幼なじみは(元)美少女(現)ゴリラ

田中 乃那加

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12.罵倒してもし足りない

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 家に帰って見てみれば、身体には変な痕がついていた。
 しかもやっぱり身体の節々が痛い。
 なにこれ病気? ってビビったけど特に熱もないし、これもアイツらのせいだろうか。
 
「ほんとバカなんだから」

 ため息をつきつつ、最近はあぁやって2人がじゃれ合ってるのを見て面白がってる自分がいる。
 だってゴリラとチワワの喧嘩だぞ? 動物園でやってたら、間違いなく週一で通って見るわ。
 まぁ、その内容がすごく気持ち悪いんだけどな。

「あー……カノジョ欲しぃ」

 ベッドに横たわり、ふと思ったことを口に出してみる。
 言ってみるだけだ。
 だいたい、俺みたいな人間に恋人がいる想像がつかない。
 まるで季節の移り変わりみたいに、調子悪くなるような男。女の子の生理みたい、って軽蔑されて終わりな気がする。
 ちなみにそれは小学生のころ、相談した保健室の先生に言われた。
 あの時から、この定期的にくる症状を他言しなくなった。

「恋人、かぁ」
 
 でもまぁ想像するならタダだもんな。
 俺は何となく、理想の恋人像を頭に思い描いてみる。
 まず可愛い子がいいな。
 色はそんなに白くなくていい。出来れば適度に日焼けしてる方が、好きかも。
 スポーツが得意そうな感じの子もいいな。華奢で誰もが守ってあげたくなるタイプも悪くないけど、やっぱりボーイッシュで一見気が強そうで。でも実はちゃんと女の子で、ふとした時に守ってあげたくなるような。

「いやいや……何考えてんだ俺は」

 思わずツッコミを言葉に出して、ため息をつく。
 とんだ妄想だ。俺ってこんなに夢見がちだったっけ?
 っていうか、まるでそんな子が現実にいるみたいな妄想してるし。
 自分にドン引き。

 だから俺がカノジョなんて、当分無理。
 まずこの体質と、あとあのホモ共(ゴリラ以外は冗談として)をなんとかしないと。
 特に銀児やその取り巻き達のせいで、女子に近づく事もままならない気がしてきた。
 すぐに構ってくるし、距離感がぶっ壊れてるせいでうっとおしい。
 そりゃあ仲良くしてくれるのは嬉しい。でも女子同士じゃないんだから、すぐに後ろから抱きついたり頭撫でたりするのはやめて欲しい。
 やめろって言ったら、アイツらの『友達だろ』って言葉で『そんなもんかな』と勘違いしていたけど……冷静に考えると、おかしいよな。

 挙句の果てには、あのゴリラだ。
 ほんとに出来ればあの女、伍代 華子ごだい はなこに熨斗でも付けて送り付けたい。
 顔ばかり良い、残念なイケメンマッチョめ。
 完全に作画ミスな奴なのに、ここ最近は違和感なんて感じなくなってきている。
 
「ほんと勿体ないよなぁ」

 銀児もゴリラも。
 二人ともその気になれば、いくらでも寄ってくるのに。
 なんで好き好んで、俺みたいな男に絡むんだろう。
 青春のムダ遣いって思うんだけど。

「疲れた……」

 今日は独り言が多い。
 そして身体がすごくダルい。寝ても寝ても寝足りない感じ。
 ここの所、体調良くなってきたんだけどなぁ。

 ―――何度目かのため息をついた時だった。

「あ」

 スマホの振動音が、静かな部屋に響く。
 すぐそこにあるのに、確認するのもおっくうで無視した。
 
「……」

 途切れない。
 てか途切れても、また着信。
 多分、着信履歴がえらいことになってるだろうな。めんどくさい、誰だよ。
 
「……」

 まだ鳴ってる。
 飽きないヤツだな。なんだストーカーか。それともガチで緊急事態なのか?
 そろそろ発信者くらい見ないとダメだと思ってるが。なんかその……めんどくさい。
 まだ夕方だ。夕食だと母親が階段下で呼ぶまで、もう少し時間あるだろう。
 頼むから休ませてくれ。
 脳みそが、まるでオーバーヒートしたみたいになってんだ。

「……」

 あ、10分くらい経った?
 まだ断続的に鳴ってるけど、そろそろ怖くなってきたなぁ。
 少しウトウトしてたみたい。
 こんな状況でよく寝れるな、って自分でも呆れるけど仕方ない。疲れてんだもん。

「うー……」

 そろそろ本気でうるさいし、怖い。
 なにこれ新しいイヤガラセ? だとしたら、普通に無視しよう。
 でも緊急事態だったら。

「あ゙ー、ちくしょう」

 小さく毒づいて、手を伸ばす。 
 手探りでシーツの上のスマホを探し出す間も、それはブルブルとうるさく鳴っていた。

「あ」

 銀児だ。
 手に取ったんなら、出なきゃダメな気がして画面を操作する。

「なに」
『なに、じゃねーだろっ。何回かけたと思ってんだ!』

 いきなり怒鳴りつけられた。
 それにはムッとするより、少し恐れを感じて素直に『ごめん』と謝る。
 
『今どこだ』
「え? 家だけど」
『そうか……』

 そこで大きく息を吐くのが分かった。
 家にいることが不都合なのか、安心なのかイマイチよく分からない。
 ボーッとした頭もあって、無言でいると。

『おい陸斗、大丈夫か?』

 なんて。
 お前の方が大丈夫かって話だ。

「で、なに?」

 さっさと要件言って欲しい。
 こんなに掛けてくるなら、相当な用事なんだろうな? そうじゃなきゃ、明日その軽い頭を叩いてやる。

『なにっつーか……心配でよォ』
「心配?」
『あの、俺、お前のこと家まで送ってやれなかったし』
「ハァ?」

 保護者か。保護者なのか、お前は。
 
『あの変態ゴリラの犯罪者野郎はどうした。まさか一緒にいるんじゃないだろうな?』
「えらい言い様だ」

 てんこ盛りな悪口じゃないか。
 別に同情なんてしないけど、それでもあんまりだとは思う。
 
『まさか一緒にいるんじゃ……』
「何をカンチガイしてんのか知らんが。あー、切っていいか?」
『オイオイオイッ、切るな切るな! 本気で心配だっただけだっつーの』
「何言ってんだお前」

