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非常にシリアスな場面です()
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なんでこんなことに――と奏汰は歯噛みする。
「うっ」
逃げようとするが、がっしりと身体を抱え込まれて体格差をしっかり分からされるのが悔しい。
「こ、のっ、離せ!」
「嫌だね」
「クソガキ!」
一緒に寝るつもりなんてなかった。ただすぐに用意出来る部屋がなかったのと、リビングのソファで寝るのが嫌だと龍也が駄々をこねたからだ。
「奏汰ってばチョロすぎなんだから」
たしかに奏汰の危機感は足りなかったのだろう。
自分のことをストーカーだと自認している者を自室に入れてしまうなんて。
「なにもしないって言っただろ!?」
「えー、言ったっけ?」
「ふざけんな!」
今までこんなことはなかった。
多少のスキンシップや言葉でのアピールくらいで、こんなに直接的な行動に出ることなんてなかったので油断していたのだ。
「俺だってちゃんと我慢してたよ。外堀埋めて、逃げられなくしようって」
「そ、外堀り……?」
「でももう限界。あんな姿見せられてよ」
龍也はグッと眉間にシワをよせた。
「その部屋着は反則!!」
ビシッと指をさされたのは奏汰が着てる部屋着、というか寝巻き。
「ピンクのモコモコパジャマとか可愛すぎんだろぉぉぉっ!!!」
「あ?」
自らが愛着しているものを見下ろす。
淡いピンクを基調とした、女子が好みそうな可愛い系のパジャマ。
「明良さんが選んでくれたんだけど、なんか文句あるかよ」
「ないよっ、むしろ百点満点で明良さんを表彰したいくらいだよッ! スタンディングオベーションしたいくらいにな!!! でも逆になんか嫌だ! 他の男が選んだ服を着てるのがたまらなくムカつくし、それでムラムラする俺自身がすごく悔しい! くそぉぉぉぉ!!!」
「なんなんだお前……」
奏汰は完全にドン引きだが、龍也の方は怒ったり泣きべそかいたりと忙しい。
「そんなキャラだったか」
「キャラどころか情緒ぐちゃぐちゃにさせてんのはあんただからな!?」
今度は頭を抱えながら。
「俺αなのに……」
とうなだれる始末。
「おい」
さすがに様子がおかしいと顔を覗き込むと。
「隙あり」
「させるか」
「い゙っ!?」
キスしてこようとする彼のひたいにデコピンをかます。
「痛ぇぇ……」
「僕をなめるなよ」
そこを押さえてうずくまる自分より大きな身体を、奏汰は足で軽く蹴った。
「ちょ、オーバーキルやめろって」
「うるさい。ったく油断も隙もない」
その場で抵抗して取り押さえるくらい出来ないことはない。なんせ狙われてきた経験値が半端ないからだ。
「だてにケツ狙われ続けてないってことだ」
「ヒェッ、俺の嫁が強い」
「誰が嫁だ。ブチ○すぞ」
「痛てぇ!」
ついでにゲンコツも落としておく。
「寝込みを襲わず、寝る前に堂々ときた無謀さと馬鹿さ加減だけは褒めてやる」
「褒めてねぇし」
「そもそも」
盛大なため息をついて、ぎゃあぎゃあわめく男子高校生を睨みつけた。
「なんで僕なんだよ」
完全なΩですらない男の自分に、なぜここまで執着するのか。
それは彼だけでなく多くの男たちにとってもそうだ。
「なんでってそりゃまぁ……運命?」
「バカにしてんのか、クソガキ」
奏汰のジト、とした視線に一瞬怯む龍也だが困った顔で頭をかく。
「んなこと言ってもよ。俺だってワケわかんねぇもん」
「あ゙?」
「いや怖い顔すんなって。バースとか年上とかそういうの関係なくて。ただあの時、男数人相手に暴れ回ってぶちのめしたのを見た瞬間」
「あー……」
そういえばそのようなこともあったか、とぼんやり思い出す。
しかし龍也の方はずっとその姿が頭から離れなかったと言う。
「かっこよかった。あんたのこと、本気でカッコイイと思ったんだ」
「お、おう?」
かっこいい、この言葉は悪くない。
「男が男に惚れるっつーか? いや違うな。男とか女とか、Ωとかβとかどうでもいいくらい好きになっちまった」
