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7.その要求、不躾により

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 ―――写真が一枚。そう、たった一枚。

「先生もやるねェ」

 声ほどに楽しくなさそうなこの生徒は、どちらかと言えば不機嫌なのだろう。
 先程から忙しくなく机を叩いたり、その指を噛んだり。いつもの飄々とした様子はどうしたのだと首を傾げるくらいに落ち着きがない。

「丹羽 京太郎。美術の先生、には見えないくらい良い身体してるもんね」
「……」

 放課後の教室は西日が差して橙に染まっている。

「っていうか。男もイケるんだ? 初心ぶってさァ」
「んなわけないだろ。これは別に……」
「うん。知ってるよ。これはただハグしてただけ、なんだよね? オレ見てたもん」

 ……またストーカーかよ。まぁそうだよな。そうじゃなきゃこんな写真撮れない。明らかな隠し撮り。ここまでピンポイントだと、むしろその技術に感心すらする。
 気持ち悪いし、ムカつくけどな。

「でも心までは分かんねぇじゃん」
「はァ?」

 何言ってんだこいつ。
 聞き返すと、一瞬くしゃりと顔を歪めてから横を向いた。

「別に。……そうだ。先生明日うち来てよ」

 俺の顔も見ずに独り言みたいに言う。
 明日、週末で普通に休みだが。……ああ、なんか嫌な予感しかしない。

「『早熟な』先生にはもう次のステップが相応しいようだもんねぇ。『準備』よろしくね」
「お前、めちゃくちゃだぞ。大体、じゅ……準備って」

 全くの無知な訳じゃない。
 それこそいつ蓄えたのか忘れてしまった知識の欠片位ならある。
 でも今のこの状況は、その無駄な知識が俺を青ざめさせる要因にしかならないが。

「今は調べたらいくらでも分かるでしょ? ね、大人なんだから……じゃ」
「おいッ! 橘、何勝手なことを……」

 上から目線で散々好き勝手な事を言って、彼は立ち上がる。
 机の上の写真は掴んで。

「これ。ばらまかれたら流石にヤバいよね。ま、丹羽は喜ぶかな? あいつガチっぽいし」
「だから何言ってんだよ、ふざけんな!」

 こりゃ写真をひったくってやろうと、このクソガキに歩み寄った。
 挑発してるつもりなのか写真をヒラヒラと振るその手に掴みかかろうとするも、呆気なく躱される。
 わずかな身長差が癪に障り、盛大に舌打ちをした。
 
「あー、はいはい。先生、さようなら。明日楽しみにしてるからね」

 余裕の表情を浮かべて教室を出ていく生徒の後ろ姿を、俺は歯噛みしながら見送るしかなかった。

■□▪▫■□▫▪■□▪▫

 ―――目の前で吹き出し笑いされると、大抵は気分を害するだろう。
 でも、今の俺はそれどころじゃない。

「あははは、緊張し過ぎでしょ」

 これが緊張せずにいられるか!
 休日の昼間っから、教師が生徒の家の寝室にいるんだぞ!?
 しかもその格好がまたありえない……。

「なんで」
「ん? どしたの、先生」
「なんで……俺だけ服脱がされてんだよッ!」

 下着一枚残ってない。
 全裸でベッドに腰掛けて必死で前を隠す俺の隣。
 普通に服きてる奴。

「え。だって。俺脱ぐ必要なくない?」
「俺だってねぇよ! 特に上半身脱ぐ必要ない」
「あるよ。大あり。俺が楽しいし」

 真面目な顔で言うのがまたムカつく。
 なおも文句を言おうと口を開けば。

「あのさ先生、勘違いしないでね?」
「ッ!?」

 深いため息と共に、二人の身体の距離が一気に縮まる。
 思わず身を引くと、その体重移動でほんの少しベッドが軋んだ。

「お互いの立場、ね? 俺は脅す方、そっちは脅される方……分かるかな」
「あ、ああ……」

 諭す言い方だが、言われてる内容にずしりと心に重りを付けられた気分になる。

「分かったらよろしい。……じゃ、始めようか」

 ゆっくりとベッドに押し倒されながら、俺は不安と恐怖で頭がどうにかなりそうだった。

「……」

 他人に身体を弄り回されるのが、こんなに緊張するものだとは知らなかった。
 とはいえ。10歳も下の彼の手は優しく丁寧で、まるでマッサージをするかのようだ。

「大丈夫、かたくならないで……いや、ここは硬くして良いけども」
「く、下らねぇ」

 思わずツッコミ入れたが、ニンマリ笑った橘の表情から緊張してるのは多分俺だけじゃないってのが分かった。

「お前さ。童貞?」
「……!?」

 ははは、慌ててやがる。
 俺ばかりやられっぱなしもナンだから、覆い被さる彼にこっそり手を伸ばした。

「コラ」

 まるで小さな子を叱るような声。そしてその手はあえなく捕まり拾い上げられる。
 そして次の瞬間、チュッ……と小さなリップ音を響かせて手の甲に落とされた口付け一つ。

「ば、馬鹿だろ。お前……そういうの」
「でも真っ赤になったじゃん。可愛いよ」

 女に対するみたいなことを言う。
 それが妙にムズムズして居心地悪くて、俺はその何倍の音で舌打ちしてそっぽ向いた。

「早くしろよ。入れるなり、なんなり」

 準備はそれなりにしてきた。 
 ……とはいっても洗浄を、だが。調べたら割と細かくそういう情報は出てきて、ネット社会の懐の深さを知る。
 でもそんな俺でも、それ以上の事となると調べる手も止まるというものだ。

