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助け船が泥船だった時③ ※R18注意
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そこはひんやりとしたコンクリートに囲まれた地下室――ではなかった。むしろ明るくて適温、都会の景色を一望できるタワーマンションの一室である。
「あ……ぁ、っ、はぁ……」
荒々しい息が自分のものだと分かっていても、それでも耳障りなのはこの状況のせいだろう。
「手首、痛いでしょ」
静かな足音とともに現れたのは愈史郎だ。
顔には満面の笑みを張り付けているのに関わらず、その目には一切の光は無い。
「あーあ、痣が出来ちゃってる」
「っ……ひぃ」
間接照明が灯された寝室、ベッドが軋む。
その上で身動ぎしながら息を乱すのは、一糸まとわぬ姿の奏汰だった。
「でも君が暴れるからいけないんだよ」
「うぅ、っ、ぅ」
「あ。水飲む?」
愈史郎の手にはペットボトル。透明なそれは市販のミネラルウォーターらしい。
それをかかげながら、目を細める。
「これからたくさん水分補給しなきゃいけないからね」
ひたすら身体が熱く、おまけに先程とは比べ物にならない疼きと乾きに奏汰はのたうち回る。
――まんまと罠にかかったのだ。
家まで送る、と隣を歩いている時は特に問題はなかったはず。しかし病院を出て十分ほどすると、再び徐々に息があがってきた。
しかし家まではもう少しある。いっその事タクシーでも拾うかと考えた時、愈史郎がふらつく肩を支えた。
『大丈夫? 少し休憩しようか』
気の良さそうな笑みと言葉に騙されたとしか思えない。または一種の錯乱状態だったのだろう。
そうして熱がどんどん昂る中、手を引かれるようにして彼が住んでいるというマンションの一室に足を踏み入れてしまったのが運の尽き。
「なん、で」
手首には冷たい色の手錠。玩具にしてはずっしりと重い。力の入らぬ身で抵抗すれば、愈史郎に大人しくしなさいと軽く叱りつけられながら拘束された。
「ん?」
「からだ……あつ、ぃ……おかし、い」
「ああ、それか」
心臓が早鐘のように鳴り、頭の中は霞がかかったかのよう。触れられていないのにジクジクと疼き張り詰めた下腹部を隠そうと必死で両脚を擦り合わせる。しかしその刺激でまた声が上がってしまう。
こんな状況の奏汰を、彼は楽しそうに見下ろした。
「α用のフェロモンを増強させるお薬をね、少しだけ」
「!」
ストーカーが使っているはずの物をこの男が、しかも。
「匂いが、ちが……う」
あの甘い、ケミカル臭い不穏な香りはしない。混乱して首を左右に振ると、目の前の男が手を伸ばし髪を撫でた。
「あはは。ちゃんとオレが言ったこと覚えてくれてたんだ、嬉しいな。でもね、それ嘘なんだよ」
「う、うそ……?」
「アレはただの香水。本来はフェロモンの香りそのものが変わることはないよ。だいたい君に告白してきたヤツはβで、オレがαなんだ。不完全なオレは普段フェロモンが少なめだけど、薬のおかげで君はあてられてる」
「っ……んぅ、さ、さわん、な」
彼の指が耳朶に触れ、やわやわと揉みしだく。その感覚すら妙な快感が走り、奏汰は思い切り睨みつけた。
そんな態度は火に油を注ぐかのように、男の支配欲と性欲を高めることを知らずに。
「その目、そそるね」
自らの薄い唇を舐める彼の舌はゾッとすほど赤い。
「そうそう。まずはネタばらししてあげようか」
そう笑って語られたのは、一連のストーカーに関する真実だった。
「オレってさ、本当に影というか印象が薄いみたいなんだよ」
一度や二度では顔どころか存在自体を覚えてもらえなくて。
そう肩をすくめる。
「でもそれが役に立つとはなぁ」
思えば簡単なミスリード。
バイト先で奏汰に連絡先を渡した男は、たしかに未だに恋心を燻らせていた。
盗撮に手を染めるくらいには。
それを利用したのだろう。ただの香水を同僚に付けさせることでストーカーと香りを誤認させ、自分を信用するように誘導したのだ。
誤算であったのは、思いのほか奏汰の警戒心が強かったことだが。
