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8.トラウマスイッチ、ポチッとな☆
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雲の多い空だ。
かといって、今にも降り出しそうな感じじゃない。
天気予報も曇り一色。
傘は持っていかなかった。
正しくはそんな余裕、なかっただけだけど。
「り、陸斗ってば、足速すぎ」
学校の玄関で息を切らせているのは銀児。
「これくらいで息切らすなんて、銀児先輩も貧弱ですね」
顔はニコニコ。でも口調は思いきり皮肉げなゴリラは、息ひとつ乱していない。
さすが人外というべきだろうが。
……寝坊した俺を迎えに来た二人を振り切る勢いで、学校までの道を必死こいて走った。
こう見えて足だけは、そこそこ早いんだ。
でも気分よく走ってたのは最初だけで、このクソ野郎ゴリラが肉弾丸みたいに猛スピードで追ってくる様には悲鳴をあげた。
だって考えてみろよ。
足の早い草食動物が、瞬足ゴリラに追いかけれられるんだぞ?
しかも超笑顔なんだし。
貞操と命の危険を同時に感じるという、なかなかない体験をしてしまった。
「陸斗君、一生懸命走ってて可愛かったよ。昔から、かけっこ得意だったもんねぇ」
「黙れ、このバケモノめ」
まさか本気じゃなかった、だと?
あんなに必死こいて走ったのに、コイツは余裕しゃくしゃくでそんなアホみたいなことを考えていたっていうのか。
改めて、コイツは人間やめてんじゃないのかって思った。
「お前さァ、すでに究極生物だろ」
「? なんのことか分かんないけど、褒めてくれてるのかな。ありがと、陸斗君」
「!!!!」
……抵抗する間もなかった。
大きいクセに華奢にも見える手が、俺の頭をそっと撫でる。
いわゆる頭ポンポンってやつ。
驚いて顔を上げたら、胸焼けしそうな程に甘ったるい笑みのコイツと目が合って。
ドキッと心臓が跳ね上がった。
「な、なにしやがる」
「ん? だってすごく可愛かったもん。いいでしょ」
「よくないっ!」
男が男にする行動じゃないし、今も心臓が激しく脈打ってる自分もありえない。
しかももっともっと文句言ってやりたいのに、言葉が口から出てこないんだ。
それどころか『あぁやっぱりコイツ顔だけは良いんだな』とか『髪、少し乱れてる。直してやろうかな』とか。
余計なこと考えちまう。
なになに? 俺、ついにホモになっちゃったの?
「……待て待て待て待て、ストップストーップ!」
「チッ」
「そこのゴリラ、舌打ちすんな。ちょっと近すぎだからね!? 陸斗もなに乙女の顔しちゃってんの」
少女漫画よろしく見つめ合う俺たちに、銀児が割って入る。
そしてまだ頭を撫でているゴリラの腹に、拳を叩き込んだ。
「っ痛ぇぇッ」
でも悲鳴をあげたのは銀児の方。
『なに、この腹筋……鎧? 最高級の防具なの?』なんてブツブツ言っている。
「遊んでないで早く行ったらどうですか。脳ミソも貧弱貧弱ぅ、なプランクトンレベルの最弱先輩」
「人間やめたような人外が、やかましいわッ。おい、陸斗行くぞ」
「ん、あぁ」
うなずいて下駄箱から靴を出して……って所で銀児に止められた。
「待て待て、オレが出してやる。またケガしたらダメだし」
この前、上靴にカッターの刃が仕掛けられてたからだろう。
大丈夫だと答える前に、手をかけられてしまう。
「っい゙!」
「大丈夫か」
やっぱり仕掛けられていたらしい。
みるみるうちに赤い雫に濡れる指を、銀児はなんとも情けない顔で見ていた。
「めっちゃ痛ぃ」
「おいおい。見せてみろよ」
「……陸斗、舐めて」
「は?」
「なーめーてー」
「ハァァァ!?」
いきなり何言い出すんだ、コイツ。
すごく真面目な顔で『傷口を舐めろ』って言ってるらしい。
そう言えばこの前、俺がケガした時。コイツ俺のケガした指を咥えやがったっけ。
「ねぇねぇ早く舐めてよ。血ィ、垂れてくるし」
「ちょ、やめろって……気色悪い」
「あーっ、ひどーい。この前してやったじゃん」
「頼んでない!」
