変異型Ωは鉄壁の貞操

田中 乃那加

文字の大きさ
上 下
12 / 34

デート+α ①

しおりを挟む
「だ・か・らっ、なんでお前がいるんだよ!!!」

 頭を抱えて声をあげる奏汰に、一瞬だけ周りの視線が集まる。
 するとハッとしてすぐに声を落とし。

「あ、明良さん。僕がこいつを連れてきたわけじゃ――」
「うん、知ってる。だってぼくが誘ったから」
「!?!?!?」

 彼の返答に、今度は絶句して目を白黒させた。

 明良の口から『デート』なんて言葉が出て大いに驚いたが、それが単なる買い物だと知って安堵したやらガッカリしたやら。

 しかし気を取り直して出かけた先にいたのはやはりあの人物で。

「龍也君と奏汰君、行こうか」
「はい!」
 
 明良の言葉に元気よく返事する高校生。

「え? え? え?」

 混乱中の奏汰。

「ほら行こうぜ」

 サッと、あくまでさりげなく彼に手を取られた。

「あっ、え、えぇ?」

 そのまま数メートル手を繋がれた状態のあと。

「おい!」

 と慌てて振り払う。

「んだよデートだろ、だったらいいじゃん」
「違う! デートだけどっ、デートじゃない!!」
「あはは。なんだそれ」

 テンパりながらもなんとか距離を取りつつ、隣で笑顔でいる彼にすがる。

「明良さんなんで!?」
「あ、言ってなかったかな。奏汰君と龍也君のデートにぼくが同伴しようかと思って」
「ちょ、意味がわかんないよ! 僕はてっきり――」
「まあまあ、とにかく君たちにはお買い物手伝ってもらうね」
「そ、それはいいですけど……」

 その綺麗な顔で言われると途端に弱くなってしまう。そんな奏汰を見て少しムッとした顔の龍也。

「また二人でイチャイチャしてる、奏汰は俺のストーカー相手だからな」
「いやストーカー自称してるのがやばいだろ」

 開き直り方もなかなかぶっ飛んでいる。
 ともかく行こうと歩き出した三人。

「何が買いたいとかあるの?」

 奏汰の問いかけに明良は少し考えたあと、彼らがいる大型ショッピングモールをチラリと見渡して言った。

「ベビー用品、かな」

 ゆったりとした服に触れながら目を伏せた。
 なるほど、と奏汰は思ったすぐ後に龍也の反応が気になる。

「もしかして」

 半信半疑といった様子の彼に、明良はそっとうなずいた。
 するとみるみるうちにその形の良い目は大きく見開かれる。

「まさか嘘だろ?」
「龍也君」
「妊娠してたのかよ。まったく気付かなかった」
「これには色々事情がね」
「そんな……俺……」

 ついには頭を抱え始めたが、ボソリと呟く。

「でもまあいいか」
「え?」

 そしてパッと顔を上げて。

「俺、あんたのお腹の子の父親になるから!」
「へ?」

 なぜか視線は奏汰の方に向いている。真面目な顔でポカンとしてる奏汰の手を両手で包み込むように握った。

「安心しろ、あんたが産む子は俺の子供だ」
「えっ?」
「ちなみに出産には立ち会う。陣痛中もちゃんとサポートするからな」
「いや、そういう……ええっ!?」

 確実に勘違いしている。しかしあまりのことに訂正の言葉が上手く出てこない。それをまた勘違いしたのか、今度は強く抱き締められた。
 しかも大勢の人がいるショッピングモールにて。

「俺は奏汰がいれば幸せだ、だから奏汰は俺が幸せにする!」
「た、龍也!?」

 そう叫ぶ少年に周囲の人間達はどよめき、一拍おいてなぜか拍手が沸き起こった。

「ちがっ、ちょ……お前、なに言ってんだ!」
「違う? もしかして本当に俺の子とか? あ、まさかは夢じゃなくて本当の――」
「おい待てあれってなんだ。どんな夢みてやがったんだ、このエロガキめ!」
「どんなってそりゃあ、俺が奏汰の【ピー】に【ピー】を力強く【ピー】して。あんたが、大っきいの入んないよぉって泣くけど構わずぶち〇して、ヤダヤダ壊れちゃうって言うのをなだめてたら次第に蕩けて自分から求めはじめて……」
「ストップストップ!!! もういいっ、もう言うなッ!」