「あいつのスマホから君の写真を大量に見つけたのはラッキーだったよ。なんせ都合のいい隠れ蓑が手に入ったんだもの」
同僚がした隠し撮りを見つけても、彼は咎める事も脅迫することもしなかった。
その執着に寄り添い、こともあろうに協力を申し出たのだ。
「あの馬鹿、オレが『奏汰君が好きな香りだから』って言ってわたした香水をマメにつけてさ。指定した場所に来て、その悪趣味な匂いを振りまいてくれた」
おおよそ想い人が好きな香水だからとでも丸め込んだのだろう。
さらに上手く仲を取り持ってやるという愈史郎の言葉で利用され、奏汰はすっかりストーカーから守られていると誤解したのだ。
「さて」
低くなった声にまた心臓が跳ね上がる。
「奏汰君はオレの番になるんだよ」
「く、くるな……やめろ!」
歯をカチカチさせて震えながら、その身体も頬も紅く色付いていた。
シーツの感覚さえ感じてしまうからだろう。
これからなにをされるか、もう火を見るより明らかだった。
「本当はもっと時間かけて信用してもらってからにしようって思ってたんだけどね。なんか邪魔なガキが横から入って来そうだからさ。いいよね、別に」
良いわけがない、全力でお断りだと殴りつけて怒鳴りつけたいのに身体が言うことを聞いてくれない。
なんなら声まで震えているのだから悔しさに唇を噛んだ。
「オレみたいな出来損ないのαでも、君を救ってあげられるんだよ」
「僕はそんなこと望んでいない!」
恍惚とした表情で覆いかぶさってくる男に、奏汰は懸命に声を張って反論する。
「だって君、変異型でしょ。Ωになってαに愛された方が幸せにきまってるじゃない」
「そんなことっ……」
「そういうもんなんだよ。世の中はαに支配されたがってる。特に君のような、愛されるために生まれてきたような子はね」
「っ、なに意味わかんないこと言ってんだ!」
「あはは。もう意地っ張りなんだから」
するりと脇腹を撫でられ、大きく身体が跳ねた。
「ひっ!?」
「いい反応だね。どこが気持ちいいかな」
「あ、ぅ、うっ、く……や、やめ……さわる、なぁ……っ」
くすぐるような手つきで身体中をまさぐっていく。
乳輪から丹念に。色づく前の胸の飾りを軽くつまみ愛撫する。
たったこれだけのことなのに、無意識に腰が揺れてしまい情けなさで胸が痛む。
「ひ、卑怯者……おまえなんて……」
しかしなんと無力だろう。いつもなら男の一人や二人、拘束されるヒマもなく打ち倒せるというのに。
それもこれも妙な薬物のせいだ、と奏汰は歯噛みした。
「ひぅっ、ぅ、く……ぅ」
声が出ないよう躍起になるが、そこに今度は男が唇を奪ってくる。
「んぅ!? む……ぐ、ぅ……ん゙んっ!!」
歯列をなぞる舌は生あたたかく別の生き物のようにのたうつ。鼻で息をしようにもパニック状態で酸素が足りず、反射的に口を開けてしまったが最後。
「ん゙ぅっ!? ん゙ーっ、ふ……ぁ、ぅ」
ひどくねちっこいキスだった。じわりじわりと奪われ征服されるような気分。
咥内に毒を流された方がましだ。頭の中はさらに白濁し、奏汰は何も見たくなくて目を閉じた。
「っはぁ……ぁ……」
「うわ、エロい顔」
ようやく解放されて、息も絶え絶えで横たわる。
弛緩した四肢。上気した肌に薄く開いた唇は濡れて、つぅと唾液の線が互いの口元を繋ぐ様が淫靡であった。
「ああ――美味しそう」
舌なめずりする愈史郎の笑みに震え上がる。
喰われる、そう思った。
「た……たすけて」
はじめて口にした懇願。それとは裏腹なのが本能だ。
じわり広がる腹の底からの熱。βにはあるはずのない器官が疼く。
「初めては優しくしてあげるから」
「っ、ひ!? 」
尻を触られただけで大袈裟かと思うほどにビクついてしまう。
そんな様子をみて、さらに笑みを深くする男。
「自分でわかってる? すでに濡れてるって」
「なっ……ゔわ゙ッ!」
優しくすると言う割には遠慮なく突き入れられる指。
痛みこそないが違和感と異物感に、奏汰は顔を歪めた。
自認は完全にβである彼にとってそこは排泄のみに使う器官。しかし今から行われるのは、そこを生殖器として使う行為。
「ゔぐ、っ、や゙め、ろ……ッ、くそが……」
口汚く罵るのはある意味で余裕だったのだろう。