「え……」
真剣な顔。しかもそれだけではない。
純真な子供のような顔をしながらも、わずかに覗くのは獲物に向けられた獰猛な目。
これがαなのかもしれない、と自身の中にくすぶる生存本能が囁く。
「あんたが欲しい」
「た、龍也」
「あんたじゃなきゃ嫌だ」
なんとも真っ直ぐな求愛だろう。探るような、もの欲しげな下心とは違う。
「僕はお前のことが……」
「知ってるよ、嫌いなんだろ。でも多分、すぐに俺のこと好きになるよ」
「ふん、えらい自信だな。どうせいつもの嘘つきのハッタリだ」
「かもしれねぇ」
にぃ、と彼が笑った。
「でもな。よく言われてたんだぜ『龍也クンはやればできる子』だって」
「そう意味じゃないと思うけど」
「俺の場合はそうなの」
おどけた言い方だが何がなんでも惚れさせてやる、ということか。このビッグマウスも尊大な態度も若いが故なのか、αの自負心からなのか。
「だから覚悟しとけよ!」
「……バッカじゃないの」
奏汰はそう鼻で笑うがその耳に妙な赤みがさしているのを自覚していなかった。
これはいけるのでは、とこの少年を期待させてしまう所以なのかもしれない。
「ってことで、寝る」
「おい!」
龍也が背を向け、部屋を出て行こうとするのを慌てて呼び止めた。
「お前どこ行くんだよ」
「え? ソファだけど」
キョトンとした顔。なぜかそんな姿にイラッとする。
「なんでだよ」
さっき一緒に寝るって駄々をこねていたではないか。なのにあっさり諦めて行ってしまうとは。
なにか釈然としないものが胸の中に広がったのだ。
「なんでって」
ふい、と目をそらされる。それもまた面白くない。
だから思わずらしくない事をした。
「待てよ、バカ…………っ、あ!?」
腕を引こうとしたのだ。しかし掴み損ねた手は一瞬空を切り、そしてようやく龍也の服の端を捕らえた。
「!」
それはまさに相手の服の端っこを掴んで上目遣いで頬を染める (焦りで上気はしていた) あざとさ満点の出来上がりである。
「あ、ええっと」
「おお?」
「ちがっ……別に行って欲しくないとか、そういうんじゃなくて……」
素っ気なくされた気分で嫌だと言うのもまた誤解されそうで、モゴモゴと口ごもっていると。
「ああもう!」
龍也のあげた大声に驚いて顔を上げる。
目の前には心底困りきって頭をかく姿が。
「あんたって、ほんとに可愛いすぎる。こんなんじゃ、絶対に手に入れたくなっちゃうじゃん」
「なんだよそれ」
「だからね。その顔……」
「最初からそういう気持ちできてるんじゃないのかよ」
「え゙っ」
「あ、ええっ、と、また違っ――」
もう自分が何を考えているのかすら分からない。
なぜ嫌いだと公言する相手に、本気で欲しいと思ってくれないのかと強請るような言葉を吐いたのか。
求められれば疎ましがる。しかし手を離されればそれも寂しく感じてしまうのだ。
「うん、最初からそのつもりだった。欲しいよ、あんたが」
「……僕はそんなに安くない」
「知ってる。そういうところも好きだから」
嫌いな相手、しかもαにここまで距離を許してしまった。そんな自分に驚く反面、なぜか悪くないと思っている現状が奏汰にとっては悔しい。
「でも無理矢理襲ったりはしない。紳士だもんで」
「その割には言動があからさまだな」
「そ、そりゃあね。俺もオトシゴロですから。それにさ」
いまだ龍也の服の端をつかんでいた手に、彼の指が触れる。
「あ……」
「俺としては心配で仕方ないわけ。ライバルが多すぎて」
「ライバル?」
「まさか気付いてないわけないよな。えっとなんだっけ、山尾とかいうヤツ。バイト先の先輩だよな。あとこの前、大学でも声かけられてたじゃねぇか。あとは駅前でもナンパされてた。それに――」
「待て! お前、なんでそんこと知ってんだよ」
たしかに覚えのあることばかりだが問題はその事では無い。大学生と高校生、知るわけのない情報をなぜ知ってるのか。
だが龍也はしれっと。
「だって俺、あんたのストーカーだし」
そう言ってオーバーに肩をすくめるものだから少しゾッとした。
「お、お前なあ!」