俺の拒否なんてお構いなしに、血だらけになった指を口に突っ込もうとしてくる様は、軽くホラーだ。
しかも顔は笑ってるけど、目は笑ってない。
「ほらほら」
「やめっ……へ、変態」
「友達だろ」
「友達ってそういうコトしない!」
「えぇ? そーだっけェ」
トボけた顔して、それでも離してくれる気配はない。
なんか最近コイツがよくわかんない。最初から頭おかしいギャグセンスしてるけど、なんか度が超えてるっていうか。
でもなぜか目が離せない。すがるような、睨みつけるような目が。射抜かれてしまったみたいに。
なんだろう、普通に怖い。
「早くしてよォ……っゔぁ!?」
銀児の怪我した指が、後ろから伸びてきた大きな手に掴まれた。
「はいはい、僕が舐めてあげますよ」
のんびりとした口調とともに、銀児の悲鳴が玄関に響き渡る。
朝の気だるさに包まれた空気だった周りの生徒も教師も、さすがに振り返ってドン引きだ。
「気色わりぃコトすんじゃねーよッ、このクソゴリラァァッ」
怒鳴りつけるのも分かるが、コイツだって俺にその『気色わりぃコト』させようとしたわけで。
再びケンカを始めるバカ男共を無視して、上履きからカッターの刃を取り出す。
前と同じ、ていねいにテープで固定されている。
まったく手間のかかるイヤガラセだ。
「ったく、馬鹿どもが」
完全無視で、居心地の悪いその場から歩き出した。
■□▪▫■□▫▪■□▪
「岸辺君」
クラスメイトの田中(仮名)が、貸したノートを返しにきた。
「ありがと、ボク昨日休んでたから助かったよ」
「気にすんな」
彼は、いつもはあまり喋らないタイプ。
オタクっていうのか、いつも漫画とかそんな感じの本を読んだり、同じ感じの奴らとつるんでたりする。
もっさりとした前髪さえなければ、もう少し明るく見えるんじゃ無いだろうか。
まぁ人のファッションにケチつけるつもりは無いけど。
「……今朝もすごかったね」
「え?」
彼の言葉に顔を上げると、薄くほほんだ形の良い唇に目がいった。
「三角関係ってやつ。岸辺君ってモテるなぁ」
「男にモテたって、なんにも嬉しいことないぞ」
女の子みたいな華奢で可憐な美少年ならまだしも。現実はその真逆。
ほんと嫌になっちまう。
「もしかして岸辺君って、ノンケなの?」
「の、ノンケ……?」
「ゲイじゃないのかってこと」
「当たり前だろ」
生まれてこの方、男にそういう感情覚えたことないわ。俺はホモでもゲイでもオカマでもないから。
苦々しく答えると、彼は小さく何度かうなずいて『なるほど』と呟いた。
「普段からすごく構われてるから、そっち系なのかと」
「ハァ? わけないだろ。あれはただのじゃれ合い。ノリとかそういうの。だいたい、アイツらもベタベタ触りすぎなんだよなァ……俺はペットかっつーの!」
そりゃあ仲良くしてくれるのは嬉しい事だし、定期的にくる無気力時期にも助けてくれる良いヤツらだ。
でもなんか最近行き過ぎな気も……。
「へぇ、大変だね? 好きでもない男たちに迫られるって」
思考に割って入るような言葉に、言葉が詰まった。
ろくな返しも出来ないうちに、彼はなおも言いつのる。
「ノンケなのに、抱きしめられたりキスされたり。頭ポンポンされてたし」
「……」
「でもカンチガイ、しちゃうかもね。エスカレートして今度は……」
「やめろッ!」
思わずあげた声に、休み時間中の教室は一瞬静まった。
雑談してたクラスメイト達が、心配そうにこちらに寄ってくる。
「ご、ごめ……」
「あぁごめんね、岸辺君。ノートありがとう」
「い、いや。俺も……」
「ボクが無神経だったよ。あんまり大変そうだったから。でも余計なお節介だったかな」
「そういう訳じゃ……」
しどろもどろなのは俺の方で。
だってなぜこんなに怒鳴りつけたのか自分でもわからなかったから。
ただ、この後にくる言葉が怖かった。
それにアイツらが俺を? ありえない。特に『アイちゃん』が、なんて。だって彼は……。
「岸辺君って、なんか人を惹き付けるっていうか。すごく魅力的だから」
「え?」
「また気を悪くさせたらごめん。でも心配してたんだよね。ノンケならなおさら」
「あ、ありが、とう」
で、いいんだよな?
