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勇者様は戒めたい
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『しばらく出て行ってくれ』
突然、嫁からそんなこと言われて素直にうなずけるかって話だ。
「どういう事だ」
「そのままの意味さ。あと十日、いや一ヶ月は城に近寄るなよ」
机から顔も上げずに言ってのけた彼を、そのまま椅子ごと押し倒さなかった俺を誰か褒めて欲しい。
その代わり、横にあった応接テーブルが粉砕されたがな。
「ちょっ、なにやってんだ!?」
「それはこっちのセリフってもんだな」
さすがに叩きつけた拳は皮膚が破れ、血まみれになっている。しかしそんなことは今問題じゃねぇ。
俺は最高にブチギレている。
「アンタ、俺に出ていけって言ってんのか」
「そうじゃない……って、そういうことになるか。とにかく住居なら用意する。人間界に帰ってくれてもいい。ここには居ないでくれ」
「あ゙?」
やはり俺を追い出そうとしているらしい。
知らず知らずのうちに眉間に力が入る。
「なにが気に食わないのだ」
夫である俺に対して、問題があったのだろうか。いや、そうに違いない。
しかし夫婦たるもの、こういった数々の壁を乗り越えなくてはどうする。
俺は大きく息を吸った。
「良くないところがあれば直すから」
……我ながら情けない事を言っちまった。でも本音が声に出たんだ、仕方ねぇだろ。
涙目ですがりつかないだけマシだと思ってくれ。男っていうのは、こう見えて案外と女々しいのかもしれん。
あ、よく考えればシドも男か。でも関係ねぇな。
俺は雄で彼は俺の妻だ。それは死がふたりを分かつことがあれど変わらない。また転生でもなんでもして、戻ってきてやるだけだ。
しつこい? しつこくて結構、やっと初恋を手に入れたんだ。ここで手放してたまるか。
そんなことをグルグル考えながら、黙り込んだ俺に怪訝そうな視線を向ける彼を観察し続ける。
「なるほど」
俺はその時、閃いた。
「完全に理解した」
「えっ。そ、そうか?」
疑わしそうな目。しかし大きくうなずいてやる。
分かってるとも。俺には全てお見通しだ。
「セックスが足りなかったんだな」
「な゙っ……!?」
夫婦生活。つまり性行為が物足りなかった、とみた。
そりゃあ言えねぇよな。彼のような慎ましい、淑女みてぇな男ならなおさら。
すると次の瞬間。
「こんのッ! バカタレがーッ!!!」
「ぶっ!?」
綺麗なスイングとともに、白魚のような平手が俺の頬にクリーンヒット。つまり強烈なビンタを食らったわけだが。
「なにもそんな照れることないぜ」
「うるさいうるさいうるさーいっ! 全然理解して無いじゃないかッ!!!」
ヒステリックに叫ぶ姿もまぁ可愛いが、それにしても顔が真っ赤だ。
「少し落ち着け。なにかリラックス効果のあることをしたらいい。おおそうだ。セックスでもして、な?」
「余計落ち着けんわッ! つか、人の話を聞け!!!」
今度は地団駄ふんでいる、可愛い。俺に魔法攻撃が効かない、むしろ有利になることを知ってるからか。何も出来ずにいるシドが愛しくて仕方ねぇ。
ふむ、このまま抱いちまっていいかな。俺だって仕事して疲れて帰ってきてんだ。
ご褒美セックスも悪くないだろう。
そうだ、今日は少し特殊な薬を手に入れて来たんだった。北部のエルフ村にて、代々伝わる秘薬らしい。
どういった効果のものか。よく覚えていないが、なんか結婚の儀式につかうものらしい。
子孫繁栄だとかなんとか言っていたから、毒にはならんだろう。
……そんな考えにふけっていた俺の耳に、シドの言葉の切れ端が飛び込んできた。
「――だから、出てけ。分かったな」
「ンン?」
「おい、聞いてたのかよ。また上の空だったら許さないぞ」
「あ、うむ」
しまったな、思わず生返事しちまったが全然聞いてなかったぞ。
すまんもう一度と口を開きかけた時、とんでもない事を彼が言い出した。
「ファルサが帰るまで、貴様は邪魔するなよ」
「なんだと…………?」
ファルサ、と言ったか。
その名前が脳内に反響する。
「シド」
俺は彼の目を覗き込む。
「その女、お前にとってそんなに大事なのか」
