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魔王様は人柱

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 やめろと怒鳴っても、やめてくれと泣いたって事態は変わらないだろう。だから。

「死ねぇぇぇッ、このド変態鬼畜野郎!!!」

 ナイフを手にこの露出男に突進するしかなくてだな。

「おいおい、叫ぶな」
「ぐっ!?」

 易々と手刀で叩き落とされて、そのまま羽交い締めにされた。
 笑っちまうだろ、これでも魔王なんだ。魔法がなきゃ、俺もこんなもんなのかもしれない。
 頭の隅はやけに冷静で、こんな自嘲めいたことを考えているわけだが。
 
「ぐぬぬ……薄汚い手を離せ!」
「離したら逃げるだろうが」

 うわ、なにこのデジャブ。
 そもそもなんでこんなに強いんだ、人間のクセに! 
 そう怒鳴りつければ。

「そりゃ俺も一応、勇者だからな」

 なんて小首をかしげる姿は可愛くもなんともない。むしろ不気味ですらある。
 だってコイツ、やたら筋骨隆々なんだぞ。そりゃオーガどもとケンカして勝つはずだわ。

 あとから分かったのだが、やはり先にふっかけてきたのはオーガ達らしい。おおかた、ノコノコと現れたひ弱 (と見られる)人間でストレス解消しようとでも思ったんだろう。
 気の毒ではあるから、こっちからは高価回復薬の詰め合わせ送ったがこれは自業自得だな。

「アンタこそか弱すぎるんじゃねぇのか」
「なっ……」

 キィィィッ!! 人間ごときに言われたァァァッ!!! 
 悔しさと怒りで顔が熱くなる。

「でも安心しろ」
「なにを言って――あ!?」

 軽々と男、アレスは体勢を変えて僕をお姫様抱っこしやがった。
 言っとくが今の僕は、それなりの体格の姿だ。少年姿でならいざ知らず。
 だから慌てふためいて思わずその逞しい首にすがりついてしまう。

「ふむ、熱烈だな」
「うるさい!」
「むしろ大歓迎だぜ。ところで結婚式はいつにする? ハネムーンの場所も決めなきゃな。あと子供は十人は欲しい。男女ともに五人ずつ。あ、心配しなくても育児は俺に任せろよ。なぁに、昔は近所のガキのお守りを一手に担ってきたからな。子供の扱いは自信あるぜ。ミルク育児にも理解あるつもりだ。だがなんならその母乳は俺専用ということで、毎晩授乳プレイを(ry」
「……」

 なにコイツこわい。めちゃくちゃこわい。
 凄くいい笑顔で、何一つ理解できないこと言ってる。こっわ、怖すぎる。なんなのこの意味不明な生き物。

 声を出すことすら出来ず固まる僕に、恐怖の変態サイコホモ野郎はやっぱり意味の分からない戯言たわごとを言い続けている。

「今世をかけてアンタを守るからな。もちろん、来世も言わずもがなだが」
「ア゙ァッ?」

 ほんと何言ってんだコイツ。頭おかしいのだろうか。まさか魔力の浴びすぎ&性欲でぶっ壊れたとか。
 だとしたらほんとどうしようもない。

「とにかくッ、さっさと人間界へ帰れ!」

 こんなモンスターよりモンスターな男、魔界にとっては驚異にしかならん。
 脳内には、道行く魔界の住人たちを無差別でレイプしまくる性犯罪者の姿が。
 これは何がなんでも止めなければならない。
 だって僕は魔王だぞ。王としてやるべき事がある。

 ――唇を軽く噛んで、意を決して口を開く。

「なにが望みだ」

 あまりにも声が小さく震えていたからだろうか。
 アレスは小さく笑った。

「分かりきった事を聞くもんじゃないぜ。マイハニー?」
「!!!」

 ま、まさか。また抱かせろってことか!?
 舐め回すようなイヤラシイ視線に、寒気が走る。同時に別の感覚が湧き上がるのは無視するとして。
 昨晩あれだけの狼藉を働いておいて。またこの身体を貪ろうってか。なんてスケベ野郎なんだ!
 くそっ、悔しい。悔しいけど。

「アンタが欲しい」
「な、なん、だと」

 やっぱりぃぃぃっ!! またヤられるんだ。この絶倫野郎に。
 歯がガチガチとなるのを必死で抑えながら、あらためて自分の状況を思い出した。

「とりあえず離せっ、バカ!」

 暴れ回る意気込みで怒鳴りつければ、あっさりと床に降ろされる。拍子抜けしたような、少しガッカリ……なんて断じてないが。
 それでもそんな考えすらもう甘かったと知ったのは、彼が僕の頬に指を這わせた時。

「本当に美しい男だな」
「え゙っ」

 やばい、これはやばいやつ。触れられた部分がやけに熱い。いやちがうな、身体全体が熱い。
 もしやなんか変な魔法でもかけられたのか? いやいやいや、この魔法アレルギーの男が??? 
 もう何が何だかわからない。ただ昨晩あれだけ突っ込まれまくったアソコが、まるで女のそれみたく濡れそうな。
 も、もちろん。そんなことは生物学上ないんだけれども! でも、でも……なんか……。

「末永く、よろしく頼むぜ」

 この先、僕はこの男に脅され続けるってことかよ。
 魔界の平和のために。人々の貞操のために。

 正直、めちゃくちゃ嫌だ。なんか見つめられるだけで身体が熱くなるのも、この変態クソ野郎がどんどんイケメンに見えてくるのも理解不能だし。
 でも、怖気付くワケにはいかない。
 僕だって男だ。そして魔王なんだぞ。これも職務の一環と思えばいい。

「御託はもういい」

 僕は服に手をかけた。そして何故かひどく驚いた様子のアレスを睨みつける。

「さっさと、やれよ」

 目の前の男の瞳は深い翠色。

 ――ゆっくりその場に押し倒されてる瞬間、僕はたしかに息を荒らげていた。
 それを知られたくなくて顔を背ける。
 

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