ヘッポコ転生魔道士♂は魔王への生贄!?

田中 乃那加

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24.旅立ちにはゴリラをどうぞ

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  ―――ここに五人の若者たちがいる。

 剣をたずさえた勇者、盗賊シーフ召喚術士サモナーそして魔道士。
 魔道士以外、全員女のパーティだ。

 彼女達はある目的のために、旅を続けていた。
 なにせここは魔法と剣の世界である。

「ミラ。、なんとかならないのかァ?」

 呆れたように言ったのは、盗賊娘のミミナ。
 『あれ』とは彼女たちの背後について歩く、黒ずくめの大男のことだ。

「さっきからこっち睨みつけてやがる……なんだよ、ヤル気かァ!?」
「雌ゴリラVS雄ゴリラ」

 男に拳を振り上げる彼女に、召喚術士のカサネがボソリと呟く。

「おい、カサネ。てめぇもう一回言ってみろっ!」
「うるさい。雌ゴリラ」
「キーッ!!! てめぇ殺してやるぅッ」

 さっそくケンカを始める二人を止めるわけでもなく、女勇者ミラは肩をすくめた。

「相変わらずでしょ」
「ええ。むしろホッとしました」

 微笑ましくうなずいた魔道士テトラは後ろをのっそりとついてくる男、レガリアを見やる。
 
 ―――無事、レガリアに想いを伝えた。それから鼻血さわぎが数回。
 ようやく互いが両想いであったと知ったのが、なんと丸一日経ってからである。
 城中の者たちに呆れられながら、すったもんだの恋愛成就。
 そして二人は、魔城を出た。
 彼を迎えに来たミラ達と、再び冒険の旅に出ることにしたのだ。

 レガリアも一緒に。
 仲間たちと旅に出たい、と主張するテトラと。恋人の事が心配だとゆずらないレガリアと。
 そこで女勇者たちが出した、折衷案せっちゅうあんである。

「彼、最初からあんなんなの?」

 ミラが若干呆れ顔なのは仕方ない。この男、合流してから数時間。ずっとこんな具合なのだ。
 話しかけても返事は『ン』だし、表情は変わらない。
 伝えたい事は、なんと筆談かテトラを介して話すくらいのものである。

「あー、少し人見知りなもんで」
「人見知りのレベル超えてるわ。意思の疎通とれるの?」
「とれますよ。あ、今少し笑ったでしょう」
「……分かんないわよ」

 彼女からはピクリとも動かない表情だが、テトラは笑ったという。
 新手のノロケだろうか、と彼女は思うことにした。
 深く考えても疲れるだけだからだ。

「本当にごめんなさい」
 
 彼女が頭を下げる。
 自分たちの命とひきかえに、彼を魔界に置き去りにしたことへの謝罪だ。
 しかし彼はむしろ困ったように首をかしげた。

「謝らないで。僕は望んでそうなったし。そもそも、僕みたいな魔道士を拾ってくれたこと自体……」
「もう、そういうの言わないのっ」
「いひゃっ!」

 ミラは軽く、彼の頬をつねる。
 そしてほんの少しだけ悲しそうな顔で言った。

「貴方の実力は、本来は申し分ないのよ」
「ミラ……」
「そりゃあ、肝心な時にテンパるし、私達に魔法暴発させたり敵に回復魔法かけたり。とんでもない事ばかりするけど」
「うぅ、ごめん」

 ぐうの音も出ない。
 
「まー、アタシ達がしっかり鍛えてやるからさ!」

 いつの間にか隣にいたミミナが、彼を羽交い締めにして朗らかに言った。
 
「実践、あるのみ。覚悟、して」

 カサネがにんまりと笑う。
 
「そういう事よ。それにテトラには、恋人までいるでしょ」
「こ、恋人……」

 後方から痛いほどの視線。
 彼と同じ、とても不器用で生きるのがヘタクソなコンプレックスの塊のような男。
 これからもきっと。彼らはどうでも良いことで傷付いたりもがいたり、悩んだりするのだろう。
 しかし今度は孤独ではない。
 仲間がいて、恋人がいる。

「おい、この真っ黒野郎! 魔王の息子だかなんだか知らねーけどっ。アタシに逆らうんじゃないぞ。先輩なんだからな」
「……チッ」
「おいぃぃッ、今舌打ちしただろ! クソこの新入りのクセにっ。カサネも何とか言ってやれよ!」

 睨み合うゴリラ達……じゃなかった、両者に挟まれたカサネは一言。

「ゴリラども、喧嘩すんな」
「このアマぁぁぁッ!!!」

 三人がギャーギャーと(騒いでいるのはミミナだけだが)やり合うのを、ミラは面白そうにながめている。
 テトラはハラハラしながら。

「本当に良かったの? 僕だけじゃなくて、彼まで……」

 お世辞にも人当たりの良いタイプとは言えない。
 なんせコミュニケーションに色々と問題がある男だ。上手くやっていけるだろうか、と誰だって心配になる。
 
 しかしそんなテトラの不安もなんのその。
 ミラは吹き出して笑うと言った。

「ふふっ、いまさらよ。こんなに問題児ばっかりのパーティ、他にはないわ」

 そして広がる青空をあおぎ見る。
 心地よい風が後方から吹いてきた。
 木々が揺れ、精霊達が旅立ちの歌を歌う。しかしそれを聞くことができるのは、この魔道士だけ。
 それでも、まるで明るい未来がそこにあるような気分にさせられるのは何故だろう。

「さて。今度は魔王討伐じゃなくて、にでも行きましょうかねぇ」

 彼らの旅はまだまだ続く。
 なにを得て、なにを失うか分からぬ道である。
 
 ―――いびつで不器用な問題児たちによる、果てしない異世界の物語。
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