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限界社畜は異世界ファンタジーの夢をみるか
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「っ、んぇ……!?」
第一声は間の抜けたものだった。
見知らぬ男に出会い頭、突然キスで口をふさがれたのだから。
「んっ、んん、む゙ぅぅ~っ!!!」
木々が生い茂る森の中。
そこに足を踏み入れた一人の青年、彼はこの物語の主人公にして転生者。
名はオルニト。
白い肌に茶色い髪、茶色い瞳の童顔男子である。
どこにでもいる気の良いモブ村人といえばイメージできるだろうか。
そんな彼、実は転生者でもある。
――転生前の名は琴里 肇といい、ブラック企業にて限界社畜として生きていた。
来る日も来る日も残業とハラスメントにまみれる生活を送っていた中、気まぐれに参加した同窓会の帰り道に見知らぬ男に刺されて死亡。
死ぬ間際に。
『来世では異世界でスローライフを満喫させてください』
と願ったからか、無事にこの村でモブ男として転生できたのだ。
魔法と剣、そして様々な文明の織り成す異世界ファンタジー。
その中でもこの自然豊かな土地で家業の手伝いや、薬草や果物を採って生きていく。なんという穏やかな日々だろう。
そして今日も朝から森に薬草を摘みに出かけての、冒頭に戻る。
「ん゙ぅ、ぅうぅ!」
森に入ってすぐ、倒れていた男を見て最初は巨大なズタ袋かと思った。しかしよく見れば動いているような。
人だとすれば大変と慌てて駆け寄る。
するとやはり黒ずくめの男がぐったりと地面に伏していたのだ。
オルニトはすぐさま男を抱き起こした。
これがこの世界において、まったくもって間違った選択だったのだが。
「ん゙、んぅ゙~っ(な、なにするんですか)!?」
必死に両手を突っ張って抗うも、さっきまでどこにそんな腕力隠してたんだというくらいの馬鹿力で押し返してくる。
これは非常にマズイ。
オルニトは内心焦りまくりだった。
「っゔ、ぁ……ふぁ……んぅぅ!?」
そうこうしていると合わせた唇から舌まで出してきて、薄く開いた口内にぬるりと入り込んでくる。
「ふぁ、あ、んん゙ーっ、ん! ぅう」
思ったより逞しい胸板を叩こうが、がっちりと後頭部をつかまれて逃げることすら出来やしない。
「っ、んぅ゙ぅぅ(し、死ぬぅぅ)!」
息ができなくなる。
なんせキスははじめてだ。そう、これが今世のファーストキスになることに軽くショックを受けたのも一瞬。
いよいよ酸欠か、頭がぼうっとして瞼を閉じた時だった。
「――こんのッ、クソ性犯罪者がァァァッ!!!」
すざましい怒号とともに、スパーンっという鋭い音。
そして男が身体ごと横にすっ飛んでいった。
「へ……?」
「オルニトっ、大丈夫!?」
男の拘束が無くなり後ろに転げそうになったこの身を支えたのは、しなやかな少女の腕。
そして心配そうに覗き込んでくる双眸は、澄んだ蒼玉のようで。
「オルニト!」
「え、あ……うん。ありがとう、大丈夫だよ」
反応が鈍かったせいだろうか、少女は心配そうに眉を寄せた。
「どこも痛くない? 回復魔法かけるわよ」
「いや平気だよ。多分」
少女の名はアルマ。
白い肌に豊かな金髪をポニーテールに結った美しいエルフの娘である。
彼女は村の教会に住んでおり、オルニトとは生まれた時からの付き合いだ。
今日も森へ一人で出てきた彼を心配して追ってきたのだが。
「まったく。使い魔も連れていかずに一人で森に行くのはやめてって、何度もいってるでしょ」
「でも……」
「でもじゃない。現に、また変なモノに襲われてたじゃないのよ!!」
「ごめん」
今度はアーモンド型の目を釣り上げて怒る。
