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平凡だったから強制的に才能開花させられみた

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 気持ち悪い光沢。ぬちゃあ、と糸を引く粘液に悪臭が辺りに立ち込める。

「うわぁッ!!!」

 武器ひとつない、丸腰で戦闘なんて無理に決まっているんだ。
 しかも相手は巨大ミミズだぞ!?

「っ、な、なんでだよ!」

 咄嗟に。というより反射的に身をひるがえせは、元いた場所の地面が大きくえぐれた。
 土煙とともに、肉色の魔獣がまた甲高い奇声をあげる。

「さっさと倒さないと仲間を呼ぶぞ、コイツ」
「わかっとるわいッ、んなこと!」

 何年冒険者やってると思ってんだ。
 ワイヴァー、もとい巨大ミミズ魔獣は本来なら臆病な性格はず。だから日中は地中にいて、夜中にひっそりと活動するはずなんだ。
 まだ完全に夜も更けきらないうちから、人間の前に姿を現すなんて聞いた事ない。

「せめてっ、武器ひとつもあれば……!!」

 さすがにどんな優秀な剣士であっても、その剣すらなかったらどうにも出来ない。しかも特に才能があるわけでもない俺だぞ!? こんな大物、どうすりゃいいんだ!

「んじゃあ、そこらの枝でも使ったらいいじゃん」

 混乱する俺に、相変わらず呑気な声が。
 みれば高い木の枝でゆうゆうと座って高みの見物をするクソガキの姿。

「て、テメェ。なにしてんだよっ、魔法使いなら少しは手伝いやがれッ!!!」
「やーだね」

 べっ、と舌をだすクソ生意気な顔も忌々しい。
 こいつ絶対に後でぶん殴る! と心に決めて、俺は必死で辺りを見渡す。

「くっそぉ」

 ほんとに木の枝くらいしかねぇ……。いや、石でも投げるか? でもそんなもん、この魔獣に効くとは思わんが。

「おーい。前見ろよー」
「な゙っ!?」

 間延びした言葉にハッとしたが。
 目の前にはもう赤黒くグロテスクな大口と、無数の牙がこちらを捕えようとしている。
 大写しになった舌がと、ぐちゃりと音を立てる粘液に鳥肌が立つ。

 食われる、そう思った。
 
「ヒッ――!」

 それからは無意識で必死。咄嗟に両手でその口を掴む。

『キシャァァァッ!!』

 けたたましい咆哮に怯えも最高潮。さらにぬるりとした粘液に手を滑らせ、俺は身をひるがえした。

 そのまま足を踏みしめ大地を蹴る。

「うわぁぁぁぁあぁあっ!!!!」

 我ながら情けないほどに叫びながら、無我夢中でその攻撃をかわし続けた。
 
「ふーん、悪くないな」

 相変わらず懸命に逃げ続ける俺とは対照的に余裕ぶっこいているクソガキは、きっと何がしかの防御魔法をしいているのだろう。
 
「でも、逃げるだけじゃあつまらない。ほら」
「!」

 軽く投げて寄こしたを、なんとか受け取る。
 おそらく武器だ。丸腰だった俺が唯一与えられ――。

「って、なんじゃこりゃあぁぁぁっ!?」

 それは木の枝。
 紛うことなき、単なる木の枝だ。しかも微妙に細いやつ。

「おいテメェ! こんなんのでどーしろって言うんだよっ」
「ないよりマシだろ」
「マシになるかボケェェェッ!!!」

 とはいっても魔獣は待ってくれない。
 相変わらず奇声をあげて突進かましてくるミミズのバケモノみたいのを必死で回避しながら、俺はその木の枝を構えた。

「く、くそぉ」

 あとでぜってー泣かす。あのクソガキめ。
 そう心に固く誓って、俺は息を整える。
 隙をつけ、弱点を瞬時に見抜いてそこに剣先 (木の枝だけど)を叩きつけ………。

『ギシゃ゙ァァギャル゙ゥァァアッ!!!!』
「ってムリだろ!?」

 ついに怒り狂った魔獣が猛然と襲いかかってきて、俺の恐怖心も爆発する。

 いや無理だって。今どき村のガキどもでももっとマシな装備してるっつーの! 

 でもそんなことを言っていられない。

「くっ」

 体力も精神力も限界。しかももう逃げ場なんてない。背後には沼地が広がっている。 
 ついに餌にありつけるとでもおもったのか。耳障りな音を立てて、目の前の無数の牙が鳴っている。

「!」

 飛びかかってくる魔獣。
 もう駄目だ――そう悟った瞬間、身体は動いた。

「っ、うえ?」

 まず気がつけば俺の身体は宙を舞っていた。
 そこからスローモーションで流れる景色。
 意識するより先に流動する所作。単なる木の枝をまるで剣のように構え、大きく振りかぶって魔獣めがけて突っ込んでいく。

「うわぁぁぁっ!」

 叫んでいた。怖くてたまらないのに、自分を鼓舞するみたいに。そして。俺はその時、たしかに見えていたんだ。
 剣先が、肥大した肉色の粘膜質を切り裂き爆ぜさせるのを。

『ビギャャァァ゙ァァァッ!!!!』

 魔獣もまた叫んでいた。断末の咆哮が森中に響き渡る。

「……」
 
 再び静寂が戻ったとき、俺はようやく我に返る。
 えぐれた地に佇む。そして目の前には、グロテスクな肉片。そう、ほぼ散り散りになった魔獣 (だったもの)がそこにあった。

「おー、やるじゃん」
 
 もったいぶった、めちゃくちゃえらそうな声が後ろからかけられた。

「これ……俺……が……?」

 木の枝一本で、一人でこいつを倒したっていうのか。俺みたいな平凡な男が。
 本当に記憶なんてほとんど飛ぶくらいにがむしゃらだった。すべてがスローモーションになる世界で、必死に絶叫しながら木の枝を振り上げた。
 
「これがスキル解放された、アンタの能力だよ」
「ど、どういうことだ……」

 もう意味がわからず、ヤツの方を振り返ろうとすれば。

「あ。また来たぞ」
「!!!」

 その言葉と、再び轟音が響くのとは同時だった。

「なっ!?」

 なんと向こうから数匹の魔獣が。さっきのと同じ巨大ミミズ共が、迫って来ているじゃないか!

「あーあ。やっぱり仲間呼ばれちゃったなァ。ま、もうちょい頑張って」
「おいっ。頑張ってって、どういうことだよ!」

 まさか、また一人でなんとかしろってことか!?
 慌てて後ずさろうとするが。

「今度はもっと早く倒しなよ? オッサン」

 そう言って木の上のクソガキはニンマリと不敵な笑みを浮かべた。

「お……お……お……」

 もうどうしようもない。状況も何かも全然理解できねぇ。ただ一つ言えること、それは――。

「オッサンって言うなあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッ!!!」

 俺はそう叫んで木の枝を握り魔獣の群れめがけ、飛びかかっていった。


 




 

 




 

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