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二百〇歳エルフ、拳で①
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――ここは栄光の国、クロリエシア国の最西端に位置する村。
ネイトラーヌと名付けられているが、その歴史には多くの争いがあった。
魔界との境界線に近い場所にあったのも要因だろう。
「この村のことは昔からラーヌ村って呼ぶ人の方が多いんだよ」
森を抜けて村の入り口までくると大きな門が見えてくる。
まるで城郭都市にそびえるような立派な石造りのそれには、古い呪文と紋章が所狭しと彫り込まれていた。
「昔、魔界と人間界の争いがあってその終結のために王女がこの地に赴いて魔王と契約を交わしたんだよ」
オルニトはこの村の伝承について話し始める。
――数百年前。魔王が人間界を支配しようと戦争を起こしたことから始まった。
多くの村や町は焼かれ、人間はもとより共存する魔物たちも大量虐殺された。
そこで立ち上がったのがクロリエシア国の女王。
勇者や魔法使い、戦士とともに魔王討伐の旅へ向かったのだ。
結局、魔王を殺すことは叶わなかったがこの地で戦争を終結させることに成功した。
七つの契約を結び、世界を平和に導いたのである。
「その七つの契約ってのは魔王の王女の秘密で、血の契約書は村のどこかに封印されてるってわけ……って魔族の君なら知ってるか」
人間とエルフの寿命が違うのと同じく、魔族も長命だ。
この話は人間界ではすでに単なる伝説やおとぎ話になってしまっている。
「いや、俺はよく知らない」
イドラは首を横に振る。
「ずっと人里離れた土地を転々としてきたからな」
「そういえばイドラってなんであんな所にいたの? しかもボロボロだったし」
あの森によほど強い魔獣でもいたのだろうか。
しかし彼の答えは思いもかけないものだった。
「調査だ。魔界や人間界の動植物、魔獣等の生態系の研究をしていてな。まあ道楽みたいなものだが」
「研究? なんかすごい!」
目をキラキラさせるオルニトに対して。
「ねえ、こんなやつの話を素直に信じない方がいいわよ」
とふくれっ面のアルマ。
「言っとくけど。またあんな真似した事、まだ許してないから」
あんな真似とはキスのことだ。魔力消耗で倒れていたイドラは、ノコノコ近づいてきた彼の唇から魔力を拝借したのである。
「アルマ、僕は大丈夫だってば。今は彼のキズを治すのが先だよ」
たしかに魔力は補充出来たようだが身体の至る所のダメージは回復していない。
しかも並の回復魔法では治せない傷ばかりなので、とりあえず村に連れていこうとオルニトが提案したのだ。
もちろんアルマは反対した。
しかしそこをなんとかなだめすかして、さらに泣き落としで押し切った。
どうしてここまでしたのか、単純に放っておけなかったのだ。
「今度はちゃんと合意はとるさ。なぁオルニト」
「えっ」
向けてくる笑顔が美しすぎる。思わず視線をそらしてしまった。
「合意もクソもやめなさい。てかオルニトもなに顔赤らめてんのよ」
ウブでチョロすぎる! とまた癇癪を起こす彼女をなだめつつ、彼はこっそりイドラの方を見た。
「……」
やはり見た目は人間と変わらない。しかし彼もまたあの作品の登場人物だったのだろうか。
――オルニト。いや前世である琴里 肇はこの世界を知っていた。
正確にいうと読んでいた、のだが。
というのも彼が学生時代からハマっていたネット小説の内容が、さっき話した国王と勇者たちの話だ。
当時はネット小説全盛期。特に長文タイトルの異世界転生モノがランキングの上位に上がっている中で少し毛色の異なる作品。
『北東の魔法使い』というファンタジー小説だった。
タイトルはもちろん、あらすじもシンプルで読者数のふるわない長編。
しかし彼は偶然見かけたその物語に引き込まれた。