オルニトは素直にうなだれて謝る他なかった。
彼は魔力が高い。
人間は本来、魔力をほとんど持たないというのにもかかわず。
だが持たぬ分、魔力を帯びた武器や機械の開発などレベルの高い文明を築きあげてきたのだ。
さて、そんな人間であるにも関わらずオルニトは魔族以上の魔力を持っている。
暴走しないよう、ある程度封印はされているが『匂い』でバレる。
しかも厄介なことに、その血肉は異常に魔獣に好まれるらしい。
「で、でもさ。昔から慣れた場所だし、僕だって攻撃魔法のひとつやふたつくらい……」
「その慣れた森でいきなり襲われてるのはどこのどいつ?」
「うぐっ!」
完全論破。
再びしゅん、となった彼の頭にそっと手が置かれた。
「アタシは本気で心配してんのよ」
そう言ってわしわしと撫でられる。
「オルニトになんかあったら、アタシ生きていけないんだから」
「アルマ……」
可憐な見た目にそぐわぬ、粗暴で短気な所はあれど根は優しい娘だ。
特にオルニトに対しては過保護にも思えるほど大切にしてくれている。
「僕だって――」
「さぁて、あのクソ性犯罪者にお仕置タイムとしますかぁ!」
「あ、アルマ!?」
ゆらりと立ち上がる彼女は鬼の形相だ。
慌てて止めるも。
「アタシの可愛いオルニトにむりやりチューしやがった不届き者だわ」
「でも別に僕、ケガとかしたわけじゃないし」
「ケガ? 汚されたわっ、アタシの可愛い小鳥ちゃんが!」
「えぇ……」
このガチ感。年を追うことにひどくなるのは何故だろう。
慣れたとはいえ、たまにはドン引いてしまう。
しかし彼女はおかまいなしで、ずんずんと吹っ飛んだ男の方へ歩いていく。
そして相変わらずボロ雑巾みたいに倒れこんでいるその胸ぐらを勢いよく掴んで怒鳴りつけた。
「ノンキに寝てんじゃあないわよ、このショタコン変態野郎が!」
「アルマ。僕はショタじゃないよ」
「なにいってんの、アタシからしたらまだ赤子も同然なの」
オルニトはだいたい二十三歳である (この世界に誕生日を祝う習慣がないためあやふやになりがちだが)が、エルフの彼女はその百倍以上生きている。
だから感覚としてはあながち間違ってはいないが。
「オラッ、起きろ」
足蹴にしていたら、モゾモゾと男が起き上がってきた。
「……なんだ」
「口の利き方を知らないようね」
黒い布はローブで、よく見れば褐色の肌に長い黒髪の男のようだ。
「魔族と言えどこんなふざけたことしてタダですむと思ってんの」
しかも人間ではない。
「……」
「ガキじゃあるまいし、ダンマリは通用しないわよ」
「ちょ、アルマ。乱暴はやめよう」
完全にお怒りモードを止めに入る。
「たしかにビックリしたし……その……苦しかったけど僕は大丈夫だから。それにまず手当しなきゃ。この人、ケガしてるよ」
彼女にやられたのとは別に、黒い服でも分かるほどの出血が地面を赤黒く汚していた。
男の表情も痛みのせいか険しい。
「オルニトったら!」
アルマは声をあげて天を仰いだ。
「すごく優しい子、でも甘すぎるわ」
「そうかなぁ」
「そうよ! 甘すぎて心配になっちゃうの。こういう性犯罪者はさっさと葬らないとダメ。そうじゃないとアタシの精神が崩壊しちゃう」
「それはそれで君のメンタルが心配なんだけど」
どこの限界オタクだとため息をつきたくなる。
「あ、ええっと貴方……お名前聞いていいですか」
この場をおさめたい一心で、まずは男の素性を聞き出そうと話しかけた。
すると男は顔を上げて。
「イドラだ」
と短く一言。
「オルニト、こいつ魔族よ!」
「そうだ。このお嬢さん、お前のガールフレンドの言う通り。俺は魔族だ」
「!!!」
男、もといイドラの言葉に衝撃を受けたのはアルマだった。
「そんな。が、ガールフレンドなんてっ……!」
