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あくまで悪魔だから

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 いい加減にしろ、とサマエルは睨みつける。

「突っ込んでないからノーカンでしょ」
「いっぺん、その肉体を引き裂いてやろうか?」

 更に赤い瞳を鋭く細めると。

「あははっ、やめてよ。

 何がおかしいのか腹を抱えて笑う少年。

「チッ……」

 サマエルは胡座をかいて、ベッドの上に座る。
 あの質素な部屋のではない。金持ちのボンボンが両親から宛てがわれた、それなりに上等な部屋のだ。

「テメェも、いつまでここにいるつもりだ」
「んー、しばらく。かな」

 机に向かい、なにか書き物をしながら少年は言葉を返す。
 金髪碧眼の良家の子息と、赤髪で褐色の肌には様々な刺青を入れた悪魔。それが今の彼らの様子だ。
 あくまで、見た目の話だが。

「そのガキの身体を手入れたんなら、もうここには用はないだろうが」

 サマエルのそんな言葉に、少年は振り返り呆れたように肩をすくめる。

「馬鹿なの? 死ぬの? いや、煽りなしに」
「……煽ってんじゃねぇかよ。クソジジイ」

 彼に向かって『ジジイ』とは。これには驚愕の事実が存在する。
 少年ジェレミーは、既にこの世にいない。
 正しくいえば、とある悪魔に身体を乗っ取られ魂を食い散らされたのだ。
 その悪魔の名は。

「ちゃんと名前を呼びなよ、若造」

 ニヤリと笑う彼の目には光はない。
 ……悪魔ルシファー、もといサタン。なかつては強大な力を誇る天使長であったが、なんらかの経緯によって堕天し悪魔となった。

「でもテメェ、その名前で呼ばれたらキレるだろうが」
「まぁね」

 堕天前のルシファー名で呼ばれると、途端に機嫌が悪くなる。それを自覚して言うのだからタチが悪い。

「っていうかね。何のために、ぼくがこの身体を乗っ取ったと思ってんの?」
「ショタコンだからだろ」
「今すぐ、羽まで焼き尽くしてあげようかな!」

 冗談めかしているが目が半ばマジである。サマエルは黙って両手をあげた。

「あのね。ぼくは少し飽きたんだよ、天界も魔界もね」
「ハァ?」

 上質な羽根ペンを片手に、ジェレミー……いいや。悪魔サタンが微笑む。

「人間ライフを少し送ってから、適当にかわい子ちゃんを食い散らしてみようかなってワケ」
「聞いて損したくらい、しょーもねぇ話だな」
「ふん、言ってなよ。コミュ障」
「!」

 軽く煽られて、こめかみをピキらせるサマエル。
 しかし彼はつづけた。

「だいたいね、やり方が手ぬるいんだよ。手に入れたきゃ、変な遠回りせずに最初に奪ってやりゃあいいのに」
「う、うるせぇよ」

 今度は渋い顔で黙り込む。まさに図星だったからだ。

 ――十数年前。人間界をフラフラとさまよっていたサマエル。
 彼はそこで恋に落ちた。

「俺はテメェみたく、ショタコンじゃないからな」

 低級だがやたらしつこい悪霊数体に絡まれていた少年は、言ってみれば彼の好みドンピシャだった。
 はちみつ色の柔らかな髪に、愛くるしい容姿。骨格がしっかりしながらも、腰が細いところもグッときたという。

「成長した方が俺の好みだった」
「うわー、HENTAIだー」

 ルシファーの軽口ツッコミに、サマエルは顔をしかめる。
 
「でもアイツは俺の事覚えてなかったが」
「アハハハッ、超うけるー」

 もうどうでも良くなったらしく、ツッコミが雑だ。
 しかし話を続けた。

「だからムカついてさ」
「騙して脅してレイプしたと。うへぇ。鬼畜だー」
「テメェもノリノリだったじゃねぇか」

 絶賛少年の魂を貪り中のルシファーに相談すれば。

『よーし。ぼく、がんばっちゃう』

 というのがこの結果だ。

「で、どうすんの。もうすぐ一ヶ月経っちゃうけども」

 ルシファーに抱かれる寸前だったアダムの前にあわてて飛び込んだのが昨晩の話。
 
『面白そうだったから』

 と悪びれ一切ない少年(見た目)にブチ切れながらも、気絶したアダムに簡単な手当だけ施して逃げ出してきた。
 
「っていうか。そこで助けにきた王子様したらよかったんじゃないの」
「あっ」
「バカなの? 死ぬの?」

 今度はわりとマジに (頭の)かわいそうな子を見る目だった。
 サマエルはうなだれる。

「くそぉ……」

(なんでこうなんだ俺は)

 しかし悔しがる彼の耳には、ルシファーの爆笑なんて聞こえていない。
 昨晩、気絶したアダムを抱き起こした時の。

『……サマ、エル……』

 のか細く自分を呼ぶ声に、動悸がとまらないのだ。

(あぁぁぁぁもうっ!!!!)

【神の毒】などと呼ばれることもえる悪魔。
 そんな彼は今、未曾有の大混乱の中にいた――。



 
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