「えっ? ま、まぁ大事というか。怒らせたくは……ないな」
つまりそれは怒らせたくない大事な相手ってことじゃねぇか。
ここで埋もれさせたかった記憶が、頭をもたげる。前世とかそういうんじゃねぇ。今日のことだ。
――その女は、仕事先でタチの悪い連中に絡まれているところを俺が助けた。
魔界では珍しくもなんともないエルフの娘だった。
『この先の森に薬草を取りに来たのです』
礼を言った彼女は悲しげにはにかんだ。どうやら病気のおふくろさんの為、こんな治安の悪いところまでたった一人でやってきたらしい。
擦り切れ気味の服が寒々しくて、俺は上に羽織っていたモノを差し出す。
すると彼女は小さな手を拝むような形にして、涙目でまた頭を下げた。
それから、特になにもない。少し話をしたくらいか。
そこで聞いたのはこの魔界という場所のこと。
『昔はもっと酷かったんです。戦争ばかりだったし、みんな飢えていて。でも魔王様が、シド様のおかげでこの世界は少しずつ平和になっています』
聞くところによると、やはり数百年前まで魔界はもっと酷い所だったらしい。
魔族は魔物である民から搾取し、私服を肥やす。争いは絶えることなく、だからこそ人間界へ逃れる者も多かったとか。
『シド様が魔王になられてから、魔界は変わりました』
頬を染めていう彼女は一体いくつなんだと疑問に思ったが、エルフとは長命だからそんなものなのかもしれない。
『シド様にはこの先も魔王として、魔界をよりよくして欲しいのです。そのためには早く世継ぎを』
世継ぎ。人間界でも魔界でも、お世継ぎ問題は付きまとうらしい。
胸に走った痛みは今でも思い出す。
彼は魔族の女と結婚して子を成さねばならない。
それが彼の役目で民の願いと、少女は言う。
『一応、許嫁候補は多数いるのですがシド様が難色を示されているようなのです』
つまり周囲が勧める縁談は数あれど、本人がその気にならないと。
そりゃそうだよな。彼は俺という夫が…………って、もしや俺たちは大っぴらに出来ねぇ関係なんじゃねぇのか。
ここでようやく分かった。
いくら愛し合っていても、身分も種族も違い過ぎる。
嫁だの妻だの言っていたが結局それも、俺の独りよがりだったんじゃないか。
彼は俺の事を愛してくれているのだろうか。
いや、そこを疑うなんて男としてどうなんだ?
そこまで考え込んでいると、少女から件の女の名を聞くことになる。
『ファルサ・メルルー嬢との縁談が、一番有力だったらしいですけど』
ファルサは彼のイトコだかハトコだかなんだか (そこんとこは俺も覚えていない。思えばパニック状態だったのだろう)
そしてそこへ来てら彼の口からその名を聞くなんて。
これは。もしかして、もしかするんじゃないのか。
「おい大丈夫か」
「シド」
鬼の形相になっていたのだろう。心無しか怯えた表情の彼に、俺は興奮した。
「アンタは俺を弄んでいたのか」
「へ?」
俺の恋心を。愛を手のひらで転がして遊んでいたのか? こんなに愛しているのに。
胸の中を怒りと悲しみと、込み上げる愛情と性欲で満たされる。
今すぐこいつをめちゃくちゃにしてやりたい。そうすれば、そのファルサとかいう女のところへ行くことはないんじゃないのか。
「な、なに」
「俺のものになってくれ、今すぐ」
「意味がわからんぞ! ちょっ、痛っ!?」
強く腕を掴む。痛い痛いと喚く声すら気分が良くて、そのまま衝動のままに床へ引き倒した。
「分からなくて結構だ。そのまま、壊れてくれ」
「ひっ……やめ、こ、こんなとこじゃ、やだ!」
仕事をする部屋の床で犯されるなんて、確かに嫌だろうな。
でもだからこそ効果的だ。
「や、ヤるなら、せめてベッドで」
「いや待てん。ここで抱く」
「このケダモノ! やめろっ、脱がすな!」
あの少女に服を貸したせいで、いつもより魔力が蓄積されている。だから彼の服なんて易々と破ることができる。
秒でただの布切れになった衣服を前に、真っ青になる男が愛しくて憎らしくてたまらない。
「やめ……っ……や……」
「これ、使ってみようぜ」
懐から小瓶を出す。
そのエルフの少女が俺にくれたものだ。どんな効果があるか、聞いた気がするが覚えていない。
「た、たすけ――」
「大人しくしてろよ」