しかし無言で温かい穴を弄り探る一本の指の奔放な動きに、また疼きが止まらなくなる。
「うんうん。少し慣れてきたみたいだね」
「ひゔっ! あ゙、あ゙ぁァ」
一本から二本に増やされてもぐちゅぐちゅと水音が止まらないのは、そこが濡れぼそってきているから。
αのフェロモンによって完全に身体が作り替えられている実感に恐怖か快感か、震えが止まらない。
「もういいよね」
慣れてきたから、と指を抜かれてその刺激だけで小さく声を漏らしてしまう。
「いっぱい愛し合おう、奏汰」
「あ……ぁ」
ベルトを外す音がやけに耳障りだった。
「やめ、ろ。やだ、くるな、こないで」
ベッドの端に必死になって逃げる。しかもつれる足と熱に浮かされた頭、そして手錠で拘束された両手のせいで赤子が這うよりおぼつかない。
「やれやれ、恥じらうのも可愛いけどさ」
「っ!?」
いとも簡単に両脚を掴まれ無理やり開かされた。
相手の眼前にまで恥部を晒され、奏汰はショックで大きく目を見開く。
「やだっ! やめ……たすけて、だれか!! やだぁぁっ!!」
このままでは犯される。αに抱かれたらもう戻れない。
プライドも何もかもかなぐり捨てて、泣き叫ぶ。嫌だ挿れないで、と。
「チッ」
愈史郎が舌打ちして眉をひそめた、次の瞬間。
「いい加減にしろよ、このメスが」
「あっ!!」
バチン、と尻たぶを打たれる。強かなそれは鮮やかな赤い手形を残した。
怒りと愉悦の狭間のような顔をした彼は、三発四発と左右の尻や太腿を打つ。
その度に痛みで小さく悲鳴を上げながら身をくねらせる奏汰に、気を良くしたらしい。
「痛いのも気持ちよさそうだね」
とすっかり真っ赤になったそこを今度はそっと撫でる。
「ひ……ぃ、や、やだぁ……」
ついに大粒の涙がその瞳から零れ落ちた。
「やめて……ぅっ……やだ……こわ、ぃ……」
「そんな泣かないで」
彼は優しい声色で話しかけながら、奏汰の目元を拭う。
「もっと泣かせたくなるから」
その、うっそりとした笑みに絶望感が押し寄せる。
もう逃げられない。このままいたぶられ弄ばれて、最悪殺されるかもしれないという恐怖。
喉の奥がひゅっ、となる。
「あ……あ……ぁ」
怖いのに身体だけは妙に火照っていた。
「大人しくセックスしようね?」
愈史郎がそういってベッドが軋んだのと、すぐ近くで爆音が響いたのとは同時だった――。
「あ……ぁ、っ、はぁ……」
荒々しい息が自分のものだと分かっていても、それでも耳障りなのはこの状況のせいだろう。
「手首、痛いでしょ」
静かな足音とともに現れたのは愈史郎だ。
顔には満面の笑みを張り付けているのに関わらず、その目には一切の光は無い。
「あーあ、痣が出来ちゃってる」
「っ……ひぃ」
間接照明が灯された寝室、ベッドが軋む。
その上で身動ぎしながら息を乱すのは、一糸まとわぬ姿の奏汰だった。
「でも君が暴れるからいけないんだよ」
「うぅ、っ、ぅ」
「あ。水飲む?」
愈史郎の手にはペットボトル。透明なそれは市販のミネラルウォーターらしい。
それをかかげながら、目を細める。
「これからたくさん水分補給しなきゃいけないからね」
ひたすら身体が熱く、おまけに先程とは比べ物にならない疼きと乾きに奏汰はのたうち回る。
――まんまと罠にかかったのだ。
家まで送る、と隣を歩いている時は特に問題はなかったはず。しかし病院を出て十分ほどすると、再び徐々に息があがってきた。
しかし家まではもう少しある。いっその事タクシーでも拾うかと考えた時、愈史郎がふらつく肩を支えた。
『大丈夫? 少し休憩しようか』
気の良さそうな笑みと言葉に騙されたとしか思えない。または一種の錯乱状態だったのだろう。
そうして熱がどんどん昂る中、手を引かれるようにして彼が住んでいるというマンションの一室に足を踏み入れてしまったのが運の尽き。
「なん、で」
手首には冷たい色の手錠。玩具にしてはずっしりと重い。力の入らぬ身で抵抗すれば、愈史郎に大人しくしなさいと軽く叱りつけられながら拘束された。
「ん?」
「からだ……あつ、ぃ……おかし、い」
「ああ、それか」
心臓が早鐘のように鳴り、頭の中は霞がかかったかのよう。触れられていないのにジクジクと疼き張り詰めた下腹部を隠そうと必死で両脚を擦り合わせる。しかしその刺激でまた声が上がってしまう。
