ヘッポコ転生魔道士♂は魔王への生贄!?

田中 乃那加

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5.仲間と依頼と魔道士♂

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 「……アンタが新入り?」

 晴天の空の煌めきが詰まったような、青い瞳。

 ―――それが盗賊シーフのミミナであった。
 テトラより幾分くすんだ色の金髪を掻き上げる。

「女の子……」
「あ゙ァッ? なんか文句でもあっかよ」

 顔を顰め、啖呵切ってはいるがミミナは少女である。顔立ちも、見れば整っており、ボーイッシュなかわい子ちゃんと言えなくもなかった。

「い、いえっ……すいません」
「アンタも女じゃないか! って言うか、本当に使えるんだろーなっ」

 ギロリ、と睨まれて彼は首を竦める。
 ただでさえ女顔なのに、女物を着ているから余計に女に間違われたらしい。控えめながら訂正しようとした彼遮ったのは、ミラだ。

はテトラ。こう見えても魔道士よ」
「ふーん? 見えないなぁ。ケッ、お嬢様みたいな格好してよぉ」
「ぼ、僕は……っ」

 更に迷子になる性別に、物申そうと声を上げる。すると、そっとミラが囁く。『女でいろ』と。
 どういう事かと彼女を見るが、軽い笑みのみで返されてしまった。仕方なく、彼はミミナに小さく頭を下げる。

「よろしく、お願いします」
「おぅ。へー、ちゃんと挨拶はできんのか。よろしくな」

 大人しく挨拶をしたからだろうか。さっきまでの警戒した様子は霧散し、一転して人懐こい笑みを浮かべている。

(なんだか、情緒が目まぐるしい人だなぁ。でも、悪い人じゃなさそう)

 そんな事を考えていると、突然。

「……隙あり」
「ひぁぁっ!?」

 後ろから羽交い締めにされた。  
 じたばたと暴れるが、その身体はちっとも動かない。
 しかも、背中に居るはずのその人影や気配は感じず。ただ見えないのに、確かに居て自分を拘束している……なんて不気味な状況。

「カサネ、悪ふざけが過ぎるよ」

 いよいよ焦ったが、ミラの苦笑いの諌める声と共に、ふと背中が軽くなる。
 その刹那、視界の端に黒い影のようなモノが舞って消えた。

「ありがとう、影のお嬢さんシルエッタ

 小さな呟きが耳に入ったと同時。
 彼の目の前には、また別の少女が立っている。
 
 ……紙のような白い肌に、切れ長の目。乏しい表情とどこか虚ろな瞳。
 そしてその服装は、変わったテイストをしていた。ここらでは見ない、蝶と花をあしらった異国情緒漂う風体である。

「彼女はカサネ。召喚術士サモナーでね。極東ワコの国出身よ」
、テトラって言います……あっ!」

『女のフリをしろ』とミラは言った。だから一人称を間違えた、とテトラは思わず彼女を見る。
 すると思いもがけない言葉が、隣から飛んできた。

「コイツ、『僕っ子』か。まだガキだもんなー!」

 ……ミミナのナイス、横槍! 的外れだけど!
 そう内心ガッツポーズをした彼は、引きつった笑みで頭を下げた。
 しかしこの虚ろな表情の少女は黙ったまま。ジッと彼を見つめ返している。

「……」
「あ、あの?」
「アナタ、男運最低」
「えぇっ!?」
「……ウソ」
「!?!?!?」

 そう言うと目を白黒させる彼に、ニンマリと笑いかけた。

「コイツ変な奴だから、気にすんなよ。まぁこれだから、どのパーティからも追い出されたんだよな」
「……ミミナも、行き場ないクセに」
「うるせーなっ、アタシは別に追い出されてないし! コッチから出て行ってやったんだっ、このチビ!」
「うるさい。サル女」
「キーッ、この陰険チビ女!」
「単細胞メスゴリラ」
「このアマァァァッ!!」

