罰ゲームでパパ活したら美丈夫が釣れました

田中 乃那加

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ガテンOKです♡

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「あっ、あの……!」
「ン? もしや緊張しているのだろうか」

 ――にこにこにこにこにこ。

 さっきからずっと、この男の表情がコレだ。
 オレを見て、笑顔を崩さない。と言うより、視線がずっと離れない。

『場所を変えよう』

 ぬぁぁんて、言っときながら。連れてこられたのがカフェ。
 しかもめちゃくちゃオシャレなとこでさ。定員や客は、ほぼ若い女。彼女たちの視線の痛かったこと!
 そんな空気も意に返さず、オッサンはこっちをあの眩しい笑顔でみつめてくるワケだ。
 ……オレの心境は、これ以上ないってほどに最悪だった。

「お、オレは――」
「心配しなくていい。私も、とても緊張している」
「へ?」

 オッサン (のくせにイケメン)は無駄に並びの良い白い歯をキラリと見せながら。

「こんな美しく麗し君を目の前にして、緊張しない男なんていないだろう?」
「~~~っ!!!」

 な、なに言っちゃってんだコイツぅぅぅ! 
 恥ずかしくないのか!? あ、イケメンだからか。イケメンはそんな奥歯ガタガタ浮きそうな言葉、平気で言っちまうのか!? 
 怖っ、イケメンって怖い!!

「ああ、頬を赤らめる君も素敵だ」

 ヒィィィッ、追い打ちをかけるなァァァ!
 周りの視線が痛い。控えめながら、黄色い声も聞こえた気がする。
 なんなら店員の目も♡だし、なにやらヒソヒソとささやきあってたし。

「そ、そういうことは……」
「すまなかった。私は正直な男なんだ。綺麗なものは綺麗、といいたくてね」

 とろけるような、っていえばいいのか。ウットリとした表情もまたイケメンだから腹が立つ。
 なんなんだよコイツ、さっきから。

「おいっ、オッサン!!!」

 オレはついにキレた。というか、今キレなきゃいつキレたらいいんだよ。
 このままでズルズルて、このよくわかんねぇイケメンのペースでいてたまるかってんだ。

「分かってると思うけど、オレは男だから」
「ふむ」
「おいおいおいおい……アンタほんとに分かってのか!?」

『ハナコちゃん』じゃねぇの! れっきとした男で、男子高校生。しかもホモじゃねぇから、このイケメンに対してもドキッ♡ なんてありえない。

「うむ。分かってるつもりだが」
「ホントかよ」

 そのわりには、あいかわらずの熱っぽい視線を寄越してうっとおしい。
 マッチ棒何本乗るのかっていう、濃くて長い睫毛の奥の瞳は翠色みどりいろ。素直に『宝石みたいでキレイだ』なんて思ってしまう。

「しかし、私には分からんな」
「分かんねぇのかよ」

 どっちだ。
 なんかこの人、しゃべればしゃべるほどに調子狂っちまうな。
 いわゆる残念なイケメンってやつか? イマイチ、ずれてるっつーか。いや、じゃねぇよ。
 アッシュ系のブラウンカラーを入れた、オールバックはオシャレで余裕のあるオジサマってかんじだ。

 ……そもそもこんなヤツがくるなんて、オレは聞いてない。
 当初の予定では、待ち合わせ場所に来たキモいオヤジを笑ってやるつもりだったんだ。
 可愛い (加工してるから) 女装したオレを思い描いて、のこのこやってきたキモ男が約束の赤いチョーカーをつけた男 (未加工)を見てアタフタする様をさ。
 なのに、だ。

「君はなぜ、
「ブフォッ!!!」

 思わずお冷の水を吹いちまった。
 
「ゴホッ、ゴホッ、ッ、な゙、なん゙で、ことを゙っ……」

 よりにもよって、こんな所で出す単語じゃない。
 ほら見ろ、カフェの客達の半数も飲み物吹いてんじゃねぇか! 

「ンン? 大丈夫か。可哀想に、むせてしまったか。今、店員を呼ん――」
「らめぇっ! だ、大丈夫、だからぁ」

 慌てて止める。
 そんなことされたら、オレの精神的ダメージは計り知れない。
 そして店員のねーちゃん達が、すごい聞き耳立ててるのがわかってツラいんだけど。
 息も絶え絶えに、でも必死に止めれば。

「そうか」

 突然、目を見開いたイケメンは黙り込んでましまう。
 ようやく理解したか。パパ活っていわれて来たのが、美少女でもなんでもない男子高校生だと。
 頭の中身はそうとうボケた男っぽいが、さすがにこのままでいられるほどにアホじゃないらしい。

「君、すまないが……」

 おっ、いいぞいいぞ。さっさとフッてくれ。ダマされたと、ブチ切れられたらさすがに困るが、イヤミの一つや二つくらいなら許してやるからさ。
 ほらほら、早く。

「予定変更だ。場所を変えようじゃないか」
「へ?」

 目が点になるって、こういうことだよな。
 ……予定変更? 場所を変えよう? どういうことだ?
 頭の中が『???』でいっぱいになった時には、再び手を引かれていた。

「うへぇっ? ちょ、な、なんなんだ!?」
「君が悪いんだぞ」
「お、オレぇ!?」

 なんでっ、オレのなにが悪いってんだ!
 確かにパパ活女子になりすまして (正しく言うとあのアホ女がやりとりしてたんだけど) イタズラしようとしてたけど。
 だからって、こんな得体の知れない変なイケメンに恥かかされたり連れ回されたりしなきゃいけないんだよ!

「……君がこんなに、可愛いのがいけないんだ」
「なんだそれぇぇぇッ!?!?!?」

 思っきりツッコミ入れたが、ヤツは相変わらず頭のネジが腐って抜け落ちてんじゃねぇのって甘い表情でオレの手をにぎりしめる。
 そして、やっぱりイイ声で囁いてきた。

「さぁ、になろう」
「……」

 オレは背後で『ァンギャァァ!!!』と黄色い歓声 (?)がたくさん上がったのを、他人事みたいに聞いていた。



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