惚れたら最期と分かっていたのに

田中 乃那加

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紅い淡い別嬪さん

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「ねえ龍ちゃん。
 勉強や技術を教えてくれている流民は、ここにいる人だけなの?」

「そんな事はないよ。
 大陸中を探したら、百万人くらいいるかな?
 いや、五百万人くらいかな?
 よく知らないけど」

「みんな生活に困っていないの?
 飢えたりしていないの?」

「どうかなぁ。
 流民の事はよく知らないんだよね」

 神龍の嘘だった。
 そもそもこの国の人間の事も知らないのだ。
 人間自体に、まったく興味がないのだ。
 この国の守護龍となっていたのも、魔獣や魔族と戦いのが楽しかったのと、移動するのが面倒だったからだ。

「じゃあ流民を助けるのは無理なのかな?
 龍ちゃんでも居場所が分からないのなら、困っている流民の人達に、この国に来てくれと言うのは無理なのかな?」

「無理じゃないよ。
 僕にできない事はないからね。
 使い魔や神龍鱗兵を使って、流民を集めるなんて簡単な事だよ」

 神龍は強がって嘘をついてしまった。
 多くの流民のなかから、一万人に激減した民の教師を探すことはできた。
 自分の神力の及ぶ範囲にいる流民を連れてくる程度なら簡単だった。
 だが、大陸中にいる流民全てを集めるとなると、神龍でも難しかった。
 しかし、シャロンにできないという事は、神龍にはできなかった。

 だから、また、戦いの女神セクメトに頭を下げることになった。
 屈辱だったが、人間の事はセクメトに聞くしかなかった。
 他の神に知り合いはいないし、明らかに自分よりも弱い神達に頭を下げるなんて、絶対に嫌だった。
 どうしても頭を下げなければいけないのなら、自分が認める好敵手にしたかった。
 それが女神セクメトだった。

「シャロン。
 シャロンが女王として布告を出せばいいんだよ。
 全ての流民を国民として迎え、国民として権利を与えると布告すればいいんだよ。
 そうすれば、厳しい生活をしている流民は集まってくるし、他の地で豊かに生活している流民はその地に残るよ」

「そうなの?
 私が女王として布告したら、流民の人達は助かるの?
 だったらやるわ。
 私のできる事は何でもやるわ」

 神龍は女神セクメトに教えられたことを全て話した。
 その話は、シャロンに大きな決断をさせた。
 自覚がどれほどあるかは分からなかったが、女王として生きていく気にさせた。
 それがこの国のためには大きな福音だった。
 だが同時に、民が女王シャロンに依存する可能性があった。
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