 途端喧嘩を始めた2人(主に怒鳴りつけているのはミミナであるが)を止める訳でもない。優雅に、いつの間に頼んだのかビールの大ジョッキを傾けていた。

「ちょ、ミラ。いいの!?」
「いつもの事よ、テトラ。ま、2人とも優秀だけど性格に難アリって所ね」

 それは貴女もですけど……なぁんて口に出せる訳もなく。彼は、酒場の客達から浴びる注目に冷や汗をかいた―――。

■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪

 このパーティは、厄介者でクセ者達の寄せ集めである。
 
「ミミナもカサネも、男が苦手でね。だから、貴方は女の子でいて欲しいのよ」

 そんな無茶ぶりをしたのは、二人きりで飲んでいたこの酒場での事だ。

「女だけのパーティとして、魔王討伐を目指すの」
「……って言うか、だいたいなんで魔王討伐なんです?」
 
 テトラの質問を、ミラは大ジョッキを傾けながら聞いた。
 ちなみに、これで8杯目である。

「私には3つ上の兄が居てね」
「え?」
「端的に言えば、兄を魔王から取り戻す為」
「お兄さん、魔王に攫われちゃったんですか!?」
「そう……」

 彼女はそっ、とテーブルに視線を落とす。

「魔王に、取り返さなきゃ」
「て、手篭め……?」

 魔王ってホモなのかな、まぁ人の性癖ってそれぞれだけど。なんて、彼はぐるぐる考える。

「兄さんは、昔っから男に狙われやすい性質で。父さんや私や長兄が必死で守って来たのよ」

 男に狙われやすい兄を、懸命に家族で守ってたなんて。美しい家族愛である。

「でも本人は、こっちの苦労も知らず女に目がなくてね……本当、ムカついてムカついて。何度、ケツ掘ってやろうかと思ったわ」
「……」
「一度、掘られないと分かんねーのよ。あのアホ兄貴。一度、私の男友達の恋人寝盗ったみいでさ。いっそうのこと、ホモになった方が良いのかもしれない。世界平和の為に。この世の独身男性の為に……なんて」
「み、ミラさん?」
「……そんな事を考えてたら、奴隷商人に兄さんを売っちゃってたわ」
「う、うううっかり!?」
「慌てて買い戻そうとしたら、既にお買い上げされちゃってたし……」

 うっかり肉親を売るとは、どういう心理だろう。美しき家族愛のイメージぶち壊しだ。
 唖然とする彼に、ミラは9杯目のビールを頼んだ。

「しかも、性奴隷になってるみたいなのよねぇ……ちょっとヤバい? みたいな」
「ちょ、ちょっとじゃないよ!! 」

 女好きという事は、ノンケだ。ノンケの兄を売って、性奴隷として魔王の手に……なんて。

「ま。掘られてたら、その時はその時だわね」
「そんな、気の毒な……」

 ドン引きというか、お兄さんに同情である。
 彼は同じ男として心の底から、彼の貞操が守られて居ることを祈った。

「……ちょっと良い?」

 後ろから申し訳なさそうに声掛けたのは、この酒場『ラクリマ』の女主人マテルーナである。
 
「アンタ達に、折り入って頼みがあるんだけどねぇ」   
「頼み? 雨戸の件なら……」
「そうじゃないのよ。知り合いがね、仕事引き受けてくれるパーティを探してるの」
「仕事?」
「そう……魔物狩り、なんだけどねぇ」

 魔物狩り、つまり冒険者としての依頼だ。2人は顔を見合わせた。




 ―――依頼主。その男は、言ってみれば優男風であった。
 少し長い茶髪を後ろに流し、やたら甘い表情をしてテトラの方を見る男だ。

「オレはこの近くの村の者でさ。仕事では何度もこっちに来るんだ」
「へ、へぇ」

 とりあえず話だけでも、と女主人に言われたミラと彼は店の奥まった席に案内される。そこには、この依頼主が悠然とすわっていたのだが。

「君みたいな可憐な子、初めて見たよ。でもマテルーナから聞けば、男の子らしいじゃないか! 驚いたなぁ」
「え゙」

 女装した男だってバレてる。変態だって思われてないかなと焦ったが、どうやら男の方は純粋に彼の容姿を絶賛しているらしい。

「……で、依頼は?」

 隣に座るミラが憮然とした声で、促す。顔は無表情で、男をジッと睨みつけている。

「あ、あぁそうだったね。ええっと、村とこの国の境にある森についてなんだ」
「森、ですか」
「数週間前から、魔物が出るようになってね。何人も被害者が出てるんだ」
「どんな魔物なんです?」
「それが……」

 男は少し言い淀む。
 そして何故かきまり悪そうな顔をして、一言。

「ゴブリン、なんだ」
「……」
「……」

 テトラとミラは、再び顔を見合わせた。



 

 
 

 

 



 
 

 
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