 前立腺だの拡張だの。排泄器官を『入口』と表現していたそのサイトだったが、やっぱり俺としてはソコはあくまで『出口』だ。それ以上もそれ以下もない。
 そんな所に、男のアレをナニするなんて……クレイジーにも程があるぞ、一部の人類よ。

「さっさと入れてって? ふーん……頑張るね」

 彼は薄い唇をペロリと舐め、意地の悪い笑みを浮かべた。
 無駄な虚勢も、時としては命取りになるのだと俺は学んだ……もう遅いけれど。

 ……まず首筋に吸いつかれた。
 痕を付けるな、と喚く俺に彼は何も言わなかった。
 そのままゆっくり口付け落としながら降りていく感覚に、小さく息を漏らす。
 女にはするけど男にされたことはなかった。心地いいような、逆に落ち着かないような妙な気分だ。

「ぅ……っ、ぁ」

 胸を執拗に舌と指先で嬲ってくるのも正直苦手。
 実はそこが弱いなんて、この男に触れられるまで知らなかったし、女の子みたいと笑われるのも癪に障る。

「声、出して良いのに」
「ぅ……る、さっ……あっ!」

 突然性器を握りこまれ、息を詰めた。
 最初はやわやわと。生理現象で兆してしまうと、強弱つけて扱かれる。
 自分の力加減と違うけれど、それがまた予想もつかない快感を引き出して翻弄される自分がいた。

 ……指を噛んで声を抑えようとすると『ダメでしょ』と叱られて、口の中に指を突っ込まれる。

「ほら。それ噛んでいいから」
「ぁ……っ、んぉ、ぃ……!」

 噛める訳ないだろ、と内心叫ぶが再び性器と胸に与えられた刺激にかき消されてしまう。

「んぁ、ぁ……あ……ぁっ……ああッ……」

 強制的に開けさせられた口から耳を塞ぎたくなるような声が止まらない。
 感じるのがこんなに怖いなんて初めてだ。

「ぃ、ぁ、あ……っ……ぁ、あ、あああぁ……っ」

 まるで生娘みたいに半泣きになりながら、俺は彼にすがりつくように吐精した。

「先生、ほらいっぱい出たね」
「っ……ぅ、るさい……ッ、しねっ!」

 揶揄う声に喧嘩腰で返せば、鼻で笑われる。
 
 ―――余韻に身体を震わせて、息を整える暇も碌に与えられなかった。

「んじゃ早速」
「ぇ……ッ、ひッ!!」

 いきなり尻を撫で上げられ、悲鳴をあげる。
 その反応も笑われてそのまま窄まりに指が這わされた。

 ……や、やっぱりするのか。

 覚悟が出来てなかった、わけじゃない。
 ただ怖い。絶対入らないだろ、だいたいそこは出す所だと内心叫ぶ。声に出せなかったのは単にそんな気力がなかっただけだ。
 アレな動画で性器をスムーズに受け入れていく、そこを見た時卒倒するかと思って慌てて動画を閉じたっけな。
 だってあれ、無理だろ。裂ける、絶対に肛門科デビュー果たすって。マジで。

「はーい。まず一本……ちゃんと解してきたかな?」
「ぅうっ……む、むりぃ……」

 気持ち悪い。痛くはないが異物感半端ない。
 しかもいつの間か人肌に温められたぬめぬめした液体……ローションだろう、をふんだんにふりかけられてまさにマッサージするように塗りこまれてる。

 最初は窄まり付近を解すように撫でて、おもむろにズブリと差し込まれた指一本に泣き声をあげる。

「大丈夫大丈夫。入ってんじゃん。へぇ……温かいんだね、中は」

 オレ童貞だからさ、と呟く男には『嘘吐きめ』と返したくなって口を開く。
 初めてだと? 未経験者がこんなに手馴れていて余裕なわけないだろ。
 でもだとしたら、俺は男はおろか女性も経験ない奴に翻弄されてることになる。プライドがズタボロだ。