俺の顔を見て酷くされると怯えたのか、助けを呼ぼうとする彼の唇をできるだけ激しく奪った。
突然、嫁からそんなこと言われて素直にうなずけるかって話だ。
「どういう事だ」
「そのままの意味さ。あと十日、いや一ヶ月は城に近寄るなよ」
机から顔も上げずに言ってのけた彼を、そのまま椅子ごと押し倒さなかった俺を誰か褒めて欲しい。
その代わり、横にあった応接テーブルが粉砕されたがな。
「ちょっ、なにやってんだ!?」
「それはこっちのセリフってもんだな」
さすがに叩きつけた拳は皮膚が破れ、血まみれになっている。しかしそんなことは今問題じゃねぇ。
俺は最高にブチギレている。
「アンタ、俺に出ていけって言ってんのか」
「そうじゃない……って、そういうことになるか。とにかく住居なら用意する。人間界に帰ってくれてもいい。ここには居ないでくれ」
「あ゙?」
やはり俺を追い出そうとしているらしい。
知らず知らずのうちに眉間に力が入る。
「なにが気に食わないのだ」
夫である俺に対して、問題があったのだろうか。いや、そうに違いない。
しかし夫婦たるもの、こういった数々の壁を乗り越えなくてはどうする。
俺は大きく息を吸った。
「良くないところがあれば直すから」
……我ながら情けない事を言っちまった。でも本音が声に出たんだ、仕方ねぇだろ。
涙目ですがりつかないだけマシだと思ってくれ。男っていうのは、こう見えて案外と女々しいのかもしれん。
あ、よく考えればシドも男か。でも関係ねぇな。
俺は雄で彼は俺の妻だ。それは死がふたりを分かつことがあれど変わらない。また転生でもなんでもして、戻ってきてやるだけだ。
しつこい? しつこくて結構、やっと初恋を手に入れたんだ。ここで手放してたまるか。
そんなことをグルグル考えながら、黙り込んだ俺に怪訝そうな視線を向ける彼を観察し続ける。
「なるほど」
俺はその時、閃いた。
「完全に理解した」
「えっ。そ、そうか?」
疑わしそうな目。しかし大きくうなずいてやる。
分かってるとも。俺には全てお見通しだ。
「セックスが足りなかったんだな」
「な゙っ……!?」
夫婦生活。つまり性行為が物足りなかった、とみた。
そりゃあ言えねぇよな。彼のような慎ましい、淑女みてぇな男ならなおさら。
すると次の瞬間。
「こんのッ! バカタレがーッ!!!」
「ぶっ!?」
綺麗なスイングとともに、白魚のような平手が俺の頬にクリーンヒット。つまり強烈なビンタを食らったわけだが。
「なにもそんな照れることないぜ」
「うるさいうるさいうるさーいっ! 全然理解して無いじゃないかッ!!!」
ヒステリックに叫ぶ姿もまぁ可愛いが、それにしても顔が真っ赤だ。
「少し落ち着け。なにかリラックス効果のあることをしたらいい。おおそうだ。セックスでもして、な?」
「余計落ち着けんわッ! つか、人の話を聞け!!!」
今度は地団駄ふんでいる、可愛い。俺に魔法攻撃が効かない、むしろ有利になることを知ってるからか。何も出来ずにいるシドが愛しくて仕方ねぇ。
ふむ、このまま抱いちまっていいかな。俺だって仕事して疲れて帰ってきてんだ。
ご褒美セックスも悪くないだろう。
そうだ、今日は少し特殊な薬を手に入れて来たんだった。北部のエルフ村にて、代々伝わる秘薬らしい。
どういった効果のものか。よく覚えていないが、なんか結婚の儀式につかうものらしい。
子孫繁栄だとかなんとか言っていたから、毒にはならんだろう。
……そんな考えにふけっていた俺の耳に、シドの言葉の切れ端が飛び込んできた。
「――だから、出てけ。分かったな」
「ンン?」
「おい、聞いてたのかよ。また上の空だったら許さないぞ」
「あ、うむ」
しまったな、思わず生返事しちまったが全然聞いてなかったぞ。
すまんもう一度と口を開きかけた時、とんでもない事を彼が言い出した。
「ファルサが帰るまで、貴様は邪魔するなよ」
「なんだと…………?」
ファルサ、と言ったか。
その名前が脳内に反響する。
「シド」
俺は彼の目を覗き込む。
「その女、お前にとってそんなに大事なのか」
「えっ? ま、まぁ大事というか。怒らせたくは……ないな」
つまりそれは怒らせたくない大事な相手ってことじゃねぇか。
ここで埋もれさせたかった記憶が、頭をもたげる。前世とかそういうんじゃねぇ。今日のことだ。
