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変な夢ってたまにみるよね?
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予め言っておくが、これは奏汰がみている夢である――。
「あ……れ、ここは?」
ふと目を開けるとそこは瞼の裏より濃い闇だった。
「暗いな、どこなんだここ」
とりあえず行かねば、と立ち上がり手探りで前に進む。
足元すらおぼつかないためにゆっくりとなるが、それでも留まるよりはマシに思えた。
「くそっ、なんなんだ」
『奏汰』
突如として降ってきた声。それは聞き覚えのあるもので。
「きょ、響子!?」
幼なじみの波路 響子である。
思いもよらぬ出来事に立ち止まり辺りを見回すが、相も変わらず先も見えない暗さだった。
せめて灯りさえあれば安心できたのかもしれない。
「響子っ、どこにいるんだ!」
姿どころか気配すらない。しかし声だけ響くのだ。
『奏汰。ここは暗いわね、闇よね?』
「あ、ああ。暗くてなにも見えな――」
『ここはね…………松崎し○る、よ』
「は?」
彼女は何を言っているのだろうか。
奏汰の頭の中にはクエスチョンマークが飛び回る。
普通に訳が分からない。
「まつ……?」
『松崎し○る。夜かと思ったら松崎し○るだった。カリントウだと思ったら松崎し○るだった、でおなじみの有名人よ』
「何言ってんだホントに」
『愛のメモリー、名曲よね』
「いや知らないけど」
『ふふ、今度レコード貸してあげる』
「なにそれ」
『あ、CDね』
「???」
もう支離滅裂だ。
夢だから仕方ないのだが、奏汰としてはひたすら混乱するばかりである。
とはいえ現実でも響子は似たようにシュールな言葉を吐き続けることがあるので、とりあえず聞き流すことに。
「どこに行けばいいんだ」
『行き先はすでにあなたの心の中にあるわ』
「は?」
『ほら足元をごらんなさい』
「え……うおっ!?」
言われるがまま、視線を下に向けた時だった。
地面が大きく揺れたのだ。慌てて足を踏みしめるも、もう遅い。
「うぐっ、あ!」
のまれる、と思った。
地割れしてそこからまた隆起して、奏汰を波のように飲み込んだのだ。
「ぐっ、な、なんなんだっ!?」
『身を委ねなさい』
歌うよう彼女が言う。
『これは…………筋肉なのよ』
「あ?」
『筋肉は裏切らない、そう筋肉ならすべてを覆し可能にする』
「ちょ、何言ってんだ、おい、響子!」
『筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉』
「いやホントに意味わかんないから」
『…………なかやまき○に君、だわ』
「は?」
ますます意味不明になった言葉に混乱していると。
『ぱわーっ!!!!』
「うわ゙ァッ!?!?」
雄叫びとともに地割れした。
奏汰は大きく前に腕を差し伸ばした格好でその割れ目に落ちていく。
「うぉぉぁぁぁぁ!!!」
大きく声を上げる彼の身体。それを、少し浅黒い肌色の巨大な腕が包み込んだ。
「な、なん……っ!?」
なんなんだ、どうして、というか状況がめちゃくちゃ過ぎる。
そんな言葉が脳内に溢れて。しかし言語化するより先に、目の前に白い光が爆ぜて――落ちた。
※※※
「~~~っ!!!」
ビクン、と身体が痙攣して目が覚める。
落ちる感覚での覚醒は本当に心臓に悪い。
「は、ぁっ」
心臓の鼓動が早く、苦しさから息を整えながら瞼をゆっくりあける。
「…………え?」
目の前には壁、でなく胸。正しくは呼吸により規則正しく上下する胸筋が。
あたたかいそれが顔に押し付けられた形で、奏汰は自分より大きな体躯の人物に抱きすくめられていた。
「あ、え、ええっ!?」
なぜこんな事になっているのか。
視界の端に映る景色からどうやら自分の部屋のベッドの上らしいのは分かるが、昨夜のことを懸命に思い出そうと頭を巡らせた。
「た、龍也」
いつものちょっとした言い合いをしたような気もするし、それだけじゃなくベッドの端を貸したのも思い出した。
『なんかしたら遠慮なくたたき出すからな』
そう牽制して背中を向けて横になった。
『ハイハイ』
分かっているのかいないのか。軽い返事で隣にもぐり込む彼の存在をベッドの軋み越しに感じながら、小さく息を詰めたものだ。
「くそっ、くっつきやがって」
人を抱き枕か何かと勘違いしているのかと苛立って殴りつけてやろうと思ったが、いかんせん体勢が不利で。