頬をサッと赤らめて恥じらう彼女からは一気に殺気が消える。
これはチャンスだ。
「イドラさん! あのっ、ケガしてますよね!? 今すぐ手当しなきゃ。すぐそこの村まで案内しますよ」
そう言って少し強引に彼の腕をとる。
「ほら早く!」
「あ、ああ。いいのか?」
相手は突然の申し出に戸惑いがちだが、かまわず押し切るつもりだ。
彼女にはまたお人好しチョロいだの危機感がないだのと文句をいわれるだろうが仕方ない。
これ以上、アルマを怒らせる方が良くないからだ。
「もちろん」
ニッコリ微笑んで言うと、彼は思案するように数秒黙ったがうなずいて。
「じゃあ案内してくれ」
頬に指を添えてくる。
「え゙っ」
そしてまた近づいてくる顔。唇に触れるそれに気づくのにたっぷり時間がかかった。
「!?!?」
さっきとは違って軽いキス。
後ろではアルマの怒号が響く中、オルニトは大きく目を見開いてイドラを呆然と見つめた。
――か、顔がいいぞ、この人。
兎にも角にもそう考えてしまうほどの容姿。
翠色の瞳はさながらエメラルドといったところか。なにより息を飲むほど美しい顔立ちに目を奪われた。
「オルニト、といったか」
「は、はい」
思わず敬語になる。いきなりキスなんかされて、キレ散らかしてもいいはずなのに。
「ごちそうさま」
「…………へ?」
その言葉に、僕っていつから経口摂取型の非常食になったのかしら? なんてアホなことを考える。
「あっ、やっぱりこいつオルニトの魔力を吸いやがったわね!!!」
どうやら魔族は、他者から魔力を吸い取ることが出来るらしい。
「キーッ! 殺してやるぅぅぅっ!!!」
大声をあげながら拳を振り上げるアルマに対して彼はドッドッドッ、と鼓動がやたらうるさいのに気付く。
「え……なに……これ」
呆然とつぶやいていると、そのまま腰を抱き寄せられ囁かれた。
「これからもよろしく、非常食」
笑みを含んだ低い声に、オルニトは小さく震えた。
第一声は間の抜けたものだった。
見知らぬ男に出会い頭、突然キスで口をふさがれたのだから。
「んっ、んん、む゙ぅぅ~っ!!!」
木々が生い茂る森の中。
そこに足を踏み入れた一人の青年、彼はこの物語の主人公にして転生者。
名はオルニト。
白い肌に茶色い髪、茶色い瞳の童顔男子である。
どこにでもいる気の良いモブ村人といえばイメージできるだろうか。
そんな彼、実は転生者でもある。
――転生前の名は琴里 肇といい、ブラック企業にて限界社畜として生きていた。
来る日も来る日も残業とハラスメントにまみれる生活を送っていた中、気まぐれに参加した同窓会の帰り道に見知らぬ男に刺されて死亡。
死ぬ間際に。
『来世では異世界でスローライフを満喫させてください』
と願ったからか、無事にこの村でモブ男として転生できたのだ。
魔法と剣、そして様々な文明の織り成す異世界ファンタジー。
その中でもこの自然豊かな土地で家業の手伝いや、薬草や果物を採って生きていく。なんという穏やかな日々だろう。
そして今日も朝から森に薬草を摘みに出かけての、冒頭に戻る。
「ん゙ぅ、ぅうぅ!」
森に入ってすぐ、倒れていた男を見て最初は巨大なズタ袋かと思った。しかしよく見れば動いているような。
人だとすれば大変と慌てて駆け寄る。
するとやはり黒ずくめの男がぐったりと地面に伏していたのだ。
オルニトはすぐさま男を抱き起こした。
これがこの世界において、まったくもって間違った選択だったのだが。
「ん゙、んぅ゙~っ(な、なにするんですか)!?」
必死に両手を突っ張って抗うも、さっきまでどこにそんな腕力隠してたんだというくらいの馬鹿力で押し返してくる。
これは非常にマズイ。
オルニトは内心焦りまくりだった。