――その女は、仕事先でタチの悪い連中に絡まれているところを俺が助けた。
魔界では珍しくもなんともないエルフの娘だった。
『この先の森に薬草を取りに来たのです』
礼を言った彼女は悲しげにはにかんだ。どうやら病気のおふくろさんの為、こんな治安の悪いところまでたった一人でやってきたらしい。
擦り切れ気味の服が寒々しくて、俺は上に羽織っていたモノを差し出す。
すると彼女は小さな手を拝むような形にして、涙目でまた頭を下げた。
それから、特になにもない。少し話をしたくらいか。
そこで聞いたのはこの魔界という場所のこと。
『昔はもっと酷かったんです。戦争ばかりだったし、みんな飢えていて。でも魔王様が、シド様のおかげでこの世界は少しずつ平和になっています』
聞くところによると、やはり数百年前まで魔界はもっと酷い所だったらしい。
魔族は魔物である民から搾取し、私服を肥やす。争いは絶えることなく、だからこそ人間界へ逃れる者も多かったとか。
『シド様が魔王になられてから、魔界は変わりました』
頬を染めていう彼女は一体いくつなんだと疑問に思ったが、エルフとは長命だからそんなものなのかもしれない。
『シド様にはこの先も魔王として、魔界をよりよくして欲しいのです。そのためには早く世継ぎを』
世継ぎ。人間界でも魔界でも、お世継ぎ問題は付きまとうらしい。
胸に走った痛みは今でも思い出す。
彼は魔族の女と結婚して子を成さねばならない。
それが彼の役目で民の願いと、少女は言う。
『一応、許嫁候補は多数いるのですがシド様が難色を示されているようなのです』
つまり周囲が勧める縁談は数あれど、本人がその気にならないと。
そりゃそうだよな。彼は俺という夫が…………って、もしや俺たちは大っぴらに出来ねぇ関係なんじゃねぇのか。
ここでようやく分かった。
いくら愛し合っていても、身分も種族も違い過ぎる。
嫁だの妻だの言っていたが結局それも、俺の独りよがりだったんじゃないか。
彼は俺の事を愛してくれているのだろうか。
いや、そこを疑うなんて男としてどうなんだ?
そこまで考え込んでいると、少女から件の女の名を聞くことになる。
『ファルサ・メルルー嬢との縁談が、一番有力だったらしいですけど』
ファルサは彼のイトコだかハトコだかなんだか (そこんとこは俺も覚えていない。思えばパニック状態だったのだろう)
そしてそこへ来てら彼の口からその名を聞くなんて。
これは。もしかして、もしかするんじゃないのか。
「おい大丈夫か」
「シド」
鬼の形相になっていたのだろう。心無しか怯えた表情の彼に、俺は興奮した。
「アンタは俺を弄んでいたのか」
「へ?」
俺の恋心を。愛を手のひらで転がして遊んでいたのか? こんなに愛しているのに。
胸の中を怒りと悲しみと、込み上げる愛情と性欲で満たされる。
今すぐこいつをめちゃくちゃにしてやりたい。そうすれば、そのファルサとかいう女のところへ行くことはないんじゃないのか。
「な、なに」
「俺のものになってくれ、今すぐ」
「意味がわからんぞ! ちょっ、痛っ!?」
強く腕を掴む。痛い痛いと喚く声すら気分が良くて、そのまま衝動のままに床へ引き倒した。
「分からなくて結構だ。そのまま、壊れてくれ」
「ひっ……やめ、こ、こんなとこじゃ、やだ!」
仕事をする部屋の床で犯されるなんて、確かに嫌だろうな。
でもだからこそ効果的だ。
「や、ヤるなら、せめてベッドで」
「いや待てん。ここで抱く」
「このケダモノ! やめろっ、脱がすな!」
あの少女に服を貸したせいで、いつもより魔力が蓄積されている。だから彼の服なんて易々と破ることができる。
秒でただの布切れになった衣服を前に、真っ青になる男が愛しくて憎らしくてたまらない。
「やめ……っ……や……」
「これ、使ってみようぜ」
懐から小瓶を出す。
そのエルフの少女が俺にくれたものだ。どんな効果があるか、聞いた気がするが覚えていない。
「た、たすけ――」
「大人しくしてろよ」
俺の顔を見て酷くされると怯えたのか、助けを呼ぼうとする彼の唇をできるだけ激しく奪った。
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