 まさか俺とあのアホゴリラとで、アレでコレな事になると?
 妄想甚だしい。やっぱりくだらない内容だったな。出なけりゃよかったかも。

『んで。身体のほうは……その……大丈夫かなーっと』
「なに、身体?」

 もしかして、俺を気絶させた事に対する罪悪感だろうか。
 確かに重症だな、なんせ気を失うレベルだもん。

「すげー重症。もう俺、立ち直れないかも」
『え!?』

 あえて棒読みで、少し盛ってやる。
 実際は不調ではあるが、まったく記憶にないんだが。

『そうなのか』
「ふんっ、嘘だ。俺があんな事で……」
『大丈夫、オレが嫁にもらってやるから』
「はい?」

 ンンッ? なんだって? 
 唖然とする俺と、なにやら熱弁を振るう銀児と。
 その九割……いや、全部意味がわかんない。

「あ、あの銀児?」
『お前は自分のコトを責めてるかもしれない。軽率だった、と。あの男に隙を見せた自分が悪かったと』
「ええっと」

 あの男ってのはなんだ、ゴリラのことか? 
 隙もなにも、アイツが全力で構ってくるんだろうが。てかお前が言うなって話だが。

『でもオレはそんな事気にしない。例え、お前が他の男に抱かれようが』
「え゙」

 抱かれた? あぁ確かに。でもアレは『鯖折り』って言ってな……そもそも、お前見てたんかい。助けろよ、マジで。

『オレ、お前が好きなんだ。好きすぎて、陸斗の体操服をナニで汚しちまって水浸しにして誤魔化した』
「あーハイハイ、好きね。ハイハイ……ってお前ちょ、待てぇぇぇッ!!」

 俺は電話口で叫んだ。
 当たり前だろう。何さらりと罪を告白してんだ!?

『だからオレは陸斗のことが好きで』
「そっちじゃない! アレはお前の仕業かぁぁぁッ!?」
『うん』

 元気に返事しやがって。
 好き発言は正直、常日頃からネタとして言われ慣れてるからスルーしてた。でもそんな……友達の体操服を汚すって……つまり。

『お前を思って、体操服に〈ぴー〉をぶっかけてました☆』
「こ、このっ……言うなッ、変態!」

 さ、最低だ。☆、じゃねーよ。
 てかあれネタじゃなかったのか。行き過ぎたジョークじゃなくて?
 当たり前に驚くが、思ったよりは嫌悪感がないのが一番衝撃的で。

「じゃあ、あの数々のイヤガラセは……」

 靴にカッターの刃を仕込まれてたり、全身ずぶ濡れにされたり。あと教科書、は俺のは無事だったか。

『違う違う! あれはオレじゃねーよ。全部別のヤツ』
「ハァ!?」

 聞けば、カッター仕込んだのは銀児の元カノ。
 俺とコイツが付き合ってると思ってたら、突然婚約者名乗るゴリラの存在で、俺に対して『この尻軽がーッ』ってブチ切れた、と。

「いやいやいや、おかしいだろ」

 なんで俺が憎まれにゃならんのだ。
 そうぼやくと、銀児がシュンとした声で。

『あー……ごめん。オレさ。フッた時に言っちゃったんだね』
「な、なんて」
 『本気で好きな男ができたから、って』
「!!!!」

 つまりコイツ。俺と付き合ってもないのに、そういう間柄だと元カノに吹聴してたのか……!
 そりゃ怒るわな。
 元カレが裏切られたって。俺の事尻軽って、思うだろう。

『あの、陸斗?』
「……」
『陸斗君?』
「……」
『り、陸斗ちゃ~ん?』

 ほんと、救いようのないクズだ。
 
「でもお前、彼女のせいにしてたじゃないかよ」
『え? 彼女? どこの女……』
伍代 華子ごだい はなこの事だッ、バカヤロー!!!!」

 俺はそう怒鳴りつけると、通話を切った。
 んでもって電源を落とす。

「あーっ、もう! あのバカッ」

 なにが『好き』だ。
 冗談だと思ってたのに。冗談だから、友達だからノッてやってたのに。
 これじゃあ恋人であって、友達じゃなくなっちまうじゃん……って。

「ウォォォォォッ!!!!」

 違う違う違う違うーッ。そうじゃない!
 別にその気持ちを受け入れるとか、そういうんじゃない!
 危ない危ない。混乱しちまった。
 
「カノジョじゃなくて、カレシかぁ……ってウワァァァ!!!!」

 カレシじゃないっ、付き合わないから!
 でも俺にはあのゴリラも……って、それも違うぅぅぅっ。
 
「俺、ホモじゃないのにぃぃ」
「……陸斗。なにしてんの?」

 気味悪そうな母さんの声が、身悶える俺の上から注がれて。
 まさに黒歴史になった瞬間だった―――。
 

 
 

 
 



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