「それだけガチだってこと。わかるだろ? そんな俺が心配してんだから、少しは危機感持ちなよ」
「お前みたいなヤバいやつ、そうそういるか! ……って」
そこでふと、聞いたストーカー話を思い出す。
「奏汰?」
「い、いや」
他にストーカーがいるなんて口にすれば、ますます拗れかねない。
それも困るのだが、なにより解せないのは。
「……んだよ。クソが」
目の前の少年相手であれば、ストーカーであってもさほど不快ではないという事。
むしろ真剣に愛を囁く姿に悪い気がしないのが、なんとも居心地悪い。
「そういうことで。奏汰、おやすみ」
「ちょっと待てってば」
また寝に行こうとする彼を止めた。
「やっぱりベッドで寝ろ」
「はぁぁぁ!?」
素っ頓狂な声で驚いたのは龍也の方。
「い、いやさっきの話聞いてたか!? 俺はあんたが好きなんだってば!」
「だったらなんだ」
「へ?」
わけがわからない、といった様子で慌てふためく彼を睨んで言った。
「紳士なんだろ」
「え。あ、あー、おう?」
「じゃあ一晩大人しくしてろ」
「な、なに」
「下手なところで寝て風邪でもひかれたら困るもんでな」
「ま、マジすか……」
イケメンであるはずなのに、目を白黒させるマヌケな狼狽っぷりを内心ほくそ笑みながら奏汰はベッドに腰掛ける。
そしてベッドシーツを叩いて言った。
「ほら来いよ」
「!?!?」
目は見開いて手は緊張や動揺で震えて挙動不審な彼を眺めながら、どこか優越感にひたっていた。
「は、はぁ」
一方龍也は返事すら危うい。ふらふらとした足取りで歩み寄ってくる。
鼻息が荒い。
「……え。ちゃんと寝ろよな、紳士クン?」
ぎしり、というベッドの軋みを聞きながら奏汰は内心冷や汗をかいていた。
少し調子に乗りすぎたのかもしれない。言葉にはしづらいが、やはり己に恋をする男の純情をもて遊ぶというのはやはり良くなかったのかもしれない。
「奏汰」
「龍也。やっぱり――」
「手だけでいい」
「え?」
「なにもしないから、手だけつながせて」
赤みの差した頬に寄せた眉。真っ直ぐな眼差しに、やはり絆されてしまったらしい。
「い、いいけど」
そう言って手を差し出してしまった。
「ありがと」
そう言って彼は少し苦しそうに笑う。
「うっ」
逃げようとするが、がっしりと身体を抱え込まれて体格差をしっかり分からされるのが悔しい。
「こ、のっ、離せ!」
「嫌だね」
「クソガキ!」
一緒に寝るつもりなんてなかった。ただすぐに用意出来る部屋がなかったのと、リビングのソファで寝るのが嫌だと龍也が駄々をこねたからだ。
「奏汰ってばチョロすぎなんだから」
たしかに奏汰の危機感は足りなかったのだろう。
自分のことをストーカーだと自認している者を自室に入れてしまうなんて。
「なにもしないって言っただろ!?」
「えー、言ったっけ?」
「ふざけんな!」
今までこんなことはなかった。
多少のスキンシップや言葉でのアピールくらいで、こんなに直接的な行動に出ることなんてなかったので油断していたのだ。
「俺だってちゃんと我慢してたよ。外堀埋めて、逃げられなくしようって」
「そ、外堀り……?」
「でももう限界。あんな姿見せられてよ」
龍也はグッと眉間にシワをよせた。
「その部屋着は反則!!」
ビシッと指をさされたのは奏汰が着てる部屋着、というか寝巻き。
「ピンクのモコモコパジャマとか可愛すぎんだろぉぉぉっ!!!」
「あ?」
自らが愛着しているものを見下ろす。
淡いピンクを基調とした、女子が好みそうな可愛い系のパジャマ。
「明良さんが選んでくれたんだけど、なんか文句あるかよ」
「ないよっ、むしろ百点満点で明良さんを表彰したいくらいだよッ! スタンディングオベーションしたいくらいにな!!! でも逆になんか嫌だ! 他の男が選んだ服を着てるのがたまらなくムカつくし、それでムラムラする俺自身がすごく悔しい! くそぉぉぉぉ!!!」
「なんなんだお前……」
奏汰は完全にドン引きだが、龍也の方は怒ったり泣きべそかいたりと忙しい。
「そんなキャラだったか」
「キャラどころか情緒ぐちゃぐちゃにさせてんのはあんただからな!?」