内容は本格派ファンタジー小説に近いのかもしれない。地の文が多く、ネットで読むには硬い文体と描写の細さが逆に新鮮だった。
あまりにも長編なのと更新がゆっくりなのとで数年連載は続いていたのだが、ある日パタリと止んでしまう。
残念だったものの、まあネット小説が途中で完結しないまま終わってしまうのは珍しくなかった。
むしろよくあることで、かなりショックだったが仕方がない。
そんな世界に転生できた。しかもこの平和な生活を送れるのは幸運だ。
「ン?」
……見つめすぎたのだろう。こちらに気づいて振り向く彼に、慌てて首を横に振る。
「な、なんでもない!」
艶やかな黒髪に褐色の肌、緑色の瞳の魔族の人物はあの小説にも出てきた。
名前はディオラ、魔族の少年で最初こそ人間を忌み嫌っていたが王女や勇者達と親交を深めていくキャラクター。
特に王女に対するひたむきな愛は、恋愛要素としてかなり胸にくるものがあった。
……でも言えるわけが無い。
いわゆる推しキャラに、ドキドキしてしまった、なんて。
しかもイメージ通りに成長した美丈夫にキスまでされたのだ。
前世から恋愛というものに縁遠かったこの身には刺激が強すぎる。
「まずはウチの教会に行くわ」
アルマはそう言って、村の入口にそびえる門へ歩いていく。
「この村に入るの結構面倒なんだから」
小さな村のわりには門がやたら立派だ。それはなぜか、ここが中立の地であるから。
血の契約書と呼ばれる書物がこの村に封印されている、という伝説。しかしそれだけではない。
莫大な宝物や貴重な魔導書、果ては不老不死の妙薬の噂まで伝承されていた。
故に、ここには強い結界と警備がついている。
噂のもの目当てで入り込んでくる輩がひっきりなしだったからだ。
……今もなにやらアルマが厳つい鎧に身を包んだ警備の兵士と話をしていたが、パッと振り返り。
「行くわよ!」
と叫んだ。
「アタシに感謝しなさい」
鼻の頭にシワをよせた彼女が言う。
「アンタは弟子ってことにしてあるから」
「弟子? 誰の」
「決まってるじゃないの」
イドラの問いにこれみよがしにため息をついた。
「凄腕狩人アルマ様のよ」
凄腕――かどうかは定かではないが、彼女はたしかに魔獣を狩る仕事をしている。
持ち前の腕力がここで生きてくる。
自分より大きな獲物を軽々と担いで持ち帰ることなんてザラだった。
「なぜだ」
「は?」
「普通に村に入ることは出来ねえのか」
わざわざ立場を偽る必要なんてあるのかというのは真っ当な疑問だ。しかし彼女は、やれやれと肩をすくめる。
「これだから素人 (?)は。あのね、この村は国から兵士が派遣されるほど厳重に管理されているの。何処の馬の骨ともしれない魔族のアンタが入り込めるワケないでしょうが」
「そういうものなのか」
「そういうものなのよ、世間知らず」
ふんっ、と鼻で笑いながらもちゃんと入村の世話をしてやるのが彼女らしい。
そんなこんなで彼らは、村に足を踏み入れた。
「そうだ、アルマ」
オルニトがふと思い出して言う。
「爺ちゃんがあとでうちの店に寄れって。発注してたの出来たみたいだよ」
彼の祖父は村で武器屋をしている。特に修理と改造の腕はピカイチで、わざわざ遠くの街から注文しにくる客もいるくらいで。
「マジで!? やったぁ! あとで必ず行くわね」
彼女がそう喜ぶのもうなずける。
「こんな村にも武器屋あるのか」
「地方だからってナメんじゃねーわよ」
割って入るイドラに彼女が言い返した。
「悪いけどあそこの店主は金じゃ動かないわよ。王国の偉いさんの依頼すら簡単に断っちゃうんだから」
「ふむ」
なにか考え込んでいたので、オルニトが口を出す。
「イドラもなんか依頼したい武器修理があるの? 簡単なのでよければ僕でも――」
「ダメに決まってるでしょ! またそうやって自分の腕を安売りするんだから」
「安売りもなにも、まだまだ修行中だもん」
雑用しているのでまだまだ一人前には程遠いのだが。