「ぐぐぐっ、この野郎!」
まるで万力みたいに締めつけてくる。
「お、起きろバカ!!」
「……」
スヤスヤと健やか過ぎる寝息。
「このっ」
もがけばもがくほど締め上げられる気さえする。
足も絡み合う具合になって、これじゃあ完全に逃げられない。
「おい龍也!」
腕をペシペシ叩きながらついに声をあげた。すると流石に。
「んん~」
と間の抜けた呻きと共に目があく。
「あっ!」
「ん」
寝起きの顔もイケメンだというのがまた癪に障りながら、奏汰がふざけるな離せと怒鳴りつけようとした時だった。
「…………夢、か」
「へ?」
「続き、する」
「ちょっ!? ままままっ、待て! なにをして――んぅぅ!?!?」
なんとキスされた。
唇と唇のやつで決して人工呼吸ではない。
彼の舌がペロリと歯列をなぞり熱が上がる。
「んぅっ……ぅ……ふぁ、ぁ」
呼気まで奪う勢いでの深い口付けに、頭の中が溶けてしまいそうだ。
「んぁ、はぁ……っ、や」
すでに成人しているのにも関わらず奏汰はこのような行為を知らない。頬や額に落とされる軽いものならいざ知らず、舌同士をからめ吸われまさぐられるキスに腰砕けになってしまう。
「はぁっ……ふ、ぁ、なんで……ぇ」
身体が熱い。発情期なんて無いはずで、元々性欲も年齢のわりに薄い奏汰にとって経験のない熱に戸惑いと焦りがつのる。
「奏汰」
耳元で囁かれた名は低く、吐息混じりで濡れていた。
「っ、龍也!」
「奏汰」
ぞわりと悪寒にも似た感覚に身震いする。
これはおかしい早く逃げねば、と今度は必死に足掻いてその腕から抜け出そうとするがビクともせず。
「起きろ馬鹿野郎っ……あ! どこ触って……」
まずは背中から腰を撫でられた。キスだけで蕩けた身体にまた刺激が加わる。
「はぁっ、ぁ」
服の上身体というのにこんなに熱が上がるのは何故だろう。
しかも下腹部に押し付けられるように主張した彼のあれの質量に一瞬、少しだけ青ざめる。
「おい、やめろ。やめてくれ」
「うぅ……ん」
「寝ぼけるな! 夢じゃないっ、夢じゃないから」
「おれの……」
「た、龍也」
「……あいしてる」
「!」
寝言のように低く掠れた声で呟かれた言葉に、不意をつかれて絶句する。
好きとはよく言われるが、こんな熱っぽい愛の言葉は初めてだったのだ。
本当にこの少年は自分に恋い焦がれているのだ、と改めて見せつけられる。
同時に。
「っ……こ、これ」
甘くどこか蠱惑的な匂い。花のそれに近いのかもしれない。鼻腔をくすぐるその香りに身体を固くする。
αのフェロモンだ。通常、Ωのヒートに呼応するかのごとく発せられるのだが、それがなぜ。
「龍也っ、起きろ!」
「――奏汰君。そっちに龍也君いるの?」
いよいよマズイと本格的にぶん殴ってでも起こそうと思った矢先、ノックとともにそんな声が部屋の外から聞こえてきた。
「あっ、あ、明良さん!?!?!?」
「奏汰君。起きてるー?」
こんな姿見られたらあらぬ誤解を受けてしまう。
彼のことだ。笑いものにすることはないだろうが、変に気をつかわせるだろう。
奏汰は必死になって暴れた。
「んぅ?」
「このバカっ、早く起きろ!」
「んー」
どうやら龍也は寝起きが相当悪いらしい。
目こそ開けたが、心ここにあらずといった具合でボーッとしている。その間も抱きついたままだ。
「はーなーせーッ!!!」
「……奏汰がいる。夢?」
「夢じゃない! 現実だっ、さっさと目を覚ませクソガキ!!!」
「……」
ぽやぽやしていて話にならない。そんなことをしていると明良の焦った様子の声。
「二人とも大丈夫!? 入るよ!」
「ちょっ、今は――」
慌てて言ったが間に合わなかった。
「奏汰君、龍也君!」
「まっ……」
ドアが開き心配そうな顔が覗いた瞬間。
「あ、あ、あ、ああ、こ、これには事情が」
「眠ぃ」
真っ赤と真っ青を顔色忙しく変えてる奏汰と、それを未だに寝ぼけ眼で抱きしめている龍也がいる状況。
「あー。ええっと」
首を少しかしげてから明良が口を開いた。
「お取り込み中、だったかな」
「違うっ! 違うから!!! 明良さん、違うから話聞いてぇぇっ!!!」
「うん大丈夫。ちゃんと分かってるからね」
「分かってないから! 誤解してるからぁぁぁぁっ!!」
「あ、でもそろそろ時間だから降りておいで」
「明良さぁぁぁんっ!!!」
ある意味一番見られたくない人に見られた羞恥心で、奏汰は半泣きになって叫ぶのであった。
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