相変わらずほとんど目が隠れるような、長くくせっ毛のもっさりとした前髪。微笑んだ唇。
本当に、その前髪上げてもっと爽やかに笑えば間違いなくイケメンなんだろう。
でも猫背気味なのは、少し気味が悪い。
感情が読めない、こもったような笑い声も。
……まるであの男みたいだ。
陰気で、不気味で、薄ら笑いを浮かべた男。
そして振り上げられたあの。
「おーい。陸斗?」
友達に声をかけられ、ふと我に返る。
もう彼は居なかった。教室を見渡しても姿はない。トイレにでもいったのだろうか。
気がつけば唇を痛いほど噛み締め、爪が手のひらに食い込むほど拳を握っていた。
「大丈夫か? 顔色最悪だ」
鏡なんかないから分からないけど、よほど酷い顔をしてるのだろう。
保健室行くか、と心配してくれる彼らにようやく笑顔をつくる。これも恐らく引きつったものだろうが。
「銀児、呼ぶか」
「っ、ヤだ!」
何気なく言われただろう言葉に、激しく首を横に振って拒否したのは反射的。
これも、なぜなのか。自分の事なのに全然分からない。
先生に呼び出されただかで教室にいないアイツに、目の前にいて欲しくない。
それどころか今、誰にも触られたくない。怖くて仕方ないんだ。
その先が……。
―――吐き気と頭痛を感じ、俺は机に突っ伏した。
かといって、今にも降り出しそうな感じじゃない。
天気予報も曇り一色。
傘は持っていかなかった。
正しくはそんな余裕、なかっただけだけど。
「り、陸斗ってば、足速すぎ」
学校の玄関で息を切らせているのは銀児。
「これくらいで息切らすなんて、銀児先輩も貧弱ですね」
顔はニコニコ。でも口調は思いきり皮肉げなゴリラは、息ひとつ乱していない。
さすが人外というべきだろうが。
……寝坊した俺を迎えに来た二人を振り切る勢いで、学校までの道を必死こいて走った。
こう見えて足だけは、そこそこ早いんだ。
でも気分よく走ってたのは最初だけで、このクソ野郎ゴリラが肉弾丸みたいに猛スピードで追ってくる様には悲鳴をあげた。
だって考えてみろよ。
足の早い草食動物が、瞬足ゴリラに追いかけれられるんだぞ?
しかも超笑顔なんだし。
貞操と命の危険を同時に感じるという、なかなかない体験をしてしまった。
「陸斗君、一生懸命走ってて可愛かったよ。昔から、かけっこ得意だったもんねぇ」
「黙れ、このバケモノめ」
まさか本気じゃなかった、だと?
あんなに必死こいて走ったのに、コイツは余裕しゃくしゃくでそんなアホみたいなことを考えていたっていうのか。
改めて、コイツは人間やめてんじゃないのかって思った。
「お前さァ、すでに究極生物だろ」
「? なんのことか分かんないけど、褒めてくれてるのかな。ありがと、陸斗君」
「!!!!」
……抵抗する間もなかった。
大きいクセに華奢にも見える手が、俺の頭をそっと撫でる。
いわゆる頭ポンポンってやつ。
驚いて顔を上げたら、胸焼けしそうな程に甘ったるい笑みのコイツと目が合って。
ドキッと心臓が跳ね上がった。
「な、なにしやがる」
「ん? だってすごく可愛かったもん。いいでしょ」
「よくないっ!」
男が男にする行動じゃないし、今も心臓が激しく脈打ってる自分もありえない。
しかももっともっと文句言ってやりたいのに、言葉が口から出てこないんだ。
それどころか『あぁやっぱりコイツ顔だけは良いんだな』とか『髪、少し乱れてる。直してやろうかな』とか。
余計なこと考えちまう。
なになに? 俺、ついにホモになっちゃったの?