こんな状況の奏汰を、彼は楽しそうに見下ろした。
「α用のフェロモンを増強させるお薬をね、少しだけ」
「!」
ストーカーが使っているはずの物をこの男が、しかも。
「匂いが、ちが……う」
あの甘い、ケミカル臭い不穏な香りはしない。混乱して首を左右に振ると、目の前の男が手を伸ばし髪を撫でた。
「あはは。ちゃんとオレが言ったこと覚えてくれてたんだ、嬉しいな。でもね、それ嘘なんだよ」
「う、うそ……?」
「アレはただの香水。本来はフェロモンの香りそのものが変わることはないよ。だいたい君に告白してきたヤツはβで、オレがαなんだ。不完全なオレは普段フェロモンが少なめだけど、薬のおかげで君はあてられてる」
「っ……んぅ、さ、さわん、な」
彼の指が耳朶に触れ、やわやわと揉みしだく。その感覚すら妙な快感が走り、奏汰は思い切り睨みつけた。
そんな態度は火に油を注ぐかのように、男の支配欲と性欲を高めることを知らずに。
「その目、そそるね」
自らの薄い唇を舐める彼の舌はゾッとすほど赤い。
「そうそう。まずはネタばらししてあげようか」
そう笑って語られたのは、一連のストーカーに関する真実だった。
「オレってさ、本当に影というか印象が薄いみたいなんだよ」
一度や二度では顔どころか存在自体を覚えてもらえなくて。
そう肩をすくめる。
「でもそれが役に立つとはなぁ」
思えば簡単なミスリード。
バイト先で奏汰に連絡先を渡した男は、たしかに未だに恋心を燻らせていた。
盗撮に手を染めるくらいには。
それを利用したのだろう。ただの香水を同僚に付けさせることでストーカーと香りを誤認させ、自分を信用するように誘導したのだ。
誤算であったのは、思いのほか奏汰の警戒心が強かったことだが。
「あいつのスマホから君の写真を大量に見つけたのはラッキーだったよ。なんせ都合のいい隠れ蓑が手に入ったんだもの」
同僚がした隠し撮りを見つけても、彼は咎める事も脅迫することもしなかった。
その執着に寄り添い、こともあろうに協力を申し出たのだ。
「あの馬鹿、オレが『奏汰君が好きな香りだから』って言ってわたした香水をマメにつけてさ。指定した場所に来て、その悪趣味な匂いを振りまいてくれた」
おおよそ想い人が好きな香水だからとでも丸め込んだのだろう。
さらに上手く仲を取り持ってやるという愈史郎の言葉で利用され、奏汰はすっかりストーカーから守られていると誤解したのだ。
「さて」
低くなった声にまた心臓が跳ね上がる。
「奏汰君はオレの番になるんだよ」
「く、くるな……やめろ!」
歯をカチカチさせて震えながら、その身体も頬も紅く色付いていた。
シーツの感覚さえ感じてしまうからだろう。
これからなにをされるか、もう火を見るより明らかだった。
「本当はもっと時間かけて信用してもらってからにしようって思ってたんだけどね。なんか邪魔なガキが横から入って来そうだからさ。いいよね、別に」
良いわけがない、全力でお断りだと殴りつけて怒鳴りつけたいのに身体が言うことを聞いてくれない。
なんなら声まで震えているのだから悔しさに唇を噛んだ。
「オレみたいな出来損ないのαでも、君を救ってあげられるんだよ」
「僕はそんなこと望んでいない!」
恍惚とした表情で覆いかぶさってくる男に、奏汰は懸命に声を張って反論する。
「だって君、変異型でしょ。Ωになってαに愛された方が幸せにきまってるじゃない」
「そんなことっ……」
「そういうもんなんだよ。世の中はαに支配されたがってる。特に君のような、愛されるために生まれてきたような子はね」
「っ、なに意味わかんないこと言ってんだ!」
「あはは。もう意地っ張りなんだから」
するりと脇腹を撫でられ、大きく身体が跳ねた。
「ひっ!?」
「いい反応だね。どこが気持ちいいかな」
「あ、ぅ、うっ、く……や、やめ……さわる、なぁ……っ」
くすぐるような手つきで身体中をまさぐっていく。
乳輪から丹念に。色づく前の胸の飾りを軽くつまみ愛撫する。
たったこれだけのことなのに、無意識に腰が揺れてしまい情けなさで胸が痛む。
「ひ、卑怯者……おまえなんて……」