「爺ちゃんに認められたら、アルマの武器改造前まかせてよ」
「気長に待っててあげるわよ。なんせエルフなもんでね」
彼女が優しい笑顔で頭を撫でた時だった。
「おうアルマとオルニトじゃん」
彼らに声をかけたのは、宿屋の三男坊のエトだ。
燃えるような赤い髪が特徴的な十代の少年である。
「エト。あんまり遊んでばっかりだとまた親父さんにドヤされるわよ」
「うっせーな、遊んでねーよ。それよりなんだよ、そのデカくて黒いやつ。アルマのカレシか?」
「なにバカなこと言ってんのよ。弟子よ弟子」
「弟子なんてとってる場合かよ、いつも仕事失敗して牧師様に怒られてるじゃねーか」
「うるさいっ、エト!!」
図星だったのだろう。彼女は腕を振り上げた。
「ちゃんと魔獣は狩れたわよ!」
「でも肉塊にしちまったら意味無いって牧師様がこぼしてたぜ」
「な、生意気いうんじゃない。このクソガキ」
事実、よくある。
テンションが上がりすぎて力の加減を誤り、本来なら魔獣の毛皮が必要なのに見るも無惨な状態にしてしまったり。
そのたびに、彼女が暮らす教会の牧師に長ったらしい説教を食らうのだ。
「お前、エルフじゃなくて本当はゴリラなんじゃねえーの」
「ムキィィィッ、許さんっ!」
「わー、ゴリラが怒った」
彼女がエトにキレ散らかして追い掛けごっこが始まってしまった。
「あーあ」
呆れ顔でため息をつく。
これはなかなか教会までたどり着くのに時間がかかりそうだ。
「オルニト」
「え…………?」
声がかけられ振り返りざまに影が落ちる。
長い黒髪が覆いかぶさり、気付けば唇に口付けられていた。
「味見だ」
「~~~っ!?」
またキスされた。
ジワジワと顔に熱が上がってくる。
「な、な、な、なん、で」
「だから味見だ。やっぱりお前からもらうのが一番美味い」
魔力に美味いとかマズイとかあるのか。
本当に生娘みたいだと恥ずかしいのに、目を逸らせない。
「だーかーら゙ッ、魔力吸うなキスするなぁぁぁぁっ!!!!」
アルマが地団駄踏みながら叫んでるのを耳に素通りさせながら、胸をキュッとおさえてうつむいた。
ネイトラーヌと名付けられているが、その歴史には多くの争いがあった。
魔界との境界線に近い場所にあったのも要因だろう。
「この村のことは昔からラーヌ村って呼ぶ人の方が多いんだよ」
森を抜けて村の入り口までくると大きな門が見えてくる。
まるで城郭都市にそびえるような立派な石造りのそれには、古い呪文と紋章が所狭しと彫り込まれていた。
「昔、魔界と人間界の争いがあってその終結のために王女がこの地に赴いて魔王と契約を交わしたんだよ」
オルニトはこの村の伝承について話し始める。
――数百年前。魔王が人間界を支配しようと戦争を起こしたことから始まった。
多くの村や町は焼かれ、人間はもとより共存する魔物たちも大量虐殺された。
そこで立ち上がったのがクロリエシア国の女王。
勇者や魔法使い、戦士とともに魔王討伐の旅へ向かったのだ。
結局、魔王を殺すことは叶わなかったがこの地で戦争を終結させることに成功した。
七つの契約を結び、世界を平和に導いたのである。
「その七つの契約ってのは魔王の王女の秘密で、血の契約書は村のどこかに封印されてるってわけ……って魔族の君なら知ってるか」
人間とエルフの寿命が違うのと同じく、魔族も長命だ。
この話は人間界ではすでに単なる伝説やおとぎ話になってしまっている。
「いや、俺はよく知らない」
イドラは首を横に振る。
「ずっと人里離れた土地を転々としてきたからな」
「そういえばイドラってなんであんな所にいたの? しかもボロボロだったし」
あの森によほど強い魔獣でもいたのだろうか。
しかし彼の答えは思いもかけないものだった。
「調査だ。魔界や人間界の動植物、魔獣等の生態系の研究をしていてな。まあ道楽みたいなものだが」
「研究? なんかすごい!」
目をキラキラさせるオルニトに対して。
「ねえ、こんなやつの話を素直に信じない方がいいわよ」
