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悪役令息が婚約者をするまで⑤ ※R18注意

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 ※※※


 確かに日付を超えていた。
 深夜一時前。自宅のドアを開けた瞬間、皇大郎は中に引きずりこまれた。

「っ、な゙!?」

 真っ暗な玄関に引き倒され、強かに背中を打つ。
 痛みと恐怖に息が止まるが一体何が起こったのかすら分からなかった。

「遅かったな、皇大郎」

 地を這うような冷たく低い声。倒れ込んだ身体に乗り上げた黒い塊が、人であることに気付いた時にはもう手遅れで。

「だ、だれ……だ」
「婚約者を忘れたのか。悪い子だな」

 ようやく絞り出した疑問に答えたのは抑揚のない言葉。
 いや、よくよく耳をすまさなくてもわかっただろう。それが怒りに震えていると。
 
「貴島社長?」
「ちゃんと名前で呼べよ、って」
「お前、覚えて――」
「忘れたことない、ずっと」

 でもどうして懐かしい感動の再会にならないのだろう。というか何故怒っているのか。
 ここへは来た事ないのに。

「か、鍵……鍵はどうしたんだよ。っていうか、退いてくれないか。電気もつけないと」
「そんなもの必要ない」

 高貴は吐き捨てるかのように言うと、なにか手にしたものを突きつけてきた。

「おい! なにする気だっ、やめろ」
「暴れるなよ。怪我するぞ」

 真っ暗な部屋の中ではよく見えない。しかし辛うじて間近で見て、なんだか鈍く光る細く鋭いモノ。
 もう片手で掴まれた腕に深々と突き刺さり、それがようやく注射針だと理解した。

 ――なんで。

 注射、つまりなにか薬品を注入されたのだ。
 しかしなんの目的で? そもそも何をするつもりなのか。

 それらの疑問がすべて脳内を周り切る前に、急激な変化が皇大郎の身に起こり始めた。

「っ、は、ぁ……!? な、に゙っ、こ、れぇ……」

 熱い。まず数秒、まるで火に焼かれたようにな熱が身体を苛む。
 そして次にじわりと

「おかっ、しい……これ……なに、なんで、やだ……っ、ぼく、に、なにした……!」

 ――あの時みたいな。

 タチの悪いアルフ達に絡まれた時と似ているがそんなのとは比べ物にならない症状に、大きく目を見開き首を力なく振った。

「はつ、じょう、き?」

 しかし薬は飲んだはず。なのにどうして――。

 恐慌状態に陥り潤んだ瞳にうっそりと笑う男が映る。

「勝手に薬飲みやがって。俺の、俺だけのオメガのくせに」
「なんっ、の、こと……か、身体がおかしいっ、たすけて、くれ! たのむ、から」
「やだね。それになんだその服」

 着ていたジャージを力まかせに掴まれた。さすがに布地が裂けることはないが、嫌な音はする。

「他の男の匂いがついたモノを身につけるなんて、ひどい裏切りだな」
「う、うらぎり……?」

 顔こそ笑っているのだろうが、爛々と輝く目の瞳孔が開いていて恐ろしい。怒りに我を忘れている、そんな人間の顔だ。

「ちゃんと待っててやろうと思ったのになァ」

 大きく歪んだ笑みを浮かべた男は次の瞬間、皇大郎の服を乱暴に脱がし始める。
 
「や、やめろ! やだっ、はなせ!!」

 当然抵抗するがどうにもならない。ただでさえ薬で上手く動かない身体。おそらく強制的に発情を起こすモノを注入されたのだろう。

 どんどん疼きは酷くなり、衣服が肌を擦るだけで身悶えしてしまうほどに。

「あっ、あっ、あぁ」

 ――嫌だ。嫌なのに。なんで。

 どうしてこんな事をされなければならないのか。
 貴島 高貴という男が分からない。

 お飾りの婚約者を放っておいて、他に恋人をつくるような奴ではないのか。なのにどうして、まるで着ている服にまで嫉妬して無理やり身体を暴こうとしているかのような。

「もうガチガチだな」
「や……っ、み、見るなぁ!」

 あっという間に全裸に剥かれ、手首を押さえられ隠すことすら出来ない股間を指摘される。
 彼の言う通り、直接触れられたわけでもないのに既に硬く勃起したそこは自らをオスであると身の程知らずにも主張していた。