しかしなんと無力だろう。いつもなら男の一人や二人、拘束されるヒマもなく打ち倒せるというのに。
それもこれも妙な薬物のせいだ、と奏汰は歯噛みした。
「ひぅっ、ぅ、く……ぅ」
声が出ないよう躍起になるが、そこに今度は男が唇を奪ってくる。
「んぅ!? む……ぐ、ぅ……ん゙んっ!!」
歯列をなぞる舌は生あたたかく別の生き物のようにのたうつ。鼻で息をしようにもパニック状態で酸素が足りず、反射的に口を開けてしまったが最後。
「ん゙ぅっ!? ん゙ーっ、ふ……ぁ、ぅ」
ひどくねちっこいキスだった。じわりじわりと奪われ征服されるような気分。
咥内に毒を流された方がましだ。頭の中はさらに白濁し、奏汰は何も見たくなくて目を閉じた。
「っはぁ……ぁ……」
「うわ、エロい顔」
ようやく解放されて、息も絶え絶えで横たわる。
弛緩した四肢。上気した肌に薄く開いた唇は濡れて、つぅと唾液の線が互いの口元を繋ぐ様が淫靡であった。
「ああ――美味しそう」
舌なめずりする愈史郎の笑みに震え上がる。
喰われる、そう思った。
「た……たすけて」
はじめて口にした懇願。それとは裏腹なのが本能だ。
じわり広がる腹の底からの熱。βにはあるはずのない器官が疼く。
「初めては優しくしてあげるから」
「っ、ひ!? 」
尻を触られただけで大袈裟かと思うほどにビクついてしまう。
そんな様子をみて、さらに笑みを深くする男。
「自分でわかってる? すでに濡れてるって」
「なっ……ゔわ゙ッ!」
優しくすると言う割には遠慮なく突き入れられる指。
痛みこそないが違和感と異物感に、奏汰は顔を歪めた。
自認は完全にβである彼にとってそこは排泄のみに使う器官。しかし今から行われるのは、そこを生殖器として使う行為。
「ゔぐ、っ、や゙め、ろ……ッ、くそが……」
口汚く罵るのはある意味で余裕だったのだろう。
しかし無言で温かい穴を弄り探る一本の指の奔放な動きに、また疼きが止まらなくなる。
「うんうん。少し慣れてきたみたいだね」
「ひゔっ! あ゙、あ゙ぁァ」
一本から二本に増やされてもぐちゅぐちゅと水音が止まらないのは、そこが濡れぼそってきているから。
αのフェロモンによって完全に身体が作り替えられている実感に恐怖か快感か、震えが止まらない。
「もういいよね」
慣れてきたから、と指を抜かれてその刺激だけで小さく声を漏らしてしまう。
「いっぱい愛し合おう、奏汰」
「あ……ぁ」
ベルトを外す音がやけに耳障りだった。
「やめ、ろ。やだ、くるな、こないで」
ベッドの端に必死になって逃げる。しかもつれる足と熱に浮かされた頭、そして手錠で拘束された両手のせいで赤子が這うよりおぼつかない。
「やれやれ、恥じらうのも可愛いけどさ」
「っ!?」
いとも簡単に両脚を掴まれ無理やり開かされた。
相手の眼前にまで恥部を晒され、奏汰はショックで大きく目を見開く。
「やだっ! やめ……たすけて、だれか!! やだぁぁっ!!」
このままでは犯される。αに抱かれたらもう戻れない。
プライドも何もかもかなぐり捨てて、泣き叫ぶ。嫌だ挿れないで、と。
「チッ」
愈史郎が舌打ちして眉をひそめた、次の瞬間。
「いい加減にしろよ、このメスが」
「あっ!!」
バチン、と尻たぶを打たれる。強かなそれは鮮やかな赤い手形を残した。
怒りと愉悦の狭間のような顔をした彼は、三発四発と左右の尻や太腿を打つ。
その度に痛みで小さく悲鳴を上げながら身をくねらせる奏汰に、気を良くしたらしい。
「痛いのも気持ちよさそうだね」
とすっかり真っ赤になったそこを今度はそっと撫でる。
「ひ……ぃ、や、やだぁ……」
ついに大粒の涙がその瞳から零れ落ちた。
「やめて……ぅっ……やだ……こわ、ぃ……」
「そんな泣かないで」
彼は優しい声色で話しかけながら、奏汰の目元を拭う。
「もっと泣かせたくなるから」
その、うっそりとした笑みに絶望感が押し寄せる。
もう逃げられない。このままいたぶられ弄ばれて、最悪殺されるかもしれないという恐怖。
喉の奥がひゅっ、となる。
「あ……あ……ぁ」
怖いのに身体だけは妙に火照っていた。
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