「っゔ、ぁ……ふぁ……んぅぅ!?」
そうこうしていると合わせた唇から舌まで出してきて、薄く開いた口内にぬるりと入り込んでくる。
「ふぁ、あ、んん゙ーっ、ん! ぅう」
思ったより逞しい胸板を叩こうが、がっちりと後頭部をつかまれて逃げることすら出来やしない。
「っ、んぅ゙ぅぅ(し、死ぬぅぅ)!」
息ができなくなる。
なんせキスははじめてだ。そう、これが今世のファーストキスになることに軽くショックを受けたのも一瞬。
いよいよ酸欠か、頭がぼうっとして瞼を閉じた時だった。
「――こんのッ、クソ性犯罪者がァァァッ!!!」
すざましい怒号とともに、スパーンっという鋭い音。
そして男が身体ごと横にすっ飛んでいった。
「へ……?」
「オルニトっ、大丈夫!?」
男の拘束が無くなり後ろに転げそうになったこの身を支えたのは、しなやかな少女の腕。
そして心配そうに覗き込んでくる双眸は、澄んだ蒼玉のようで。
「オルニト!」
「え、あ……うん。ありがとう、大丈夫だよ」
反応が鈍かったせいだろうか、少女は心配そうに眉を寄せた。
「どこも痛くない? 回復魔法かけるわよ」
「いや平気だよ。多分」
少女の名はアルマ。
白い肌に豊かな金髪をポニーテールに結った美しいエルフの娘である。
彼女は村の教会に住んでおり、オルニトとは生まれた時からの付き合いだ。
今日も森へ一人で出てきた彼を心配して追ってきたのだが。
「まったく。使い魔も連れていかずに一人で森に行くのはやめてって、何度もいってるでしょ」
「でも……」
「でもじゃない。現に、また変なモノに襲われてたじゃないのよ!!」
「ごめん」
今度はアーモンド型の目を釣り上げて怒る。
オルニトは素直にうなだれて謝る他なかった。
彼は魔力が高い。
人間は本来、魔力をほとんど持たないというのにもかかわず。
だが持たぬ分、魔力を帯びた武器や機械の開発などレベルの高い文明を築きあげてきたのだ。
さて、そんな人間であるにも関わらずオルニトは魔族以上の魔力を持っている。
暴走しないよう、ある程度封印はされているが『匂い』でバレる。
しかも厄介なことに、その血肉は異常に魔獣に好まれるらしい。
「で、でもさ。昔から慣れた場所だし、僕だって攻撃魔法のひとつやふたつくらい……」
「その慣れた森でいきなり襲われてるのはどこのどいつ?」
「うぐっ!」
完全論破。
再びしゅん、となった彼の頭にそっと手が置かれた。
「アタシは本気で心配してんのよ」
そう言ってわしわしと撫でられる。
「オルニトになんかあったら、アタシ生きていけないんだから」
「アルマ……」
可憐な見た目にそぐわぬ、粗暴で短気な所はあれど根は優しい娘だ。
特にオルニトに対しては過保護にも思えるほど大切にしてくれている。
「僕だって――」
「さぁて、あのクソ性犯罪者にお仕置タイムとしますかぁ!」
「あ、アルマ!?」
ゆらりと立ち上がる彼女は鬼の形相だ。
慌てて止めるも。
「アタシの可愛いオルニトにむりやりチューしやがった不届き者だわ」
「でも別に僕、ケガとかしたわけじゃないし」
「ケガ? 汚されたわっ、アタシの可愛い小鳥ちゃんが!」
「えぇ……」
このガチ感。年を追うことにひどくなるのは何故だろう。
慣れたとはいえ、たまにはドン引いてしまう。
しかし彼女はおかまいなしで、ずんずんと吹っ飛んだ男の方へ歩いていく。
そして相変わらずボロ雑巾みたいに倒れこんでいるその胸ぐらを勢いよく掴んで怒鳴りつけた。
「ノンキに寝てんじゃあないわよ、このショタコン変態野郎が!」
「アルマ。僕はショタじゃないよ」
「なにいってんの、アタシからしたらまだ赤子も同然なの」
オルニトはだいたい二十三歳である (この世界に誕生日を祝う習慣がないためあやふやになりがちだが)が、エルフの彼女はその百倍以上生きている。