「……待て待て待て待て、ストップストーップ!」
「チッ」
「そこのゴリラ、舌打ちすんな。ちょっと近すぎだからね!? 陸斗もなに乙女の顔しちゃってんの」
少女漫画よろしく見つめ合う俺たちに、銀児が割って入る。
そしてまだ頭を撫でているゴリラの腹に、拳を叩き込んだ。
「っ痛ぇぇッ」
でも悲鳴をあげたのは銀児の方。
『なに、この腹筋……鎧? 最高級の防具なの?』なんてブツブツ言っている。
「遊んでないで早く行ったらどうですか。脳ミソも貧弱貧弱ぅ、なプランクトンレベルの最弱先輩」
「人間やめたような人外が、やかましいわッ。おい、陸斗行くぞ」
「ん、あぁ」
うなずいて下駄箱から靴を出して……って所で銀児に止められた。
「待て待て、オレが出してやる。またケガしたらダメだし」
この前、上靴にカッターの刃が仕掛けられてたからだろう。
大丈夫だと答える前に、手をかけられてしまう。
「っい゙!」
「大丈夫か」
やっぱり仕掛けられていたらしい。
みるみるうちに赤い雫に濡れる指を、銀児はなんとも情けない顔で見ていた。
「めっちゃ痛ぃ」
「おいおい。見せてみろよ」
「……陸斗、舐めて」
「は?」
「なーめーてー」
「ハァァァ!?」
いきなり何言い出すんだ、コイツ。
すごく真面目な顔で『傷口を舐めろ』って言ってるらしい。
そう言えばこの前、俺がケガした時。コイツ俺のケガした指を咥えやがったっけ。
「ねぇねぇ早く舐めてよ。血ィ、垂れてくるし」
「ちょ、やめろって……気色悪い」
「あーっ、ひどーい。この前してやったじゃん」
「頼んでない!」
俺の拒否なんてお構いなしに、血だらけになった指を口に突っ込もうとしてくる様は、軽くホラーだ。
しかも顔は笑ってるけど、目は笑ってない。
「ほらほら」
「やめっ……へ、変態」
「友達だろ」
「友達ってそういうコトしない!」
「えぇ? そーだっけェ」
トボけた顔して、それでも離してくれる気配はない。
なんか最近コイツがよくわかんない。最初から頭おかしいギャグセンスしてるけど、なんか度が超えてるっていうか。
でもなぜか目が離せない。すがるような、睨みつけるような目が。射抜かれてしまったみたいに。
なんだろう、普通に怖い。
「早くしてよォ……っゔぁ!?」
銀児の怪我した指が、後ろから伸びてきた大きな手に掴まれた。
「はいはい、僕が舐めてあげますよ」
のんびりとした口調とともに、銀児の悲鳴が玄関に響き渡る。
朝の気だるさに包まれた空気だった周りの生徒も教師も、さすがに振り返ってドン引きだ。
「気色わりぃコトすんじゃねーよッ、このクソゴリラァァッ」
怒鳴りつけるのも分かるが、コイツだって俺にその『気色わりぃコト』させようとしたわけで。
再びケンカを始めるバカ男共を無視して、上履きからカッターの刃を取り出す。
前と同じ、ていねいにテープで固定されている。
まったく手間のかかるイヤガラセだ。
「ったく、馬鹿どもが」
完全無視で、居心地の悪いその場から歩き出した。
■□▪▫■□▫▪■□▪
「岸辺君」
クラスメイトの田中(仮名)が、貸したノートを返しにきた。
「ありがと、ボク昨日休んでたから助かったよ」
「気にすんな」
彼は、いつもはあまり喋らないタイプ。
オタクっていうのか、いつも漫画とかそんな感じの本を読んだり、同じ感じの奴らとつるんでたりする。
もっさりとした前髪さえなければ、もう少し明るく見えるんじゃ無いだろうか。
まぁ人のファッションにケチつけるつもりは無いけど。
「……今朝もすごかったね」
「え?」
彼の言葉に顔を上げると、薄くほほんだ形の良い唇に目がいった。
