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魔王様は満身創痍

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※※※

 生物というのは、なんだかんだと死なないものだ。
 特に魔物、しかも僕みたいな魔王ともなればな。でも無傷で無症状とは程遠く。

「ゔ~~~っ……」

 圧倒的な辛さ。痛いというかだるい。身体中から精気も魔力も抜き取られたような倦怠感が全身を支配している。
 ベッドの上でうずくまることしか出来ない。

「エルヴァ」
「はい、シド様」

 呼べばすぐに出てきてくれる彼女は優秀な秘書だ。
 でもその優秀っぷりは昨晩でも発揮して欲しかった。
 
 なぜって、この娘もまたあの人払い看板に騙されていたから。
 しかもこともあろうに。

『申し訳ありません。昨晩は徹マン (徹夜麻雀) しておりまして』

 と頭を下げる始末。
 そりゃあな。プライベートの時間に対して、どーのこーの言うつもりはないよ。
 でもさ激務のはずの魔王用心棒兼、秘書が徹夜で賭け麻雀に興じてるとか。それもどうなんだ。
 むしろ身体壊すぞ。しかも。

『今回も完勝でしたよ』

 と別に嬉しくもなんともない報告を、無表情でしてくれた。
 つーか、ってなんだ。いつもやってんのかよ。人は見かけによらないっていうけど、彼女がまさか賭け事で同僚たちから金まきあげていたとは。
 
 時折、朝に涙目でぷるぷるしてる奴らがいたのはコレが原因か。

「エルヴァ、回復薬を持ってきてくれ。回復魔法もはよ」
「これ以上は服用を許可しかねる、と魔法医師が」
「うぐっ」

 くそ、役に立たねぇな。
 魔城のお抱えの医師いわく。

『過度なセックスの疲労と特殊な呪いによって引き起こされたステータス異常』

 さらに日にち薬だと言って、ケチな回復魔法しかかけてくれないのだから最悪だ。とにかくなんとかしろとヒステリー混じりで訴えても。

『なんともなりませんなァ。ま、たまにはゆっくりさなってはいかがですか。だいたいシド様は働き過ぎですよHAHAHAHA☆』

 ……ぬぁんて。あのハゲめ!
 くそぉぉぉっ、それもこれもあの変態男のせいだ。
 ただでさえ仕事はたまってんのに、こんなことでベッドに沈むハメになるなんて。許すまじ、全裸レイパー野郎!!!

「ヤツはどうしてる」
「あの勇者ですか。今は地下牢に繋いでおります」
「ちゃんと見張ってるだろうな」

 あんな破廉恥かつ、歩く猥褻物が脱走してきたらと考えるだけで恐怖でしかない。しかもタチが悪いことに魔法が効かない、魔力だけ吸い取って性欲と腕力に変換してしまうなんて。
 思い出しただけで身震いしてきた。

「あの、大丈夫ですか」
「逆に聞くが。大丈夫に見えるか? こ・れ・が!」

 身体の節々が軋むわ声はガラガラ。しかも何より。

「また珍しい姿をなさっていますね」
「うるさいっ、ワザとだろ!」

 八つ当たりなのは承知で怒鳴りつける。
 いつもよりずっと身体のサイズが大きい。というか、歳を経ている。

「くそっ」

 通常、僕は人間年齢でいうところの15歳くらいの少年の形をとっていた。何故かって? 僕の趣味――なわけない。単純に、この姿が一番魔力の維持が楽なだけだ。
 城の構造上。これより小さいと生活しづらいし、大きいと魔力消費が増える。
 そして今。

「個人的には、極めて魅力的なお姿だと思いますが」
「お世辞はいらん……」

 魔力で体型を整える余力がないのが現実。本来の姿をさらしている。
 
「いえ、美少年も良いですが。美青年から美中年にさしかかる今のお姿の絶妙な色気がよろしいかと」
「なあ。僕は君が、何言ってんのかわかんないんだけど」

 無表情なくせに目がマジなのがなんか嫌だ。
 部下に色気だのなんだのと面白くもなんともないジョークとばされるとはおもわなかった。
 深々とため息をつきつつ。

「歳とったなぁ」

 と独りごちるのが関の山。
 自らの老いを直視しなきゃいけないって、人間たちが不老不死の秘術だの黒魔法だかに執着する理由がほんの少しだけ分かった気がする。
 その先の死を恐れるというより、単純に変化が怖いのだと思う。

「ですからこのお姿も美しいと――」
「エルヴァ、この話題は終わりだ」

 知ってんだからな、さっきから目がかすかに笑ってることを。コイツ、面白がってやがる。
 普段こき使ってるからって、こういうところで仕返しすることないだろ。まったく、ヒドイ部下がいたものだ。

「で、自称勇者の露出魔はなんか言ってたか」
「いいえ。名前以外は」
「ふーん、ちゃんと尋問と拷問したんだろうな」
「はい、しかし……」

 そこで彼女は珍しく言葉をにごす。
 だから僕は無言で促すと、次のように返ってきた。

「どんなに痛めつけても効果がないようで。痛みも感じていないのではないか、と」
「は…………?」

 屍人アンデッドかなんかか?
 いや、だとすれば見た目がもうちがうだろう。奴らは独特な肌の色と、眼球の濁りが特徴だ。
 魔界の王である僕が、魔物と人間とを区別出来ないわけがないだろう。
 じゃあどういうことだ?

「そうか」

 ピンときたぞ。あの男はどんな原理かは分からんが、魔法が効かない。魔力そのものがダメージにならないんだ。
 そしたら普通に殴ればって思うかもしれないが、僕達魔物は生まれつき魔力を有している。
 普通に触れたとて、微弱な魔力は帯びるわけで。
 それすら拾って無効化してしまう。なんて厄介な勇者だ。

「おい! エルヴァ……ゔ~~っ!?」

 嫌な予感に跳ね起きた。
 その瞬間、腰に痛みを感じてまた伏せる。
 まったく最悪だ。だが、こうしてはいられない。
 
「今すぐ回復薬をもってこいッ! 早く!!!」

 僕の必死さが伝わったのか、彼女が聡いのか。余計なことは言わず、無言でうなずき走って行った。

「くっ、あの野郎」

 悠長に寝込んでいられない。なんせこうしている間にも、あの変態はどんどん強くなっていく。
 僕達、魔物の魔力を吸い取って。
 第二第三の被害者が出ては、それこそ悲惨だ。だって言っていただろう。

『魔力を腕力と蓄積する』

 って。





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