だから感覚としてはあながち間違ってはいないが。
「オラッ、起きろ」
足蹴にしていたら、モゾモゾと男が起き上がってきた。
「……なんだ」
「口の利き方を知らないようね」
黒い布はローブで、よく見れば褐色の肌に長い黒髪の男のようだ。
「魔族と言えどこんなふざけたことしてタダですむと思ってんの」
しかも人間ではない。
「……」
「ガキじゃあるまいし、ダンマリは通用しないわよ」
「ちょ、アルマ。乱暴はやめよう」
完全にお怒りモードを止めに入る。
「たしかにビックリしたし……その……苦しかったけど僕は大丈夫だから。それにまず手当しなきゃ。この人、ケガしてるよ」
彼女にやられたのとは別に、黒い服でも分かるほどの出血が地面を赤黒く汚していた。
男の表情も痛みのせいか険しい。
「オルニトったら!」
アルマは声をあげて天を仰いだ。
「すごく優しい子、でも甘すぎるわ」
「そうかなぁ」
「そうよ! 甘すぎて心配になっちゃうの。こういう性犯罪者はさっさと葬らないとダメ。そうじゃないとアタシの精神が崩壊しちゃう」
「それはそれで君のメンタルが心配なんだけど」
どこの限界オタクだとため息をつきたくなる。
「あ、ええっと貴方……お名前聞いていいですか」
この場をおさめたい一心で、まずは男の素性を聞き出そうと話しかけた。
すると男は顔を上げて。
「イドラだ」
と短く一言。
「オルニト、こいつ魔族よ!」
「そうだ。このお嬢さん、お前のガールフレンドの言う通り。俺は魔族だ」
「!!!」
男、もといイドラの言葉に衝撃を受けたのはアルマだった。
「そんな。が、ガールフレンドなんてっ……!」
頬をサッと赤らめて恥じらう彼女からは一気に殺気が消える。
これはチャンスだ。
「イドラさん! あのっ、ケガしてますよね!? 今すぐ手当しなきゃ。すぐそこの村まで案内しますよ」
そう言って少し強引に彼の腕をとる。
「ほら早く!」
「あ、ああ。いいのか?」
相手は突然の申し出に戸惑いがちだが、かまわず押し切るつもりだ。
彼女にはまたお人好しチョロいだの危機感がないだのと文句をいわれるだろうが仕方ない。
これ以上、アルマを怒らせる方が良くないからだ。
「もちろん」
ニッコリ微笑んで言うと、彼は思案するように数秒黙ったがうなずいて。
「じゃあ案内してくれ」
頬に指を添えてくる。
「え゙っ」
そしてまた近づいてくる顔。唇に触れるそれに気づくのにたっぷり時間がかかった。
「!?!?」
さっきとは違って軽いキス。
後ろではアルマの怒号が響く中、オルニトは大きく目を見開いてイドラを呆然と見つめた。
――か、顔がいいぞ、この人。
兎にも角にもそう考えてしまうほどの容姿。
翠色の瞳はさながらエメラルドといったところか。なにより息を飲むほど美しい顔立ちに目を奪われた。
「オルニト、といったか」
「は、はい」
思わず敬語になる。いきなりキスなんかされて、キレ散らかしてもいいはずなのに。
「ごちそうさま」
「…………へ?」
その言葉に、僕っていつから経口摂取型の非常食になったのかしら? なんてアホなことを考える。
「あっ、やっぱりこいつオルニトの魔力を吸いやがったわね!!!」
どうやら魔族は、他者から魔力を吸い取ることが出来るらしい。
「キーッ! 殺してやるぅぅぅっ!!!」
大声をあげながら拳を振り上げるアルマに対して彼はドッドッドッ、と鼓動がやたらうるさいのに気付く。
「え……なに……これ」
呆然とつぶやいていると、そのまま腰を抱き寄せられ囁かれた。
「これからもよろしく、非常食」
笑みを含んだ低い声に、オルニトは小さく震えた。
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