「三角関係ってやつ。岸辺君ってモテるなぁ」
「男にモテたって、なんにも嬉しいことないぞ」
女の子みたいな華奢で可憐な美少年ならまだしも。現実はその真逆。
ほんと嫌になっちまう。
「もしかして岸辺君って、ノンケなの?」
「の、ノンケ……?」
「ゲイじゃないのかってこと」
「当たり前だろ」
生まれてこの方、男にそういう感情覚えたことないわ。俺はホモでもゲイでもオカマでもないから。
苦々しく答えると、彼は小さく何度かうなずいて『なるほど』と呟いた。
「普段からすごく構われてるから、そっち系なのかと」
「ハァ? わけないだろ。あれはただのじゃれ合い。ノリとかそういうの。だいたい、アイツらもベタベタ触りすぎなんだよなァ……俺はペットかっつーの!」
そりゃあ仲良くしてくれるのは嬉しい事だし、定期的にくる無気力時期にも助けてくれる良いヤツらだ。
でもなんか最近行き過ぎな気も……。
「へぇ、大変だね? 好きでもない男たちに迫られるって」
思考に割って入るような言葉に、言葉が詰まった。
ろくな返しも出来ないうちに、彼はなおも言いつのる。
「ノンケなのに、抱きしめられたりキスされたり。頭ポンポンされてたし」
「……」
「でもカンチガイ、しちゃうかもね。エスカレートして今度は……」
「やめろッ!」
思わずあげた声に、休み時間中の教室は一瞬静まった。
雑談してたクラスメイト達が、心配そうにこちらに寄ってくる。
「ご、ごめ……」
「あぁごめんね、岸辺君。ノートありがとう」
「い、いや。俺も……」
「ボクが無神経だったよ。あんまり大変そうだったから。でも余計なお節介だったかな」
「そういう訳じゃ……」
しどろもどろなのは俺の方で。
だってなぜこんなに怒鳴りつけたのか自分でもわからなかったから。
ただ、この後にくる言葉が怖かった。
それにアイツらが俺を? ありえない。特に『アイちゃん』が、なんて。だって彼は……。
「岸辺君って、なんか人を惹き付けるっていうか。すごく魅力的だから」
「え?」
「また気を悪くさせたらごめん。でも心配してたんだよね。ノンケならなおさら」
「あ、ありが、とう」
で、いいんだよな?
相変わらずほとんど目が隠れるような、長くくせっ毛のもっさりとした前髪。微笑んだ唇。
本当に、その前髪上げてもっと爽やかに笑えば間違いなくイケメンなんだろう。
でも猫背気味なのは、少し気味が悪い。
感情が読めない、こもったような笑い声も。
……まるであの男みたいだ。
陰気で、不気味で、薄ら笑いを浮かべた男。
そして振り上げられたあの。
「おーい。陸斗?」
友達に声をかけられ、ふと我に返る。
もう彼は居なかった。教室を見渡しても姿はない。トイレにでもいったのだろうか。
気がつけば唇を痛いほど噛み締め、爪が手のひらに食い込むほど拳を握っていた。
「大丈夫か? 顔色最悪だ」
鏡なんかないから分からないけど、よほど酷い顔をしてるのだろう。
保健室行くか、と心配してくれる彼らにようやく笑顔をつくる。これも恐らく引きつったものだろうが。
「銀児、呼ぶか」
「っ、ヤだ!」
何気なく言われただろう言葉に、激しく首を横に振って拒否したのは反射的。
これも、なぜなのか。自分の事なのに全然分からない。
先生に呼び出されただかで教室にいないアイツに、目の前にいて欲しくない。
それどころか今、誰にも触られたくない。怖くて仕方ないんだ。
その先が……。
―――吐き気と頭痛を感じ、俺は机に突っ伏した。
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