 とんでもない単語と表現の羅列に怒鳴り声あげながら口をふさぎにかかる。

「手が小さいな」
「ひぃぃっ!?」

 その手のひらすらべろりと舐められて悲鳴が。
 
「いい加減にしろっ、僕は妊娠してない!」
「えっ」
 
 キョトンと首をかしげた龍也は次に視線を移したのは涼しげな顔をしている明良の方。
 というかちゃっかり衆人に紛れて他人のフリをして、なんならスマホを構えて撮影までしている。

「もしかして明良さんのこと?」
「当たり前だろ、バカ」
「……え」
「わかったらもう離せ!」

 そこでようやく、渋々といった様子で解放された。
 怒りと羞恥で顔を真っ赤にしながら、奏汰は明良の方に歩み寄る。

「明良さんもなに撮っての!?」
「いや、結婚式で流したらいいかなって」
「冗談やめてよ!」
「まあまあ。とはいえ龍也君を驚かせちゃって悪かったね。ぼくの方はシングルマザー予定だし、今度は気をつかわせちゃうかもしれないけど」

 しかし龍也はあっけらかんと。

「いや別にそこは良いですけど。じゃあ買い物の荷物持ちはまかせてくださいよ。俺、腕力めちゃくちゃあるんで」
 
 そう言ってのけてから無邪気に笑った。

「龍也君」
「さ、行きましょ。ついでに今晩、メシも食って行っていいですか? もちろんお手伝いしますんで」
「喜んで。ありがとね」

 奏汰はそんな二人の優しい会話を聞きながら。ふととある疑問が浮かんだ。

 ――龍也は明良の妊娠のこと、確か知ってたはずだ。なんせ二人で彼を連れて逃げたこともある。
 それなのになぜ、妊娠というワードで奏汰の方だと勘違いしたのか。

「……お前、本当にバカなんだな」
「え? いきなりディスり?」
「若いうちにボケてんじゃないぞ」

 だがその違和感に、いまいち気づけない奏汰であった。


 

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

嘘つき純愛アルファはヤンデレ敵アルファが好き過ぎる

カギカッコ「」
BL
さらっと思い付いた短編です。タイトル通り。

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

噛痕に思う

阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。 ✿オメガバースもの掌編二本作。 (『ride』は2021年3月28日に追加します)

お世話したいαしか勝たん!

沙耶
BL
神崎斗真はオメガである。総合病院でオメガ科の医師として働くうちに、ヒートが悪化。次のヒートは抑制剤無しで迎えなさいと言われてしまった。 悩んでいるときに相談に乗ってくれたα、立花優翔が、「俺と一緒にヒートを過ごさない?」と言ってくれた…? 優しい彼に乗せられて一緒に過ごすことになったけど、彼はΩをお世話したい系αだった?! ※完結設定にしていますが、番外編を突如として投稿することがございます。ご了承ください。

イケメンがご乱心すぎてついていけません!

アキトワ(まなせ)
BL
「ねぇ、オレの事は悠って呼んで」  俺にだけ許された呼び名 「見つけたよ。お前がオレのΩだ」 普通にβとして過ごしてきた俺に告げられた言葉。 友達だと思って接してきたアイツに…性的な目で見られる戸惑い。 ■オメガバースの世界観を元にしたそんな二人の話  ゆるめ設定です。 ………………………………………………………………… イラスト:聖也様(@Wg3QO7dHrjLFH)

ド天然アルファの執着はちょっとおかしい

のは
BL
一嶌はそれまで、オメガに興味が持てなかった。彼らには托卵の習慣があり、いつでも男を探しているからだ。だが澄也と名乗るオメガに出会い一嶌は恋に落ちた。その瞬間から一嶌の暴走が始まる。 【アルファ→なんかエリート。ベータ→一般人。オメガ→男女問わず子供産む(この世界では産卵)くらいのゆるいオメガバースなので優しい気持ちで読んでください】

孤独の王と後宮の青葉

秋月真鳥
BL
 塔に閉じ込められた居場所のない妾腹の王子は、15歳になってもバース性が判明していなかった。美少女のような彼を、父親はオメガと決め付けて遠い異国の後宮に入れる。  異国の王は孤独だった。誰もが彼をアルファと信じているのに、本当はオメガでそのことを明かすことができない。  筋骨隆々としたアルファらしい孤独なオメガの王と、美少女のようなオメガらしいアルファの王子は、互いの孤独を埋め合い、愛し合う。 ※ムーンライトノベルズ様にも投稿しています。 ※完結まで予約投稿しています。

処理中です...