10 / 11
ハメられてシンデレラ(深い意味はない)
しおりを挟む
「そ、そんな話聞いてないッ!」
わめいたけど後の祭り。
「さてな。お前が少しばかり思い違いしてるみてぇだったからな」
悪びれもせず笑うこの男を、張り倒してやろうかと思った。
思っただけだ。そんなことを実際に行動に移せば死んでしまう。色んな意味で。
「町に連れて行ってくれるって……」
「ちゃんと通っただろ」
「そういう意味じゃない!」
そうだ。コイツ、町に連れていくって言ったくせに――あ。正確にはマリアさんだけど。でも隣でむっつりだまっていたから、そうだと思うだろうよ。
なのに乗せられた馬車は、かるーく町を通っただけであらぬ方向にまっしぐらに走り出しやがった。
これが、わめかずにいられるか。
「僕をどこに連れていく気だ」
ごくりとツバをのんで訊ねた。ガタガタと揺れる馬車は、当分止まる気配はない。窓も布をかけられてしまえば、どこへ向かうかも見当つかないのだ。
「もちろん城だが?」
「やっぱりぃぃぃぃッ!!!」
くそっ、ハメられた!すこし切なくなった気分を返せ!! あーもうっ、ムカつく。
ギリギリと殺す勢いの視線を向ければ、涼しい顔をした男が微笑んだ。
「うっ……」
ヤバい。顔がいい。顔がいいって、こんなにも破壊力あるのか。特にニッコリと白い歯がまぶしい笑みが破壊力バツグンなんだ。
もう王子様オーラ半端ない。やってる事は、わりとアレなのに。
「俺のお姫様」
「そんな甘い顔しても、知らないからな……」
「愛する者を見つめているだけだぜ」
「うぐっ」
ほ、ほだされそう。ついつい一瞬だけ『花嫁になってもい・い・か・も♡』なんて思っちまった。
きもちわりぃ、なんのために家出してきたと思ってんだ。
どっかの貴族のお家騒動防止のための、生贄的な結婚させられそうになってるからだぞ! ここで男にときめいちゃ、意味がなくなるだろうが。
自分を叱咤激励しながら、また馬車を飛び降りてやろうかと辺りをうかがう。
「ま、マリアさんは!?」
「一つ前の馬車に乗ってるが。大丈夫だ」
「へ?」
向かい合わせに座ってたハズなのに、気がつけば隣にいるこの状況。
そして王族御用達の広い馬車には、僕とこの男が。笑顔だけは爽やかだけど、目は妙にギラついているのは気のせいだろうか。
「ここは俺とお前だけだ」
「……」
「抱きしめてもいいだろうか」
「は、ハァァ!?」
いいワケないだろ! てか、怖い怖い怖い怖いッ。にじり寄ってくるコイツが怖すぎるぅぅっ!!!
さっきまでの比較的紳士的な顔はどうした。もう雄って顔で、こっちをロックオンしやがって。
い、いやビビってる場合じゃない。
このままじゃ、どんな目にあうかわかったもんじゃない。
僕だって別にウブな小娘じゃないんだ。親友のメイソンから聞いているんだからな。
『男はオオカミ』って。
頭からバリバリ食われちまわないとしても、それに近いことになるらしい。それがなんなのかっていうのは、くわしく教えてくれなかったけど。
でも、アイツが言葉を濁すようなことだ。めちゃくちゃ恐ろしい事なんだろう。
あぁ。考えるだけで震えが止まらない。
「震えているな。寒いのか?」
「ち、ちがっ……」
むしろその熱い視線に、焼き殺されそう。逃げ出したいのに、そのムダに良い顔がジャマをする。そしてジリジリと距離をつめられていく。
「誓いのキスをするか」
「し、しなくていい!」
そんなのされたら戻れなくなる。
悔しいけどもう、分かってるんだ。僕はこの変態野郎 (王子だけど)にそうされる事を心の底では望んでいるって。
あの子供のころに奪われたファーストキスのせいだ。それがまだ、解けない魔法のように僕を動けなくする。
だから逃げないと……。
「ジェイミー。いや、俺のお姫様」
「!」
姫じゃない。僕は貴族の息子だと叫んで突き飛ばしてやりたかった。
なのにそれができない。
それどころか、ウットリと目までつぶっちまうんだから恐ろしい。
なにこれ、さっきからおかしい。変なクスリでも仕込まれちまったのか!?
「愛してる」
注がれる視線から逃げたかっただけ。だからもうどうにでもなれ、と身体の力を抜いた時だった。
「リチャード様!!!」
大声と共に、馬車のドアが蹴破られる勢いで開く。
これには僕だけでなく、この男もビクリと身体を震わせて固まった。
「……マリア」
「お城につきましたよ、王子」
苦虫を噛み潰したような彼と、なぜか勝ち誇ったような顔の老女。
そして、馬車の座席でみっともなく押し倒されたマヌケな僕が。
いつのまにか、馬車は止まっていた――。
わめいたけど後の祭り。
「さてな。お前が少しばかり思い違いしてるみてぇだったからな」
悪びれもせず笑うこの男を、張り倒してやろうかと思った。
思っただけだ。そんなことを実際に行動に移せば死んでしまう。色んな意味で。
「町に連れて行ってくれるって……」
「ちゃんと通っただろ」
「そういう意味じゃない!」
そうだ。コイツ、町に連れていくって言ったくせに――あ。正確にはマリアさんだけど。でも隣でむっつりだまっていたから、そうだと思うだろうよ。
なのに乗せられた馬車は、かるーく町を通っただけであらぬ方向にまっしぐらに走り出しやがった。
これが、わめかずにいられるか。
「僕をどこに連れていく気だ」
