蘇ってくる。

「っ、くそ」

 こんな時にムラムラしてしまうなんて、人間とはしょせん動物なのか。それとも自分が性にだらしがない淫乱なだけか。

『叶芽って顔と身体は最高だよな』

 元カレとはよくそう言いながら彼を抱いた。
 褒められていると自惚れることは無いが不思議だった。

 それ以外に何が必要なんだ、と。

「んぅっ……く」

 知らず知らずのうちに手が前をまさぐっていた。
 衣服をくつろげ、手っ取り早く快感を拾おうとしごき始める。

 ――物足りない。

 完全にネコ (受け)体質であるため、ペニスだけの刺激ではいまいち足りないのだ。しかし女と違い準備が必要だから、今日は我慢するしかない。

「はぁっ、ぁ……んんっ、あ……」

 服の上から乳首までカリカリと軽く爪を立てて愛撫する。

「あっ、あっあっ」

 ここでも野外でも、たくさん犯されてきた。
 一晩で十人ほど受け入れさせられた夜も。さすがにイき過ぎて怖くなり泣き叫んだが気絶するまで止めてもらえなかった。

 はした金で見ず知らずの男の相手をさせられて、曲がりなりにも愛した男に搾取されることも。

 それでも事後は優しく身体を洗われて。

『お前は最高のオンナだよ、叶芽』

 とこれだけは他所の男に許してなかった唇に、そっと口付けしてくれる。
 それだけにすがって生きてきた。それなのに。

「うぅっ……ぁ、んんっ、ひぐ……ぅ」

 また涙が溢れてくる。
 泣きながらも昂っていく性感にどこか冷静であった。

 ――僕はどうしようもないビッチだ。

 明日こそ死のう、そうぼんやり考える。




 
 
 

 



 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ポンコツアルファを拾いました。

おもちDX
BL
オメガのほうが優秀な世界。会社を立ち上げたばかりの渚は、しくしく泣いているアルファを拾った。すぐにラットを起こす梨杜は、社員に馬鹿にされながらも渚のそばで一生懸命働く。渚はそんな梨杜が可愛くなってきて…… ポンコツアルファをエリートオメガがヨシヨシする話です。 オメガバースのアルファが『優秀』という部分を、オメガにあげたい!と思いついた世界観。 ※特殊設定の現代オメガバースです

一日だけの魔法

うりぼう
BL
一日だけの魔法をかけた。 彼が自分を好きになってくれる魔法。 禁忌とされている、たった一日しか持たない魔法。 彼は魔法にかかり、自分に夢中になってくれた。 俺の名を呼び、俺に微笑みかけ、俺だけを好きだと言ってくれる。 嬉しいはずなのに、これを望んでいたはずなのに…… ※いきなり始まりいきなり終わる ※エセファンタジー ※エセ魔法 ※二重人格もどき ※細かいツッコミはなしで

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

愛人は嫌だったので別れることにしました。

伊吹咲夜
BL
会社の先輩である健二と達哉は、先輩・後輩の間柄であり、身体の関係も持っていた。そんな健二のことを達哉は自分を愛してくれている恋人だとずっと思っていた。 しかし健二との関係は身体だけで、それ以上のことはない。疑問に思っていた日、健二が結婚したと朝礼で報告が。健二は達哉のことを愛してはいなかったのか?

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました

西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて… ほのほのです。 ※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

処理中です...