「最後に情けでも掛けてやろうかな」
「っ、ふざけん……ッあ、あぅ、ぁ! あぁ、ぁあぁ!」

 情け、とは雄のようにペニスで射精させることらしい。
 いきなり荒々しい手つきでソコをしごかれ、無様にも腰を突き上げるように揺らし快感を追い求めてしまう。

「んぁっ、あっ、あっ」
「これでイったら次はもうメスにするからな」

 オメガとなってからはロクにそういう行為をしていない。自分で慰めるのも滅多になく、あってもまるで排泄するかのように淡々としてきたのだ。
 それが他人の、しかもよりにもよってこの男の手で弄られるとは。

「もうやめっ、で、でる! でるからっ!!」
「これもなかなかエロいな。ちゃんと見ててやるからしっかりイけよ」
「くそっ……変態……う、く、ううっ、ぅぁ、うぅぅッ!!」

 せめて声くらい殺そうと唇を噛んで目を閉じた。
 そして苦悶の表情を浮かべながら呆気なく吐精してしまう。

「なかなか濃いな」
「はぁ……っ、あ、ぅ……も、もう、離して、くれ」

 ぜぃぜぃと息を吐きながらぐったりと横たわる皇大郎は呟くように言った。
 何を考えているのかさっぱり分からないが嫌がらせであればもう飽きてくれるだろうとの事だが、そんな甘い話があるわけない。

「ハァ?」

 素っ頓狂な、それでいて心の底からバカにした声で高貴は答える。

「なに言ってんだ。
「……え゙?」

 暗闇の中、それでもギラギラと嫌な輝きを見せる瞳と視線が絡まった。

「誰のモノかわからせてやるよ、こうちゃん」

 ――あ。

 胸を掻き毟りたくなるほどの甘く濃い香りが辺りに立ち込める。
 もう手遅れ。一事が万事、遅かったのだ。
 特に逃げ道はとっくに塞がれている。









 ※※※

「あ゙ぁぁァッ!! や゙、や゙め゙でぇぇ゙っ! も゙、いぎだぐない゙っ、い゙ぃぃ」

 ぐちゅぐちゅ、という水音と。

「っ、ほら、ちゃんと受け止めろよ! 中に出すぞ!!」
「い゙やだぁ゙ぁぁ……」

 荒々しい息遣いと湿った肌同士がぶつかる粘着質な音が音響となって、すっかり茹で上がった皇大郎の脳みそまで犯していた。

「ん゙ひぃぃ! あ゙ーっ、あ゙っ、あぅっ」

 ――だされてる。中に。せいし、いっぱい、僕のなかに。

 もう何度目だろう。
 無理矢理身体を暴かれ開かされて犯される。薬で引きずり出されたオメガの本能に抗えず、こうやって何時間も玄関で抱かれ続けている。

 体位を変えて何回も。
 もう辞めて欲しいと懇願しても、罵詈雑言を浴びせて抵抗しようとしても。そんなものは雄を煽るだけの媚態しかならないのを彼は知らない。

「あー……あ……ぁ」
 
 涙を流し与えられる快楽に茫然自失する姿は、もはや男のそれではない。強い雄に組み敷かれて子種を注がれる雌としての色気が増していくのである。

 ――ころしてくれ。

 望まない快楽が心を狂わせてくる。せめて痛めつけられるのであればよかった。
 しかし目の前のこの男は荒々しい言葉とは打って代わり、身体を暴く時はすがりつきたくなるほど優しく甘やかすのだ。

「んぅっ、ん゙っ、む、ぁ」

 壊れた玩具のように揺さぶられる時も、不意に与えられる口付けに深く蕩けさせられる。

 ――狂う、狂ってしまう。

 自分が自分でなくなるのは恐怖だ。ここまでぐちゃぐちゃにされても、まだわずかばかりに残った理性こそが皇大郎を苛んでいることを彼は知らない。

「なぁ

 ――呼ぶな。

 その名前で呼ばれるたびに踏みにじられていく。記憶が、思い出が、幼い美しい時間が。

 どれだけ冷遇されても。いやまず婚約したのだって彼だったからだ。
 美少女と見まごうばかりの少年と頬を染め合ってした秘密のプロポーズ。なぜか大人になっても色褪せることのなかった思い出は、いつしかこの灰色の日々の一抹の希望となっていたのである。

 それなのに。

「言っただろ、たろくんは俺のお嫁さんだって」

 ――違う。

「ずっと覚えてたんだ。俺のオメガ。俺の、俺だけの」

 ――違う。

 オメガじゃない。いやなかった。そんな穢らしいものじゃない。彼は、は。

 必死で抗おうと回らぬ口を動かそうとするが、そうするとまた舌を吸われてしまう。
 くぐもった息遣いと湿った音が薄暗い部屋に反響する。

 ……外はきっと少しずつ夜が明けてくるのだろう。
 それなのにまだここは、重く囚われたままだ。
 

 
 
 
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