サンタクロースなんていらない

田中 乃那加

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1.聖なる夜が明けた朝

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 閉じたカーテンの隙間から差した光が、俺の顔を照らした。
 瞼の裏からも感じた朝日に、次に目覚めたのが聴覚らしい。
 ……鳥の声。雀だろう。

「ん……?」

 背中に感じた感覚。マットレスとシーツ、それが今朝はなんだか違和感だ。
 服、あれ? もしかして俺裸なの。
 日常的に裸で寝る習慣はないぞ!? マリリン・モンローかよ。
 
「いま……じ、かん……は」

 閉じそうになる瞼を必死でこじ開けて、身体を捩るように体制を変える。
 ……時間を。まずは今何時なんだろう?
 シーツの上、腕を這い回らせる。スマホを探さなければ。

「あ、れぇ? 」

 ……ない。溜息をつきながら、観念して身体を起こす。何故だか力の入りにく身体に苦心しながら。

「……」

 低血圧気味で寝起きの良くない俺の目に飛び込んできたその景色に、時が止まった。
 ……何も言わない。いや、言えない。あまりのことに思考停止していた。
 
 ―――まだ俺は夢を見ているらしい。そうに決まってる。認めないぞ、俺は絶対に認めないし受け入れない。

「ここ、どこ?」

 ……俺は全く知らない部屋にいた。

「え? え? え?」

 決して軽くないパニック状態だ。思考が上手く働かない為か、見ているのに見えてないし、考えているのに分からない。
 イタズラにシーツを彷徨わせた手が に触れるまで。

「!?」

 その温度に今度は心臓が跳ね上がった。
 反射的に手を引っ込めて、再びおずおずと触れる。
 シーツの塊。モゾモゾとたまに動くは、なんと人間らしい!

「う、うそぉ」

 なんてこった。まさか、まさかの展開か。
 朝、知らない部屋のベッド、隣に感じる体温……これはもしかして、いや、もしかしなくても。

「……」

 そろりそろりとそのに触れる寸前。

「ぅ、ん」

 低い声と共に、が身動ぎしたのが分かった。
 えらくハスキーな声の人らしい。
 
「わ、やべっ」

 起こしちまったかな、と一瞬動きを止めるが再び規則正しい寝息と上下し始めたのを見て、ホッと胸を撫で下ろす。
 ……それにしても低い声だな。酒焼けでもしてる飲み屋の女か?

「……」

 ていうか、どんな女なんだっけ。全く記憶に無い。
 確かにバイト帰りに飲みに行ったような気がする。でもそこでになった女いたっけなぁ……ああ、駄目だ。頭痛てぇ。二日酔いだろう。微かに胸のムカつきもあるし。
 
「くそっ」

 ごちゃごちゃで不味いカクテルみたいな薄い記憶に、知らない部屋のシーツに裸の俺と隣の膨らみ。
 ……ちょっとくらい、顔くらい拝んでも良いよな?

「ちょーっと失礼しますよ、っと」

 そっと布団を摘んで、ゆっくり剥がしていく。まるで貰った覚えのねぇプレゼントが枕元にあって、それをおっかなびっくり開けてるような……そんな気分。怖いような楽しいような。でもやっぱりビビってる、そんな気持ち。

「ふむ。髪は黒、と」

 別に茶髪や金髪ギャルが好みってわけじゃねーから、許容範囲だな。むしろ清楚の代表格な染めてない髪は好きだ。
 じゃ次、一気に行こうか。

「あと顔は……か、お……んん!?」

 俺の手が止まる。なんならもう一度布団かけ直した。
 だって俺、今すごく衝撃的なモノ見た気がするもん。

「お、と、こ……?」

 男だ。あれ、男。男だった。雄だ。♂。俺と同じ、ほら、あの……ぇ?

 同じく裸(多分そうだ。少なくても上半身は肌色だった)の柔らかみもへったくれもない、ガタイは俺と同じ……うそだ、見栄張った。安らかな寝息を立てている。
 その顔は爽やか系イケメン。でもその下は。

「ガチムチじゃねーかァァァッ!」

 思わず叫んだ俺はベッドから慌てて飛び降りた。

「いやいやいやいや、無理っ! どーゆーこと!?」

 薄くてごちゃごちゃな記憶。二日酔いと知らない部屋に知らないガチムチマッチョ♂の顔だけ爽やか系イケメン……って胸焼けするわッ!

「待って、ちょっと待って……えっ、分かんねぇ」
 
 大声出したからだろう。
 ゴソゴソと動き始めた布団の塊にパニックに陥った俺は、猛然と駆け出して部屋を飛び出す。
 
「ここ、めっちゃ部屋あるじゃねーか!!」

 せいぜい1LDKとかのアパートかと思ってた俺が甘かった。
 決して狭くない廊下に出ると、そこに並ぶ複数のドア。
 なんだこれ、もしかしてそれなりのデカさの家だったりするのか!?

「!!」

 背にしたのは先程出てきたドア。そこから微かに足音と気配がして、俺は速攻その場を離れて近くの適当なドアを開けて飛び込んだ。

「な、なんだよぉ」

 怖ぇよ。起きたら全裸でマッチョが横で寝てて。誰だって逃げ出すよな!?
 
「本当にここは、どこなんだよ」

 あと、あのマッチョは何者なんだ。昨晩何があったんだよ……俺は再び訳の分からん部屋のドアを後ろ手に閉めて呟いた。
 
「真っ暗じゃねぇか。電気電気……」

 壁を探ろうにも、手はなだらかな壁紙を撫でるだけである。
 スイッチの気配すらない。

「くそっ、なんで俺がこんな目に……っ!」

 毒づきながらも俺は暗闇の中、徐々に昨晩の記憶を紐解いていく事にした―――。
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