とふくれっ面のアルマ。
「言っとくけど。またあんな真似した事、まだ許してないから」
あんな真似とはキスのことだ。魔力消耗で倒れていたイドラは、ノコノコ近づいてきた彼の唇から魔力を拝借したのである。
「アルマ、僕は大丈夫だってば。今は彼のキズを治すのが先だよ」
たしかに魔力は補充出来たようだが身体の至る所のダメージは回復していない。
しかも並の回復魔法では治せない傷ばかりなので、とりあえず村に連れていこうとオルニトが提案したのだ。
もちろんアルマは反対した。
しかしそこをなんとかなだめすかして、さらに泣き落としで押し切った。
どうしてここまでしたのか、単純に放っておけなかったのだ。
「今度はちゃんと合意はとるさ。なぁオルニト」
「えっ」
向けてくる笑顔が美しすぎる。思わず視線をそらしてしまった。
「合意もクソもやめなさい。てかオルニトもなに顔赤らめてんのよ」
ウブでチョロすぎる! とまた癇癪を起こす彼女をなだめつつ、彼はこっそりイドラの方を見た。
「……」
やはり見た目は人間と変わらない。しかし彼もまたあの作品の登場人物だったのだろうか。
――オルニト。いや前世である琴里 肇はこの世界を知っていた。
正確にいうと読んでいた、のだが。
というのも彼が学生時代からハマっていたネット小説の内容が、さっき話した国王と勇者たちの話だ。
当時はネット小説全盛期。特に長文タイトルの異世界転生モノがランキングの上位に上がっている中で少し毛色の異なる作品。
『北東の魔法使い』というファンタジー小説だった。
タイトルはもちろん、あらすじもシンプルで読者数のふるわない長編。
しかし彼は偶然見かけたその物語に引き込まれた。
内容は本格派ファンタジー小説に近いのかもしれない。地の文が多く、ネットで読むには硬い文体と描写の細さが逆に新鮮だった。
あまりにも長編なのと更新がゆっくりなのとで数年連載は続いていたのだが、ある日パタリと止んでしまう。
残念だったものの、まあネット小説が途中で完結しないまま終わってしまうのは珍しくなかった。
むしろよくあることで、かなりショックだったが仕方がない。
そんな世界に転生できた。しかもこの平和な生活を送れるのは幸運だ。
「ン?」
……見つめすぎたのだろう。こちらに気づいて振り向く彼に、慌てて首を横に振る。
「な、なんでもない!」
艶やかな黒髪に褐色の肌、緑色の瞳の魔族の人物はあの小説にも出てきた。
名前はディオラ、魔族の少年で最初こそ人間を忌み嫌っていたが王女や勇者達と親交を深めていくキャラクター。
特に王女に対するひたむきな愛は、恋愛要素としてかなり胸にくるものがあった。
……でも言えるわけが無い。
いわゆる推しキャラに、ドキドキしてしまった、なんて。
しかもイメージ通りに成長した美丈夫にキスまでされたのだ。
前世から恋愛というものに縁遠かったこの身には刺激が強すぎる。
「まずはウチの教会に行くわ」
アルマはそう言って、村の入口にそびえる門へ歩いていく。
「この村に入るの結構面倒なんだから」
小さな村のわりには門がやたら立派だ。それはなぜか、ここが中立の地であるから。
血の契約書と呼ばれる書物がこの村に封印されている、という伝説。しかしそれだけではない。
莫大な宝物や貴重な魔導書、果ては不老不死の妙薬の噂まで伝承されていた。
故に、ここには強い結界と警備がついている。
噂のもの目当てで入り込んでくる輩がひっきりなしだったからだ。
……今もなにやらアルマが厳つい鎧に身を包んだ警備の兵士と話をしていたが、パッと振り返り。
「行くわよ!」
と叫んだ。
「アタシに感謝しなさい」
鼻の頭にシワをよせた彼女が言う。
「アンタは弟子ってことにしてあるから」
「弟子? 誰の」
「決まってるじゃないの」
イドラの問いにこれみよがしにため息をついた。
「凄腕狩人アルマ様のよ」
凄腕――かどうかは定かではないが、彼女はたしかに魔獣を狩る仕事をしている。