「く……ぅ……っ、んん、っ……」
「二本目」

 二本咥えこまされてしまった。
 やはり痛みはない。ゆっくり腸壁をなぞり掻き回す指に歯噛みしながら目を瞑る。
 ぐちゅぐちゅと淫猥な水音が鼓膜を震わせた。

「や……っ、ぁ……あ!? ん……っん」
「お? ここかな」
「ひぃッ……ぁ、なにすん……っ、あ!」

 何か変な感覚がする箇所がある。と自覚した時には、それを感じ取った聡いガキにそこを執拗に責め立てられる。

「ひ、ひっ……ぃ、や、そこっ、やめッ……ぅ、あぁ……!」

 おかしい。気持ちいいとかそう言う次元じゃない。強制的に射精させられる暴力的な快感だ。
 のたうちまわって必死にそれを逃がそうとするが、身体で抑え込まれてさらに嬲り続けられて泣きながら元凶である男にすがりつく。

「先生、可愛い……っ、もっと啼いて、もっと」
「や、だ……ぁッ……やめ、もう……っ……」

 射精感だけがつのり、でも出せない。
 思わず自分で性器を握り上下させる。

「ん……ひっ……ぁ、あ、あああっ……あーっ……!」

 ほとんど吼えるように声を上げてイってしまった。
 腰がガクガクと震えて止まらないし、妙に甘ったるい余韻が体中を支配して止まない。

「先生、すごい感じ方だったね」

 揶揄うような口調でなく、心底嬉しそうに彼は言った。
 そしてまたベッドを軋ませながら、放心する俺の頬を撫でて。

「次は俺の番ね」

 と笑った。

 ―――彼はコンドームの袋を開ける間すら惜しそうな顔をする。そんなある意味『少年らしい』姿を見上げながら、そっと溜息をついた。

「じゃ、俺の童貞貰ってね?」
「お前……どこら辺が童貞だ」

 むしろ手馴れてるじゃねぇか。
 俺の方が初めてみたいで情けない……いや、処女ではあるけど。

そして、えらくマヌケな格好だ。ぴたりと薄いゴムに包まれたソレが突きつけられるように当てられるのを大股開いて待ってるのだから。

「……力、抜いててね」
「ぃ……ひ、ぅっ……ぅ゛ぅ……ぁ゛ぁ゛……」

 ゆっくり侵入してきたソレは、想像以上にキツい。いや、サイズだけじゃなくてメンタルも。
 まさに侵食、内部から喰い込まれていく感じ。異物感も痛みも指なんかと比べ物にならない。
 身体を仰け反らせて必死で耐えようとする。

「痛、い? ……だ、い、じょうぶ?」
「ひ……っ、あたり、まえ……あ゛ぁ……だ、ろ……っ!」

 怒鳴りつけたいし蹴り上げたい。出来れば逃げ出したい。
 でも楔打ち込まれるみたいに差し込まれたソコに意識が取られ、何も出来ないのが口惜しい。
 呼吸すらままならない俺に、同じく苦しいのか眉間に皺を刻んだ彼が手を伸ばす。
 
「優希? 力、抜いて……ね?」
「むり、だ……い、痛……抜いてっ……くれ……」

 頼むから、と泣いても宥めるように頬を撫でるだけ。
 セックスってこんなに苦しいんだっけか。苦しいのに。すごく怖いのに。

 ……なんでこいつ、こんなに優しい顔するんだろう。

「あっ……!」

 頬に軽く落とされたキス。そこに気を取られた瞬間。

「あっ……ん、ぅ、んんっ……」

 すっかり萎えてしまった俺の性器に触れる温かい手。
 緩やかに裏筋を撫で上げる手つきに、再びゾクゾクと快感が這い上がってくる。

「ごめんね、ごめん、先生。ごめん」
「た、橘、っ……ひ、ぎッ……ぁ゛……ああっ……い゛……」

 前をさすられて少し緩んだのか、すかさずさらに奥に進められた腰に声を上げた。
 そしてその瞬間、さっきの変な感覚の場所を擦り上げたらしい。
 まさかそこが前立腺、とかいうやつだろうか。
 
「ぁ……がッ……お゛……んぁあッ……はぁッ……あアッ、ア、ああ……あ、ひぃ……っ」

 抜かれる時のゾワゾワとした感覚は快楽なんだろうか。不快と快の絶妙の所を抉って揺さぶっていく。
 先程より言うことが聞かない腰がガクガクと痙攣したように勝手に揺れる。
 
「ねぇっ……優希っ……気持ち、いいっ? ねぇ……っ」
「んぁあッ、あっ、あっ、あっ……し、しらな、いぃぃっ! こんなのっ……や、だっ、ぁ……」

 荒々しく息を弾ませながら、囁く息遣いが耳を犯す。
 これ以上感覚を、感情を引っ掻き回さないでくれと許しを乞うように首を横に振って泣いた。

 助けて、許して、もうやめてと掠れた声で繰り返していても彼は止めなかった。
 それどころか、限界を訴えるように荒々しい呼吸を繰り返す彼が『もう……』と小さく呟いたのを聞いて、絶頂を悟る。

「ひっ、ぃ……ぁ……ああああっ……」
「優希……っ、く……ッ、ぅ……っ」

 同時にイッたのか。
 きつく俺を抱きしめた彼の腕の力強さを感じつつ、散れ散れになった意識はドロリと溶けて落ちた。

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