今度は頭を抱えながら。
「俺αなのに……」
とうなだれる始末。
「おい」
さすがに様子がおかしいと顔を覗き込むと。
「隙あり」
「させるか」
「い゙っ!?」
キスしてこようとする彼のひたいにデコピンをかます。
「痛ぇぇ……」
「僕をなめるなよ」
そこを押さえてうずくまる自分より大きな身体を、奏汰は足で軽く蹴った。
「ちょ、オーバーキルやめろって」
「うるさい。ったく油断も隙もない」
その場で抵抗して取り押さえるくらい出来ないことはない。なんせ狙われてきた経験値が半端ないからだ。
「だてにケツ狙われ続けてないってことだ」
「ヒェッ、俺の嫁が強い」
「誰が嫁だ。ブチ○すぞ」
「痛てぇ!」
ついでにゲンコツも落としておく。
「寝込みを襲わず、寝る前に堂々ときた無謀さと馬鹿さ加減だけは褒めてやる」
「褒めてねぇし」
「そもそも」
盛大なため息をついて、ぎゃあぎゃあわめく男子高校生を睨みつけた。
「なんで僕なんだよ」
完全なΩですらない男の自分に、なぜここまで執着するのか。
それは彼だけでなく多くの男たちにとってもそうだ。
「なんでってそりゃまぁ……運命?」
「バカにしてんのか、クソガキ」
奏汰のジト、とした視線に一瞬怯む龍也だが困った顔で頭をかく。
「んなこと言ってもよ。俺だってワケわかんねぇもん」
「あ゙?」
「いや怖い顔すんなって。バースとか年上とかそういうの関係なくて。ただあの時、男数人相手に暴れ回ってぶちのめしたのを見た瞬間」
「あー……」
そういえばそのようなこともあったか、とぼんやり思い出す。
しかし龍也の方はずっとその姿が頭から離れなかったと言う。
「かっこよかった。あんたのこと、本気でカッコイイと思ったんだ」
「お、おう?」
かっこいい、この言葉は悪くない。
「男が男に惚れるっつーか? いや違うな。男とか女とか、Ωとかβとかどうでもいいくらい好きになっちまった」
「え……」
真剣な顔。しかもそれだけではない。
純真な子供のような顔をしながらも、わずかに覗くのは獲物に向けられた獰猛な目。
これがαなのかもしれない、と自身の中にくすぶる生存本能が囁く。
「あんたが欲しい」
「た、龍也」
「あんたじゃなきゃ嫌だ」
なんとも真っ直ぐな求愛だろう。探るような、もの欲しげな下心とは違う。
「僕はお前のことが……」
「知ってるよ、嫌いなんだろ。でも多分、すぐに俺のこと好きになるよ」
「ふん、えらい自信だな。どうせいつもの嘘つきのハッタリだ」
「かもしれねぇ」
にぃ、と彼が笑った。
「でもな。よく言われてたんだぜ『龍也クンはやればできる子』だって」
「そう意味じゃないと思うけど」
「俺の場合はそうなの」
おどけた言い方だが何がなんでも惚れさせてやる、ということか。このビッグマウスも尊大な態度も若いが故なのか、αの自負心からなのか。
「だから覚悟しとけよ!」
「……バッカじゃないの」
奏汰はそう鼻で笑うがその耳に妙な赤みがさしているのを自覚していなかった。
これはいけるのでは、とこの少年を期待させてしまう所以なのかもしれない。
「ってことで、寝る」
「おい!」
龍也が背を向け、部屋を出て行こうとするのを慌てて呼び止めた。
「お前どこ行くんだよ」
「え? ソファだけど」
キョトンとした顔。なぜかそんな姿にイラッとする。
「なんでだよ」
さっき一緒に寝るって駄々をこねていたではないか。なのにあっさり諦めて行ってしまうとは。
なにか釈然としないものが胸の中に広がったのだ。
「なんでって」
ふい、と目をそらされる。それもまた面白くない。
だから思わずらしくない事をした。
「待てよ、バカ…………っ、あ!?」
腕を引こうとしたのだ。しかし掴み損ねた手は一瞬空を切り、そしてようやく龍也の服の端を捕らえた。
「!」
それはまさに相手の服の端っこを掴んで上目遣いで頬を染める (焦りで上気はしていた) あざとさ満点の出来上がりである。
「あ、ええっと」
「おお?」
「ちがっ……別に行って欲しくないとか、そういうんじゃなくて……」
素っ気なくされた気分で嫌だと言うのもまた誤解されそうで、モゴモゴと口ごもっていると。
