シンデレラ♂はハッピーエンドは望んでいない

田中 乃那加

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ハメられてシンデレラ(深い意味はない)

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「そ、そんな話聞いてないッ!」

 わめいたけど後の祭り。

「さてな。お前が少しばかり思い違いしてるみてぇだったからな」

 悪びれもせず笑うこの男を、張り倒してやろうかと思った。
 思っただけだ。そんなことを実際に行動に移せば死んでしまう。色んな意味で。

「町に連れて行ってくれるって……」
「ちゃんと通っただろ」
「そういう意味じゃない!」

 そうだ。コイツ、町に連れていくって言ったくせに――あ。正確にはマリアさんだけど。でも隣でむっつりだまっていたから、そうだと思うだろうよ。
 なのに乗せられた馬車は、かるーく町を通っただけであらぬ方向にまっしぐらに走り出しやがった。
 これが、わめかずにいられるか。

「僕をどこに連れていく気だ」

 ごくりとツバをのんで訊ねた。ガタガタと揺れる馬車は、当分止まる気配はない。窓も布をかけられてしまえば、どこへ向かうかも見当つかないのだ。

「もちろん我が家だが?」
「やっぱりぃぃぃぃッ!!!」

 くそっ、ハメられた!すこし切なくなった気分を返せ!! あーもうっ、ムカつく。
 ギリギリと殺す勢いの視線を向ければ、涼しい顔をした男が微笑んだ。

「うっ……」

 ヤバい。顔がいい。顔がいいって、こんなにも破壊力あるのか。特にニッコリと白い歯がまぶしい笑みが破壊力バツグンなんだ。
 もう王子様オーラ半端ない。やってる事は、わりとアレなのに。

「俺のお姫様」
「そんな甘い顔しても、知らないからな……」
「愛する者を見つめているだけだぜ」
「うぐっ」

 ほ、ほだされそう。ついつい一瞬だけ『花嫁になってもい・い・か・も♡』なんて思っちまった。
 きもちわりぃ、なんのために家出してきたと思ってんだ。
 どっかの貴族のお家騒動防止のための、生贄的な結婚させられそうになってるからだぞ! ここで男にときめいちゃ、意味がなくなるだろうが。
 自分を叱咤激励しながら、また馬車を飛び降りてやろうかと辺りをうかがう。

「ま、マリアさんは!?」
「一つ前の馬車に乗ってるが。大丈夫だ」
「へ?」

 向かい合わせに座ってたハズなのに、気がつけば隣にいるこの状況。
 そして王族御用達の広い馬車には、僕とこの男が。笑顔だけは爽やかだけど、目は妙にギラついているのは気のせいだろうか。

「ここは俺とお前だけだ」
「……」
「抱きしめてもいいだろうか」
「は、ハァァ!?」

 いいワケないだろ! てか、怖い怖い怖い怖いッ。にじり寄ってくるコイツが怖すぎるぅぅっ!!!
 さっきまでの比較的紳士的な顔はどうした。もう雄って顔で、こっちをロックオンしやがって。
 い、いやビビってる場合じゃない。
 このままじゃ、どんな目にあうかわかったもんじゃない。
 僕だって別にウブな小娘じゃないんだ。親友のメイソンから聞いているんだからな。
『男はオオカミ』って。

 頭からバリバリ食われちまわないとしても、それに近いことになるらしい。それがなんなのかっていうのは、くわしく教えてくれなかったけど。
 でも、アイツが言葉を濁すようなことだ。めちゃくちゃ恐ろしい事なんだろう。
 あぁ。考えるだけで震えが止まらない。

「震えているな。寒いのか?」
「ち、ちがっ……」

 むしろその熱い視線に、焼き殺されそう。逃げ出したいのに、そのムダに良い顔がジャマをする。そしてジリジリと距離をつめられていく。

「誓いのキスをするか」
「し、しなくていい!」

 そんなのされたら戻れなくなる。
 悔しいけどもう、分かってるんだ。僕はこの変態野郎 (王子だけど)にそうされる事を心の底では望んでいるって。
 あの子供のころに奪われたファーストキスのせいだ。それがまだ、解けない魔法呪いのように僕を動けなくする。
 だから逃げないと……。

「ジェイミー。いや、俺のお姫様」
「!」

 姫じゃない。僕は貴族の息子だと叫んで突き飛ばしてやりたかった。
 なのにそれができない。
 それどころか、ウットリと目までつぶっちまうんだから恐ろしい。
 なにこれ、さっきからおかしい。変なクスリでも仕込まれちまったのか!?

「愛してる」

 注がれる視線から逃げたかっただけ。だからもうどうにでもなれ、と身体の力を抜いた時だった。

「リチャード様!!!」

 大声と共に、馬車のドアが蹴破られる勢いで開く。
 これには僕だけでなく、この男もビクリと身体を震わせて固まった。

「……マリア」
「お城につきましたよ、王子」

 苦虫を噛み潰したような彼と、なぜか勝ち誇ったような顔の老女。
 そして、馬車の座席でみっともなく押し倒されたマヌケな僕が。
 いつのまにか、馬車は止まっていた――。





 
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