持ち前の腕力がここで生きてくる。
自分より大きな獲物を軽々と担いで持ち帰ることなんてザラだった。
「なぜだ」
「は?」
「普通に村に入ることは出来ねえのか」
わざわざ立場を偽る必要なんてあるのかというのは真っ当な疑問だ。しかし彼女は、やれやれと肩をすくめる。
「これだから素人 (?)は。あのね、この村は国から兵士が派遣されるほど厳重に管理されているの。何処の馬の骨ともしれない魔族のアンタが入り込めるワケないでしょうが」
「そういうものなのか」
「そういうものなのよ、世間知らず」
ふんっ、と鼻で笑いながらもちゃんと入村の世話をしてやるのが彼女らしい。
そんなこんなで彼らは、村に足を踏み入れた。
「そうだ、アルマ」
オルニトがふと思い出して言う。
「爺ちゃんがあとでうちの店に寄れって。発注してたの出来たみたいだよ」
彼の祖父は村で武器屋をしている。特に修理と改造の腕はピカイチで、わざわざ遠くの街から注文しにくる客もいるくらいで。
「マジで!? やったぁ! あとで必ず行くわね」
彼女がそう喜ぶのもうなずける。
「こんな村にも武器屋あるのか」
「地方だからってナメんじゃねーわよ」
割って入るイドラに彼女が言い返した。
「悪いけどあそこの店主は金じゃ動かないわよ。王国の偉いさんの依頼すら簡単に断っちゃうんだから」
「ふむ」
なにか考え込んでいたので、オルニトが口を出す。
「イドラもなんか依頼したい武器修理があるの? 簡単なのでよければ僕でも――」
「ダメに決まってるでしょ! またそうやって自分の腕を安売りするんだから」
「安売りもなにも、まだまだ修行中だもん」
雑用しているのでまだまだ一人前には程遠いのだが。
「爺ちゃんに認められたら、アルマの武器改造前まかせてよ」
「気長に待っててあげるわよ。なんせエルフなもんでね」
彼女が優しい笑顔で頭を撫でた時だった。
「おうアルマとオルニトじゃん」
彼らに声をかけたのは、宿屋の三男坊のエトだ。
燃えるような赤い髪が特徴的な十代の少年である。
「エト。あんまり遊んでばっかりだとまた親父さんにドヤされるわよ」
「うっせーな、遊んでねーよ。それよりなんだよ、そのデカくて黒いやつ。アルマのカレシか?」
「なにバカなこと言ってんのよ。弟子よ弟子」
「弟子なんてとってる場合かよ、いつも仕事失敗して牧師様に怒られてるじゃねーか」
「うるさいっ、エト!!」
図星だったのだろう。彼女は腕を振り上げた。
「ちゃんと魔獣は狩れたわよ!」
「でも肉塊にしちまったら意味無いって牧師様がこぼしてたぜ」
「な、生意気いうんじゃない。このクソガキ」
事実、よくある。
テンションが上がりすぎて力の加減を誤り、本来なら魔獣の毛皮が必要なのに見るも無惨な状態にしてしまったり。
そのたびに、彼女が暮らす教会の牧師に長ったらしい説教を食らうのだ。
「お前、エルフじゃなくて本当はゴリラなんじゃねえーの」
「ムキィィィッ、許さんっ!」
「わー、ゴリラが怒った」
彼女がエトにキレ散らかして追い掛けごっこが始まってしまった。
「あーあ」
呆れ顔でため息をつく。
これはなかなか教会までたどり着くのに時間がかかりそうだ。
「オルニト」
「え…………?」
声がかけられ振り返りざまに影が落ちる。
長い黒髪が覆いかぶさり、気付けば唇に口付けられていた。
「味見だ」
「~~~っ!?」
またキスされた。
ジワジワと顔に熱が上がってくる。
「な、な、な、なん、で」
「だから味見だ。やっぱりお前からもらうのが一番美味い」
魔力に美味いとかマズイとかあるのか。
本当に生娘みたいだと恥ずかしいのに、目を逸らせない。
「だーかーら゙ッ、魔力吸うなキスするなぁぁぁぁっ!!!!」
アルマが地団駄踏みながら叫んでるのを耳に素通りさせながら、胸をキュッとおさえてうつむいた。
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