「ああもう!」
龍也のあげた大声に驚いて顔を上げる。
目の前には心底困りきって頭をかく姿が。
「あんたって、ほんとに可愛いすぎる。こんなんじゃ、絶対に手に入れたくなっちゃうじゃん」
「なんだよそれ」
「だからね。その顔……」
「最初からそういう気持ちできてるんじゃないのかよ」
「え゙っ」
「あ、ええっ、と、また違っ――」
もう自分が何を考えているのかすら分からない。
なぜ嫌いだと公言する相手に、本気で欲しいと思ってくれないのかと強請るような言葉を吐いたのか。
求められれば疎ましがる。しかし手を離されればそれも寂しく感じてしまうのだ。
「うん、最初からそのつもりだった。欲しいよ、あんたが」
「……僕はそんなに安くない」
「知ってる。そういうところも好きだから」
嫌いな相手、しかもαにここまで距離を許してしまった。そんな自分に驚く反面、なぜか悪くないと思っている現状が奏汰にとっては悔しい。
「でも無理矢理襲ったりはしない。紳士だもんで」
「その割には言動があからさまだな」
「そ、そりゃあね。俺もオトシゴロですから。それにさ」
いまだ龍也の服の端をつかんでいた手に、彼の指が触れる。
「あ……」
「俺としては心配で仕方ないわけ。ライバルが多すぎて」
「ライバル?」
「まさか気付いてないわけないよな。えっとなんだっけ、山尾とかいうヤツ。バイト先の先輩だよな。あとこの前、大学でも声かけられてたじゃねぇか。あとは駅前でもナンパされてた。それに――」
「待て! お前、なんでそんこと知ってんだよ」
たしかに覚えのあることばかりだが問題はその事では無い。大学生と高校生、知るわけのない情報をなぜ知ってるのか。
だが龍也はしれっと。
「だって俺、あんたのストーカーだし」
そう言ってオーバーに肩をすくめるものだから少しゾッとした。
「お、お前なあ!」
「それだけガチだってこと。わかるだろ? そんな俺が心配してんだから、少しは危機感持ちなよ」
「お前みたいなヤバいやつ、そうそういるか! ……って」
そこでふと、聞いたストーカー話を思い出す。
「奏汰?」
「い、いや」
他にストーカーがいるなんて口にすれば、ますます拗れかねない。
それも困るのだが、なにより解せないのは。
「……んだよ。クソが」
目の前の少年相手であれば、ストーカーであってもさほど不快ではないという事。
むしろ真剣に愛を囁く姿に悪い気がしないのが、なんとも居心地悪い。
「そういうことで。奏汰、おやすみ」
「ちょっと待てってば」
また寝に行こうとする彼を止めた。
「やっぱりベッドで寝ろ」
「はぁぁぁ!?」
素っ頓狂な声で驚いたのは龍也の方。
「い、いやさっきの話聞いてたか!? 俺はあんたが好きなんだってば!」
「だったらなんだ」
「へ?」
わけがわからない、といった様子で慌てふためく彼を睨んで言った。
「紳士なんだろ」
「え。あ、あー、おう?」
「じゃあ一晩大人しくしてろ」
「な、なに」
「下手なところで寝て風邪でもひかれたら困るもんでな」
「ま、マジすか……」
イケメンであるはずなのに、目を白黒させるマヌケな狼狽っぷりを内心ほくそ笑みながら奏汰はベッドに腰掛ける。
そしてベッドシーツを叩いて言った。
「ほら来いよ」
「!?!?」
目は見開いて手は緊張や動揺で震えて挙動不審な彼を眺めながら、どこか優越感にひたっていた。
「は、はぁ」
一方龍也は返事すら危うい。ふらふらとした足取りで歩み寄ってくる。
鼻息が荒い。
「……え。ちゃんと寝ろよな、紳士クン?」
ぎしり、というベッドの軋みを聞きながら奏汰は内心冷や汗をかいていた。
少し調子に乗りすぎたのかもしれない。言葉にはしづらいが、やはり己に恋をする男の純情をもて遊ぶというのはやはり良くなかったのかもしれない。
「奏汰」
「龍也。やっぱり――」
「手だけでいい」
「え?」
「なにもしないから、手だけつながせて」
赤みの差した頬に寄せた眉。真っ直ぐな眼差しに、やはり絆されてしまったらしい。
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