ごくりとツバをのんで訊ねた。ガタガタと揺れる馬車は、当分止まる気配はない。窓も布をかけられてしまえば、どこへ向かうかも見当つかないのだ。
「もちろん城だが?」
「やっぱりぃぃぃぃッ!!!」
くそっ、ハメられた!すこし切なくなった気分を返せ!! あーもうっ、ムカつく。
ギリギリと殺す勢いの視線を向ければ、涼しい顔をした男が微笑んだ。
「うっ……」
ヤバい。顔がいい。顔がいいって、こんなにも破壊力あるのか。特にニッコリと白い歯がまぶしい笑みが破壊力バツグンなんだ。
もう王子様オーラ半端ない。やってる事は、わりとアレなのに。
「俺のお姫様」
「そんな甘い顔しても、知らないからな……」
「愛する者を見つめているだけだぜ」
「うぐっ」
ほ、ほだされそう。ついつい一瞬だけ『花嫁になってもい・い・か・も♡』なんて思っちまった。
きもちわりぃ、なんのために家出してきたと思ってんだ。
どっかの貴族のお家騒動防止のための、生贄的な結婚させられそうになってるからだぞ! ここで男にときめいちゃ、意味がなくなるだろうが。
自分を叱咤激励しながら、また馬車を飛び降りてやろうかと辺りをうかがう。
「ま、マリアさんは!?」
「一つ前の馬車に乗ってるが。大丈夫だ」
「へ?」
向かい合わせに座ってたハズなのに、気がつけば隣にいるこの状況。
そして王族御用達の広い馬車には、僕とこの男が。笑顔だけは爽やかだけど、目は妙にギラついているのは気のせいだろうか。
「ここは俺とお前だけだ」
「……」
「抱きしめてもいいだろうか」
「は、ハァァ!?」
いいワケないだろ! てか、怖い怖い怖い怖いッ。にじり寄ってくるコイツが怖すぎるぅぅっ!!!
さっきまでの比較的紳士的な顔はどうした。もう雄って顔で、こっちをロックオンしやがって。
い、いやビビってる場合じゃない。
このままじゃ、どんな目にあうかわかったもんじゃない。
僕だって別にウブな小娘じゃないんだ。親友のメイソンから聞いているんだからな。
『男はオオカミ』って。
頭からバリバリ食われちまわないとしても、それに近いことになるらしい。それがなんなのかっていうのは、くわしく教えてくれなかったけど。
でも、アイツが言葉を濁すようなことだ。めちゃくちゃ恐ろしい事なんだろう。
あぁ。考えるだけで震えが止まらない。
「震えているな。寒いのか?」
「ち、ちがっ……」
むしろその熱い視線に、焼き殺されそう。逃げ出したいのに、そのムダに良い顔がジャマをする。そしてジリジリと距離をつめられていく。
「誓いのキスをするか」
「し、しなくていい!」
そんなのされたら戻れなくなる。
悔しいけどもう、分かってるんだ。僕はこの変態野郎 (王子だけど)にそうされる事を心の底では望んでいるって。
あの子供のころに奪われたファーストキスのせいだ。それがまだ、解けない魔法のように僕を動けなくする。
だから逃げないと……。
「ジェイミー。いや、俺のお姫様」
「!」
姫じゃない。僕は貴族の息子だと叫んで突き飛ばしてやりたかった。
なのにそれができない。
それどころか、ウットリと目までつぶっちまうんだから恐ろしい。
なにこれ、さっきからおかしい。変なクスリでも仕込まれちまったのか!?
「愛してる」
注がれる視線から逃げたかっただけ。だからもうどうにでもなれ、と身体の力を抜いた時だった。
「リチャード様!!!」
大声と共に、馬車のドアが蹴破られる勢いで開く。
これには僕だけでなく、この男もビクリと身体を震わせて固まった。
「……マリア」
「お城につきましたよ、王子」
苦虫を噛み潰したような彼と、なぜか勝ち誇ったような顔の老女。
そして、馬車の座席でみっともなく押し倒されたマヌケな僕が。
いつのまにか、馬車は止まっていた――。
1
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
絶対にお嫁さんにするから覚悟してろよ!!!
toki
BL
「ていうかちゃんと寝てなさい」
「すいません……」
ゆるふわ距離感バグ幼馴染の読み切りBLです♪
一応、有馬くんが攻めのつもりで書きましたが、お好きなように解釈していただいて大丈夫です。
作中の表現ではわかりづらいですが、有馬くんはけっこう見目が良いです。でもガチで桜田くんしか眼中にないので自分が目立っている自覚はまったくありません。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/110931919)


【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

顔だけが取り柄の俺、それさえもひたすら隠し通してみせる!!
彩ノ華
BL
顔だけが取り柄の俺だけど…
…平凡に暮らしたいので隠し通してみせる!!
登場人物×恋には無自覚な主人公
※溺愛
❀気ままに投稿
❀ゆるゆる更新
❀文字数が多い時もあれば少ない時もある、それが人生や。知らんけど。

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった
たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」
大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる